第25話 ??????、そろそろ覚悟を決める
「終わった!!!」
「終わった」
「……オワッタ」
上から順に、サリエル、シャルロット、カリーヌは呟いた。
何となく、終わったの語感の違いで三人のテストの出来が推察できる。
果たしてカリーヌは留年を回避できるのか?
「ねぇねぇ! 三人で遊びに行かない? テストも終わったし!!」
サリエルがカリーヌとシャルロットに提案する。
「よし、行こう!! うん、いつまでもくよくよしても仕方がないし!!」
「あなたはもう少し悩むべきなのでは? ……まあ、良いけど」
そう言うわけで、三人で遊びに行くことになった。
オルデール学園は多くの生徒が通う学校で……
加えて三人に一人は貴族の子女だ。
そのため……その周辺は非常に発展している。
「取り敢えず、服でも買いに行く?」
「賛成!!」
「異議なし」
三人はまず女子用の衣服が揃っている店に向かった。
まず入ったのは……値段的に中堅程度のお店だ。
「へぇ……結構可愛いのがあるね」
「私、ドレスばかりだし……こういうのも来てみたいな」
「……」
サリエルとカリーヌとシャルロットは服を物色し始めた。
「あの、すみません」
「何ですか?」
「これ……試着出来ますか?」
サリエルはいくつか服を手に持って店員に尋ねる。
すると……
「お客様は……天翼族の方ですか。それらは人族やエルフ族用で……翼を出すための穴が開いておりません。着るのは難しいかと」
「そ、そんな……」
「い、いえ大丈夫ですよ。ちゃんと天翼族の方のために……穴が開けてある試着用を持ってきます。もし御購入されるのであれば、サービスで穴をお開けしますよ」
「本当ですか!!」
サリエルは顔を輝かせた。
店員はニコリと微笑み……すぐに店の奥の方へ試着用の服を取りに行った。
「どうぞ」
「ありがとうございます!」
早速、サリエルはいくつか服を試着する。
「どう、かな?」
「似合ってるじゃん!」
「悪くない」
サリエルが試着したのは白い清楚なワンピースだった。
頭には店員が持ってきた麦わら帽子を被っている。
「……買っちゃおうかな?」
「では、お会計ですが……」
サリエルは店員に乗せられて服を買うことにした。
一方、カリーヌは散々店の中を歩き回って試着を繰り返し……
特に買いたい服はない、という結論に至った。
さて、その間シャルロットはというと……
「……」
手に持った服をじっと認めていた。
(良いのだろうか? で、でも任務の途中だし……)
「シャルロット、買わないの?」
「え、えっと……試着してからにしようと……」
「じゃあ、してみようよ」
サリエルに強引に背中を押される形でシャルロットは試着室に入れられた。
シャルロットは意を決して……服を着た。
「……どう?」
「似合ってるよ!!」
「すごい!!」
「とてもよくお似合いです、お客様!!」
サリエル、カリーヌ、ついでに店員に褒められて……
シャルロットは顔を少し赤らめた。
頭にはベレー帽、上には青い生地のTシャツ、下には茶色い短パン。
スレンダーな体型のシャルロットにはよく似合っていた。
「じゃ、じゃあ……買う」
そんなわけで三人は店を後にした。
その後、カリーヌは別の店で服を買うと……
「お腹空いたね、アイスでも買う?」
「良いね!!」
「……異議なし」
三人は道で売っていたアイスを購入する。
サリエルはバニラ、カリーヌはいちご、シャルロットはチョコレートだ。
三人でベンチに座り、アイスを食べる。
「うん、美味しいね!」
「外で食べると美味しく感じるよね」
「私はどこでも良い」
ふと……
そこで何かに気が付いたサリエルがチリ紙をシャルロットの口元に近づけた。
「ん?」
「動かないで」
サリエルはシャルロットの口の周りに付いていたチョコレートを拭った。
「綺麗になった」
「……ありがとう」
シャルロットは顔を赤くして、礼を言った。
その後、三人は日が暮れるまで遊びまわった。
そして帰り道……
「もうすぐ夏休みだね」
「そうだね……暫くの間、お別れだね」
「……」
サリエルの言葉に……
妙にしんみりした空気が漂う。
「そう言えば……私、お父さんに夏休みの前に話があるって言われてるんだよね。大事は話だって言うんだけど」
「へぇ……お見合いとかかな?」
カリーヌがそう言うと……
サリエルは「ないない」と首を横に振った。
