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第20話 勇者、遅れてやってくる

 「逃げろ!!!」

 

 ジャンはそう言って一目散に背中を向けて走り出した。

 サリエル、カリーヌ、シャルロットもまた走り出す。

 

 「せ、先輩!! この森には危険なモンスターはいないんじゃないんですか!」

 「せ、先輩!! あ、あれってどう見ても危険なモンスターですよね!!」

 「せ、先輩!! あ、あれってもしかして……」


 「僕に聞かないでくれ!! 僕が聞きたいくらいだ!! 何で、何で王竜がこんな森にいるんだよ!!!!」


 「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」


 真紅の鱗を纏った竜が四人を追いかけていた。



 王竜とは、無数の竜種の中で……最強の種と言われている竜だ。

 少なくとも普通の騎士では……サリエルやジャンでは相手にもならないほど恐ろしい相手である。


 その鱗は鋼よりも堅く、如何なる攻撃も受け付けない。

 そして口から吐き出される熱線はありとあらゆる物質を燃やし、灰にしてしまう。

 羽搏けば嵐が起こり、周囲の物を全て吹き飛ばしてしまう。


 あらゆる竜の王者であり、生物ピラミッドの頂点に君臨する覇者。

 それが王竜だ。


 「っく、しつこいな!! いつまで追いかけてくるんだ!!!」


 ジャンは後ろを振り向き、舌打ちをする。

 森という環境のおかげで、王竜は身動きが上手く取れず……辛うじて四人は逃げることが出来ていた。

 しかしいつ体力が切れて、追いつかれてもおかしくない。


 「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」


 「お、お腹が空いてるとか?」

 「私たちは美味しくないって、言えば分かって貰えないかな!! ほら、王竜って頭良いから人間の言葉が通じるって言うし!!」


 サリエルとカリーヌは何とか助かる方法を考えようとする。

 

 「……多分、あれは遊んでる。人間を追いかけ、疲れさせ、弱ったところを弄ぶ。そういうことをする王竜がいるって、本で読んだ」

 「「シャルロット!! 希望を返して!!」」


 サリエルとカリーヌは半泣きでシャルロットに抗議した。

 

 「あ、あの王竜は体が小さい。だから幼体かもしれない!」 

 「シャ、シャルロット! それってつまり?」

 「普通の王竜よりは弱い……まあ私たちより強いけど」

 「意味ないじゃない!!」

 「君たち! 口じゃなくて足を動かしなさい!!」


 ジャンは三人を怒鳴りつける。

 おしゃべりは生きて帰ることが出来てからで良い。


 しかし……

 現実は無常である。


 「う、嘘だろ……」

 「お、お父さん助けて!!」

 「こ、これは夢? きっと夢よね?」

 「現実逃避は良くない」


 ジャン、サリエル、カリーヌ、シャルロットは絶望する。

 二人の前には……高い断崖絶壁の壁が立ちはだかっていたのである。


 巨木が邪魔だったことと、あまりに必死で逃げていたので……気が付かなかったのだ。

 ……いや、もしかしたら王竜がここに追い込んだのかもしれない。


 幼体とはいえ、王竜。

 それだけの知恵はある。


 「こ、こうなったら戦うしかない……」

 「か、勝てるんですか? 先輩?」

 

 サリエルはジャンに聞く。

 ジャンは頷いた。


 「みんなで力を合わせれば……幸い、あれは幼体だ。僕たちでも倒せるかもしれない」


 ジャンはそう言って……

 三人に指示を飛ばした。


 「僕はあいつと戦って、時間を稼ぐ! カリーヌ、君は石や岩を投げて注意を引いてくれ! サリエル、シャルロットは攻撃理術の準備! 式を組むのが上手いシャルロットの補助があれば、サリエルも爆発させずに高威力の攻撃理術を使えるはず!!」


 そう言って、ジャンは王竜の前に躍り出た。

 斬鉄剣クリファノオールを抜き、王竜に斬りかかった。


 カキン! 

