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第12話 勇者、体臭を少し気にし始める

 さて、そんなこんなで一月が経過した。



 「と、まあそんな感じで……サリエルちゃんの爆発は週に六回から週に一度に減ったわ。多少は制御できるようになった感じね」

 「ありがとうございます……マリベル様」

 「良いのよ。私の生徒だしね。それにアニエルの娘でもある。なら目を掛けるのは当然よ。まあ、成績や試験では贔屓はしないけどね」


 アレクシオスはマリベルに対して頭を下げたが……

 マリベルは気にするなと、伝えた。


 「しかし本当にとんでもない理力量よね。……そう言えば、実技試験でも何だかんだで爆発してたのよね」


 ホーリーアローはあくまで『矢』であり、爆発する効果はない。

 実技試験でもサリエルは実は爆発させていたのである。


 ちなみにそれでもサリエルが『首席』合格者なのは、『首席』か否かの成績に実技や面接の点数が含まれていないからである。

 文官科や武官科から共通の『首席』を選ぶのだから、基準が異なる面接や実技を含めないのは当然だ。

 

 「ちゃんと制御法を学べば、将来優秀な騎士になるでしょうね。母親と同じように。まあ、今のまま理力を持て余してると……すぐにガス欠になっちゃうだろうけど」

 「そうですね……理力は節約と制御、効率が大切ですから」


 最小限の力で最大限の破壊を産む。

 それが騎士の戦いの基本だ。


 理力切れは戦場では死を意味する。


 「ところで、アレクシオス。あなたの授業、そこそこ評判良いわよ」

 「ありがとうございます。まあ……この程度のレベルなら大したことはありませんよ」

 「あなたが受け持ってるのは上級生だから、レベルは高いはずなんだけどね……」


 マリベルの配慮により、アレクシオスはサリエルと鉢合わせ無いように上級性の授業を受け持っていた。

 まあ、アレクシオスがサリエルを特別扱いしないようにするためという理由もあるが。


 「そうそう、アレクシオス。実はサリエルの爆発でマックス先生とメルヴィン先生が怪我しちゃってね」

 「え! えっと……大丈夫なんですか?」

 「マックス先生は足の骨、メルヴィン先生は腕の骨をポキっとしちゃっただけよ。本当は治癒理術と薬品があれば治るんだけど……材料を切らしていてね。薬の完成まで一週間はかかりそうなの。そういうわけで、お願いだから……サリエルちゃんが出席する歴史の授業と武術の授業を代わりに教えてくれない」

 「え、ええ……まあどちらにせよ俺はお二人のサポートのために雇われたわけですし問題ないですけど……授業はどこまで進んでいるんですか?」

 「それは二人に聞いてくれれば良いわ」







 そういうわけで、武術の授業当日。


 「すまんのう……アレクシオス君」

 「いえいえ、先生……うちの娘がすみません」

 「わはははは! 子供は元気に越したことは無い。アニエル君に似て良い子じゃないか! 謝罪とお菓子も貰ったし、ワシとしては思うところはないぞ。しかし……『破壊のマックス』と呼ばれたワシも、もう年じゃのう」


 マックスは溜息をついた。

 マックスはドワーフ族の男性で、かつて戦争で活躍した騎士である。

 破壊のマックス。

 それはマックスが騎士として現役時代に魔神族に付けられた二つ名であった。


 巨大な斧を振り回し、次々と魔神族を屠った彼は非常に恐れられていたのだ。

 もっとも、老いてしまった今は見る影もないが。


 昔は戦場でその力を振るった、最強の一角だったのだ。


 もっとも、アレクシオスに比べれば大したことはないのだが。

 

 聖女と七騎士は女神族最強の戦力であり、そしてアレクシオスはその中でも飛び抜けて強い。


 二人は歩きながら教練場に向かう。

 すでに生徒たちが集まっていた。

 その中にはサリエルの姿もあった。

 サリエルが着ているのは学園指定の体操服である。


 アレクシオスから見てもやはり可愛いサリエルはどんな服を着ても似合う。

 何だろう、健康的なエロスを感じるような……


 (おおっと、サリエルは娘。サリエルは娘……っと)


