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ギノを目撃してから約二日が経った日の夜中のことだ。
私はトイレに行きたくなり、目を覚ましたところギノが自身の喉元にナイフを突き付けながら馬乗りになってこちらを見ていた。
ここで悲鳴を上げそうになった私。
でも、叫んだところでそれはギノを刺激してしまうだけだ。
私はそう考えると、慌てて自身の口を両手で覆いながら目の前にいる彼に声を掛けた。
「な、なに?」
途端に私が目覚めて口を開いたことに困惑したのか瞳をほんの少しだけ揺らしたギノ。
しかしそれもほんの一瞬のこと。
彼は次の瞬間には何も移さない縹色の瞳でこちらを見ながら淡々とした声色で私にこう尋ねてきた。
「……君、何?」
無表情かつ無感情にもそう私に問い掛ける彼。
私はそれに対して心の中ではビクビクしながら、表では彼と同じく淡々とした返答を返した。
「フォリナ・ヴィンセント。ヴィンセント家の双子姉妹の姉の方よ」
「……そういう事じゃない。なんで君は俺を知ってたのか聞いてる」
ここで本当のことを告げたところで前世やらゲームやらが彼に通じるとは思わない。
そう思った私は今にも喉にナイフを突き刺しそうな彼にこう答えていた。
「私ってあれなのよ、これから起こる未来を予知できるの。それでその未来予知の中で貴方が出てきたの」
「俺が?」
「ええ、貴方がよ」
「……話して」
私はナイフをくるりと回して腰元のナイフポケットに直したかと思うと、私の上から退いてベッドの淵に腰掛けた彼に内心で怯えながらもそれを表に出さないようにゆっくりとベッドから起き上がる。
けどその前にだ。
私はこちらを無表情で見るギノに私が目覚めた当初の理由を告げた。
「あの、まずトイレに行ってきてもいいかしら?」
「……逃げたら殺す」
「帰ってくるわよ」
「……」
私は黙ったまま扉を指差した彼に軽く礼を告げるとそのままトイレのある場所へと向かう。
ただこの時、ほんの少しだけ逃げてやろうかなと思ったのは殺さねかねないから彼には本当の本当に秘密だ。