第24話 娘と愉快な仲間たち、校則を破ってみる
ハリーポッター的なアレよ
月日は流れ、七月になった。
サリエルたちにとってはそろそろ待ちに待った夏休みであり……そして最後の関門。
期末試験が近づいていた。
「さて、問題です。強い力を出した女神族、魔神族、魔女の体に現れる特徴は?」
「それぞれ聖紋、魔紋、霊紋。というかサリエル。それは安直すぎるでしょ。さすがの私でも答えられるよ」
「意外、答えられないと思ってた」
「シャルロット!!」
サリエルとカリーヌとシャルロットは問題の出し合いっこをしていた。
ちなみにサリエルが一番正答率が高く、一番低いのはカリーヌである。
「……じゃあ、私がシャルロットに問題を出すね。宝具、神具との契約に必要な儀式は?」
「血を吸わせ、宝具や神具に契約を求める。あとは宝具、神具が受け入れれば契約が成立する。他の人が契約した宝具、神具とはその契約が切れるまで、契約はできない」
「良くできました!」
「基礎中の基礎」
次はシャルロットがサリエルに問題を出す番だ。
「じゃあ……魔王七選侯の名前を全員言って。爵位付きで。ああ……一番最近のね」
「えっと……まず『憤怒』のフリードリヒ・フォン・リウドルフィング大公、『色欲』のカミラ・フォン・ハルプスブルク公爵、『傲慢』のルイス・フォン・ヒデルンブルク侯爵、『暴食』のアイクスツォレルン辺境伯、『怠惰』のカール・フォン・ベルマルク宮中伯、『嫉妬』のジャンヌ方伯、『強欲』のディーテリヒ・フォン・エルザース=ロトリゲン城伯。の七人!」
「さすが。じゃあ……ディーテリヒ・フォン・エルザース・ロトリゲン城伯の領地は女神族の言葉で何て言う?」
「アルザース=ロレヌだよね? というか、シャルロットの出身地じゃん」
「うん」
シャルロット・アルザース。
要するに、アルザース出身のシャルロット。
という意味だ。
平民には苗字は無いので、多くは苗字の代わりに出身地の地名を名乗る。
もっとも、ディーテリヒ・フォン・エルザース=ロトリゲン城伯の場合は正真正銘……彼の家名だが。
アルザースとロレヌは女神界と魔神界の境界にあるので……双方の係争地となっている。
現在は女神族側の土地となっているが。
「じゃあ、次は私がカリーヌに問題を出すね。……魔神族五大種族の特徴をそれぞれ答えよ!
」
「え、えっと……不死族は……六つの心臓があり、魔力が尽きない限り無限に再生する不死性を持っている。吸魂族は……魔力、理力、霊力、気を問わずエネルギーを吸収する……だったね。あと鬼人族は頭に角を持っていて身体能力が高く……」
カリーヌは何とか五つの種族の特徴を説明した。
「じゃあ、次は私がシャルロットに問題を出すね。えっと……法律では使用を禁じられている理術、魔術が存在します。それを一つ述べなさい」
「……転移術」
シャルロットはあっさりと答えた。
カリーヌは不満顔だ。
「では、問題。各種族は妊娠期間が異なる。そのうち……最長の妊娠期間の種族は?」
「えっと……天翼族が三年間だったね。あとは……確か、不死族も三年間じゃなかったっけ?」
シャルロッテの問題にサリエルが答えた。
シャルロッテは正解と、小さな声で言った。
「そう言えばさ、どうでも良い話なんだけど……」
「何? サリエル」
サリエルはシャルロットとカリーヌに問う。
「転移術を使えば、どんなお城だって簡単に陥落させられるよね? この学園も……どうやって、転移術から守るのかな?」
「えっとそれは……どうやるんだろう?」
カリーヌは首を傾げた。
まさか今まで誰も思いついたことが無い……などということはあるまい。
「……反転移術結界が存在するから」
「反転移術結界?」
「そう。……外からの転移術を阻む強力な結界。というか、そもそも転移術って入口と出口の双方に術者が必要だから……それを使える段階で、もう城は陥落しているも同然になる。無意味」
「「なるほど!」」
シャルロットの解答にサリエルとカリーヌは納得の表情を浮かべる。
ちなみにこれは後期……夏休みが明けたら習う内容だ。
