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第18話 娘、男を誑かす

 「ねぇ、父上。どうして……母上は死んだの?」

 「……女神族の奴らだ。全ては……女神族の奴らが悪い」


 大柄で金髪の男性が……

 彼の息子だろうか? 金髪の少年に語る。


 「母上は……助けた時にはボロボロだった。手の施しようがなかった。……どうして、戦闘員でもない母上を、女神族の連中はあそこまで……」

 「女神族が野蛮だからだ。連中は……っく……すまん、私に、私に力が及ばなかったばかりに……」


 金髪の男性は何度も、何度も地面に対して悔しそうに拳を叩きつける。

 拳は叩きつけられるたびに砕け、血が溢れてくるが……しかしすぐに回復する。


 六つの心臓を持つ不死族は、そのすべての心臓が破壊されない限り死ぬことは無く、傷は魔力が持つ限り回復するのだ。


 「私が、私が必ず仇を討つ!! 女神族の連中に……同じ目に合わせてやる!! 絶対に、絶対に許さない!!」

 「父上……」


 金髪の少年は……

 己の父親の手を優しく包んだ。


 「父上、あなたがいくら拳を痛めつけても、母上は戻って来ません。そして……女神族を殺しても、女神族の女共に母上と同じ目に合わせたとしても……母上は戻って来ません。復讐は……復讐はあまりにも不合理です」


 そして少年は笑みを浮かべた。


 「父上、私は母上を殺した女神族ではなく……世界に復讐したい。こんな風に……憎しみの連鎖が生まれるように世界を作った運命や、神様というやつらに。父上、決めました」


 金髪の少年は己の父親に……

 指輪を見せた。


 「そ、それは……まさか、選ばれたのか?」

 「はい、父上。私はこの力で……魔神界を本当の意味で統一する。そして……女神界も征服します。そうすれば……世界の全てが私の手の内にはいれば……魔神界と女神界の区別が無くなれば……戦争は無くなると、そう思いませんか?」

 「ア、アレクサンダー……お、お前はなんという途方もないことを……」








 「……なんか、また変な夢見ちゃった」


 サリエルは目を覚ました。

 なぜか、目から涙が溢れてきた。






 「待ちに待った課外授業だね!! カリーヌ、シャルロット!!」

 「うん、ようやく実戦だ!」

 「別に私は待ってない」


 学園に入学して早二か月の月日が経とうとしていた。

 今日の授業は課外授業……即ち実戦である。


 当たり前な話だが戦場に行くわけではない。

 行き帰り含めて一週間ほど、近郊の森に行ってモンスターを討伐しに行くのだ。


 「モンスターって、何で発生するんだっけ?」

 「特殊な魔力や理力の淀みで、動物が異常変異、または進化して発生する」

 「カリーヌ、それテスト範囲だけど大丈夫?」

 

 カリーヌの問いにシャルロットは答え、サリエルは心配そうな表情を浮かべた。

 カリーヌはそうだっけ? などと快活に笑う。


 「良いじゃん、テスト前に勉強すれば」

 「……三人のうち、一人が留年か」

 「ク、シャルロットちゃん縁起でもないことを言わないでよ……」


 サリエルとしてはせっかくできた友達なのだ。

 できれば三人一緒に進級して、卒業したい。


 「でもさ、思ったけど危険じゃないのかな? 私たちって、まだ子供でしょ?」

 「確かに……サリエルは別として、私やシャルロットは危険があるかも」

 「サリエルは死んでも死なないけどね」

 「な! し、失礼な……私だってか弱い乙女なんだからね!」


 サリエルはあんまりな扱いをするカリーヌとシャルロットに抗議の声を上げる。


 「まあ、取り敢えず集合場所に行ってみれば分かるでしょう。行こう!」

 「うん」

 「ご~!」




 さて、そんなこんなでサリエルたちは集合場所として指定された教練場まで行く。

 もうすでに多くの生徒たちが集まっていた。


 「十二班、十二班はこっちだよ!!」


 隅の方で青年の声が聞こえた。


 「十二班……って、私たちのことだよね?」

 「十二っていうワッペン貰ったし」


 サリエルがシャルロットに問うと、自分の胸に付けられた十二という数字を指さす。

 当然、カリーヌとサリエルの二人の胸にも十二の数字が付けられたワッペンが安全ピンで取り付けられている。


 三人は声のする方に向かう。


 「やあ、サリエル、カリーヌ、シャルロット!」

 

 「「「あなたは!!」」」


 サリエルとカリーヌとシャルロットは青年を見て驚愕の声を上げ……



 「「「誰だっけ?」」」


 ガクリ!

 青年は思わず、転びそうになった。


 引き攣った顔で名乗りを上げる。


 「い、一応この学園の生徒会長……ジャン・ブルガンだ。えっと、知らない?」 

 「そう言えば……」

 「どこかで見たような……」

 「朝礼とかで」


 ジャン・ブルガン。

 この学園の最上級生で、生徒会長、年齢は二十。


 一応、この学園で一番の有名人……だった。


 今一番の有名人は爆発娘こと、サリエルである。

 

