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第21話 勇者、久しぶりに抜いてみる


 「生きてるか、ジャン!!」

 「い、生きています……」

 「そうか……少し待ってろ。ハゲの作った薬もあるし……一応、俺も治癒理術くらいは使える。それまで死ぬな!! それと……よくやった、ジャン!!」

 「け、結婚を認めてくれますか?」

 「それとこれとは話が違う」


 さて、冗談を言える程度には元気なことを確認するとアレクシオスは王竜に向き直る。

 先程、思いっきり殴ったせいで拳が痛い。

 

 「さすが、王竜だな。とんでもない硬さだ」


 ……普通は拳で殴ったら痛いで済まないのだが、そこはさすが勇者様と言うべきか。


 王竜はゆっくりと立ち上がった。

 その目には燃えるような怒りが宿っている。


 アレクシオスが殴った首の付け根辺りは大きく凹み、割れた鱗が突き刺さったのか……血が溢れている。

 

 王者にとっては、初めての傷だ。

 王竜は己に傷を付けた相手を……死ぬまで許さない。


 「疲れるし、年だからあまり使いたくないんだがな……神具『救世の神剣』!!」


 アレクシオスの手に錆びた剣が現れる。

 同時に右の頬から額にかけて聖紋―強力な力を持つ女神族がその実力を出した時に現れる白く輝く紋章―が現れる。

 アレクシオスは鞘から刃を出すことはせず……そのまま王竜に殴りかかった。


 「とりゃああ!!」

 「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」


 アレクシオスの剣と王竜が振り下ろした爪が激突する。

 敗れたのは……


 王竜の爪の方だ。


 爪が吹き飛び、王竜の前足から鮮血が吹き上がる。

 さすがの王竜も後退った。


 アレクシオスはそのチャンスを逃さず、王竜の腹を剣で斬りかかる。

 ガツン! と音を立てて、王竜は後ろに吹き飛ばされる。


 が……しかし、後ろ足に力を入れて踏み止まった。

 王者である王竜が二度も人間如きに吹き飛ばされるわけにはいかない。


 そういう王竜の意地を感じることができた。


 「おかしいな……鞘を外さなくても王竜程度は斬り殺せたはずだが。今ので真っ二つに斬ったつもりなんだけどな……」


 アレクシオスは溜息をついた。

 同時に全身の怠さを感じる。


 やはり全盛期に比べれば体力は落ちている。


 「仕方がない……抜くか」


 アレクシオスは鞘を引き抜いた。

 すると……やはりそこから錆びた刃が出てくる。

 さらに聖紋が光を強めた。


 一見すると、何も変わらない。

 しかし……


 戦いを見守っていたサリエルとジャンには分かった。


 (す、すごい威圧感……)

 (じ、次元が違う……)


 「……確実に体力が落ちてるな。年を取るってのは嫌だ」


 アレクシオスは肩を少し回してから……

 一歩踏み出した。



 そして……






 音もなく、王竜の首が落ちた。

 





 「おい、ジャン! 薬は飲めるか!!」


 アレクシオスは理術薬をジャンの口元に持って行く。

 しかしジャンは薬を飲むことができない。

 もう意識もないようで……青い顔でぐったりとしている。


 「そ、そんな……先輩!! 死なないで……」


 サリエルが涙目でジャンの名前を呼ぶ。


 アレクシオスは溜息を付き……

 覚悟を決めた。


 「やむを得ない。最後の手段だ」


 アレクシオスは薬を自分の口に含み……

 ジャンの唇と自分の唇をぴったりと合わせた。


 「「「(……!!)」」」


 サリエルとカリーヌとシャルロットは目を丸くした。


 アレクシオスは口に含んだ薬をジャンの口に移し……

 強引に飲み込ませた。


 「ぷはぁー、男とキスしたなんて……ニコラスに薬飲ませて以来だな! 後で濯がないと……さて、その前に……」


 アレクシオスはバックから大きな宝石を取り出した。

 

 「それは!!」

 「精霊石だ。こいつは最大三万式の命令式を組み込める。まあ、一度しか使えないけどな」


 アレクシオスはそう言って精霊石をジャンの傷口の上に持って行き……

 そこで破壊した。

 

 キラキラと壊れた石の破片が太陽の光を反射して輝く。

 同時に治癒理術が発動してジャンの傷をあっという間に治していく。


 「う、う……い、生きてる?」

 「先輩!! 良かった!! し、死んじゃうかと思った!!」


 サリエルは泣きながらジャンに抱き付いた。

 ジャンはサリエルの大きな胸のやわらかいマシュマロのような感触を感じた。


 (む、胸が……す、すごい……あ、ヤバイ! アレクシオス先生睨んでる!!)

