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第22話 娘、哲学的な問いに挑んでみる

 「アニエル!! 好きだ! 愛している!! 俺と結婚してくれ!!」


 黒髪黒目の男性が銀髪銀目の女性に告白する。

 サリエルの目から見ても男性は中々の美形で……そして女性はとても美しかった。


 女性は数瞬迷い、悲しそうな表情を浮かべて……口をゆっくりと開く。

 それだけで……男性は女性の返事を予想することができてしまった。


 「ごめんなさい、アレクシオス。私は……あなたの告白を受け入れられない」

 「……そうか」


 沈黙が辺りを支配する。

 二人とも泣きそうな表情を浮かべている。


 もっとも男性が泣きそうなのは自分の気持ちを女性に受け入れて貰えなかったからで、女性が泣きそうなのは男性との今までの関係が崩れてしまうことを憂いているからなのだが。


 「……理由を聞いても良いか? その、俺はお前と仲良くやってきたつもりだし……お前からの印象も決して悪いとは……思っていないんだが……も、もし直してほしいところがあるならば、直す! な、なんだってする!!」


 男性は鬼気迫る表情で女性に縋りつくように聞いた。

 女性はしばらく無言を貫いたが……慎重に選ぶように言葉を紡ぐ。


 「アレクシオス。私は……あなたのことが決して嫌いではありません。むしろ好きですし……愛している……と思います。ただ……それは男性としてではなく、友人として、仲間です。いえ、決してあなたに男性としての魅力がないわけではないんです。私の目から見てもあなたは……あなたたち(・・・・・)は十分に魅力的な……男性だと思います。もしあなたと私が結婚すれば……ええ、あなたはきっと私を幸せにしてくれるでしょう。それは分かります。あなたには決して……非はないんです」

 「じゃ、じゃあどうして……」


 自分の思いを受け入れてくれないのか!!

 男性は女性に迫る。


 女性は目を伏せるが……しかしそれは男性に対して失礼だと思ったのか、顔を上げて男性の目をしっかりと見つめて答える。


 「分からないんです。恋とか、愛とか……それは友情と何が違うんですか? 性欲があるか、ないかですか? もちろん、私だって性欲はあります。誰かに抱かれたいと思ったことが無いなどと嘘は言いませんし……もしあなたが私を抱いてくれれば、私は、その……気持ち良い気分になるかもしれない。でも……それが恋なんですか? これは愛なんですか? 恋人って何ですか? 結婚って何ですか? 夫婦って……何ですか?」


 女性は迷いを振り切るように答える。


 「……あなたの気持ちを受け入れるのは私にとって簡単な選択肢です。でも……何も分からないのにあなたの、あなたたちの気持ちを受け入れるのは……あなたたちにとっても失礼だと、私は思います。だから……今は受け入れられない」


 女性の返答を聞き、男性は……

 納得はしていないが、理解はしたのか言葉を振り絞った。


 「……分かった。お前の気持ちはよく分かった。その……今回のことは忘れて……」

 「ま、待って!!」


 女性は男性の言葉を遮った。


 「こ、この戦争が終わるまで……考える。だから、もし良かったら、待っててくれない……かな? ご、ごめんなさい。……い、今結論を出すべきだということは分かってる。私が……不誠実な、我儘な要求をしていることは分かってる。も、もちろん……そんな女なんて嫌だって言うなら断ってくれても構わない。……お願い、時間を頂戴。その時、正式に……受けるか、受けないか答えを出させてほしい。こ、後悔はしたくないの……」


 男性は女性の言葉を聞き……

 笑みを浮かべた。


 「お前の我儘なんて、今に始まったことじゃないだろ。分かった、待ってやるよ。言っておくけどな、俺はこの世界で最高の男だぞ? 逃がしたら後悔するぜ!」

 「ば、ばか……調子に乗って……」


 男性と女性は泣きながら笑い合った。












 「私、何で泣いてるんだろう……」

 サリエルは零れ落ちる涙を拭う。

 それでも涙は止まらない。


 胸の鼓動が早く、そして息苦しい。

 

 体全体が怠くて、妙に咳が出る。

 頭が痛い……

 

