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第28話 侯爵、お目当ての代物を見つける


 現在時刻、九時二十分。

 

 一方、マックスはルイス侯爵、シャルロッテと対峙していた。



 「お主はシャルロットか……その様子を見ると、捕まっているわけではないようじゃな」

 「御挨拶が遅れて申し訳ございません。シャルロッテ・エルザース=ロトリゲンと申します」


 マックスに対しシャルロッテは改めて名乗りを上げることで、自分の名前を訂正した。

 マックスは目を細める。


 「……魔力は封印石で隠したのか? 実力も隠していたようじゃな

 「はい、マックス卿。……全ては魔神族の繁栄のために」


 マックスは表情を歪めた。

 シャルロッテが魔神族であり、それに気が付かなかった己の不甲斐なさと……このような少女にまでスパイ行為を行わせる戦争に対し、怒りが込み上げてくる。


 「シャルロッテ君、君は下がり給え。こいつは僕が相手をしよう。まだ君には荷が重い」


 ルイス侯爵はそう言って前に進み出た。

 ルイス侯爵、マックスは共に宝具をいつでも展開できるようにして……睨み合う。


 (老いたとはいえ、破壊のマックスだ。油断すれば負ける)

 (参ったのぉ……まさか三人目の七選侯とは。厄介じゃ)


 そして……


 「宝具『妖精の羽衣エデルディーネ』!」


 ルイス侯爵が身に纏っていた羽衣が蔓状の植物に変化。

 先端部分が刃物のように硬質化し……無数の刃としてマックスに襲い掛かる。


 「宝具『大地の怒りガルバント』!」


 一方マックスは斧型の宝具を振り回し、それを薙ぎ払う。

 

 二人の攻防は数分の間続いた。

 それを終わらせたのは……


 「破壊のマックス、と言えでも老いには勝てないようだね」

 「ぐ、ま、まさか……ここまでとは……」


 ルイス侯爵が解き放った触手がマックスの体を突き刺した。

 

 「その刃は毒が塗られている。……まあ、三日は動けないだろう。では、先を急ごうか」

 「はい、分かりました」


 ルイス侯爵とシャルロッテは踵を返し、学園長室へと向かう。

 しかし……


 「待って!! シャルロット!!」


 凛とした声が廊下に響いた。

 シャルロッテは不愉快そうに眉を顰める。


 その声も持ち主は……


 「サリエル……」

 「ほう……あれが噂の、聖女と勇者の娘さんですか。これはこれは聖女に似て、お美しい女性だ」


 シャルロッテは表情を歪め、ルイス侯爵は興味深そうにサリエルを見つめる。

 サリエルはシャルロッテに問いかける。


 「これは……どういうこと?」

 「私は魔神族だった。それだけ」

 「カリーヌは?」

 「気絶させた。命は取っていない」


 するとサリエルは安心したように笑みを浮かべた。

 そして……身構える。


 「いろいろと事情は……シャルロット、あなたを殴って、とっ捕まえてから聞くよ」

 「随分と割り切りが早い。あと、私はシャルロッテ」

 「そう、分かったよ。シャルロッテ」


 シャルロッテとサリエルは向かい合った。

 そしてシャルロッテはルイス侯爵に言う。


 「これは私が相手をします。侯爵はどうぞ、お先に」

 「分かったよ。学園長室まですぐそこだし……机の下に隠し扉があるんだろ?」

 「はい、そうです。そして真っ直ぐ進めばそこにあります。ただ……」

 「分かってるよ。学園を守る結界よりもより強力な結界で守られている可能性が高い、だろう? どちらにせよ、私でなくては解除できないのだ。君がここに残り、私がそこに行くという人選は正解だ。では、後で会おう。我が盟友よ」


