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第30話 娘、洒落にならない状態になる

 九時四十分。



 アレクシオスとニコラス、フリードリヒ大公とカミラ公爵は死闘を繰り広げていた。



 フリードリヒ大公の宝具『暗黒鎧グロスフィード』は鎧型の宝具である。

 この宝具はフリードリヒ大公の魔力を変質させ、全身に纏わせる。

 魔力で作られているため、どんなに破損しても瞬時に回復する。

 そして……魔力量に比例して硬くなる。

 

 そのため並の騎士ではフリードリヒ大公に傷一つ負わせることすらも難しい。


 そして何とか傷を負わせたとしても……

 不死族であるフリードリヒ大公の傷は瞬時に回復してしまう。


 七選侯筆頭。

 その実力は確かだ。


 しかし相手はアレクシオスである。

 素手で鋼鉄すらをも切断できるアレクシオスが神具『救世の神剣』を振るっているのだ。


 この斬撃を防げる物質など、存在しない。


 宝具『暗黒鎧グロスフィード』はバターのように切り裂かれてしまう。

 そしてアレクシオスは連撃により、四つの心臓をほぼ同時に破壊してみせる。


 だが……

 

 「っく!! これだからトカゲ族は!!」

 「さすがは勇者!! 恐るべき速さだ!!」


 残り二つの心臓が脈動しているので、フリードリヒ大公は死なない。

 この二つの心臓が瞬時に四つの心臓を修復してしまうのである。


 フリードリヒ大公を殺すには六つの心臓をほぼ同時に破壊する必要がある。

 だが……

 

 「ふふふ……アレクシオス、貴様も老いたな。全盛期の貴様ならば、五つは容易に破壊出来たはず」

 「ああ、そうだな……」


 五つの心臓を同時に破壊されれば……

 残り一つで五つを修復しなければならない。


 その負担は大きい。


 全盛期のアレクシオスならばフリードリヒ大公を体力で圧倒出来た。

 だが……今のアレクシオスは四十代。


 若い頃の体力は失われている。


 「だけどな、俺が弱くなったからといって……」


 アレクシオスの剣が揺らぐ。

 即座に連撃が来る。

 

 (ふん……何度も同じ技が通じるとでも……な、なに!!)


 気付けばフリードリヒ大公の体に五つの傷ができていた。

 五つの心臓を同時に破壊されたのだ。


 「お前が強くなったわけではない。そして……俺も体力は落ちたが……剣技は落ちていない」

 「き、貴様……」


 フリードリヒ大公は唖然とした表情を浮かべる。

 アレクシオスは確かに年を重ねたことで体力を失った。

 だが……剣の腕は上がっているのだ。


 「死んでもらう!!」

 「死ぬのは貴様だ!!」


 二人は激突した。





 「おほほほほ!! さすがは賢者様というべきですねえ。ワタクシと命令式の展開速度で張り合えるのは……あなたくらいですよ」

 「お褒めに預かり、光栄だな!!」


 カミラ公爵とニコラスは魔術、理術の撃ち合いをしていた。

 何千、何万という命令式が瞬時に構築され、互いの必殺の一撃が幾度交差する。


 例え少しでも後れを取れば、確実に死ぬ。

 それが魔術師、理術師の戦いだ。


 (戦闘スタイルは同じ!!)

 (宝具も同じタイプ……)


 二人の宝具は共に命令式の構築を補助するモノだ。

 演算速度を上げる加速装置のようなもの。


 そして……宝具の性能も同じである。


 (吾輩の方が命令式の構築速度は辛うじて早い!)

 (ワタクシの方が……エネルギー量は優っている!)


 短期決戦を狙うニコラスと、長期戦を狙うカミラ公爵。

 互いに譲れない戦いだ。


 


 さて……

 アレクシオスとニコラスは共に体力、理力で劣るため短期決戦でなければ勝てず、逆にフリードリヒ大公とカミラ公爵は長期戦でなければ勝てない。


 そのため……

 アレクシオスとニコラスが一気に勝負を付けに来たのは必然であった。


 (マックス先生に加勢するため体力を残しておきたいが……)

 (全力を出さなければ、敗北する!)