 「くちゅん!」


 サリエルはくしゃみをした。

 そして気付く。


 「……風邪かな?」


 この日、サリエルは風邪を引いた。







 「ケホ、ケホ……」

 「風邪ですな」


 サリエルを診断した医師の言葉に、付き添いで来ていたカリーヌとシャルロットは安堵の表情を浮かべた。

 熱は高いが……ただの風邪というのであれば死に至る可能性は小さい。


 「薬を処方しましょう……うん?」


 医師は薬棚からいくつか薬を取り出すが……

 すぐに困ったように頭を掻きながら戻って来た。


 「すみません、今少し切らしているようです」


 そう言って医師は紙に何かを書きこんでサリエルに手渡した。


 「確か……この時間、ニコラス先生は実験室にいらっしゃいます。この紙をニコラス先生に渡してきてください。彼ならばすぐに薬を調合できるでしょう。……ついでに三十人分、追加でお願いしておいて貰えますか? 体調が優れないのであれば私が生きますが……」

 「いえ……すぐ飲んで寝たいですし、私が行きます」


 サリエルはそう言って立ち上がった。

 というのも、自分の後ろに順番待ちの生徒が何人かいたからだ。

 

 どちらにせよ薬を飲まなくてはいけないのだから、自分が行った方が良いと判断したのだ。


 「サリエル、私たちが行こうか?」

 「休んだ方が……」

 「ううん、大丈夫。というか、二人ともそろそろ授業でしょ? 私に気にせず言ってきて。……ノート、よろしくね」


 サリエルがそう言うと、カリーヌとシャルロットは顔を見合わせた。

 二人は心配そうな表情を浮かべたが……しかし授業があるのは事実。


 「分かった、ちゃんと取っておくね」

 「……今日は寝ない」


 二人はサリエルと別れて、急いで授業に向かった。

 さて、サリエルは一人でニコラスの実験室に向かう。


 「失礼します」

 「入りたまえ」


 ニコラスは実験室に入って来たサリエルに対し……

 ギョッとした表情を浮かべた。


 「……爆発させるなよ?」

 「……しませんよ」


 あまり元気がなさそうなサリエルの態度にニコラスは首を傾げた。

 そしてサリエルの顔が赤いことに気付く。


 「大丈夫かね? 顔が赤いが……」

 「風邪を引きました」

 

 そう言ってサリエルはニコラスに医師が書いた紙を見せた。

 すぐにニコラスは成るほどと納得の表情を浮かべる。


 「少し待ちたまえ……そうだ、折角来てもらったのだ。君には特別に……」


 などと言いながら、ニコラスは自分の戸棚からいくつか薬草や薬品を取り出す。

 そして鍋を取り出し、炎を発生させる理術具を使って水を加熱させる。


 「まあ聞かなくても良いが……一応、説明しながら作ってやろう」


 そう言ってニコラスはサリエルの前で説明しながら薬品を作りだした。

 サリエルたち生徒が作るよりも遥かに手際よく、そして分かりやすい説明を交えながら薬を調合する。


 「先生って、教えるの上手ですね。……くちゅん」

 「大丈夫かね?」


 ニコラスはサリエルに少し火を見ているように言うと……

 実験室の奥に消えて……すぐに毛布を手に持って現れた。


 優しくサリエルの肩に掛けてやる。


 「先生って、いつもは厳しいけど優しいんですね。……くちゅん」

 「無理にしゃべらんで良いぞ。うつされたらたまらない」


 そんなことを言いながら、ニコラスは砂糖と蜂蜜を取り出した。

 サリエルは首を傾げる。


 「先生、それは……爆発するんじゃないんですか?」

 「普通ならな。まあ、見ていなさい」


 ニコラスはゆっくりと蜂蜜と砂糖を少しづつ加えていく。

 慎重に量を調節し、タイミングを計っているところを見ると……少しのミスで大惨事につながるような難しい調合のようであった。


 サリエルは黙ってニコラスの調合を見守る。


 そして五分ほど煮込み……

 それをおたまですくって、コップに入れた。


 それをサリエルの前に出した。


 「熱いからゆっくりと飲みなさい」


 サリエルは言われるままにゆっくりと薬を飲む。 

 それはとても暖かく、仄かに甘くて……ホッとする味だった。


 「薬なのに美味しいですね」

 「それはアニエルが開発したのだ」

 「……お母さんが?」

 

