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第16話 娘、健康診断を受ける

 「ニコラス君、話って何?」


 一人の女性と一人の青年が向かい合って話をしていた。


 一人の女性は美しい銀色の髪と瞳、背中からは白銀に輝く翼を持っていた。

 そして……首から赤紫色の宝石が嵌め込まれた十字架のネックレスを下げていた。


 サリエルはなぜか、その女性を見ると……寂しいような懐かしいような嬉しいような気持ちになった。

 

 一方でニコラスと呼ばれた青年は黒髪、黒目で……端正な顔立ちをしていた。

 サリエルの目から見ても、十分イケメンに分類される。

 ああいう人に告白されてみたいなあ……などとサリエルは思った。


 「アニエル……その、あれだ。魔神族との戦争が……激化しているだろう? 七選侯も前線に出てきているし……いつ、死ぬか分からない。だから……言いたいことがあるんだ」

 「ん? 言いたい事? 何それ」

 

 アニエルは首を傾げた。

 ニコラスは深呼吸をして……言った。


 「好きだ、愛している。この戦争が終わったら、僕と結婚してくれ」













 

 「サリエルが寝坊って珍しいね」

 「良い夢でも見てた?」


 カリーヌとシャルロットに起こされたサリエルは……

 二人に少し遅れて、身支度を整えながら答える。


 「うーん、分からない。でも……良い夢でも無かったかな? 変な夢。何か、胸がドキドキするけド……同時に切なくて、悲しくなるような……」

 「誰かに告白されるような夢だったり?」

 「うーん、かもしれない。でも、相手の顔なんて覚えてないし……」


 サリエルは夢の内容を思い出そうとする。

 銀髪の女性が黒髪の青年に告白されるような……しかし二人の名前が浮かび上がらない。


 銀髪の女性は自分かもしれないが……黒髪の青年は誰だったか?


 「……まあ、良いか」


 サリエルは夢のことを忘れることにする。

 どうせ、くだらないことだ。


 それよりも……


 「確か、今日は健康診断だっけ?」

 「うん、そう」


 学園では年に一度、健康診断が行われる。

 子供たちを預かっているのだから当然と言えば当然だ。


 「えっと、私たちの順番は……」

 「確か、二限目の時間じゃなかったっけ? 体操服持って行こうよ」

 

 そういうわけで、サリエルとカリーヌとシャルロットは自分のバックに体操服を詰めた。





 さて……

 一限目が終わり、二限目になると……一部の生徒たちは体操服に着替えて決められた場所に集まる。

 サリエルも着替えて、所定の場所に移動した。


 しかし……


 「ああ、サリエルちゃん!」 

 「マリベル先生? どうしたんですか?」

 

 サリエルが所定の場所に到着すると……そこにはマリベルが待ち構えていた。

 隣には白衣を身に纏い、首に蛇を巻きつけている紫色の髪の女性が立っていた。

 

 「ごめんね、言い忘れてたわ。あなただけは別で診断やるのよ」

 「な、何でですか?」

 「爆発するから」


 サリエルは反論できなかった。

 




 

 サリエル、マリベル、そして紫色の髪の女性は三人だけである教室に入った。

 その教室の周りの教室が空き教室になっていることから……マリベルが本気で爆発を警戒していることを知り、サリエルは少し落ち込んだ。

 

 「本日、サリエル様を診断致しますシオン・フェルディーナと申します。シオン先生、と気軽に呼んでくれて結構ですよ。普段は王宮の方に努めていますが、偶に臨時講師をしたりしているんです」


