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第14話 勇者、歴史の授業をする

 「魔王と聖女は己では使いきれない特殊な魔力や理力を下賜することができる。魔王は七大罪に由来する『傲慢』『憤怒』『嫉妬』『強欲』『怠惰』『色欲』『暴食』、聖女は七元徳に由来する『勇気』『節制』『正義』『知恵』『信仰』『希望』『愛』をそれぞれ下賜することができる。下賜された理力や魔力はその本来の所有者である聖女や魔王が死んでも……残り続ける。もっとも次の聖女や魔王はそれを取り上げる権限を有しているから、一度下賜された力が永遠というわけではないけどな」


 「そしてそれらの七つの理力、魔力を下賜された聖女や魔王の部下を七騎士、七選侯と呼ぶ。ちなみに『救世の神剣』の所有者には必ず『勇気』を下賜することが先例となっている。だから『救世の神剣』の所有者が『勇者』と呼ばれるわけだ。ちなみにマリベル様は昔から歴代の聖女から『希望』を下賜されてるし……他にもハゲ……じゃなかった、ニコラス先生は『知恵』を下賜されているし、たまに臨時講師としてやってくるシオン先生……『猛毒の魔女』シオン・フェルディーナは『愛』を下賜されている」


 聖女が現れるたびに、女神族の中から精鋭七人が選ばれる。

 そして聖女が彼らに七つの理力を下賜することで、七騎士が選ばれるのだ。


 「大昔は聖女を独占する国が自国から七人を選出していたが……千年ほど前に魔神族の攻勢が強まった時期があり……その時から、女神族全体から選出されるようになった」


 と、そこで質問する者が一人。


 「先生、宜しいですか?」

 「何かな、サリエル君」

 「一人に複数の理力を下賜することはできないんですか?」


 良い質問だ。

 と、アレクシオスはにっこりと笑みを浮かべた。


 「それは出来ない。なぜならあまりにも巨大な力だからだ。二つ以上を下賜されると……パンクしてしまう。ただ……理力と魔力の両方を下賜されたケースは歴史上無いから、分からないけどな」

 「なるほど……分かりました」


 さて、アレクシオスの説明は続く。


 「魔王の七選侯も同様だが……少し違う。魔神族の社会と女神族の社会では政治制度に大きな違いが存在するからだ。では……先程から寝ているシャルロット君、先生に教えてくれ」

 

 アレクシオスは教科書でシャルロットの頭を叩いて起こしてから、問いかけた。

 シャルロットは目を眠そうに擦ってから、答える。


 「女神族が複数の国に分かれているのに対し、魔神族の社会は魔王によって統一されています。形の上では。現実として魔神族の社会……通称魔神界は複数の諸侯が各地域で強い力を持っていて、魔王も手出しできません」

 「その通り……寝るな!!」


 バコン!! 

 アレクシオスはシャルロットの頭を叩いてから、講義に戻る。


 「魔王を決めるのは『魔神の指輪』で、聖女を決めるのは『女神の首飾り』だ。決して人ではない。しかし……魔神界では『魔神の指輪』に認められても、諸侯たちに認められなければ魔王として認められなかった。まあ……使い手が君主を兼ねるという伝統の弊害だろう。よって魔王は有力諸侯……魔王を選定する権利を持つ『七選侯』に認められ、そして見返りとして魔力を下賜する。これが七選侯の起源だ。現在ではこのような七選侯を『旧七選侯』と呼ぶ」


 ここで質問の手が上がる。

 カリーヌだ。


 「先生。そんなやり方で選ばれた七選侯は……強いんですか?」

 「良い質問だ。答えとしては……弱い。事実、七騎士制度を整えた女神族側が暫くの間魔神族を圧倒していた。……直近の魔王『アレクサンダー・フォン・リウドルフィング』が現れるまではな」


 ここからはアレクシオスにとっては歴史ではなく、どちらかといえば幼少期の思い出、政治変動になる。

 自分が体験したことが歴史になるというのは…… 

 何とも言えない気分だ。


 時間の流れや年を取ったということも自覚するし、あの時を書物や伝聞でしか知らない子供たちが大勢いるというのは寂しいような、良かったとも言えるような。


 「アレクサンダー・フォン・リウドルフィングは規格外の魔王だった。彼は自分の即位に反対するすべての七選侯……旧七選侯を打ち倒してしまったんだ。そして自分の縁者や側近の部下、そして本当に実力のある者たちを七選侯に任命した。これが所謂『新七選侯』だ」


 彼らは本当に強かった。

 彼らはあっという間に女神族から奪われた土地を奪い返し……女神族の世界に侵攻し、多くの土地を奪い去った。


 そして多くの人々が死んだ。

 ……アレクシオスの両親も含めて。


 目を瞑れば……

 自分の生まれ故郷の村が燃やし尽くされ、灰になる光景をアレクシオスは今すぐにでも思い出せる。


 そして自分の父親を殺した、魔王アレクサンダー・フォン・リウドルフィングの姿も。


 現在の勇者アレクシオス村はアレクシオスたちの活躍で奪い返され、そして復興された村。

 アレクシオスにとっての本当の故郷はもう、どこにもない。


 「まあ分かりやすく説明するならば……『旧七選侯』は『魔王を選ぶ諸侯』だ。逆に『新七選侯』は『魔王に選ばれた諸侯』ということになるな。そして現在……魔王が倒れた今、魔神界では『新七選侯』の残党たちと、『旧七選侯』たちの勢力との間で内戦が発生している。まあ……この内戦が終わるまでは、我々の世界に攻めてくる心配はないと考えて良いだろう」