 サリエルが首を傾げると、ニコラスは頷いた。


 「お前の母親はいつもふざけたことをして失敗するが……たまに大成功を収める。普通の風邪薬は死ぬほど苦いが……あいつはそれを甘くすることに成功した。理術薬に余計なモノを入れると、効果が失われたり、それこそ爆発したりするのだがな。もっとも……量の調節、入れるタイミングが難しいから、一般化されていないし……吾輩も面倒だから、普段は普通の薬を調合する。今回は……特別だ」


 どうやらアニエルの娘ということで……

 サリエルには特別に母親の開発した薬を飲ませてくれたようであった。


 サリエルは不器用なこの父と母の友人、そして己の教師に感謝の念を抱いた。

 そして……

 ふと母親のことが気になり、尋ねてみる。


 「先生……お母さんって、どんな人だったんですか?」

 「美しく、優しい女性だったよ。まあ、その分破天荒だったからプラスマイナスゼロだが……しかし捕虜にされた魔神族にも慕われるほど、人格的に優れた人物だった」

 「魔神族に?」

 「ああ……あいつは魔神族と女神族の融和とやらを唱えていた……お花畑だったな。とはいえ、君の母親は素晴らしい人物だ。あのシオン・フェルディーナがマリベル様以外に最初に心を開いたのも、アニエルだけだった」


 と、そこでニコラスは余計なことを口走ってしまったと少し後悔した。

 しかし幸いなことにサリエルはシオンについては尋ねることはなく……


 「……先生とお父さんって、恋敵だったって本当ですか?」

 「どこで聞いたのかね?」

 「放課後、マリベル先生との授業で……教えてくれました」


 ニコラスは小声で「あのクソババア……」と呟き……

 

 「ああ、そうだ。あいつと私は……アニエルを取り合った仲だ。まあ……結果はお察しだがな」

 「それでも先生は私に良くしてくれるんですね」 

 「ふん! まあ……君が誰の子供であろうとも》、吾輩が愛した女の娘であることは……変わらんからな」


 そしてニコラスは……

 サリエルに言い聞かせるように言った。


 「君の父親が誰であれ、君の母親が吾輩の愛した女性……アニエルであることは変わりない。そして君が吾輩の大切な生徒、教え子である、サリエルであることも変わりない。吾輩は君を愛している。何があってもだ。例え世界が敵に周ろうとも……君が何者であろうとも、吾輩とアレクシオスだけは君の絶対的な味方だ。それだけは覚えておきたまえ」


 ニコラスの言葉にサリエルは……

 顔を真っ赤にさせた。


 そこでニコラスは自分がかなり不味いことを言ったことに気が付く。


 「い、言っておくが愛しているというのは女としてではないからな! 生徒として、人間としてでの話であって……」

 「分かっています」

 「本当に? 絶対にマリベル様にだけは言うなよ?」

 「じゃあ……もう一つ、聞いても良いですか?」

 「病人なんだから、いい加減寝た方が……」

 「マリベル様にニコラス先生にセクハラされたって、言いますよ?」


 サリエルがそう言うと、ニコラスは不満そうに腕を組んだ。

 どうやら話を聞いてくれるようなので……サリエルは最近思うところを尋ねる。


 「愛って……何ですかね?」

 「急にどうしたのかね?」

 「最近告白される……いや、誰かが告白してる? 夢を見るんですけど……それで、愛って、恋って何なのかな……と思いまして」

 「……あの親にして、この子か」


 ニコラスは告白した時に、アニエルに言われた言葉を思い出した。

 アニエルからも愛とは、恋とは何ぞやと問われたのだ。

 聞くところによるとアレクシオスも聞かれたとか。


 「ふむ……まあ、未婚の吾輩の説明が正しいか分からんが……愛とは……『愛する』ものであって、『愛される』ものではないということだ。愛は見返りを求めない。見返りを求めた段階でそれは愛ではないだろう。見返りを求めるのが、恋や友情だ」

 「見返り、ですか? お金とか、そういう?」

 「いや、違うのだよ。恋は……相手のことが好きだし、相手にも自分を好きでいて欲しいと願うことだ。友情も相互の理解が無ければ成立しない。だが……愛は、愛し合う必要がない。愛というのは常に一方通行であり……そして、自分が愛されることは望まない。まあ、そういうことだな。つまり吾輩はアニエルに愛されていたかどうか分からぬし、されていようがされなかろうが、愛していた。そして君の事も……無論、人間としてだが愛している。君が吾輩を愛していなくてもな」