 紫色の髪の女性はサリエルに名乗った。

 同時にシオンの首に巻き付いていた黒蛇がシュシューと鳴きながら舌を伸ばし、サリエルの方に首を伸ばす。


 「わぁ……蛇さんだ!!」


 サリエルは黒蛇に手を伸ばす。

 黒蛇は嬉しそうにシュシューと音を立てながら、サリエルの体に巻き付いた。

 どさくさに紛れてサリエルの胸に頭を擦り付けているエロ蛇をシオンは回収する。


 「えっと……シオンさん……ですか? 確か……」


 どこかで聞いた名前だとサリエルは少し考え……


 「もしかして『猛毒の魔女』シオン・フェルディーナさんですか?」

 「あら、嬉しいわ。ええ、そうよ。聖女アニエル様より『愛』の理力を下賜された七騎士の一人です。ふふ……それにしてもお母上によく似ていますね」

 「よく言われます」

 「ふふ……でもまあ……お父上に似ているところもあるわね」


 シオンにそう言われて……

 サリエルは目を輝かせた。

 あまり父親に似ていると言われることが少ないサリエルにとって、父親に似ていると言われるのはとても嬉しいことだ。


 「本当に似ていますか!!」

 「ええ、似ていますよ。ねえ、マリベル様」

 「あなたねえ……まあ、確かに似ているのは確かだけど……」


 マリベルは溜息をついてから……

 サリエルに椅子に座るように促した。


 「あの、健康診断の前に一つ聞いて良いですか?」

 「何? サリエルちゃん」


 サリエルは少し迷ってから、マリベルに尋ねた。


 「七騎士の中には魔神族の方がいたと、お父さんが授業で言っていました。……誰ですか」

 「ああ、それは私ですよ」


 あっさりとシオンが名乗り出た。

 サリエルは目を丸くした。


 「え、でも……魔力とか感じませんよ?」

 「表面に出るのを押さえる技術が確立されているんですよ。ふふふ……まあ気休めですがね。一応、不死族ですよ。まあ……そもそも私の魔力量は少ないですけどね。私は生まれ持った魔力やアニエル様に下賜された理力よりも……霊力を戦いに使いますから」

 「霊力?」


 サリエルは首を傾げた。

 どういうこっちゃ?


 「霊力、というのは私たち魔女が操る力よ。魔力や理力とは少し性質が異なるわ」

 「へえ……というか、そもそも魔女って何ですか?」


 サリエルは長年疑問に思っていたことを尋ねる。

 サリエルとシオンは顔を見合わせて……笑い合った。


 「まあ、そうね……魔女や魔人っていうのは……死んだ人がいろいろあって生まれ直すことで誕生するのよ」

 「こう見えて、私たち二人は一度死んでいるんですよ」

 「死んでいる……え、お二人は幽霊なんですか!?」


 サリエルは慌てて二人の足を確認する。

 当然、ちゃんと足があった。


 「厳密には違うけどね。死んで生き返ったわけだし。まあ……ゾンビって感じ? 心臓は普通に動いてるし、体も生身の人間と同じだけどね。まあ……年を取らなくなるのが大きな特徴かしら? そして莫大な霊力を持つ」

 「なるほど……どうやったら魔女になれるんですか?」


 さらにサリエルは問いかける。

 マリベルは少し考えてから……答える。


 「なれる、というよりなってしまうが正しいかしらね。私たちも成りたくてなったわけでもないし」

 「成らないで済むなら成らないに越したことはないですよ、サリエル様。魔女や魔人に転生してないというだけで、私たちからするととても幸運なことなのです。サリエル様も成らないように頑張ってくださいね。まあ、世の中何が起こるか分からないですけどね」


 シオンが笑うと……

 マリベルはそんなシオンの頭を叩いた。


 「バカなことを言わない! サリエルちゃんを魔女にした、なんて知れたらあの世でアニエルに殺されるわよ。アニエルとは、サリエルちゃんを幸せにするって約束したんだから……不幸の権化みたいな存在である、魔女や魔人にはさせてはいけないわ」

 「あははは……そうですね。まあ、成ったらなったで三人で不幸自慢というのも楽しそうではありますけど」

 「それはあなたと二人きりで十分だわ。サリエルちゃんを巻き込まない……さて、雑談はこれくらいにして、そろそろ診断に移らない?」


 二人は早速、健康診断に移ろうとする。

 ここでサリエルが最後の質問をした。


 「あの……不幸って、具体的には何ですか? ……あ、別に気を悪くされるようなら良いですけど……」

 「過ぎたことだし、別に良いわよ。まあ、簡単に言うと……アニエルに『希望』を下賜された私には生前、『希望』が無かったということね」

 「おや、マリベル様。面白い言い方をしますね……では私も。アニエル様に『愛』を下賜された私は生前、『愛』に巡り合えなかったということです。ふふ、皮肉っぽくて良いですね」


