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第7話 娘、期待を裏切らずやらかす

一応言っておきますと、KOOLはスペルミスではないです

 さて、入試当日……


 「サリエル、受験票は持ったか? 筆記用具は……」

 「もう、お父さん……いい加減それ止めて」


 などとやり取りをしながら、アレクシオスとサリエルは入試会場に向かった。


 入試は三日間かけて行われる。

 一日目はペーパーテスト、二日目は実技試験、最後の三日目で面接である。


 まずは一日目のペーパーテストを乗り越えることが大切だ。


 「大丈夫かな……心配になって来た」

 「お前の努力を信じろ、としか言えないな。とはいえ、お前の実力ならば落ち着いて解けばどんな問題も大丈夫だ。まあ、答えが無い悪問が出たら別だが……」


 答えが無い悪問。

 それはどんなテストにも生じてしまう可能性がある。


 だがそれに関してはみんな解けないので、差は出ないはずだ。


 「じゃあ、行ってこい!!」

 「うん、行っています!!」






 さて、アレクシオスはサリエルを送り届けると……

 学園の職員室に向かった。


 「おお! アレクシオス君か。娘さんはどんな調子だね?」

 「悪くないようです。まあ……受験番号を書き間違えたりしない限りは大丈夫でしょう」


 アレクシオスに話しかけたのは……

 彼の恩師であるメルヴィンであった。


 学園では歴史を教えている。

 

 「私も顔だけ確認してきたが……うん、確かにアニエル君にそっくりだね。賑やかになりそうだ」

 「賑やかになるだけで済むなら良いですけどね」

 「授業中、寝てたらアニエル君の時みたいに叩き起こして良いかい?」

 「ええ、大丈夫ですよ」


 などとやり取りをしながら、アレクシオスはメルヴィンの横に座った。


 「今年は君が来てくれて助かるよ。毎年、テストの採点は地獄だからね」

 「まあ……採点ミスがあると不味いですしね」

 「ああ、何しろこちらは受験生の人生を預かっているのだ」


 さて、そんなこんなで……

 受験生たちの初めの一科目目が終わるのと同時に、採点が始まった。


 ちなみにアレクシオスのところには、サリエルの答案はいかないように配慮されている。

 甘く採点を付けるようなことがあってはならないからだ。

 

 アレクシオスは赤いペンを走らせ、黙々と減点していく。


 (うーん、惜しいな……点数を上げたいが……うん、やっぱりバツだな)

 (ギリギリこれは部分点をあげられるな)

 (おおおい!! 受験番号が書いてないぞ! ……〇点にするしかないな)


 自分の採点次第で受験生の今後の人生が左右されると考えると、アレクシオスとしては甘く付けてあげたいのだが……そういうわけにはいかないのである。

 

 などという作業をしているうちに、受験生たちの試験は終わった。

 とはいえ、採点作業はまだ続く。

 しかし……


 「アレクシオス。あなたはサリエルを迎えに行ってあげなさい。寂しがるでしょうしね。採点は後で私たちがやるわ」

 「ありがとうございます、マリベル様」


 アレクシオスはマリベルに礼を言って……

 その場を後にした。


 そしてマリベルは自分が採点したサリエルの答案を見ながら……

 呟いた。


 「これは今年の首席は決まったかもね」


 今のところ、サリエルは全てのテストで満点を取っていた。

 






 さて、翌日……

 実技試験の時間である。


 サリエルを含む三十人の受験生を監督するのは……

 ニコラスであった。


 これはマリベルの計らいである。


 (全く……サリエルちゃんを押さえてきて!! などと……完全に吾輩に厄介事を押し付けただけではないか)


 などと内心で呟きながらも、ニコラスは実は少し楽しみでもあった。

 聖女アニエルはニコラスの初恋の女性である。

 その初恋の女性の娘……どれほどの実力を秘めているのか、実に興味があった。


 「吾輩は諸君らを監督する、ニコラス・グラディアだ。えー、諸君。君たちにはあの的に向かって攻撃理術を放ってもらう。後ろの壁は非常に強固な固定化と硬化の理術が掛けられているため、君たちは安心して理術を放ち給え。……ただし、サリエル君!!」

 「は、はい!!」

 「君は……試験会場を壊さないように!」  

 「こ、壊しません!!」


 サリエルは憤慨したように頬を膨らませた。

 そのあまりにも可愛らしい動作にニコラスの心臓が跳ね上がる。


 (あれはアニエルではない! あれはアニエルではない! あれはアニエルではない!! あれはアニエルではない!!! あれはアニエルではないのだ!!!!!! けして、けしてアニエルではない!!!!!!!!落ち着け、落ち着くのだ、吾輩!!! koolになれ、賢者ニコラス!!!!)


 ニコラスは頭を何度も壁にぶつけて平静を保つ。

 受験生は監督官の奇行に呆気に取られている。


 「と、ともかく……試験開始!!」


 


 受験生たちは緊張した面持ちで、思い思いの理術を放っていく。

 それをニコラスは淡々と採点していく。


 (ふむ、的にはあたったが……威力は小さいな。しかし命令式の数は二十……鍛えればまだまだ実力が上がりそうだ)

 (なかなかの高威力だな。しかし命令式は十か……馬鹿力ならぬ、馬鹿理力といったところか。評価は低くせざるを得ないが……合格点に届くな)

 (うーん、命令式が五つ……これは厳しいな。ペーパーテストの出来次第だろう)


 一般的に理術の破壊力は込める理力と術を構成する命令式の数で決まる。

 この学園の合格者平均の命令式の数は十五個であり、最高は三十前後だ。

 

 ちなみプロの理術師として認められるには、最低でも五百の命令式を組めるようになる必要がある。

 