 九時四十五分。


 アレクシオスは唱える。

 己が愛し、そして今も愛し続けている女性が残した……肩身とも言えるその力を使うために。


 「聖女より下賜されし理力、『勇気』よ。我に力を!!!」


 下賜理力『勇気』。

 それは……一時的に使用者の肉体と理力を限界まで強化するという、アレクシオスの切り札。

 使用後は体がボロボロになり立ち上がれなくなってしまうが……今はつべこべ言っている暇はない。


 そして……

 この理力『勇気』こそがアレクシオスを歴代最強の勇者にし、魔王を討ち取った根源の力である。


 『救世の神剣』はあまりにも強力な神具であり…… 

 本来ならば最強クラスの騎士ですらも、その実力を引き出そうとすると体が壊れる。


 だが……この『勇気』の理力を使用した時のみ、アレクシオスは神具の力の片鱗を引き出すことができる。


 「神具、解放!!!!」


 『救世の神剣』から錆が取れ……

 白銀に輝く刀身が姿を現した。


 使用者の理力と魔力、身体能力を極限にまで引き上げるその神具は……アレクシオスの力を限界を超えて引き上げる。


 「聖女より下賜されし理力、『知恵』よ。我に力を!!!」


 アレクシオスが下賜理力を使用するのと同時に、ニコラスもまたその理力を使う。

 彼がアニエルより下賜された理力『知恵』は……

 一時的に理力を高め、そして……命令式の演算速度を高めるというもの。

 まさにニコラスの戦闘スタイルに見合った力だ。


 「宝具、解放!!!」


 そしてニコラスもすぐさま宝具を解放する。


 それを見たカミラ公爵とフリードリヒ大公は二人を迎え撃つために……


 「魔王より下賜されし魔力『憤怒』よ。我に力を!!!」

 「魔王より下賜されし魔力『色欲』よ。我に力を!!!」


 下賜魔力を解放させた。

 そして……


 「「宝具、解放!!!」


 その宝具の真の力を引き出す。


 戦いは最終局面を迎えた。


 



 「これで終わりだ!!」

 「ぐぅ……何という……力!!」


 アレクシオスは神速の斬撃をフリードリヒ大公に叩きつける。

 圧倒的速度と力。

 それは……魔王を打ち倒した男の全力!!


 (ま、魔王陛下や聖女を一時的に上回れる……神具『救世の神剣』。や、厄介な男だ……)


 フリードリヒ大公は反撃を諦め、ひたすらアレクシオスの攻撃に耐え続ける。

 錆が消滅し、光輝いた『救世の神剣』が軌跡を描き、幾度もフリードリヒ大公の体を刻み込む。


 その力はまさしく……宝具を超える神具に相応しい。

 だが当然……これには弱点がある。


 (勇者アレクシオスといえども、神具の解放は五分も持たない……そしてその後、勇者は動けなくなるはず。五分、五分耐えれば勝利は我々のモノ!!)


 アレクシオスの剣は確実にフリードリヒ大公の心臓を貫き、破壊していく。

 同時にフリードリヒ大公もまた、心臓を修復していく。


 しかし……

 段々と修復が追いつかなくなってくる。


 六つの心臓が五つに……

 五つの心臓が四つに……

 四つの心臓が三つに……

 三つの心臓が二つに……

 二つの心臓が一つに!!


