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第26話 ??????、友情ごっこはお終いにする


 それは終業式の三日前のこと。

 

 「あー、最悪。最悪よ……もう、ね。何でこのタイミングなのかしらね!?」

 「ど、どうされましたか? マリベル様?」

 「勇者!! 遅い、遅刻よ!!」


 アレクシオスが慌てて学園長室に駆け込むと……

 すでにそこにはニコラスとシオンがいた。

 マリベルは不機嫌そうだ。


 「アルザース=ロレヌ辺境伯からの援軍要請よ!! 魔神族が攻めてきたの!」

 「そ、それが……どうしたんですか?」

 

 アルザース=ロレヌ(エルザース・ロトリゲン)は長年の係争地なので、別に魔神族が攻めてくるのはおかしなことではない。

 日常茶飯事……とまではいかないが、小競り合いはいつものことだ。


 「それがね……何でも七選侯、ああ、『新七選侯』のほうね、そいつらが出てきてるみたいなのよ」

 「どいつですか?」

 「生き残りの全員みたいなのよ。フリードリヒ・フォン・リウドルフィング大公、カミラ・フォン・ハルプスブルク公爵、ルイス・フォン・ヒデルンブルク侯爵、ジャンヌ方伯!! その他諸々大物騎士共が揃ってるらしいわ」

 「そ、それは……大変じゃないですか!!」

 「そうよ、大変なのよ! 三日後は終業式なのよ!! 間に合わないじゃない!!! 」


 マリベルはイライラと地団駄を踏む。

 こう見えて、マリベルは子供好きである。


 そして……学園運営にその情熱を注いでいる。

 そんなマリベルにとって、戦争で終業式を欠席しなくてはならないというのは実に不愉快なのだ。


 「で、人選なんだけど……やっぱりここに二人は残した方が良いと思うわけ。そこで……賢者と勇者を残して、私とシオンでちょっとぶっ殺しに行ってくるから、留守を頼むわ」

 「はい! 分かりました!!」

 「了解です」


 マリベルはプンプンと怒りながら学園長室を出る。

 シオンは二人に一礼してから、その後に続いた。


 「怒ってたな、マリベル様」

 「ああ……魔神族共も、今日で終わりかもな」


 二人は顔を見合わせた。






 三日後、終業式の日。

 

 サリエルとカリーヌは大講堂に来ていた。

 そろそろ終業式が始まるからである。


 生徒たちも大勢、集まってきている。


 「ねえ、サリエル。シャルロットが見つからないんだけど……どこに行ったか知らない?」

 「トイレに行くって言ってたけど……確かに、なかなか戻らないね」


 サリエルは首を傾げる。

 まあ、とんでもない難敵と戦っているかもしれないが。


 サリエルも女なので、分からないでもない。


 「私、ちょっと見てくるね」

 「うん、分かった。……先生たちには私から言っておくね」


 カリーヌはサリエルと別れ…… 

 シャルロットを探しに行った。






 「しかし……終業式か、良いねえ子供は。俺たちの仕事に終わりはないってのに」

 「はは……俺たちだって、昔はここの生徒だったじゃねえか。……昔は良かったよなあ、バカやってるだけでさ」


 騎士たち二人は笑い合った。

 二人がいるのは……立ち入り禁止区画の奥深く、この学園全体を守る結界の『コア』がある部屋だ。


 二人ともヴァロワ王国では有数の騎士である。


 「しかし過剰だと思わないか? 伝説級の騎士様が普段から三人、臨時講師としてくるシオンさんまで含めて四人だぜ? 王宮よりも堅いだろ。まあ今はそのうち二人は戦場だから、半分だけど」

 「まあねえ……確かに過剰防衛だよな。意味が分からない……」


 などと二人が笑っていると……

 コツ、コツ、コツ。

  

 靴音が聞こえた。

 二人は慌ててそれぞれの宝具を身構える。


 「誰だ!! ……って、生徒か」

 「脅かすなっての……というか、ここは禁止区画だぞ!!」


 騎士たちはその生徒に近づいてくる。

 それはエルフの可愛らしい少女だった。


 「まあ、気持ちは分かるよ。禁止って言われると入りたくなるもんな」

 「だがなぁ……ここだけはダメだ。俺たちも散々校則破って罰則くらったけど……ここに入ったら絶対に退学だ。……黙っててやるから、帰りな」


 騎士たちが優しい声で言うと……

 女子生徒はコクンと頷いて、後ろを振り向いて去っていく。


 騎士たちも安心して、背を向けて再び扉の前まで歩いていく。


 ……ここで女子生徒は立ち止った。

 騎士たちとの距離は十メートルほど。


 女子生徒は指輪を外す。

 コロンと音を立てて、赤色の宝石が嵌め込まれた指輪が転がった。


 騎士たちがその音に気が付き、後ろを振り向いた時には……

 もう遅かった。


 「宝具『雷鳴槍ドゥネリアス』」


 すでにエルフ……いや、鬼人種の少女が槍を手に持ち、襲い掛かっていたのだから。


 「こ、この力は……ま、まさか!!」

 「魔神族!!」


 雷が落ちた。







 

