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兎にも角にも庭にやって来た私達三人は現在進行形で庭にある大きな木の下でのんびりとしている。
ぶっちゃけ、リリーもここにいて欲しかったのだけれど何やら彼女はメイド長のマリアに呼ばれたとのことで屋敷の中で別れた。
私は木に凭れ掛かりながらパラパラと本を捲りながら、自身の膝に頭を乗せて寝ているフェリナと、自身の肩に頭を乗せて寝ているレインを見て軽く溜息を吐くと地面に本を置いてそれぞれの頭を撫でてやる。
こうやって三人で仲良くしてられるのもきっとあと数年の内だけだ。
本来ならば私というフォリナはレインとこうやって仲良くすることも、ましてやフェリナと仲良くするなんてことすら許されないような立ち位置にいるキャラ。
それにゲーム内での最終的なフォリナの未来は、フェリナに恋した王子であるカインを中心に学園の全ての人間に嫌われて狂人になってそのまま自殺するか隠しキャラのギノに喉元を掻っ切られて死亡と何とも痛々しい終わりだ。
まあ、これに関しては私はゲーム通りに狂人になって自殺することもギノに喉を掻っ切られて死ぬ事も完全回避するつもりだけど。
それでもフェリナが幸せになるには私が王子にアタックしてアタックしてベタベタして嫌われて、フェリナが王子に真剣に謝罪に行って彼にフェリナに恋してもらわないといけない。
いやぁ、やりたくないなぁ。
正直な話をすると私は前世のこの世界の原作であるゲームの中の一番人気キャラであったカイン王子が何気に苦手だったりする。
その理由はまあ、カインはヒロインの前では心優しい王子様だけどその他の人間に関してはクソ性格の悪い様な男だからだ。
ま、フェリナに優しいならば文句はないけど!
私はよしよしと妹の自身と同じ淡い金色をしたサラサラの髪の毛に指を通しながらこれからの事を考える。
フォリナである私がこれからしないといけないのは取り敢えずは攻略キャラ達である、カイン王子にベタつく、王家直属の騎士団長の息子であるアイザックに媚びる、宰相の息子であるクロムに媚びる、隠しキャラのギノを目撃するの四つだ。
もう本気の本気でクロウラ学園に通いたくない。
誰も関わらずに生きたいけど、妹の幸せを考えると無駄なことをしまくって周りに嫌われなければいけない。
例えそれが妹や唯一の幼馴染であるレインに嫌われる事だったとしても。
てかもう、全てが終わったらこの家からもこの街からも消えるっていう手もあるのか。
私は一瞬少しそれを考えると今日レインが帰ってから書庫の方で地図を見てみようと考える。
あと、もしもそれを実現させないといけないとなった時用に非常食とか着る服とかも用意しておこう。
ほんの少しだけ、ほんの少しだけ冒険するってことに惹かれている私もいるけどこれは致し方ない事だと思う。
だって私が階段から落ちて記憶を取り戻す前のフォリナも私も今までこの屋敷の外に出たことがほぼ無いんだもの。
だからもしも外に出られるとしたら自由に旅をしたい。
私は小さくクスクスと笑うと、そのまま髪を耳に掛けて小さな声で鼻歌を歌う。
嫌な筈の未来が割と楽しみになった瞬間だった。