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最終話 娘、やはり自分の父親は勇者だと再確認する

本日は二話同時投降なのでご注意くださいね

といっても最後はあとがきなので、実質これが最後ですけど

 「う、うん……」

 

 サリエルは目を覚ました。

 そこは……学園の保健室であった。


 「サリエル!!!」

 「うわっ!!」


 突然、サリエルは誰かに抱きしめられた。

 その誰かは……非常に大きい体をしていた。


 サリエルはその声と、体の大きさから……

 それが誰か、気付く。


 「……カリーヌ?」

 「良かった、良かった!!」


 カリーヌはサリエルを抱きしめたまま、泣きじゃくった。

 サリエルはカリーヌの胸に埋もれる形となり、苦しそうに悶えた。


 「あ、ごめん……」

 「ぷはぁ……な、何? どういうこと?」


 サリエルがカリーヌに問いかけると……

 

 「サリエル、三日間も気絶してたんだよ?」

 「……三日?」


 サリエルは首を傾げる。

 よくよく考えてみると、そもそもなぜ自分は保健室にいるのだろうか?


 確か、終業式があって……


 と、そこでサリエルはようやく何が起こったのか思い出した。


 「お、お父さんは!!」

 「アレクシオス先生はとっくに回復したよ。……サリエルのことを心配してた。……あ、呼んでくるね」


 カリーヌはそう言って、サリエルが目を覚ましたことを伝えに行く。

 すると……

 アレクシオスとニコラスが飛び込むように保健室に入って来た。


 「サリエル!!!」

 「大丈夫かね!!!」


 二人はサリエルに駆け寄った。


 「体はどこも痛まないか?」

 「熱はあるか?」

 「頭は痛くないか?」

 「お腹は?」

 「ええい、あんたら落ち着きなさい!!」


 興奮するアレクシオスとニコラスの頭に金属製の梨が飛んできて、直撃した。

 アレクシオスとニコラスは頭を抱え、後ろを振り返る。


 そこにはマリベルとシオンがいた。


 「さて、カリーヌ。私たちはサリエルと話があるの。外してもらえる?」

 「え?……は、はい。分かりました」


 マリベルはカリーヌに保健室から退出するように命じた。

 カリーヌは素直に外に出て……

 

 カリーヌが遠くに行ったことを確認すると、マリベルは口を開いた。


 「あなた……今、どれくらい事態を把握してる?」

 

 マリベルの問いに……

 

 「……私の父親が……お父さん(アレクシオス)じゃなくて魔王(アレクサンダー)だったってことですか?」

 「そう……覚えているのね」


 マリベルは事務的に淡々と伝える。


 「今までは封印石で魔力を封じていたのだけれど、封印が解かれた今は莫大な魔力と理力があなたの体を渦巻いて、非常に危険な状態になっているわ。あなたにはその両方を制御して貰わなければならない。……夏休みを通じてね」


 「……はい」


 「それとその指輪は普段から付けておきなさい。『魔神の指輪』は魔力を安定させる効果があるわ。もっとも……見られると問題だから、普段は手袋を着けてもらうことになるけど」