 

 ジャンは鼻を伸ばしたが、アレクシオスがとんでもない形相でこちらを睨んでいることに気が付いて、表情を正した。


 「元気そうで何よりだ。立てるか?」

 「は、はい」


 ジャンはゆっくりと立ち上がった。

 くらっと、よろけてしまうが……それはサリエルが支えてくれた。


 「課外授業をこのまま続けるわけにはいかない。一先ず、緊急用に用意した竜車(馬車の竜版)があるからお前はそれで帰れ。サリエルたちは俺が送り届ける」

 「は、はい……す、すみません……」 

 「バカ! 謝るんじゃない!! サリエルを身を挺して守ってくれたんだろ? もっと胸を張れ。……ありがとう、ジャン」

 「は、はい!!」


 アレクシオスに礼を言われ、ジャンは顔を輝かせた。

 そして……己の唇に振れる。


 記憶は朧気だが……サリエルが自分を呼ぶ声と、柔らかい唇の感触だけははっきりと頭に残っていた。

 自分の傷は少なくとも理術薬を使わなければ、治癒は難しいほど深かったはず。

 

 もしかして……


 (サリエルが僕に口移しを!!)


 だとしたら己はサリエルのファーストキスを奪ってしまったことになるのでは?

 ジャンは苦悩する。

 こうなったら……強くなってアレクシオスに認められて、責任を取ろう!!


 ジャンは堅く決意した。



 ……まあ、真実は伏せておいてあげよう。

 知らぬが花だ。


 ついでに言っておくと、サリエルのファーストキスの相手はアニエルだったりする。

 





 さて……王竜は無性生殖ではないので、当然二匹の雌雄で子を産む。

 つまりもう一匹存在するはずで……


 「ふーん、トカゲの分際でうちの生徒に手を出そうなんて良い度胸しているじゃない。わざわざこの森を繁殖地に選ぶなんて、実に腹立たしいわ」


 それはマリベルと対峙していた。

 不適に笑うマリベル。


 マリベルの全身から大量の霊力が溢れ出て、同時に額の中央に霊紋―聖紋の魔女版―が現れる。

 この時のマリベルの実力は……鞘から剣を抜く前のアレクシオスを超えていた。

 もっとも、この程度はマリベルの本気ではないのだが。

 

 王竜はマリベルを強敵と認め……

 初めから全力を出した。


 大きく口を開け、空気を吸い……

 すべてを灰にする熱線を放とうとする。


 しかし……


 「苦悩の梨」


 金属の塊が王竜のブレスを封じ込めてしまう。

 本来外に放たれるはずだったブレスは全て逆流し……王竜の内臓を焼いた。


 「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」


 「五月蠅いわね……開け!!」


 カチリ


 苦悩の梨がゆっくりと傘を開くように広がっていく。

 同時に中に仕込まれていた杭が王竜の柔らかい喉に突き刺さる。


 「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」


 王竜はこの苦しみを生み出しているであろう元凶……マリベルに向かって前足を振り下ろす。

 マリベルは小さく呟く。


 「爪剥ぎ」


 王竜の爪が一瞬で剥がれ落ちる。

 あまりの痛みに王竜は絶叫を上げるが……


 マリベルはさらに追い打ちを掛ける。


 「指潰し」


 ぶちぶちと音を立てて、王竜の指が潰れる。

 これは前足だけでなく全ての足で起こっており……王竜は立ち上がることも出来ずに地面に倒れた。


 そして……


 「火炙りの刑」


 王竜の全身を真っ赤な炎が包み込む。

 紅蓮の炎が王竜の真紅の鱗を舐め上げる。


 しかし……


 王竜はあざ笑うかのようにマリベルを見ていた。

 

 強固な王竜の鱗は……

 この程度の炎では燃えたりしないのだ。


 しかし時間が経つにつれて王竜は苦しみ、もがき始める。

 もはや悲鳴を上げることすらできず……王竜は静かに死に耐えた。


 「冥土の土産に教えてあげる。火炙りの刑ではね……受刑者は火傷ではなく、窒息で死ぬのよ」


 『火刑の魔女』マリベルはニヤリと笑った。










 余談



 サリエル「ねえ、お父さん……ニコラスさんとも、その……したことあるの?」

 アレクシオス「まあな。戦場じゃ、よくあるぞ? 人工呼吸とか、基本男同士でやるし……そもそも水の回し飲みとか割とやるし、一回やっちゃえば気にならんよ。医療行為だしな」

 サリエル「へ、へえ……」(男の人同士って、よくキスするんだ……)


 微妙に間違った認識を抱くサリエルであった。



  

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