「じゃあさ、この学園にも?」
「……立ち入り禁止区画があるでしょ。多分、その奥」
この学園にはいくつか立ち入り禁止区画がある。
そこに侵入すると問答無用で退学なので、生徒たちは近づかない。
まあ、見張りの騎士が常にいるので入れないのだが。
「……そろそろ夜も遅いし、寝る?」
サリエルは時計を指さした。
もうすでに時刻は十二時を過ぎていて……明日の授業を考えると寝なくてはならない時間だ。
「寝ようか」
「寝よう」
そういうわけで三人は就寝した。
深夜……
「ふう……」
シャルロットは目を覚ました。
まずは上のベッドを確認する。
見ているこちらが幸せになるような、安らかな寝顔を立てたサリエルがいる。
サリエルの顔の前で何度か手を振り、サリエルが起きないことを確認すると……
次は同様に下のベッドを確認してカリーヌが寝入っていることも確認する。
シャルロットは音も立てずに……寮を出た。
「ん……トイレに行こう」
それからしばらくして、サリエルは目を覚ました。
三段目のベッドから床まで移動しようとして……
「シャルロット? ……トイレかな?」
まあ、トイレなら自分も行くし……
サリエルは特に気にせず、トイレに向かった。
そして……
シャルロットがトイレに行ったわけでもなく、門限を破って寮から出たことにサリエルが気が付いたのはそれから五分後のことだった。
「絶対に……絶対にここにあるはず。失敗は許されない。見つけなくては……見つけなくては……」
シャルロットは真夜中の校内を歩く。
ふと、足音を聞き……
物陰に隠れる。
「全く……こんな真夜中に巡回しなければならないとは……教師ってのも面倒だな。はあ……」
それはアレクシオスであった。
眠そうに目を擦っていて……足取りが覚束ないのは寝る前に酒を飲んだからだろう。
アレクシオスの酒好きはそこそこ有名だ。
シャルロットの心臓が高鳴る。
(落ち着け、私の心臓。今、ここで見つかれば……全てが終わる)
幸い、アレクシオスはシャルロットに気が付くことなく通り過ぎていった。
シャルロットは安堵の溜息を漏らした。
「進もう」
シャルロットは目的に向かって歩き始める。
もうすでに探せる場所は探した。
あと一つは……あそこしかない。
シャルロットが辿り着いたのは……
学園長室であった。
「大事なものは……手放さないはず」
シャルロットは学園長室に入ろうとして……
そこで肩を掴まれた。
「っつ!!!!!」
その人物は……
「シャルロット、何してるの?」
「戻ろうよ。……退学にはならないにしても、罰則は免れないよ」
サリエルとカリーヌがいた。
シャルロットの跳ね上がった心臓が元の鼓動を取り戻していく。
「……冒険?」
「シャルロットもそういうことするんだね」
サリエルが意外そうに目を丸くした。
クールなシャルロットがそんな子供っぽいことをするとは……人には意外な一面があるものだと、サリエルは思った。
「とにかく、帰ろうよ。……さすがに学園長室は不味いでしょ」
「いや、私には用事があって……すぐに帰るから」
カリーヌは強引にシャルロットを捕まえ、寮に連れて帰ろうとする。
それに対し、シャルロットが抵抗する。
そして言い合いをしていると……
「誰かいるんですか!!!」
サリエル、カリーヌ、そしてシャルロットは顔を見合わせた。
その声は……シオンの声だった。
三人は慌てて学園長室に逃げ込んだ。
「ふふ……門限を破って肝試ししている悪い子はどこですかぁ~ふふ、捕まえて娼館に売り払ってしまいますよぉー」
シオンの声と足音が近づいてくる。
「ど、どうしよう!」
「娼館に売られちゃう!!」
「……さすがに冗談だと思うけど」
とはいえ、罰則は御免だ。
シャルロットは周囲を見回し、隠れられそうな場所を探す。
取り敢えず、シャルロットはマリベルが普段座っている机と椅子の隙間に潜り込んだ。
「わ、私も!!」
サリエルもシャルロットの後を追い、そこに潜り込む。
「ま、待って!!」
カリーヌもそこに潜り込……
めない!!