 「ま、まあ……君たちは僕のことを知らなくても僕は君たちのことを知っている」


 そう言ってジャンはまずシャルロットを指さす。


 「シャルロット・アルザース。攻撃理術の授業で素晴らしい成績を収めている。あのニコラス先生が褒めていたほどだ。将来、有望な理術師になるだろう」


 ほう……

 と、シャルロットは褒められて少し嬉しそうに耳をピクピク動かした。


 「カリーヌ・ド・ディアノール。武術の授業で素晴らしい成績を収めている。あのアレクシオス先生が手放しで褒めていた」

 「アレクシオス先生に! そ、そんな……」


 カリーヌは顔を赤くして頭を掻いた。

 剣聖とかつて謳われ、そして魔王を打ち倒した大英雄に認められたのだから当然嬉しいに決まっている。


 「サリエル・ド・ヴァロワ。……まあ、言わなくて良いか。うん、爆発娘だね」

 「ちょ、ちょっと私だけ扱い悪くないですか!!」


 サリエルは抗議を声を上げる。

 まあ、ジャンからすれば言うまでもないことを言う必要は無い。


 「一週間、僕が君たちを引率し、守ることになっている。まあ……サリエル君には不必要かもしれないけどね。……まだまだ未熟だが、それなりの実力はあるとマリベル様からお墨付きを得ているよ」

 「マリベル様から!! 凄いですね!!」


 サリエルがキラキラした目でジャンを見つめる。 

 美少女に見つめられ、ジャンは気恥ずかしそうに頭を掻いた。


 「(……それでもサリエルの方が強いんじゃないだろうか?)」

 「(まあサリエルが異常なだけで先輩も十分強いんだろうけど)」


 カリーヌとシャルロットは後ろでコソコソと話し合う。

 実に先輩思いの後輩だ。


 「最近、学園長に宝具を貰ってね。少なくとも宝具を使いこなせる程度の実力だよ」

 「宝具、ですか?」

 「斬鉄剣クリファノオール、っていう宝具なんだけどね」


 そう言ってジャンは腰から下げていた剣を三人に見せた。

 それは……サリエルが受験に向かう時に宿場町で見かけたモノと同じだった。


 「これ、私知ってます!」

 「どういうことだ?」


 サリエルはジャンに斬鉄剣クリファノオールのことを説明する。

 するとジャンは何とも言えない表情を浮かべた。


 「う、うーん……曰く付きだね。ま、まあ……僕は制御出来てるから安心して欲しい。僕は信用出来なくても、学園長先生は信用できるだろう?」

 「いえ、先輩の目は淀んでないですし、綺麗ですから! 大丈夫ですよ」


 サリエルは花が咲くような笑顔を浮かべた。

 ジャンの心の中で何かが落ちる音がした。


 (こ、これはまさか……ああ、何という!! こ、これが……恋!!)


 ジャンの顔が真っ赤に染まる。

 サリエルは無自覚で、キョトンした顔を浮かべる。


 そこがまた可愛らしく、ジャンの心を強く打った。


 「(サリエル、またやってるねえ……)」

 「(相変わらず、男を落とすのが上手い)」


 もうすでにカリーヌとシャルロットはサリエルが多くの同級生、上級生の男たちを淡い初恋に落としている場面を何度も見ているので、ジャンがサリエルに心を奪われたのは一目で分かった。


 無自覚なのが実に恐ろしい。


 「おーい、サリエル。そこに居たか」


 と、そこでやって来たのはアレクシオスだった。

 

 「(こ、これは……)」

 「(修羅場の予感)」


 カリーヌとシャルロットは期待半分でアレクシオスとジャンを交互に見る。

 ジャンはアレクシオスに対して一礼した。


 「お父さん!」

 「誰がお父さんだ」

 

 アレクシオスは何を言い出すんだ、こいつと顔を顰める。

 しかしジャンは気にしない。


 「娘さんは僕がしっかり預かります! ご安心を!」

 「ま、まあ……守ってくれるのは嬉しいが……ふーん、なるほどね」


 何となく察したアレクシオスはジャンを値踏みするようにみる。

 アレクシオスのジャンへの評価は決して低くない。

 むしろ高い方だ。


 しかしそれは生徒としてであり……嫁の貰い手としては別の話。


 (まあ、俺もいつまで生きてられるか分からないしな。そもそも俺が結婚するわけにもいかないし)


 昔はサリエルの「お父さんと結婚する!」という言葉に、この上ない喜びを感じていたアレクシオスだが……さすがに十五歳の娘にそれを言われると、むしろ心配になってしまう。

 自分のせいで、娘の理想の男像のボーダーが高くなってしまっていないか? と。


 「まあ、頑張り給えジャン君。君は将来有望だ。このまま鍛錬を続けて、立派な騎士になれば……認めてやらないこともない」

 「ほ、本当ですか!!」

 「立派な騎士になったらな。俺からすればまだ、半人前どころか十分の一人前以下だ。最低でも俺を超えて貰わないと……」


 などと無理難題を言うアレクシオス。


 果たしてサリエルは結婚できるのだろうか?

 実に心配だ。


 しかしジャンは……


 「はい! 頑張ります!!」

 「おう、その意気だ。俺も昔から強かったわけでもないしな。昔の俺と比べても、決して君は弱くない。可能性は十分にある」


 所詮、学園で得られるのは基礎の基礎。

 アレクシオスも卒業時はそこまで強くなかった。


 実戦を経験し、現在の域にまで到達したのだ。

 

 もっとも……

 実力の伸びには限界が存在する。


 限界までは努力すればするほど伸びるが、ある時点に行けば……打ち止めだ。

 アレクシオスは二十歳で学園を卒業し、八年間の戦争でその実力を上げて魔王を倒すに至ったが……魔王を倒した時からは実力は落ちる一方である。

 

 そこがアレクシオスの天井だったのだ。


 「お父さんも来るの?」

 「まあな。俺とマリベル様の二人が引率で……ニコラスとシオンさんが留守番だ。まあ……大して強いモンスターは出ないし、安心して望め。何かあったら叫べよ。俺か、マリベル様がすぐに飛んでくる。ジャン君もけして無茶はしないように。君も大切な生徒なのだから」


 「はい!!」

 「「「はーい!!」」」


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