 少女は騎士二名を奇襲で倒すと……

 扉の前に立った。


 試しに押してみるが…… 

 動かない。


 少女は舌打ちして……


 「これでどう!?」


 魔力と理力、その両方を『雷鳴槍ドゥネリアス』に込め、一撃を放つ。

 しかし……扉はビクともしない。


 少女は溜息を洩らした。


 「……宝具、解放」


 『雷鳴槍ドゥネリアス』が光り輝く。

 少女の右頬に聖紋が、左頬に魔紋が浮かび上がった。


 「神鳴り!!!」


 全力を込めた一撃。

 学園全体を振動させるほどの一撃が扉に炸裂し……

 ついに扉は吹き飛んだ。


 もはや少女に……騒ぎになるかもしれない、などという遠慮は無かった。


 「これが『コア』……よし」

 

 少女は宝具でコアに一撃を放つ。

 これはあっさりと破壊できた。


 これで……学園を守る全ての結界が一時停止した。

 少女は魔力で動く腕時計を確認する。


 まだ……時間がある。

 

 針が動くたびに、少女の心臓が鼓動する。

 失敗は許されない。


 そして……針が九時丁度を指したその瞬間。

 少女はポケットに入れていた精霊石を破壊した。


 砕け散る精霊石。

 そして……中から大量の魔力が溢れ出て、十万……いや、百万以上の命令式が展開される。


 その魔術は……

 転移術。


 「……転移術は入口側と出口側、双方が同じタイミングで術を使わなければ……成功しない」


 少女の心臓が高鳴る。

 そして……

 幸いなことに魔術は成功した。


 ゲートが開く。


 少女は慌てて跪いた。


 「よくやった、我らの同胞よ!!」

 「しかし……これだけの命令式を使って、三人しか通れないとは……転移術とは不便だな」

 「ふふ、良いじゃないですか、大公。取り敢えず……侵入できたのですから」


 ゲートより現れたのは三人の魔神族。


 一人は緑色の髪の毛の……身長一メートルほどの妖精族の男性。

 羽をパタパタと動かし、宙に浮いている。


 もう一人は大柄で……金髪碧眼の不死族の男性。

 腕を回し、ニヤニヤと笑みを浮かべている。


 最後は……赤色の髪と瞳の……吸魂族の女性。

 非常に露出度の高い服を着て、扇子で口元を隠して笑っている。


 少女よりも圧倒的な力を持つ……彼女の同胞たち。


 「さすが、彼の娘さんと言える。よくぞ、この困難な任務を達成した」

 「お褒めに預かり、光栄でございます。侯爵様」

 「ただまあ……減点があるとするならば、あれだけどね」


 妖精族の男性は指を指した。

 少女は振り返る。

 そこには……


 「シャ、シャルロット……あ、あなたは……い、いえ……その方たちは……誰なんですか?」


 巨人族の少女、カリーヌがいた。

 少女は苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。


 「彼女は? 君のことを知っているようだけど」

 「友……いえ、同じ寮に住んでいた……女神族です」

 「そうか、まあ……愛する部下と同じ屋根で暮らした仲間というのであれば……挨拶をしないわけにはいかないね」


 妖精族の男性はカリーヌの頭上まで飛んでいく。

 カリーヌは……その圧倒的な魔力、騎力に気圧されて……尻餅をつき、後退った。


 「名乗るのが遅れて、申し訳ない。美しい……巨人族のお嬢様。私の名前は……ルイス・フォン・ヒデルンブルク侯爵と申します」

 「ルイス……フォン……ま、まさか……魔王七選侯の……」

 「これはこれは、私のことを知っておられたとは。あなたのような美しいお嬢さんに知られていたとは……実に光栄です。ええ、私は魔王陛下より『傲慢』の魔力を下賜して頂きました。恐れ多くも、七選侯の末席に名を連ねております」


 優雅に……

 ルイス侯爵は一礼した。


 そして……


 「あそこの大柄の金髪の男性、あのお方はフリードリヒ・フォン・リウドルフィング大公。『憤怒』の魔力を魔王陛下に下賜された、七選侯です。魔王陛下のお父君に当たるお方でもあります。そしてあそこの赤髪の女性はカミラ・フォン・ハルプスブルク公爵。『色欲』の魔力を魔法陛下に下賜された、七選侯です。魔王陛下の従妹に当たる方です。ああ……魔王陛下のお身内ばかりで、私としては何とも肩身が狭いのですよ」


 あはははは……

 などとルイス侯爵は笑う。


 カリーヌは……啞然とするばかりだ。

 

 「おっと……一人、仲間を忘れておりました。あの……水色の髪の少女。耳が尖っていて、エルフの特徴を持ち……そして怪力と額に二本の角を……つまり鬼人族の特徴を持つ少女ですね。彼女の名前はシャルロッテ・フォン・エルザース=ロトリゲン。我らが盟友にして、戦友であり、魔王陛下の忠実なる家臣であり、『強欲』を下賜された七選侯の一人であった……ディーテリヒ・フォン・エルザース=ロトリゲン城伯の娘さんです。彼女は……エルフ族と鬼人族、つまり女神族と魔神族の……混血なのですよ」


 ルイス侯爵はニヤリと笑みを浮かべ……

 シャルロット……いや、シャルロッテは冷ややかな目でカリーヌを見つめる。


 「シャ、シャルロット? う、嘘だよね? こ、こんなの……何かのドッキリでしょ? わ、悪ふざけは……」 

 

 カリーヌの言葉に……

 シャルロッテはゆっくりと首を横に振って言った。


 「カリーヌ……いや、ディアノール公爵令嬢殿。申し訳ございませんが……もう、友情ごっこ(・・・・・)はお終いです」


まあ、案の定というべきか

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