 そう言った後、ニコラスは少し照れ臭そうに頬を掻いた。


 「ま、まあ……人によって見解は違うだろうから、吾輩の言葉を信用しなくても良い。そもそも……君に色恋沙汰は早い! 良いかね、悪い男には騙されるな。特に酒と女とギャンブルが趣味の、アレクシオスのような男には!!」

 「は、はい……」


 サリエルは苦笑いを浮かべて……

 立ち上がった。


 あまり長居して、ニコラスに感染させてしまうのは良くない。

 早く寝てしまおう。


 「つまり先生みたいに素敵な男性と結婚すればいい、ということですね?」

 「な、何を急に!!」

 「じゃあ、失礼しました!」


 サリエルは天使のように可愛らしい笑みを浮かべ、一礼してからニコラスの元を去った。

 残されたニコラスは……


 「あれはアニエルではない!あれはアニエルではない!!あれはアニエルではない!!!あれはアニエルではない!!!!あれはアニエルではない!!!!! 断じてアニエルではない、KOOLになるのだ吾輩!!!!!!!!!」


 何度も机に頭をぶつけたという。



 


 


 「それで……こんな時間に私に何のようだ? ジャン君」

 「先生に……お願いがありまして」


 放課後、ジャンはアレクシオスのところを訪れた。

 ジャンはアレクシオスに対して深く頭を下げて言う。


 「どうか、僕を鍛えてくれませんか!」

 「……どういうことだ?」 

 「課外授業の時……アレクシオス先生がいなければ、サリエルは死んでいました。僕は彼女を守れなかった。だから、だから力が欲しいんです!! 愛する彼女(・・・・・ )を守れる力が!!」


 ジャンの言葉にアレクシオスは目を見開いた。

 そして穏やかな笑みを浮かべる。


 「それほどまでにサリエルのことを思ってくれているとは……嬉しいよ。分かった」

 「本当ですか!!」

 「但し、条件がある」


 アレクシオスは厳しい表情でジャンに問う。

 

 「君は……サリエルのためなら死ねるか?」

 「はい!」


 ジャンははっきりとした、迷いのない声で答える。

 アレクシオスは満足そうに頷いた。


 「なるほど……そもそもサリエルを庇ってくれた君に言うまでもないことだったな。ではもう一つ……君はサリエルを愛しているかね?」

 「はい、愛しています」


 ジャンが答えると、アレクシオスは真剣な顔で問う。


 「では、サリエルが君の事を愛していなくても?」

 「え!?」

 「サリエルが君以外の男を愛していても? サリエルが君を嫌い……酷い言葉を投げかけても? サリエルに騙されても? 君がサリエルのために死んでも……サリエルが君のことを気にも留めず、それどころかその死を愚弄するような言動をしても? それでも君はサリエルを愛すると、愛し続けると誓えるか?」


 アレクシオスの言葉に……

 ジャンは答えなかった。


 アレクシオスは溜息をつく。


 「答えられないようだね」

 「サ、サリエルはそんな子じゃ……」

 「そういう問題じゃないんだよ」


 アレクシオスはジャンの言葉を遮る。


 「私はね……サリエル()愛する男ではなく、サリエル()愛する男と……サリエルには結ばれてほしい。それこそ俺やニコラスのような……いや、俺たちは年齢的にも社会的にもいろいろアウトだから例外だが……そう、俺たちが死んだ後もサリエルを愛し、守ってくれるような人を求めている。そういう男性と結婚した方がサリエルも幸せになれるだろうしね」


 アレクシオスはジャンを見つめた。


 「だから私は……もし君がサリエルを愛しているというのであれば、君を全力で応援するつもりだ。サリエルを説得してやっても良い。だが……君のはね、愛じゃないんだよ。それは恋だ。君はサリエルに見返りを求めている。私はサリエルが恋する男は無論、サリエルに恋する男とも……結婚は許さない。恋はすぐに冷めるし、やがて裏切られるものだ。サリエルを不幸にさせるわけにはいかない」


 アレクシオスは静かに言う。


 「だから俺は君を鍛えることはできない」


 アレクシオスの言葉に……ジャンは何も言い返せなかった。

 沈黙が辺りを支配する。


 「では……僕がサリエルを愛するようになったら……認めてくれますか?」

 「その時は無論、歓迎するよ。ただ……君には君の人生がある。私は君にサリエルを無理に愛せと、サリエルにその人生を捧げろなどとは言えない。一人の女性に人生を捧げることが如何に大変かはこの身をもって知っている。だが……時間はいくらでもある。考えがまとまったら、いつでも来ると良い」