 と音を立てて弾かれる。


 (っく……鉄をも切れる宝具ですら、弾かれる……だが……)


 王竜の美しい真紅の鱗には、うっすらと白い線が入っていた。

 そう、傷を付けることはできる。

 成体の王竜ならば剣が折れていてもおかしくない。


 つまり……成体よりも弱いということだ。


 (サリエルなら、出来るかもしれない!!)


 サリエルがとんでもない潜在能力を秘めているのは聞かされている。

 その能力を……恵まれた莫大な理力を生かすことができれば、倒せるかもしれない。

 

 シャルロットのサポートがあれば、いつも以上の実力を出せるはずだ。


 「えい! とりゃ!! はぁ!!」


 カリーヌはジャンを助けるために、手当たり次第モノを王竜に投げつける。

 王竜は鬱陶しそうにし、カリーヌに攻撃しようとするが……

 その前にはジャンが立ちはだかる。


 そして……


 「サリエル、ゆっくりね」

 「うん、分かってる」


 サリエルが命令式を組み、そしてシャルロットがそれを補修し、修正し……直していく。

 完成した理術の命令式の数は……二百!!


 そこに莫大なサリエルの理力を注ぎ込み……


 「ジャン先輩、退いてください!!」

 「分かった!!」


 ジャンが離れたと同時に、解き放つ。


 「「ホーリージャベリン!!」」


 第一級戦術理術に分類される、その理術は高速で回転しながら王竜に向かって真っ直ぐ突き進み……

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」


 王竜の体に深々と突き刺さった。

 絶叫を上げて、血を吹き出しながら倒れる王竜。


 本来ならば、たった二百の命令式で……第一級戦術理術程度では幼体とはいえ、王竜を打ち倒すことはできない。

 しかし……サリエルの莫大な理力がそれを可能にしたのだ。


 いや、シャルロットのサポートによってサリエルが本来の実力を出せた……とも言えるだろう。


 「やったね!! シャルロット!!」

 「う、うん……」


 サリエルはシャルロットとハイタッチを交わすが……

 何故かシャルロットの表情は暗かった。


 「……どうしたの?」

 「ご、ごめん……」


 何故か、シャルロットは謝った。

 サリエルは首を傾げる。


 しかし……


 「ううん、何でもない。やったね、サリエル」

 「うん!!」


 シャルロットは笑顔を浮かべた。

 今のは何だったのだろうと、サリエルは首を傾げたが……取り敢えず今は勝利を喜ぶことにした。


 「先輩! カリーヌ!! やったね!!」

 「ああ!! 本当に君は最高だ!」

 「サリエルのおかげだよ!!」


 四人はお互いの無事を喜び、勝利に酔った。

 ……この時、四人は失念していた。


 幼体がいるということは……

 成体、つまり……親がいるということに。


 そして最初にそれに気が付いたのはジャンだった。


 「サリエル、危ない!!!」


 ジャンはサリエルを突き飛ばした。

 そして……同時に空から真空の刃がサリエルがいたところを……ジャンを切り裂いた。


 鮮血が吹き上がる。


 「先輩!!」


 サリエルが悲鳴を上げ、ジャンに近づこうとするが……

 

 ドスン!!


 音を立てて、そこに……

 王者が舞い降りた。


 それは先程サリエルたちが戦っていたのが、少し大きなトカゲではないかと錯覚してしまうほど大きく、そして圧倒的な威圧感を身に纏っていた。


 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!」


 王者は咆哮を上げた。

 

 サリエルは……

 何も出来ず、尻餅をつき……後退った。


 「か、勝てない……こんなの……」

 「っく、……こ、こうなったら……」


 カリーヌとシャルロットは死を覚悟する。


 サリエルの瞳に涙が浮かんだ。

 

 「お、お父さん……助けて……」


 その時……

 王竜は吹き飛んだ。


 大木を何本も薙ぎ倒しながら、吹き飛んでいく王竜。

 そして現れたのは……


 「全く、素手で殴るとやっぱり王竜の鱗は痛いな……」


 勇者、アレクシオス!!


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