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第10話 娘、やはり期待を裏切らない


 「うーん……よく寝た!!」


 翌朝、サリエルは伸びをしながら目を覚ました。

 ボーっとした頭で時計を確認する。

 

 十分授業には間に合う時間だ。


 サリエルはカーテンを開けて、朝日を全身に浴びる。


 「さて、お父さんを……あ、そうか……お父さんはいないんだっけ」


 少しサリエルは寂しい気持ちになった。

 が、しかしサリエルは一人で生活しているわけではない。

 

 昨晩親交を深め、仲良くなった……

 友人がいるのだから。


 「カリーヌ、シャルロット! 起きて!!」

 「うーん、もう少し……」

 「もう食べれない……」

 「起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて、起きて」


 サリエルは謎のリズムに乗せながら、カリーヌとシャルロットは揺する。

 不機嫌そうな顔で二人は目を開いた。


 「もう少し優しく起こして」

 「起きるのにも心の準備が……」

 「優しくしたら起きないでしょ」


 サリエルに促され、二人はベッドから降りた。

 すぐに三人で身支度を終え、朝食を食堂で食べ……


 「えっと、最初の授業は何だっけ?」

 「薬品調合。先生はニコラス先生」

 「「さすがシャルロット!!」」

 「私は二人のためのパンフレットじゃない」




 などと言いながら、三人は教室に向かった。

 教室に入ると……ツンとした薬品の臭いが三人の鼻を刺激した。

 早起きした甲斐もあり、人は少なく……席は自由に選べそうだ。


 オルデール学園では基本、授業は自由席だ。


 「えっと……どこに座る? 私はどこでも良いけど」

 「私は背が高いから……一番後ろが人に迷惑掛からなくて良いかな。……シャルロットは大丈夫?」

 「後ろは高くなってるから」


 座る席は一番後ろで決まる。

 教室は後ろに行くほど高くなる形式になっている。


 一度に大勢の生徒が授業を受けるからだ。


 しばらくすると生徒たちが集まり始め、教室は人で埋まった。


 「(あれ、首席の子だよね?)」

 「(サリエルちゃんだっけ?)」

 「(可愛いなあ……)」

 「(結婚したい……)」

 「(確か勇者アレクシオスと聖女アニエルの娘だっけ?)」

 「(ちくわ大明神)」

 「(まさにサラブレットって感じだね)」

 「(何だ、今の)」


 


 「サリエル、噂になってるね」

 「……やめて欲しいんだけどな」

 「有名税。あきらめるべき」


 サリエル、カリーヌ、シャルロットが小声で話していると……

 前頭部が若干……

 

 「誰か、今何か言ったかね?」


 失礼、髪よりもご本人が前進している先生が現れた。

 

 「ごほん、吾輩の名前はニコラス・グラディアである。諸君らに薬品調合学を教える」


 ニコラスはそう言ってまずは教室中を見回した。

 そして……


 「サリエル君」

 「は、はい!!」


 突然指名されたサリエルは立ち上がった。

 周囲の視線がサリエルに集まり……サリエルの心臓が激しく高鳴る。


 「薬品調合学とは何か、説明してみなさい」(なるほど、そこにいるのか……目を放さないようにしよう)


 授業を進行させるのと同時にサリエルの位置を確認するのがこの質問の目的である。

 そんなことも知らないサリエルは緊張した顔で答える。


 「え、えっと……薬品調合学というのは、動植物を混ぜ合わせ、理力を注ぎ込むことで特殊な薬を作りだしたり、その薬同士を混ぜて新たな薬品を作る学問です。傷や病気の治療は勿論、武器に塗る毒薬や……爆薬などの兵器、その他様々な効力を作りだすことができます。理術の中ではもっとも簡単で、そして最も難しい学問と言われています…………」

 

 チラッと、サリエルはニコラスの表情を確認した。 

 ニコラスは大きく頷き、サリエルに着席するように促した。


 「サリエル君の言う通り、この薬品調合は……基礎の基礎にして、極めるのが最も難しい学問である。まず諸君らには簡単な……擦り傷を治す薬を作って貰う。諸君らの机の引き出しを開けたまえ。そこには小さな……熱を発生させる理術具とビーカー、その他諸々が入っている。全て一度、机の上に出したまえ」


 言われる通り、サリエルたちは机の上に実験器具と材料を取り出した。

 理術具やビーカー、かき混ぜるための棒、計量カップ、謎の草花、何か虫の死骸、そして生きたカエル……ん?