 「……分かりました」


 サリエルは静かに頷いた。

 沈黙が場を支配する。


 サリエルはゆっくりと口を開いた。


 「……みんな、知っていたんですか? マリベル先生も、シオン先生も、ニコラス先生も……お父さんも」

 「ああ、知っていた」


 サリエルの問いにアレクシオスが答えた。

 サリエルは伏せていた顔を上げ、アレクシオスに問う。


 「……どうして、教えてくれなかったの?」

 「……すまなかった。十五年間、お前にこのことを黙っていたのは……お前が受け入れられないと思ったからだ」

 「本当に?」


 サリエルは……

 アレクサンダーから受け継いだ、碧眼の瞳でアレクシオスを見つめる。


 「本当に私のことを思って、言わなかったの?」

 「それ以外に何の理由がある?」

 「……関係を壊したくなかったからじゃないの?」


 サリエルはアレクシオスだけでなく、ニコラス、マリベル、シオンを見回した。

 サリエルの目には疑いの色が見えた。 


 「だって……どんなに隠したって私が魔王の子供である事実は変わらない。いつか、分かることでしょ? じゃあそれをひた隠しにし続けるのはあまりにも感情的(・・・)で、私にとって、不合理(・・・)不効率(・・・)なことじゃないの? 隠したって、誰一人幸せにならないよね? 本当に私のことを思って、言わなかったの? ただ現状を維持したかっただけじゃないの? あなたたち(・・・・・)の勝手な都合じゃないの? ……あなたたち(・・・・・)が怖かっただけじゃないの?」


 実際のところ……

 アレクシオスたちが、サリエルとの関係を壊したくないという恐怖を抱かなかったかと言えばそれは嘘になるだろう。

 しかしだからと言って、それが先延ばしにした理由かといえばけしてそんなことはない。


 アレクシオスたちは心の底からサリエルを心配し、配慮していた。

 愛していたからである。


 だが……愛が必ず伝わるとは限らない。

 アレクシオスたちの過ちは、サリエルという少女を理解しきれていなかった点にある。


 サリエルを普通の十五歳の少女として扱っていた。

 サリエルが魔王の子であることを忘れていたことである。



 魔王という男は感情論と不効率と不合理を何よりも嫌う。

 いや……より性格に言えば理解できない。

  

 魔王という男は感情を適切に、機械的に処理することができてしまう。

 そういう人間なのである。

 母親を女神族に惨殺されても、復讐しようとは欠片も思わないのは魔王がそういう人間だからだ。


 そしてサリエルという少女もまた同様であった。

 

 なるほど、今まで父親だと思っていた人物が父親ではなかった。

 むしろ本当の父親の仇であった。


 というのは普通(・・)に考えれば、あまりにもショックが大きく……十五歳の少女には受け入れ難い内容だ。

 だがサリエルはそれを受け入れることができる。

 そして事実受け入れてしまった。


 サリエルはアレクシオスたちの反応を含めた、数多くの事実から……

 自分が聖女と勇者ではなく、聖女と魔王の子であるという事実が真実であると結論付けた。


 こうなれば話は早い。

 事実が真実であったならば、それは真実なのだろう。


 いくら否定したところで、真実は真実。

 決して変わることは無い。


 そしてまた……

 今まで聖女と魔王の子として生きてきた、アレクシオスに育てて貰ったという事実も真実である。


 結局のところ、サリエルにとって唯一変わったのは真実を知ることができたという一点だけだ。

 これはむしろ己にとっては、プラスである。

 知らないよりは知っていた方が良いのだから。


 そう考えることが出来てしまうサリエルにとって、アレクシオスたちの『真実を隠す』という行為はあまりにも不可解に映る。

 サリエルはそれを理解することができないのだ。


 故にサリエルにとって問題になるのは……

 自分が誰の子だったのか、などというすでに明らかになった真実ではない。


 アレクシオスたちが何故真実を隠していたのか……

 果たして彼らが己に投げかけていた『愛している』という発言は真実だったのか、ということだ。


 もしそれが嘘偽りであるならば、サリエルは新たに人間関係を考え直す必要が生まれる。

 

 「ねぇ、どうして教えてくれなかったの?」


 サリエルは泣きながら四人に問いかけた。

 

