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第29話 生徒会長、大人と子供の違いを見せつけられる

 現在時刻、九時四十分。


 「はぁはぁ……シャルロッテ、強いね」

 「くぅ……しぶとい女め……」


 サリエルとシャルロッテ。

 二人の実力は大きく離れている。


 サリエルは才能そのものは素晴らしいが、しかしその才能が逆に足を引っ張る形となっていて……力を使いこなせていない。


 一方シャルロッテ。

 サリエルには才能は劣るが……しかし七選侯の娘である彼女の才能も飛び抜けている。

 何より彼女は幼い頃から実戦のために鍛錬を続けている。


 実力は……シャルロッテが優っている。

 だが……二人の戦いは完全に膠着していた。


 その理由は……


 (……理術で攻める? いや、シャルロッテはそんな時間を与えてくれない。それに下手をすればシャルロッテが死んでしまう。やはり体術で攻めるべきかな……お父さんの言葉を思い出すんだ。理力を全身に循環させる。より強い気を練ろ。それを一点に集中させろ……私なら出来る。私はお父さんの娘なんだから)


 サリエルはシャルロッテへの怒りや憎しみ、悲しみ……

 それら一切を今は捨てて、冷静な気持ちで戦いに臨んでいた。

 今はタダ、シャルロッテを無力化することしかサリエルは考えていない。


 その心には一切の波はなく、冬の湖面のように落ち着いている。


 故にその実力を百パーセント引き出している。


 一方でシャルロッテは……


 (な、何故倒れない! 私の方が実力は上のはず……っく、落ち着け、落ち着くんだ! 私は魔神族だ。……女神族じゃない。女神族の友達なんていない!! こいつは……こいつは父を殺し、母を不幸にし、私の人生を狂わせた男と女の娘だ! 殺せ! 遠慮はいらない……殺すんだ!!)


 様々な感情が入り混じった結果、冷静さを完全に失っていた。

 故にその実力を一切出し切れず……


 魔力の流れも不安定になっていた。


 「死ね!!!」 

 「はぁぁぁ!!!」


 シャルロッテの槍とサリエルの蹴りが激突する。

 魔力と理力が反発し、稲光のように発光する。


 「神鳴り!!」

 「無手の太刀!」


 シャルロッテの槍から雷が放たれるが……

 それをサリエルは素手で切り裂く。


 サリエルの皮膚が裂け、焼け爛れるが……サリエルは痛みを表情に出さない。


 一方でシャルロッテはサリエルの手から零れる血で…… 

 平静を失ってしまう。

 どんなに嘘偽りで誤魔化そうとも……

 シャルロッテがサリエルとカリーヌに友情を感じたのは事実であり……親友を傷つけたという事実はシャルロッテの精神を不安定にさせた。


 (何故だ……何故殺せない!! こんなことはあってはならない……私は魔神族だ!!!)

 

 そしてシャルロッテは……


 「宝具解放!!!!」

 

 魔力と理力を一気に高めた。

 宝具の力を限界まで引き出す。


 魔紋と聖紋が浮かび上がり、激しく発光する。


 今日で二回目……二度の解放は体に大きな負担を掛ける。

 事実……シャルロッテの体から血が溢れ出始める。


 「これでお終いだ!! 神鳴り!!!!」


 シャルロッテは雷を槍に纏わせ、渾身の一撃を放つ。

 一方サリエルは……ニヤリと笑みを浮かべた。


 それは……

 アニエルも、アレクシオスも決して浮かべることは無いだろう。


 狡猾で残忍な笑み。

 無意識にサリエルが浮かべてしまった微笑み。


 勝利を確信した時に……浮かべてしまう時の表情。


 「私たち……友達だよね?」

 「っぐぁぁぁ!! 違う!!!!!」


 サリエルの言葉に動揺したシャルロッテは……

 魔力と理力を暴走させてしまう。

 サリエルが失敗した時のように爆発を引き起こす。


 その隙をサリエルは見逃さない。


 「ごめんね、シャルロッテ。今は……眠っていて」

 「っく、はぁ……」


 サリエルの拳がシャルロッテの腹を射貫いた。

 シャルロッテは白眼を剥いて倒れた。


 「……ふぅ、何とかなった。まあ……シャルロッテも私たちに嘘をついたし、お互い様ということで。ちゃんと友達になろうね」


 サリエルはそう言いながら、シャルロッテを抱える。

 少なくともルイス侯爵は自分が勝てる相手ではない。


 今のうちにシャルロッテと共に外に逃げてしまおう。 

 

