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取り敢えず昨日の夢のことは忘れてこれからの事を考えよう。
私は窓の向こうから射す太陽の光を浴びながらリリーに服を着せてもらう。
何だかんだでドレス生活にも慣れてはいるけど、時々とてつもなく前世で着ていたような服などが恋しくなる。
まあ、それも学園に入ったらガッツリのドレスではなくて前世でいう制服風のワンピースになるからいいけど。
でもこうも容易に走ったりできない服は個人的に何だかなぁと思うので、少し服を作ってみようと思う。
私はそう思い付くなりリリーに服を作るのに必要な材料を集められるか尋ねて「大丈夫ですよ」と明るく返してくれた彼女に礼を言う。
そして、リリーが頼んだものを持ってきてくれたところで私はすぐさま膝丈までのスカートを作ることにした。
今回は試作品ということである程度の予目安で布を裁って、ミシンで布を縫い合わせて、ゴムを通す部分にゴムを通して、その処理をして完成だ。
ここまで約2時間か2時間半。
私は隣で物珍しげにスカートを見ていたリリーに服を脱がしてもらうと、完成したスカートに足を通してみる。
「うん、問題ない」
ウエスト部分もきつくもなく緩くもなく、スカートの丈も膝丈なので動きやすい。
これは外では着れないとしても屋敷の中では着れるだろう。
私はそう考えると予めリリーに持って来てもらっていた男物のブラウスを着ると、そのままリリーに「どうかしら?」と尋ねてみる。
すると、リリーは少し興奮しながらこう一言。
「とっても可愛らしいですわ!」
よし、これで別に変ではなないことは分かった。
ならもうこの服を量産しておいて屋敷の中ではスカートにブラウスという服装をしよう。
動きやすいのに加えてドレスだったら夏場は足元に生暖かい空気が篭って暑かったのがこれで防げる。
私はニコニコとこちらを見て笑うリリーに微笑みを返しながら、彼女と一緒に部屋を出てまたいつものように書庫へ向かう。
けれどその道中で私は偶然にも通りかかった窓の外にある中庭で何やら蹲っている男の子を発見した。
あれは不法侵入という形になるのだろうか。
私はそんなどうでもいいことを考えながら窓の前に立ち、背後にいるリリーに少年のいる場所を指差す。
「ねぇ、リリー。あの男の子って父さんのお客さんの子?」
「いいえ、旦那様からは本日はお客様が来ることはお伺いしておりませんが……。取り敢えず引き捉えるように執事達に伝えてきますのでお嬢さまはここにいて下さい」
私はリリーの言葉に一つ頷くと、窓の淵に背中を預けてピクリとも動かない少年を眺め続ける。
すると、自身の真下からぞろぞろと現れたのは五人ほどの執事達。
彼らはお互いに何やら少年がいる方角を指さしたかと思うと頷き合い、段々と少年に近付いていく。
果たして先程からピクリとも動かない少年だけど彼は一体どうするのか。
私は帰って来たリリーに労いの言葉をやると、そのまま再び外に目をやると少年の周りを包囲している執事達を見詰める。
次の瞬間、執事の一人が少年の肩を掴んだと思うとその執事は地面に倒れていた。
それと同時に次々とその場に倒れて行く残りの執事達。
私はそれに軽く目を見開きつつ、パチリと合った少年の紫色を含んだ深い藍色をした目に何処か既視感を覚えた。
あれは、あの目の色は確か……。
「……ギノ・クレイド」
少年の目が私の口元を見て大きく見開く。
そうだ、彼はギノだ。
幼少期を暗殺者として過ごし感情のない人形と呼ばれて日々を過ごしている中で、フェリナという心優しい少女に出会って感情を手に入れて、彼女の幸せの為にフォリナを殺す男の子。
だが何故こうも妹は自分が幸せにするから彼らとはもう接触する必要はもうないと考えたにも関わらず、私は向こう側からガッツリ認識されているのだろうか。
この際思わず右手で頬を抑えて大きく溜息をついてしまったのは悪くない。
「もういいわ、リリー行きましょ」
取り敢えず彼のことはもう忘れるとしようじゃないか。
私は見てない、気絶してる執事達もギノも何も見てない。
だから君も私のことを覚えていないでくれ。
私はそう心の中でそう呟くと、渋るリリーを連れて書庫に向かった。