 サリエルは感情を捨てて論理的に思考し、合理的に行動することができる少女である。

 だが同時に感情豊かな少女でもあるのだ。


 さて……

 このタイミングで一歩、前に進み出たのがシオンであった。


 「サリエル様、よく聞いてくださいね?」

 「……はい」

 「まず……アレクシオス様はあなたに……真実をお話しするおつもりでした。そう、魔神族の襲撃があった、あの日にです」

 「……本当ですか?」

 「アレクシオス様から大事な話があると、言われませんでしたか?」

 「……言われました。そのこと……だったんですね」


 サリエルは不安そうに涙に塗れた瞳でシオンを見つめた。

 それは何かを欲する者の瞳であった。


 そして……シオンはサリエルが何を欲しているのかが分かっていた。


 「私たちがサリエル様に直接お教えしたのは確かに今日が初めてです。ですが……魔神族の襲撃が無ければ三日前にお教えしていました。ところで……もし今日が三日前だったとして、サリエル様は怒りましたか? なぜ今まで黙っていたのか、と」

 「……多分、怒らなかったと……思います」


 サリエルが今、なぜアレクシオスたちに対して疑念を憶えてしまったのかと言えば……

 それはサリエルが自力で真実に辿り着いた後から、アレクシオスたちがサリエルに対して真実を教えるという形になってしまったからである。


 つまりサリエルの目から見て、「本当は教えたくないが、サリエルが気が付いてしまったのでこれ以上誤魔化し続けることはできない。だから仕方がなく教える」という形になってしまったのが問題なのだ。


 だが……サリエルが自力で真実に辿り着く前から、アレクシオスたちが真実を教えてあげようとしていたのであれば、サリエルが抱いた疑念の半分は晴れる。


 「でも……もっと早く教えてくれれば……」

 「もっと、早くでしょうか? それはいつ頃ですか? 五歳くらいですか? それとも十歳の頃でしょうか? もしくは十二歳頃ですか?」

 「……」

 「サリエル様。もしその頃、自分がアレクシオス様の娘ではないと知って……自分の精神的な成長に何一つ影響を及ぼさないと、現在と全く同じ自分になったと断言できますか?」

 「いえ……できません」

 「なら、アレクシオス様が父親として……あなたの健全な成長を阻害する可能性がある事柄を先送りにしたのは……論理的であり、合理的ですね?」

 「そう……ですね。でも……十二歳以降なら……」

 「その頃になると受験勉強の必要が出てくるのではありませんか? サリエル様が受験勉強を始めたのは……その頃ですよね? それに女の子にとって十二歳は二次性徴の時期です。この時期にあなたの精神を不安定にさせるような事柄を伏せるのは、論理的であり、合理的ですね?」

 「……はい」


 シオンは一つ一つ、サリエルに丁寧に説明していく。

 サリエルが欲しがっているのは……愛しているだとか、大切に思っているだとか、そのような口ばかりの言葉ではない。

 自分が抱いている疑念を晴らすことができる、自分を大切に思ってくれていると思っていた人々を疑うという最低な行為をしなくても済む、理由である。


 シオンはそれをサリエルが求めていると知っているが故に……

 優しく、諭すように教えてあげる。


 「そして……入学当初からあなたは授業で爆発ばかり起こしました。もしその段階で真実をお話しし……あなたの精神がより不安定になるような事態が発生するのはあなたにとっても他の生徒にとっても危険であることは分かりますね?」

 「……分かりました。私が……間違っていました」


 ようやく納得したのか、サリエルの瞳から不安の色が無くなる。

 そしてアレクシオスに対して頭を下げた。


 「……ごめんなさい、お父さん。ちょっと、感情的になっていたかもしれない。私が全部……間違ってた……ごめんなさい」

 

 そんなサリエルをアレクシオスは抱きしめた。


 「いや、今まで黙っていたのは本当なんだ。……すまない、サリエル。お父さんが悪かった。お前は何一つ、悪くないさ。お前の中で……今まで常識だと思っていたことが引っくり返ったんだから、

疑心暗鬼に陥ってしまうのは当然だ。大丈夫だ、サリエル。大丈夫、大丈夫……」


 アレクシオスはサリエルが眠りにつくまで、抱きしめ、その背中を擦り続けた。

 


というわけで、これにて完結です

取り敢えずいろいろ言いたいことは同時投降したあとがきに書いてありますので、そちらをお読みください

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