 

 すると……

 カリーヌが手を上げた。


 「先生。今は内戦中なんですよね? どうして攻め込まないんですか? 今がチャンスでは?」

 「ふふ、良い質問だ。まあ、簡単な話さ。お偉方は魔神界の複雑怪奇な情勢には首を挟みたくないと考えているんだよ」

 「でも……領土は得られますよね?」

 「得ても統治できなければ、意味が無いのさ。魔王アレクサンダー・フォン・リウドルフィングは女神族の土地を統治しようとしたが、失敗した。その統治に多くの人手を取られて騎士の戦力が減ってしまったことも、あいつの敗北要員なのさ。お偉方は同じ轡は踏まないようにしている。もっとも……できるだけ内戦を長引かせようという外交工作はしているみたいだけどな」


 アレクサンダー・フォン・リウドルフィングの目的は魔神界と女神界の統一であった……らしい。

 らしいというのは、あくまでアレクシオスがアニエルから聞いた話だからだ。

 アニエルは一度、魔神族側に捕まったことがある。

 その時に魔王アレクサンダー・フォン・リウドルフィングと話をして、本人に直接聞いたという。


 ちなみにアニエルはその後、元気に戻って来た。

 さすがである。


 「先生」

 「おう、起きたか。シャルロット君」

 「……魔神族は、悪ですか?」


 シャルロットは鋭い視線でアレクシオスを射貫きながら尋ねた。

 アレクシオスは少し考えてから……答える。


 「悪だな」

 「……やはり、そうですか」

 「ああ、あくまで俺と……女神族のお偉方にとっては、だけどな」


 シャルロットは首を傾げる。

 アレクシオスは苦笑いを浮かべた。


 「世の中、正義と悪の二元論じゃ分けられないさ。昔の俺はバカだったから分かって無かったが……正義の反対は正義なんだよ。俺にとって魔神族が、魔王が悪のように……魔神族のある連中にとっては俺や女神族は悪だろう。……そうだな、面白い話をしよう。あまり知られていないことだが……」


 アレクシオスはニヤリと笑みを浮かべた。


 「実は……七騎士の中には魔神族がいる」


 アレクシオスの言葉に教室中が騒めいた。

 七騎士、と言えば女神族の英雄である。

 その中に魔神族が!?


 「そして……七選侯の中にも女神族がいる」


 アレクシオスはとんでもないことをカミングアウトしてから……

 指を二本立てた。


 「ここから分かることは二つ。まず……女神族は魔力を、そして魔神族は理力を扱うことが出来る。そして……もう一つは俺たちに味方をする魔神族もいれば、敵になる女神族もいる」


 何となく、授業が脱線していることに気が付きながらも……

 アレクシオスは話を続ける。

 これは重要な話だから。


 「それだけじゃないさ。女神族の中には魔神族に寝返った騎士だって大勢いるし、魔神族の中には女神族に寝返った騎士も大勢いる。そして……魔神族の貴族の中には俺たち女神族と内通している者もいる。当然、逆もいるだろう。そして……双方の間で立ち回る商人たちもいる。そして……女神族と魔神族のハーフも存在する」


 アレクシオスは生徒たちに言い聞かせるように言う。


 「見誤るな。良いか、お前たちは騎士だ。騎士になるんだろう? なら……敵は魔神族じゃあない。お前たちにとって大切な者を奪おうとする奴が敵で、そしてそれを一緒に守ってくれる者が味方だ。そしてこれは時に利害や損得で入れ替わる。俺の場合は……たまたま奪おうとする奴らの多くが魔神族で、守ってくれる者の多くが女神族だったって話だ。味方と敵はしっかりと見分けるんだ」


 そして……アレクシオスは回想する。

 昔は自分はそんなことを考えていなかった。

 仲間の魔神族は例外としても……全ての魔神族は悪だと思っていた。

 倒すべき敵だと、皆殺しにしなければならない悪だと思っていた。


 いや、アレクシオスだけではない。

 多くの女神族たちがその時は……憎しみに駆られていて、そのように錯覚していたのだ。


 唯一分かっていたのは……

 

 (アニエル、お前だけだったかもな……お前は、お前だけは魔神族と女神族の融和を望んでいた)


 もっとも、アレクシオスはアニエルの考えを正しいとは思わない。

 やはり……女神族と魔神族は相容れないのだ。

 文化が違い過ぎる。


 

 そして……この話の切っ掛けを作ったシャルロットは暫くアレクシオスを見つめて……

 再び手を上げた。


 「どうした? シャルロット君」

 「……『女神の首飾り』と『魔神の指輪』。この二つの神具がどこにあるか、知っていますか? 心当たりはありますか?」

 「さあ? ……悪いが、知らないな。というか、そんなのは国家機密……というより女神族全体の最高機密だろう。まあ……教会辺りが管理していると俺は思ってるけどな。魔神の指輪は多分、魔神界にあると見て良いだろう。神具は意思を持っていて、使い手に相応しい奴が現れるとそいつの近くに転移するからな。少なくとも女神界には止められないと思うよ」


 アレクシオスの問いにシャルロットは満足そうに頷いた。


 「先生は……女神族の味方なんですね」

 「まあ……俺が守りたい人の多くは女神族だからな。……おっと、授業が脱線した。話を戻すか。えっと、どこまで……」


 アレクシオスが教科書と睨めっこしている時……

 シャルロットは小さな声で呟いた。


 「つまり魔神族の敵、か」


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