 「はい、分かりました。先生……」


 ジャンは一礼して、アレクシオスに背を向けて去った。

 そんな後ろ姿をアレクシオスは見つめ続ける。


 「ジャン君……愛するってのはね……君が思っているほど、簡単じゃないんだよ」


 

 

 


 「マリベル様、何の本を読んでいるんですか?」

 「ああ、これ?」


 シオンに声を掛けられ……

 マリベルは本にしおりを挟み、閉じた。


 「まあ分かりやすく説明すると……愛する幼馴染をポッと出のチャラ男に寝取られ、見捨てられた不幸な男が、そのチャラ男と自分を裏切った幼馴染に復讐する話よ」

 「へぇ……マリベル様、そんな大衆小説をお読みになるんですか?」

 「私は何でも読むわよ。特に……学園恋愛系は好きよ。青春って、良いわよね。やっぱり人って自分に無い、無かったモノを物語に求めると思わない?」

 「分かります! 私も純愛小説とか、白馬の王子様がお姫様を助けてくれるようなお話は大好きですよ!!」


 マリベルとシオンは意気投合する。

 二人は割と趣味が似ているのだ。


 やっぱり物語はハッピーエンド、ご都合主義が良い。

 バッドエンド? くそくらえ。

 バッドエンド好きとか、わけ分からない。どんな甘い人生送ってるんだよ。物語だけは不幸でいたいのか? 頭おかしいんじゃないの?

 せめて物語の中だけはハッピーにさせろや!

 純愛物だと騙して、グドグドの泥沼小説読ませる作者は火炙りの刑だ!

 ヒロインを序盤でレイプさせたり、ヒロインにレイプ経験アリとかいうわけ分からない属性を付ける作者は梅毒と麻薬中毒で内臓腐らせて死ねばいい。


 などとマリベルとシオンは二人だけで盛り上がる。

 

 「ねえ、シオン」

 「何ですか? マリベル様?」

 「勇者と賢者は……愛は見返りを求めないもの、って言うじゃない?」


 マリベルの言葉にシオンは頷いた。

 二人がそういう哲学を持っていて、それを実践していることはシオンも知っている。


 「だとするならば、この小説は根本から間違っているわね。この男は……幼馴染を愛してなんかいないの。恋してただけ。だから……復讐しようとする。もしこの男が勇者や賢者で、幼馴染がアニエルやサリエルだったら……二人は復讐しようなんて思わないわね。まあ、アニエルやサリエルをチャラ男が不幸にさせようとしたら、チャラ男をぶっ殺しに行くでしょうけど」


 少なくとも二人の哲学に当てはめれば……

 この小説のテーマは愛ではなく、恋なのだ。

 と、マリベルは語る。


 「そうですかね? 私は……愛するが故に憎いというの、分かりますよ」

 「そうなの?」

 「ええ、私はアニエル様を敬愛していました。ですが……同時に憎かった。私は誰にも愛されなかったのに、愛して貰えなかったのに……アニエル様だけはあれほど愛して貰っている。無論、私はアニエル様に愛して貰えなくても、アニエル様を愛しましたよ。でも……だからこそ憎く思っています。サリエル様も同様です。私はあの母娘(おやこ)を愛しています。そして憎悪しています」

 「なるほどね……そういう考えもあるのね」


 シオンの言葉にマリベルは納得の色を浮かべる。

 愛と憎しみは紙一重……とはよく言ったものだ。

 

 「私は愛する人を憎まずにはいられないんです。ですからマリベル様のことも憎いですよ」

 「ふふ、そう……私は別にあなたのことは憎くないけどね。愛しているけど。まあ……あなたが私を憎いと思っても、愛していなくても、私はあなたを愛するわよ」

 「やだ、マリベル様。それ、プロポーズですか?」

 「……あくまで人間として、のことよ」

 「ふふ……分かっていますよ、マリベル様」


 二人は笑い合った。


アニエル「ギャンブル酒好きのアレクと若禿のニコラスか、うーん……まだ若禿の方がマシ? いや、でもギャンブル酒好きは治るけど禿は悪化する一方だからなあ……」

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