 マリベルとシオンは顔を見合わせて笑い合った。

 サリエルは首を傾げるしかなかった。


 「さて、サリエル様。心臓の音を見るので……服を捲っておっぱいを見せてくださいね」

 「……直球ですね」


 サリエルは服を捲る。

 清楚な白いブラジャーが姿を現した。


 「アニエル様の娘さんにしては、大きいおっぱいですね」

 「や、やめてください」


 シオンは指でサリエルの胸の中央に振れる。

 クスリとシオンは笑った。


 「ふふ、ピクピク動いて可愛い心臓ですね」

 「……」


 何でそんなに変な言い方をするんだろうか?

 とサリエルは少し気恥ずかしい気持ちになる。


 その後、シオンの指は右に動く。

 サリエルの脂肪の塊にシオンの指が沈み込む。


 「ふわふわですね」

 「あ、あの……セクハラはやめてください」

 「まさか、ちゃんとした健診ですよ?」


 などと言いながら次は左胸に振れ……

 次にサリエルの下乳の両側に振れ、そして……お腹、下腹部にまで指を這わせる。


 「あ、あの……し、心臓関係なくないですか?」

 「知らないんですか? 最近の心臓はここの辺りにもあるんですよ」

 「ぜ、絶対に違いますよね!」


 シオンが触れているのはサリエルの臍から指三本分の辺りだ。

 ねちっこくシオンはそこをトントンと刺激する。


 「ほ、保健の授業で習いました! そ、そこは心臓じゃなくて……」

 「心臓じゃなくて……何ですか?」

 「し、子宮があるところです!! も、もう良いですよね!!」


 サリエルはシオンの手を振り払い、服を戻した。

 シオンは残念そうな表情を浮かべる。


 「ふざけないでください!」

 「あはは、怒った顔も可愛い……別にふざけていたわけじゃ、ないんですけどね? まあ、良いです。続きをしましょう」


 その後の健診は至って普通だったという。





 その日の夜、アレクシオスは学園長室を尋ねた。

 目当ての人物はやはり、マリベルの隣に控えていた。


 「ありがとうございます、シオンさん」

 「良いんですよ、アレクシオス様。私もアニエル様にも恩がありますしね。それに……例の件が知られてしまうと不味いですから」


 アレクシオスはサリエルの診断をしてくれたシオンに礼を言った。

 サリエルの診断のために、今日は特別にシオンは来てくれたのだ。


 「お礼にお食事にでもいかがですか?」

 「その手は乗りませんよ、アレクシオス様。相変わらず女癖の悪さは治っていないようで……ふふ、安心いたしました」


 アレクシオスとシオンは笑いあった。

 何だかんだで、長い付き合いなのだから互いのことはよく分かっている。


 「ところで……どんな感じでしたか?」

 「しっかり内臓の方は育っていますよ。ええ、もう一人前と言ってもいいでしょう。……そろそろ教えて差し上げた方が良いのではありませんか?」

 「そ、そうですね……分かっています。いつかは言わなければならない。ただ……俺としては十八歳になるまで伏せておきたいんですが……」


 アレクシオスがそう言うと……

 先程から黙って聞いていたマリベルが口を挟んだ。 


 「勇者、あまり先延ばしにはできないわよ。……ちゃんと、制御方法を学んだ方があの子のため。あなたが言い辛いならば私が言うけど……」

 「……いえ、言います。そうですね……夏休みの初日に伝えようと思います。夏休みの期間を利用して、制御できるように訓練させます。今教えて、感情が不安定になって……暴走されたら一番不味いので」


 アレクシオスの言葉に……

 マリベルは納得したように頷いた。


 「そう、ちゃんと考えているならば良いわ。……あなたはサリエルちゃんの親。ちゃんと責任は果たしなさい」

 「はい、分かっています」


 アレクシオスは一礼して、学園長室を去った。


 マリベルはぼそりと呟いた。


 「はあ……前途多難ね」


悲報

賢者さん、開幕から振られる

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