 アレクシオスは生徒たちに前に立って話し始めた。

 当然アレクシオスは仮面を被っている。


 「知っての通り、マックス先生は事故で怪我をしてしまったため今日は私が君たちの授業を行う。もっとも……マックス先生は直接教えることはできなくとも、すぐ側で見守っててくださるので安心して欲しい」


 松葉杖が無ければ歩けないマックスが武術を教えることはできない。

 当然、マックスは見学ということになる。

 本来は安静にしているのが一番だが……責任感の強いマックスは授業を欠席することはできないと、やって来たのだ。

 

 「さて、取り敢えず準備体操を……」

 「すみません、質問して良いですか?」


 手を上げたのはサリエルだった。

 アレクシオスの心臓が跳ね上がる。


 「……何かな、サリエル君」

 「お父さん、何やってるの?」






 空気が凍り付いた。












 「わ、私は君のお父さんではない!!」

 「そ、それは……爆発ばっかりで失敗する私なんて英雄であるお父さんの娘じゃないってこと? ……そ、そうだよね……マックス先生も私の所為だし……グス……」

 「可哀想なサリエル……」

 「何て酷い父親」


 カリーヌとシャルロットが泣き出したサリエルを慰めた。

 慌ててアレクシオスは仮面を脱いだ。


 「い、いやそういう意味じゃないんだ、サリエル!!」

 「やっぱりお父さんじゃん」

 「……」

 

 え、嘘泣き?

 アレクシオスの背中に冷たい汗が走った。


 そして……



 「おお!! 本当に勇者アレクシオスだ!」

 「す、凄い!!」

 「さすが親子、やっぱり変装してても分かるんだな!!」

 「大英雄に会えるだなんて!!」

 「サインください!!」


 大騒ぎになった。

 後ろでマックスが頭を押さえる。


 アレクシオスは取り敢えず……


 「静かにしろ!!!」


 怒鳴った。

 シーンと静まり返る。


 そしてアレクシオスは静かにサリエルに問う。


 「えー、サリエル()。何で私がアレクシオスだと、分かったのかな?」

 「最初はお父さん……じゃなかった。アレクシオ先生特有の臭いがしたからです」

 「……臭い?」

 「お酒と女の人の香水と煙草の臭い」


 アレクシオスの趣味は酒とギャンブルと女である。

 サリエルのための貯金には当然手を出していないが……ちょいちょい遊びには行っている。


 煙草は吸わないが……

 そういう場所では煙草を吸う人間が多いので、当然煙草臭くなるのだ。


 アレクシオスの体にはそういう臭いが染みついている。


 「でも最大の理由は……外で仮面を脱いでるのを見たからです」

 「……」


 仮面は息苦しい。

 加えて蒸れるし、暑い。


 アレクシオスは授業を終えるたびに、外で仮面を外して涼んでいたのだ。

 それをサリエルに見られたのだろう。


 「はあ、バレたなら仕方がない」

   

 アレクシオスは仮面を放り投げた。

 マリベルがこんな息苦しい仮面を被れと言うから悪いのだ、と責任転換をする。


 「ところで、お父さん……何で来たの?」

 「お前が心配だからだ!」

 「だ、だからお父さんは過保護だっていつも……」

 「お前の綽名、爆発娘らしいな」


 サリエルは押し黙った。

 アレクシオスは続ける。


 「やらかすと思ってたら、案の定やらかしたんだ。……文句は言わせないぞ」

 「……はい、分かりました。アレクシオス先生。でも……学園では一生徒として扱ってください」

 「それは当然だ」


 そう言ってアレクシオスは周囲を見回してから……


 「えー、諸君。私に質問があるのは分かる。しかし今は授業中だ。もし質問したければ……後でレポート用紙を配るので、それに書きなさい。出来る限り答えよう」


 アレクシオスがそう言うと、生徒たちは目を輝かせた。

 そしてアレクシオスは笑みを浮かべる。


 「では、まずは準備運動から!」



 