 しかし……



 パチパチパチパチパチ。


 背後から拍手が聞こえた。

 サリエルはゆっくりと後ろを振り返る。


 そこには……ルイス侯爵。


 「友人との戦いだというのに一切動揺しない冷静さ。シャルロッテ君の不安定な精神を見逃さない観察眼。そして勝利のためならばどんな手段でも行う狡猾さ。いやはや……本当に聖女と勇者の娘なのか疑わしくなってきましたよ。まあ、その溢れんばかりの理力を見ればお二人の子供であることは明らかですが……もしあなたが魔神族だったら、勧誘したいほどです」

 「それはどうも……」


 サリエルはゆっくりと後退る。

 

 「戦うという選択肢を捨て、逃げることだけを考えているという点も評価に値します。ええ、まだ子供であるあなたは私には勝てない。しかし……逃げられたらの話ですけどね」


 ルイス侯爵の宝具がサリエルに襲い掛かった。

 サリエルは両足に気を送りこみ、一気に走り出す。


 しかし……


 「っぐ……ぐぁぁぁ……は、放せ……」

 「残念。逃がしはしませんよ」


 ルイス侯爵の触手がサリエルの喉を締め上げた。

 サリエルは爪で触手をひっかいて抵抗するが……そもそも実力に差があり過ぎて、抵抗にすらなっていない。


 そして……サリエルの意識は闇に包まれる。


 ルイス侯爵はシャルロッテとサリエルを触手で抱え上げた。


 「シャルロッテ君。敵に対して情を抱くのは減点ですよ。……まあ、それも含めて彼の娘ということでしょうけどね。彼がそういう人間でなければ……あなたは、女神族と魔神族のハーフなんて産まれない。さて……目的のモノは回収しましたし、加勢に行きましょうか」


 ルイス侯爵は盟友たち……

 フリードリヒ大公とカミラ公爵に加勢するため、歩き始める。


 だがその前に……


 「サリエルとシャルロットを放せ! 魔神族!!」


 一人の青年が立ちはだかった。


 その青年の名前は……ジャン・ブルガン!!



 「ほう……この私に立ち向かおうという勇気は褒めてあげよう。だが……勇気と無謀は違うのだよ、青年」

 「黙れ……二人を放せ!!」

 「少なくともシャルロッテ君は私たちの仲間だが……ふむ……」


 ルイス侯爵はジャンの視線がサリエルに向かっているのに気が付く。

 そして笑みを浮かべた。


 「なるほど、君は……サリエルが好きなのかね?」

 「な、何を……」 

 「ああ……何と美しい恋心だ!! 君が英雄譚の主人公であったならば、私は君に声援を送っていた。だが……悪いが、ここは現実なのだよ」


 そう言ってルイス侯爵はシャルロッテとサリエルを地面に置いた。

 そしてジャンに向かい合う。


 「せめてもの敬意として、君が全力で戦えるようにしよう」

 「……後悔するなよ?」

 「二人の恋の礎となれるならば、後悔はしないさ。まあ、勝てるならばの話だけどね」


 ジャンは理力を高める。

 アレクシオスから修行は受けられなかったが……いくつかアドバイスも貰ったし、厳しい鍛錬も己に課した。


 「宝具、解放!!!」


 ジャンの右頬に聖紋が浮かび上がる。

 ルイス侯爵は目を細めた。


 「なるほど……シャルロッテ君のように感情が高ぶって弱くなるパターンもあるが……君は燃え上がるほど強くなるタイプのようだね。ああ、恋とはやはり素晴らしい」

 「はぁぁぁ!!!!」


 ジャンはルイス侯爵に向かって剣撃を繰り出す。

 その速さ、力強さは以前のジャンではない。


 今のジャンならば……幼体の王竜ならば一人で倒せてしまうだろう。


 「おお!! 何という力だ!! これならば十分実戦でも通用するだろう。素晴らしい!!」


 ルイス侯爵はジャンのあまりの強さに驚嘆の声を上げる。

 だが……


 「まあ……子供にしては、の話だがね」


 その瞬間、ジャンは吹き飛ばされた。

 脇腹に熱を感じ触れると……そこから血が流れ出ていた。


 (な、何が起こった? ……な、何も見えなかった)


 唖然としているジャンをルイス侯爵は見下ろす。


 「まだまだ粗削り、今後の成長に期待、というところだね」

 「っぐ、まだまだ……」


 ジャンは立ち上がろうとして……

 両手を地面に付ける。


 体に力が入らない。


 「物語の世界ならばともかく……子供が大人に勝てるわけがないだろう。子供は大人しく、勉学に励み、努力を続けるべきだ。無謀なことはするべきではない。大人としての忠告だよ」


 ルイス侯爵は踵を返した。


 「君が強くなって……戦場で合間見えることを祈っているよ。その時は……きっと、新たな魔王陛下と一緒だろうけどね」


 ルイス侯爵はサリエルとシャルロッテを抱えて行ってしまう。


 ジャンはそれを見送ることしかできなかった。


 現在の時刻、九時四十五分。

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