「カ、カリーヌ! 定員オーバー!」
「ご、ごめんなさい……その……大人しく、シオン先生に捕まって……」
「そ、そんな!! 薄情者!! 私たち友達でしょ!!」
「入らないモノは入らない」
「じゃ、じゃあみんなで捕まる?」
「私は嫌だ!」
「というか、元を正せばシャルロットが悪いじゃん!!」
ここへきて三人は仲間割れを始める。
扉の向こうでは……
「さてさて、悪い子はどこかなぁ? ふふ、学園長室かな? ダメですよぉ……そこは。マリベル様も激おこぷんぷんしちゃいますよぉ。悪い子は奴隷として売っちゃいますよぉ」
ガチャリ。
ドアノブが回り……
「どこにいるのかな?」
シオンがドアを開けた。
辺りを見回すが……どこにもいない。
「おかしいですね?」
ランプで辺りを照らし、門限破りの悪い子を探すが……
見つからない。
「あ、もしかして……ここかな!」
シオンは机の裏側を除いた。
そこには……
「いない? ……勘違いだった? やだ、恥ずかしい……誰も聞いてないよね?」
シオンは自分の勘違いを恥じ、顔を赤く染めた。
「というか、私も深夜の学園長室への立ち入りは禁止されてたっけ……ヤバイ、アレクシオス様に見つかったら私が娼館に!! 退散、退散!!」
シオンは去っていった。
さて……
机の裏側の床にあった隠し扉から何とか逃げた三人はというと……
「危なかった」
「間一髪!」
「やはり私の見立ては間違って無かった……」
三人は一息ついた。
そして……カリーヌが提案する。
「シオン先生がどこかに行くまで時間が掛かるだろうし……探検でもしちゃう?」
「えぇ……帰ろうよぉ……シャルロットも、ほら……懲りたでしょ?」
「私は良いよ」
サリエルの提案にカリーヌは反対するが……
シャルロットの賛成で奥へと進むことになった。
「それにしても……結構広いね。この隠し部屋……というか、廊下?」
「か、帰ろうよぉ……サリエル、シャルロット~」
「あと少し、あと少し……」
隠し扉の先は長い廊下になっていて……
二人はランプの灯りを頼りに暗闇の中を進む。
そして……
突然、三人の目に光が飛び込んできた。
それは……
とても幻想的な風景だった。
壁一面には光り輝く複雑な模様……無数の命令式が描かれている。
ぱっと見るだけで、それが途方もない数……最低でも十万百万以上の命令式によって構築された理術が部屋全体に掛けられていることが分かった。
そして中央には巨大な水晶のようなモノが安置されていて……
その水晶にも幾何学模様が描かれていた。
よく見ると、水晶の中に何かが埋まっているようだ。
三人の目には凄すぎて、全く理解できない。
そんな代物だ。
「こ、これは……」
「す、すごい……」
「つ、ついに……見つけた。私たちの……宝、こ、これで……」
サリエル、カリーヌ、シャルロットは感嘆の声を上げる。
思わずカリーヌは部屋に入ろうとして……
「待って!」
シャルロットに止められた。
「な、何?」
「……こんな風に隠している、ということを考えるとやはり非常に大切なモノのはず。きっと……侵入者排除用の結界があるはず。下手に足を踏み入れれば……命の保障はないかもしれない」
「ひぇ! そ、それを先に言ってよ!!」
カリーヌは慌てて後ずさった。
「あのさ、みんな……これ、実は見つけちゃいけない奴だったんじゃない?」
サリエルの言葉に……
二人は目を逸らした。
「えっと……今日のこれは三人の秘密ということで、誰にも言っちゃダメだよ!」
「わ、分かってる!」
「うん、分かった」
こうして三人はその場を後にする。
先を歩くサリエル、カリーヌの背を見ながら……シャルロットは呟いた。
「……ごめん」