 そして……


 「死ね!! 七選侯フリードリヒ大公!!!」


 アレクシオスの剣が最後の心臓を抉り……












 「そこまでだ。勇者アレクシオス。娘の命が惜しければ……剣を放せ」


 現在の時刻、九時五十分。


 ルイス侯爵がサリエルとシャルロッテを抱え、その場に現れた。

 サリエルの首筋にはピタリと、金属の刃のように鋭い触手の先端が当てられている。


 「っぐ、……くそ……」


 アレクシオスは剣を落とした。

 気付くと剣は錆に覆われていた。

 時間切れだ。


 「はぁ、はぁ……」

 「残念だったな……勇者よ」


 五分が経過し、肩で息をするアレクシオスを……

 フリードリヒ大公は蹴り飛ばした。


 「げほ……」


 アレクシオスは血反吐を吐き、フリードリヒ大公を睨みつけた。


 「さて、賢者ニコラス。あなたも宝具を置きなさい。……分かっているだろう?」

 「……卑怯者め」


 ニコラスは宝具を置いた。

 先程までニコラスと戦っていたカミラ公爵は安堵の溜息を漏らす。


 あと少し、数秒でもルイス侯爵が遅れていれば……

 カミラ公爵は敗北していたのだ。


 「ルイス侯爵、例のモノは?」

 「バッチリ、見つけましたよ」


 ルイス侯爵はフリードリヒ大公とカミラ公爵に指輪を見せた。

 それはまさしく……『魔神の指輪』。


 「おお! よくやってくれた、侯爵!」

 「これで魔神界の内戦も終わりますわね」


 フリードリヒ大公とカミラ公爵は歓喜の表情を浮かべた。


 「さて、あと十分しかない。そろそろ帰る準備をしましょう。目的は果たしたことですし、ね」

 「ああ、そうだな。長居は無用だ」

 「おほほほほ!! 十八年前の借りは返しましたわよ、勇者様、賢者様」


 七選侯たちは自分たちの勝利を確信し……

 高笑いを浮かべる。














 さて……

 九時五十分、現在。

 この場には三人の女神族と三人の魔神族、そして女神族と魔神族のハーフが一人生きている。


 アレクシオス、ニコラス、サリエル、フリードリヒ大公、カミラ公爵、ルイス侯爵、そしてシャルロッテ。


 そして……








 「だが、このまま帰るわけにはいかない」

 「ですわね。このチャンス、逃すわけにはいきませんわ」

 「まあ、そうですねえ……こんなチャンスはそうそうありませんし。本音のところでは早く帰りたいですが、時間がありますからね」


 フリードリヒ大公、カミラ公爵、ルイス侯爵は……

 ニヤリと笑みを浮かべてアレクシオス、ニコラスを見る。


 アレクシオスは虫の息で立ち上がることすらできず、ニコラスは理力を使い果たして立ち上がるだけで精一杯。

 一方……フリードリヒ大公とカミラ公爵はまだ余裕があり、そしてルイス侯爵は何の疲弊もしていない。


 女神族の最高戦力二名。

 しかも自らの主君の仇である二人を……


 このまま見逃すという選択肢はない。


 アレクシオスとニコラスは……

 表情を歪める。


 (か、体が動かない……こんな時に……)

 (マリベル様やシオンさんがいれば……)


 そんなアレクシオスやニコラスを見て……ふと、フリードリヒ大公が嬉しそうな笑みを浮かべた。


 「良い事を思いついたのだが……ルイス侯爵。その小娘……サリエル、とかいうのか? それを貸してくれ」

 「ふむ……あまりそういうことは騎士として褒められる行為とは言えませんが。まあ、良いでしょう。このまま生かしておけば(・・・・・・・)……後の脅威となります。この娘の理力量は異常だ」


 フリードリヒ大公とルイス侯爵の会話を聞いたアレクシオスは顔を真っ青に染めた。


 「ま、待て!! な、何をするつもりだ!!」

 「何って……同じことをするだけだ。貴様は私にやったことと、同じことを!!」


 フリードリヒ大公はサリエルの髪を掴み、ぶら下げる。

 アレクシオスに見せつけるように。


 「お、おい!! 約束が違うぞ!!」

 「あらあら、賢者様。……死人と約束する者がこの世界のどこにいらっしゃいますか?」

 「はあ……後で落ち込むシャルロッテ君を慰めるのに苦労しそうだね」


 ニコラスの言葉に……

 カミラ公爵は挑発的な笑みを浮かべ、ルイス侯爵はやれやれと溜息を吐く。


 「さあ、勇者!! よーく目に焼き付けよ。そして味わうがいい……愛する子供(アレクサンダー)を目の前で殺された父親(わたし)の悲しみと苦しみ、そして憎悪を!!」

 「やめろ!!!!!!!!」



 そして……

 フリードリヒ大公の右手がサリエルの背中から突き刺さった。


 右手は真っ直ぐ、サリエルの胸部から出てくる。

 その手には……

 真っ赤な心臓が握られていた。


 「きさまぁぁぁぁぁ!!!」

 「ははははは!!!! ざまぁ、見ろ!! アレクシオス!! 安心しろ、すぐに貴様も娘と同じ場所に送ってやる!!」


 フリードリヒ大公は右手を握り締めた。

 ブチリと音を立てて、サリエルの心臓が潰れる。





 辺りに真っ赤な血液が……






 四散した。






 現在の時刻、九時五十五分。

 


生きて(・・・)立っている女神族はニコラスで、魔神族はフリードリヒ大公、カミラ公爵、ルイス侯爵。

 倒れているが……生きて(・・・)いる女神族がアレクシオス。

 ルイス侯爵に抱えられているハーフがシャルロッテ。



 






 そして……全ては一瞬のうちに起こった。


本当はここで「くぅ~疲れましたw」ネタを入れようかと思ったのだが、さすがに自粛した

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