表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の彼  作者: 楽華
1/1

私の彼は浮気者

彼は、1人の人を愛せない人だった。

可愛い顔をして、心はドブのように汚い。美しい言葉を使って、本音はカラスの羽のように真っ黒。あざといフリして、簡単に離れていく。

でも、その綺麗な瞳に映った人は、みんな、彼の虜になってしまう。虜になって、彼に夢中になって、そして気ずく。

「私の周りには、私のような人が何人もいるという事に。」





「ねえ、そこの君、今からちょっと暇?」

近づいて来たのは、綺麗で可愛い男の子。私より若くて、子どもっぽい。

だから、私は大人のフリをした。彼との差を見せつけて、自分を子どもだと思わないように。

「ごめんなさい。私今、そんなに気分が良くないの。他をあたってね。」

強く言ったつもりなのに、彼はにやりと笑って可愛い顔に似合わないセリフを言った。

「俺は、今からヒマかを聞いているんだけど。べつに君の気分が良いか悪いかなんてどうでもいい。俺の気分次第なんだからね。それに、俺には、女がたくさんいる。君みたいに大人っぽい子もね。」

馬鹿にした口調で放ったその言葉は私の心に深く刺さった。刺さって、ギリギリと音をたて、私の風船のような心は、すぐに破裂してしまった。

「は、笑わせないでよ。あなたより私の方が年上よ。それになに?女がたくさんいる?私の気分なんてどうでもいい?…そんな自分勝手な事を言うあなたの方が子どもなんじゃないの?」

引っ叩いてやろうと思った。だから、手を振り上げた。なのに彼の透き通った瞳を見たら、自分の子どもっぽさに気づいてしまった。そこに映る自分が泣きそうな顔をして、悔しそうに下唇を噛んでいた。

その姿があまりに惨めだったため、恥ずかしくて涙が溢れてしまった。

『お前は黄色とかピンクとか明るい色より、紺とか紫とか、そういった暗い色の方が似合うよ。その方が大人っぽいし。』

『こんな短くてフリフリしたスカートはくなよ。もっと綺麗で高いドレスはけよ。たく、せっかくのデートだって言うのに。お前のせいで…』

『最悪だ。お前がこんなに子どもっぽかったなんて思わなかった。』


「どうしたの?急に泣きだして。」

甘い声で彼が問いかける。だから、口から出てしまった。

「さっき、付き合ってた人に別れを告げられたばかりなの。だから泣いてるだけよ。彼が好きだったから!あなたのせいで思い出したのよ。あなたのせいよ!」

なんて子どもっぽいんだろう、と自分でも思う。ただ思い出しただけなのに、人のせいにして。呆れる。大人になりたい。もっと大人だったら、彼ともっともっと一緒にいれたのに。

「そんなに遊びたいんなら、そのたくさんいる女達に遊んでもらえば良いじゃない!」

涙をコートの袖で拭きながら、もう片方の手でベンチの上にある鞄を取った。

その場から立ち去ろうとしたのに、彼の手が私の肩を掴んで、そのまま私の体は彼の長い腕の中に包まれてしまった。

「離して!」

私は、離してと言いながらおとなしくしていた。なぜかはよく分からないけど、彼のにおいが、彼の体温が、彼の抱きしめる力が、私の冷めた体と壊れた心をどうにかしてくれている。そう感じたのだ。

「やめてよ…。また涙が出てきたじゃない…。」

彼は真面目な顔で言った。

「ねえ、お姉さん。今からちょっとヒマ?俺が慰めてあげるよ。」

嘘だって、慰めてくれるのは今日だけだって、分かっている。なのに、今日の私はどうかしてる。

「1時間くらいならね。」

今日だけ…今日だけだから。





昨日の夜、彼は本当に慰めてくれた。

優しい言葉をたくさんかけて、癒してくれる笑顔を私だけに向けて。おかげで元彼の事は、スッキリ吹っ切れた。

今日も彼と会う約束をした。またあの笑顔を私に向けてくれる。そう思うと、今日の仕事も頑張れる。

「なに?ゆみ〜彼氏と待ち合わせかー?」

「ちょっとねー。」

同僚の彩子が定時より早く帰る私のことを羨ましいがっていた。なんだかとても気分が良い。

待ち合わせ時間よりも早く着いた私は、彼のことを考えながらファッションサイトを見ていた。

彼はどんな服が好きだろう?可愛い系?シンプルなのがいいかな、それとも…

今まで、こんな事を考えた事がなかった。いつも彼から注文されていたから。

だから、こんな事を考えるのがとても楽しい。


「寒い…」

早く着きすぎてしまった。今日は一段と寒い。と、

彼の姿を見つけた。隣にもう一人いるようだが…女?

彼とその女は、人目につかない建物と建物の間に入っていった。

私は気になって着いて行った。それが間違いだったんだ。壁の端から見たものは衝撃的なものだった。

嫌なものを見てしまった。見たくない。でも、その場から動けなかった。動けたとして、どうするの?どこに行くの?

彼と一緒にいるのは、同じ会社の先輩だ。こんな人だとは思わなかった。彼女も彼の事を仕事中ずっと考えたりしていたのだろうか?

「…馬鹿みたい…。」





「おまたせ。ごめんね。時間よりちょっと遅れちゃった。」

「いいの。それよりも早く行こ。お腹空いた。」

そう言って彼の腕を引っ張る。シャツの袖に付いているピンク色の印を隠して。

「ちょっと待ってよ。」

「待てない。」

だって、私にはあなたしかいないの。だから、早くあなたが欲しい。


ねえ、早く私だけを見るようになって。ね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