 「うわ、カエルだ! しかも生きてる……」


 何と小さな籠に入ったカエルがいた。

 一斉に教室中でゲコゲコ言い始める。


 「諸君、一応言っておくが……決して許可なく籠を開けることがないように。吾輩にはカエルと授業をする趣味はない」

 

 籠を開けて、カエルと戯れようとしたサリエルを間一髪のところでシャルロットが止めた。

 危ない、危ない……


 「さて、諸君。まずは注意事項として……吾輩の経験を語ろう。中年の思い出話など、興味ないかもしれないが心して聞いて欲しい」


 ニコラスの言葉に……生徒たちは耳を傾けた。

 元々実験要素を含む授業が好きな生徒は多く……またニコラスは女神族の英雄でもある。

 前頭部が本人よりも遅れていることに若干ショックを抱いている女子生徒がいるが、それでも英雄の昔話に興味がない者はいない。


 「吾輩も昔から教師をしているわけではない。当然、君たちと同じように生徒だった時期がある。そう、あれは吾輩が入学したての……最初の薬品調合学の授業だった。あの時は隣の者と二人一組で火傷の薬を作るように指示された」


 淡々とニコラスは語り始める。


 「吾輩の隣は天翼族の少女だった。銀髪の……とても美しい少女だ。まるで本物の天使のようだった。吾輩はその子と一緒に薬品を作れると……少し舞い上がっていた。それが良くなかった。火傷の薬にも生きたカエルを使用するのだが……その少女が、材料とは関係ない塩・胡椒を入れようとしていることに気が付かなかったのだ。どうなったと思う? 大爆発だ」


 ニコラスはある一点……

 具体的にはサリエルを見ながら、いやサリエルに言い聞かせるように言う。


 「何でも、塩・胡椒を入れた方が美味しくなるかもしれないと思った……だそうだ。良いかね、諸君。薬品に味は要らない。余計なモノは一切入れないように。大爆発を引き起こす。特にサリエル君!!」

 「は、はい!!」

 「君は吾輩が一つ一つチェックする。いいな、決して許可なく……塩・胡椒を入れないように!!」

 「そ、そんなの持ってません!」

 「砂糖や唐辛子もダメだぞ!」

 「は、母と一緒にしないでください!! 私はそんなにアホじゃありません!!」


 サリエルはニコラスに抗議の声を上げた。

 生徒たちの脳裏には……現在修復中の試験会場の様子が脳裏を過った。


 「(良かった、あの子から距離を取っておいて……)」

 「(や、やべえ……俺の後ろだぞ……)」

 

 斯くして、生徒たちはサリエルの動向に注意を払うようになった。


 さて、一度全ての機材をしまった上で……

 授業が始まった。


 基本、オルデール学園の授業は一コマ九十分だ。


 薬品調合学の授業ではまず四十分掛けてニコラスから材料の説明や、機材の取り扱いを習い……

 次の四十分で薬品を調合する。

 最後の十分で後片付けだ。


 「えー、そういうわけでカエルはありとあらゆる傷薬に……」(寝てはいないか……遅刻もしなかったし、母親よりは真面目のようだな。良かった、良かった……)


 ニコラスは真面目にメモを取るサリエルの様子を確認し、胸を撫で下ろした。

 ここで寝られると、爆発のリスクが上昇する。


 さて座学が終わり、休憩時間が過ぎると……

 次は実戦だ。


 ニコラスは手袋をするように指示をする。


 「材料には毒があるモノを使用する時がある。今回は毒は無いが……しかし髪の毛や爪の破片が混入するだけで上手く調合できないことがある。当然、塩・胡椒はダメだぞ、サリエル君」

 「砂糖も唐辛子も入れません!」

 「蜂蜜とココアパウダーもダメだぞ?」

 「……私の母はそんなものも入れたのですか?」

 「吾輩には理解できないほど、アホだったからな。君の母親は。私は君をとても心配している」

 「……ありがとうございます」


 サリエルはあまり嬉しくなさそうな表情で礼を言った。


 さて、授業は順調に進み……

 最後に理力を注ぎながらかき混ぜる行程に入った。


 「サリエル君、分かっていると思うが……ゆっくりだぞ?」

 「分かっていますって。これくらい、余裕です」


 そう言いながらサリエルは理力を注ぎ込んだ。

 その量は……


 

 明らかに規定量を超えていた。



 「ば、バカ!! そんな一度に大量の理力を注ぎ込んだら!!」 

 「え? 別にそんなにたくさん注ぎ込んで……」





 ズドーン!!!!!!!!





 爆発した。


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