 もっとも、ニコラスは万単位の命令式を組めるのだが。

 まあ、これでも賢者と言われるだけのことはあるのだ。


 そして……最後にサリエルに順番が回って来た。


 ニコラスは息を飲んだ。

 自然体でいても、こちらが圧倒されるほどの理力を持っている。

 もし彼女が全力で理術を放てばどうなるか……

 

 と、ふとここでニコラスは思い立った。


 「あー、やっぱり全力でやってくれ。その方が公平だ」

 「え? ……はい!! 全力でやります!!」


 マリベルには散々、抑えるように言えと命じられているニコラスだが……

 後で何かをやらかされるよりも、ここでその実力を図った方が良いと判断したのだ。


 (問題ない。アニエルが壊した時は……壁にかけられた理術の命令式の数は五千だった。しかし今、かけてある固定化と硬化の理術は一万。さすがに易々とは破壊できまい)


 サリエルは手を突き出し、目を瞑り……

 理力を練り始める。

 すると頭の上に白銀の光輪が浮かび上がった。

 天翼族は理力を高めようとすると、光輪が現れるのだ。


 「ホーリーアロー」


 それは非常に初歩的な攻撃理術であった。

 第三級戦術理術と呼ばれるレベルの理術である。


 一般的にホーリーアローの命令式は……

 理力を集め、矢の形を形成し、放つ。

 の三つでも可能。


 しかしより多くの命令式を組み込めば組み込むほど、その理術に込められる理力量も跳ね上がり……当然破壊力は増す。


 だが……


 (所詮、ホーリーアローだ。元が大した理術ではない。大丈夫、吾輩の守りは完璧だ)


 ニコラスが見守る中、サリエルは命令式を紡いでいく。

 一つ、二つ、三つ、四つ……


 (合計、百二十!! アニエルでさえも、百止まりだったぞ!! ……しかし血は争えないな)


 そしてサリエルが込める魔力はみるみるうちに高まっていく。

 その理力は……


 (アニエルと同等か……うむ、間違いなく天才だな。しかしこの程度ならば……うん?)


 ニコラスの背中に冷たい汗が伝う。

 サリエルの理力がさらに高まり続けているのである。


 (ば、馬鹿な!! アニエルの一・五倍……いや、二倍? さ、三倍!? ま、不味いぞ!! こ、このままでは試験会場が破壊される!!)


 そしてサリエルの手からホーリーアローが放たれる。

 ニコラスは慌てて、己の宝具を展開した。


 「宝具! 『理の導き手クラセリア』!!」


 ニコラスは即座に壁の向こう側及び、サリエル以外の受験生たちの周辺に、杖型の宝具の補助を受け、ニコラスは脳味噌をフル回転させて一万の命令式が組み込まれた結界を構築した。


 ズドーン!!!!!!!!


 凄まじい爆音と、衝撃がニコラスの作りだした結界を震わせた。


 (む、無茶苦茶な……この小娘……固定砲台としてだけなら、十分戦場でも通じるぞ…… アニエルでさえも入学時はこれほどでは無かったぞ!!)


 

 尚、その後ニコラスがマリベルにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。








 さて、三日目。

 本日は面接である。


 基本、合格点はペーパーテストと実技試験で出されるので……

 あまり面接は重視されていない。

 

 ただ……常識的な受け答えが出来るかどうか、を見るために行うのだ。


 そしてサリエルの担当面接官は…… 

 ニコラスであった。



 「し、失礼します!!」

 「どうぞ、お座りください」(か、可愛い……い、いやこれはアニエルではない!!)


 ニコラスは自制しながら、簡単な質問を投げかける。


 「志望動機は?」

 「えっと……父のような立派な騎士になりたいと思ったからです。そのために武官科に進学し、たくさんのことを学びたいと思います!」

 「なるほど……多くの学園の中でオルデール学園を選んだ理由は?」

 「えっと……この学園はとても歴史が長く、また……お父ゲホン、勇者の二つ名で知られるアレクシオス・クロード名誉侯爵、賢者の二つ名で知られるニコラス・グラディア名誉侯爵、そして聖女の二つ名で知られるアニエル・ヴァロワ様など多くの卒業生が活躍しているので、私も同じような環境で学びたいと思いました。そして……建国の母として、英雄としても知られるマリベル・カペー・ド・オルデール大公の授業を是非、受けてみたいと思いました。それと……父がよく友人との学園生活について楽しそうに話していたので、この学園に通いたいと思いました」

 「なるほど……」


 ニコラスは淡々と採点する。

 受け答えもしっかりしているし、十分合格させてあげられる範囲内だろう。

 少々つっかえたり、言葉が幼いところもあるが……年齢を考えれば殊更取り上げることでもない。

 

 一先ず、いろんなところは規格外だが中身に関しては十五歳の普通の少女であることが分かり、少しだけニコラスは安心した。


 (しかしよく似ているな……)


 ニコラスはサリエルをじっくりと観察した。

 その銀色の髪も、白い肌も、白銀の翼も、美しい顔立ちも……アニエルにそっくりであった。

 

 (おっと!! あれはアニエルではない!! アニエルではない!! ……父親に似ている部分もあるしな)


 ニコラスはサリエルの……

 碧眼の瞳を確認しながら思った。


 瞳の色は無論、目元や……表情にも時々父親の陰がチラつく。

 だんだんとニコラスは腹が立ってきた。


 「あー、もう結構だ。退出して宜しい」

 「はい! ありがとうございました!!」


 サリエルは一礼して退出した。


 「しかし……吾輩がニコラスであると知った上で吾輩を名前を出した時のあの表情。実に狡猾で、計算高いあれは……間違いなく、彼女があの父親の娘である証拠だな。ただ闇雲にアニエルに似ている、というわけでもないか」


まあここまではお約束よ

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