 さて、準備運動が終わると……

 生徒一人一人に木剣が配られた。


 「マックス先生、今日は体術ではないのですか?」


 マックスの指示通りに配ったアレクシオスは疑問の声を上げる。

 するとマックスは笑みを浮かべ……松葉杖を突きながら生徒の前に立っていった。


 「諸君……知っての通り、アレクシオスは大英雄『勇者』じゃ。しかし勇者という二つ名は勇者に選ばれてから後に付けられたもので……その前には別の二つ名で呼ばれていた」


 マックスは一呼吸置いてから、その二つ名を言う。


 「『剣聖』。剣聖アレクシオス。それがアレクシオスのもう一つの二つ名じゃ。せっかく剣聖に授業をして貰うのじゃ。今から全員で戦いを挑み……そして傷一つ付けられずにあしらわれるというのも一つの経験だとワシは思う」


 マックスは言葉を続ける。


 「知っての通り、武術の訓練は入学時の成績を元にクラス分けされ……君たちは最上位のクラス。この中から将来、騎力十万、百万を超す騎士も現れるじゃろう。しかし……上には上がいる。そして勝てない相手とは戦わない。それを知るためには……やはり実際に圧倒的な強さを味わった方が良い」


 そう言ってマックスは下がった。

 アレクシオスは溜息をついて……


 「と、いうことらしい。掛かってきても良いぞ」

 「すみません、一つ良いですか?」

 「良いぞ……カリーヌ君、だったか」


 カリーヌは立ち上がった。


 「私たちがアレクシオス先生に勝てないのは自明だと思います。でも……勝てない戦いなんて、やる気が起きません。ですから……ギリギリ勝てそうなハンデを下さい。あと、勝った後の御褒美も欲しいです」


 なるほどとアレクシオスは頷いた。

 少し考えてから……


 「では、私は剣を使わず素手で戦い、加えて利き手である右手は封印する。また半径一メートル以内から出ない。そして君たちが少しでも、掠るだけでも良いから私の胴体に木剣で一撃を入れられれば勝利としよう。敗北条件は……十分以内に俺を倒せない、またはすべての木剣を折られる……というのでどうだろうか? ああ、木剣を折られた生徒は戦闘不能ということで。報酬は……うん、全員に好きなモノを好きなだけ食べさせてあげよう」

 「高級料理でも良いですか?」

 「えっと、シャルロット君だったか。良いよ」


 その瞬間、シャルロットがアレクシオスに砂を投げつけた。

 そして一瞬で距離を詰め、木剣を振り下ろす。


 シャルロットの木剣がアレクシオスの胸に触れそうになり……

 次の瞬間!!


 シャルロットは宙を舞っていた。

 

 ドン!

 と音を立てて、シャルロットは地面に墜落する。


 木剣はアレクシオスの手の中だった。

 アレクシオスは木剣をあっさりと叩き折る。


 「最後まで話を聞き給え。……報酬を求めるのだから、罰も必要だろう。木剣を折られた生徒は試合が終わるまで教練場の周りを走りなさい。そして……十分以内に私を倒せない、または全員が木剣を折られた場合は……授業が終わるまで走って貰う」


 ニヤッと、アレクシオスが笑うと……

 次の瞬間、二十人ほどの生徒たちが一斉にアレクシオスに突撃した。


 そして……

 全員が一瞬で宙を舞う。


 折れた十本の木剣が地面に突き刺さる。

 折れたというより、鋭利は刃物で切り裂かれたような切り口だ。


 「本物の剣士は……剣を使わずとも鉄すら切れる。どんな物質でも切り口は必ず存在し、そこに力を込めるだけ。……さて、一気に半分が走ることになったが、これで終わりかな?」


 アレクシオスは不適に笑った。


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