第11話 娘、性教育を受ける
その後の授業は怒涛の連続爆発であった。
学園長室では……
ズドーン!!!
「良い音ね、何の授業?」
「薬品調合学のようです。学園長」
「まあ、あれはサリエルちゃん以外も爆発させるからね」
ズドーン!!!
「今度は何かしら?」
「攻撃理術の実戦授業です」
「あれもよく爆発するし、仕方がないわね」
ズドーン!!!
「……どの授業?」
「武術の訓練です」
「爆発する要素、どこにあるのかしら?」
ズドーン!!!
「……これは何の授業?」
「理術の基礎理論ですね」
「……座学のはずよね?」
ズドーン!!!
「今度は何!?」
「歴史の授業です」
「どうやったら爆発するのよ!!!」
という感じだったとか。
と、そんな調子でサリエルは五日間のうちに五回も爆発させるという快挙? を成し遂げた。
そして……六日目、一週間の最後の授業。
「はい、みんな注目。本日はマリベル先生による保健体育の授業です。はあ……これ、普通は学園じゃなくて家庭で教わることなんだけどね。最近の親は家じゃ教えないから、三百年前から学園で教えるようにしているのよ」
「(最近?)」
「(三百年前って、大昔じゃ……)」
「(六百歳って普通の人と時間間隔違うんだねえ……)」
「(ちくわ大明神)」
「(なんだ、今の)」
「とはいえ、私も知っていることを再度教えるつもりはないわ。取り敢えず……赤ちゃんの作り方の質問をさせて貰うわね。……キスで赤ちゃんができると思う人」
マリベルは生徒たちを見回して質問した。
手は上がらない。
(まあ、さすがに十五歳じゃそんな幼稚な子はいないか。最近の子は進んでるし……んん!!)
手が上がっていた。
それは……
「……サリエルちゃん、本気?」
「え……違うんですか? だって、お父さんが教えてくれましたよ。五歳の頃……チュウすると赤ちゃんができるって」
サリエルは首を傾げた。
その可愛らしい仕草に……
(おお、可愛い!!)
(キスで赤ちゃんできると思ってるのか……そこがまた可愛い!!)
(爆発することを除けば、やっぱり可愛いよな!)
(なにカマトトぶってるのよ……ぶりっ子娘!)
(あれはアニエルではない! あれはアニエルではない! あれはアニエルではない! あれはアニエルではない! あれはアニエルではない! KOOLになれ、吾輩!!)
(なんか、変なの混じってるな……)
マリベルは本気で言ってるサリエルに対して……
頭を掻いた。
(そう言えば、アニエルもそうだったわね……母子揃って……何で私が子供の作り方教えなきゃいけないのよ。私、子供産んだことないのに……)
とはいえ、それが仕事である。
「では、教科書の五ページを開きなさい。言わなくても分かると思いますが、男女の体の模式図です。えーまず……」
「(………………)」
「(大丈夫? サリエル?)」
「(顔真っ赤)」
「男性器、通称ペニスは……」
「(………………)」プルプル
「(……気分悪いならトイレ行く?)」
「(サリエル、落ち着いて)」
「女性器、通称ヴァギナは……」
「(………………)」顔を覆い隠すサリエル。
「(深呼吸、深呼吸してサリエル)」
「(爆発するなら外で)」
「女性器の中に男性器を……刺激により性的興奮が……男性がオーガズムに達すると精液が……卵子と精子が……と、なると妊娠するのです。分かりましたか? サリエルちゃん、聞いてた?」
「……は、はい聞いていました」
「じゃあ説明して」
「せ、説明……ですか?」
「ええ、だって今の授業はあなたのためだし。あなたが理解していないと、意味が無いのよ」
サリエルは真っ赤な顔で、フラフラと立ち上がった。
震える手で教科書を開く。
「え、えっと……どこを説明すれば……」
「セックス、性交のところをお願い。……別に恥ずかしがることはないわ。あなただって、それで生まれてるんだし。というか、理解できないでやられる方が教育者としては困るのよ」
「わ、分かりました……」
サリエルは小さな声で説明をする。
「せ、性行為は……で……男性器を……女性器に……」
「もっと大きな声でお願いできる?」
「性行為はせ、性的快楽を得るための行為でだ、男性器をじょ、女性器に挿入して……」
サリエルの体がプルプルと震える。
(あー、これは逃げた方が良いね)
(退散)
カリーヌとシャルロットはここ五日間の経験を活かし、早々サリエルから距離を取る。
そして二人が距離を取るのと同時に……
ズドーン!!!!!!!!!!
六日間で最大の爆発が発生した。
「私、初めて知ったわ。保険体育の授業って爆発の危険があるのね」
「す、すみません……」
その後、サリエルは学園長室に呼び出された。
サリエルはすっかりとしょげてしまっている。
当然だろう。
首席合格で少し鼻が高くなった状態で入学して……
失敗と爆発の連続なのだから。
「薬品調合学と攻撃理術の実践は分かるわ。ええ、この際理術の基礎理論も納得しましょう。武術の授業も百歩譲って分かるわ。歴史学も……まあ百万歩譲って分かったとしましょう。保健体育よ?」
「う、うう……ご、ごめんなさい」
サリエルは半泣きでマリベルに謝った。
そして涙目でマリベルに問う。
「あ、あの……」
「何?」
「た、退学……でしょうか?」
「はあ? 退学?」
「だって……厳しいんですよね?」
サリエルが尋ねると……
マリベルはお腹を抱えて笑いだした。
「何言ってるのよ。この程度で退学なら、あなたの親……アニエルは無論、アレクシオスやニコラスだって百回は退学になるわよ」
「え、ええ?」
「この程度、問題ないわ。ちょっと爆発することを除けば、あなたはとても優秀な生徒よ」
「で、でも何度も……」
「人間は繰り返し失敗する生き物よ。私なんて、失敗の連続よ。大丈夫、安心しなさい」
マリベルはサリエルの涙をハンカチで吹いてあげる。
その姿は……母親が娘を慰めているように見えた。(絵面だけだと妹と姉だが)
「それに……あなたの爆発の原因は分かったわ」
「本当……ですか?」
「ええ、原因はあなたの大きすぎる理力、先天性理力超過剰体質と……慣れない環境ね」
生まれつき高い理力を持つ天翼族は幼少期に度々理力を暴走させることがある。
普通は年齢が上がるにつれて、暴走は滅多に起こらなくなるが……
サリエルの場合は理力が高すぎるのだ。
「故郷ではどれくらいの頻度だったの?」
「えっと……年に三回くらいです」
「でしょうね。慣れない環境で知らないうちに感情が不安定になっているのよ。だから理力も安定せず、許容量以上を注いでしまう。とはいえ、それを抜きにしても年に三回は多いわね。今度から放課後、学園長室に来なさい。私が力を安定させる方法を教えてあげるわ」
マリベルの言葉にサリエルは顔を輝かせた。
「本当ですか!!!」
ズドーン!!!
「……」
「……本当よ。こんなにしょっちゅう爆発させられたら困るし」
「す、すみません……」
「わざとじゃないのは分かってるから、良いわ。……限度はあるけどね」