 ルイス侯爵は踵を返す。

 それを見送り……サリエルとシャルロッテは……


 「宝具『雷鳴槍ドゥネリアス』!」

 「無手の太刀!!」


 シャルロッテの宝具と、サリエルの手刀が激突する。

 吹き飛ばされたのは……サリエルの方だ。


 「あなたの才能は確かに私よりも遥かに上。だけどその高すぎる素養が足枷になっている。それに……」


 シャルロッテはサリエルを睨みつける。


 「のうのうと生きてきたあなたよりも、私の方が強いのは自明」 

 「……そうかもね」


 サリエルはゆっくりと立ち上がった。 

 宝具を受けた手からは血が滴っている。


 だがその瞳には強い意思が感じられた。


 「友達を……あなたとカリーヌを思う気持ちは誰にも負けてない自信はあるよ」

 「……私はあなたを友達だと思ったことは一度たりともない」


 シャルロッテはサリエルを睨みつけ、強い口調で……

 自分に言い聞かせるように言う。


 「父を殺し、母を不幸にさせた奴ら……聖女アニエルと七騎士を絶対に許さない。そしてその娘も!!」


 シャルロッテの言葉にサリエルは表情を一瞬だけ歪めたが……すぐに笑みを浮かべた。


 「そう、じゃあ……これから友達になろうか!」

 「ぬかせ!!」


 現在時刻、九時三十分。







 (しかし……意外だ。あの勇者の娘ならば激昂して怒り狂ってもおかしくなかったのだが……性格は母親に似たのか? しかし聖女はあのような目をするだろうか……)


 ルイス侯爵は廊下を進みながら、思案する。

 聖女と勇者の娘……サリエル。

 

 サリエルはシャルロッテが裏切り者だと知った時、悲しそうに表情を歪めた。

 しかし怒りはしなかった。

 そして……すぐに悲しみの色すらも表情から消え去った。


 あまりにも割り切りが早すぎる。

 浮かんできた感情を処理し、理性で行動する……そんなことが聖女と勇者の娘に出来るのか?


 もし出来るとしたら……どんな教育を、どんな育て方をされてきた?

 あれは常人にできることではない。

 

 普通は……信じていた友人に裏切られれば、強い憎しみや怒りを覚えるはずなのに。

 それをあっという間に処理してしまう冷静さは……どうすれば身に付けられる?


 (違和感がある。……何かが引っかかる。何故だ? ……何故私はあの娘に強い憎しみを抱けない? 敬愛する我が主を殺した男と女の娘だぞ? 何かを根本的に間違っているのか?)


 しかしいくら考えても、答えは出なかった。

 ルイス侯爵は頭を大きく左右に振り、雑念を頭から締め出す。


 (今は……目の前の事に集中するべきだ。そもそも鳶が鷹を産むことだってあるのだ。聖女と勇者の娘が二人にそっくりである必要はない)


 ルイス侯爵は学園長室の扉に手を掛けた。

 すると……

 

 「っぐ!! こ、これは……魔力に反応する結界!? な、なるほど……さすが『火刑の魔女』と言うべきか。だが……この程度の小細工で私を止められない」


 ルイス侯爵は宝具を展開し……

 全力の一撃を扉に叩きつける。


 扉は粉々に吹き飛んだ。


 ルイス侯爵が足を踏み入れると、次々と魔力に反応してトラップが発動する。

 その尽くをルイス侯爵は回避し、解除し、破壊する。

 そして学園長室中央の机を吹き飛ばし……


 床に一撃を加える。

 隠し扉が破壊され、その下には深い闇が広がっていた。


 「さて……行くとしよう」


 ルイス侯爵はゆっくりと降りていく。

 そして長い長い暗闇が続く廊下を進む。


 途中、無数のトラップがルイス侯爵を襲うが……やはり彼の侵入を妨げることはできない。


 そして……ルイス侯爵の目に光が飛び込んでくる。

 昔、サリエルたちが見つけた……巨大な水晶が安置されていた部屋だ。


 「ああ、ついに、ついに見つけた!!!!」


 ルイス侯爵の視線の先は巨大な水晶……

 ではなく、その水晶の中に埋め込まれていた……指輪。


 そう、この指輪こそ……


 「神具『魔神の指輪』だ。はは……ついに、ついに見つけた! これで新たな魔王陛下を選べば……内戦は終わる!!」


 『魔神の指輪』

 

 アレクシオスは魔王を打ち倒した後、その指輪を回収した。

 その指輪は女神族の国王など、指導者たちの間で協議された結果……


 マリベルに預けられた。


 そしてマリベルはこの学園の地下に、ニコラスの力を借りて……

 完全に封印したのである。


 この学園を守る結界とは別で、この学園には強大な理術の命令式が至るところに組み込まれている。

 これらの命令式は……ほんの少しづつ、体調に影響が出ない範囲内で生徒たちから理力を奪い……

 その理力を貯蓄し、『魔神の指輪』が盗まれないように、そして使い手を探しに勝手にどこかに行かないように封じ込めるのに使用されている。


 「さて……早速、結界を解除させて貰おうか」


 ルイス侯爵は手を部屋に向かって突き出す。

 ルイス侯爵の手が部屋と廊下の境界に振れた瞬間、ルイス侯爵の手に激痛が走った。


 しかしルイス侯爵は苦しそうな顔一つせず……


 「この程度で……私を阻めると思うなよ?」


 不適に笑った。


 現在時刻、九時三十五分。

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