「お父さんに限ってそれは無いでしょ。だって……私にお嫁に行ってほしくないみたいだし。俺を倒せる奴じゃないと、サリエルは渡さない!! だって」
「あははは……それ、不可能じゃん」
「だよねぇー、私結婚できるのかな? ……まあ、今は別に興味なんてないけど」
サリエルとカリーヌは笑い合った。
「シャルロット」
「シャルロット、大丈夫?」
「え、何?」
突然声を掛けられて、シャルロットは困惑の声を上げた。
サリエルとカリーヌは心配そうにシャルロットの顔を除く。
「いや、さっきから黙ってるから……体調でも悪いのかと……」
「アイスでお腹でも壊したとか?」
「……いや、ごめん、少し考え事をしていただけだから」
シャルロットは笑みを浮かべた。
その笑みは……少し悲しそうだった。
「本当に……ごめん、でも大丈夫だから……ごめん、ごめんね」
「ふわぁ!! テストが終わって、遊びまわった後のお風呂は最高だね!!」
「サリエル、おじさん臭い」
「……」ぷかぷか
街から帰った後、二人は早速お風呂に入った。
まだ時間が早いこともあり……人はあまりいない。
「そう言えば、サリエルってさ……」
「何?」
「おっぱい大きいよね」
「……何を突然」
サリエルは慌てて胸を隠した。
何だかんだで男性陣―アレクシオス、ニコラス―の視線が自分の胸部と臀部に向かっていることに最近、気付き始めたサリエルは顔を赤らめる。
「そういうカリーヌも大きいじゃん」
「まあ、ね……でもさ、戦闘じゃ邪魔だよね」
「分かる、肩凝るしね」
「……お前ら、殺してやろうか?」
サリエルとカリーヌのおっぱい談義を横から聞いていたシャルロットは低い声で二人を脅した。
二人の視線がシャルロットの……平坦な胸に行く。
胸の話はシャルロットの前ではやめようと、二人は心の奥底で誓った。
「胸といえば、サリエルっていつも……首飾り付けてるよね」
「ああ、これね」
サリエルは胸に付けてある首飾りを手に持った。
赤色の宝石が埋め込まれている。
宝石の大きさに比べて……装飾はシンプルなので、あまり派手な印象は受けない。
「お父さんが昔、くれてね」
「へぇ……」
「絶対に外すなって、言われてるんだよね。何でか分からないけど」
サリエルは首を傾げる。
とはいえ、基本的に自分の父親を信用しているサリエルは父親を疑ったりすることはなく、その言い付けを守り続けている。
「もしかして、『女神の首飾り』だったりして!」
「あはは……それは無いんじゃないかな? 別に私、力とか湧いてこないし」
サリエルは苦笑いを浮かべた。
まだまだ経験の浅い自分には……神具など、使いこなせないだろう。
爆発落ちが見えている。
「そう言えば、シャルロットも指輪付けてるよね」
「本当だ! ……綺麗な石だね」
「う、うん……まあ、お守りみたいなものだよ」
シャルロットもまた、指に赤色の宝石が嵌め込まれた指輪を付けていた。
サリエルの宝石よりは数段小ぶりだが。
「でもまあ……もう不要だけどね」
「ん?」
シャルロットの呟きにサリエルは首を傾げた。
どういう意味か問い質そうとしたその時……
「サリエル! その宝石……ヒビが入ってない?」
「え? あ、本当だ……お父さんに見てもらうよ」
サリエルは父親の言葉を思い出す。
もし、ヒビが入っているようならば……すぐに自分のところに来いと。
「私、一足先に上がるね」
サリエルはお風呂から出た。
そして……
「こ、これは……本当にヒビが入っているな。体に不調は無いか?」
「別に無いけど……どうしたの?」
「い、いや無いなら良いんだ」
アレクシオスはサリエルの首から慎重に首飾りを外すと……
別の首飾りを首に掛けた。
「取り敢えず、予備を渡しておく。こいつは……ニコラスに修理させよう」
アレクシオスはそう言ってヒビの入った首飾りをポケットにしまった。
サリエルはアレクシオスに問いかける。
「あのさ、それって……何なの?」
「……今は言えない。そうだな、夏休みの前日に……一緒に話すからそれまで我慢していてくれ。ただ……一つ言えることは、これはお前の身を守るためのものだ。良いな?」
「うん……分かった!」
「―の件ですが……」
『手筈通りに行動を起こしたまえ』
「……はい、分かっています」
『すべては我らの同胞のために』
「分かっています。必ずや成し遂げます」
『期待しているよ……我が盟友の……娘よ』
「はい……侯爵様。この血に誓って」




