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あれからまた暫く四人で立ち話をしながら飲み物を飲んでいたのだが、ふとレインがトイレに行きたいと言い出したので私とフェリナとアイザックはお互いに顔を見合わせ、頷き合うとレインと共にトイレがある廊下の方へ歩き出した。
この際、思うのは『どうせ会場にいたところで王子が発見できてない以上は暫くは暇だろう』ということ。
私達はそれぞれ軽く「王子はいつ見付かるのか」という話をしながらトイレへと向かい、レインが用を終えてトイレから出てきたのを確認して「会場に戻りましょう」と言って再び会場の方へと体を向けた。
すると、ちょうど私達が体を向けた方向に茶色い髪に眼鏡をかけた少年が一人こちらを見ながら立ち止まっているではないか。
私は隣でこてりと首を傾けながら「誰だろう?」と呟いたフェリナをチラリと横目に見ると、未だにこちらを見ている少年に目を向ける。
そこでふと何処からかドタドタとした足音が聞こえてきたかと思うと、私達の背後からこんな声が聞こえて来た。
「王子、カイン王子!何処にいらっしゃるんですか!?」
途端にビクリと肩を跳ねさせながらワタワタとその場から逃げようとする目の前の少年。
私はそんな彼の行動を見て隣のアイザックが口にした「もしかして……」の言葉に頷く。
そして、私は目の前でビクビクとしながら逃げ出そうとした少年にこう声を掛けた。
「あの、もしかしてですがカイン王子ですか?」
しかし少年は思い切り首を左右に振ったかと思うと思わず私達が苦笑いするようなことを言ってきた。
「ち、違う!僕の名前はカイ……ヴィンセントだ!!」
まあこれには流石にこの国にはヴィンセントの名を持つ家は私達の家族だけなので、確実に彼が嘘を吐いていることを理解しているレインとアイザックは乾いた笑みを漏らし、私とフェリナも思わず顔を見合わせて苦笑を浮かべる。
そして、私は目の前でビクビクしながらこちらを見ている彼に嘘とは理解しながら再度確認を取ることにした。
「……えっと、本当にカイ・ヴィンセントさんでよろしいですか? 」
「そうだよ!」
ここで私は思い切って目の前の彼にこう告げた。
「すみませんがこの国にいるヴィンセントの名を持つ家の人間は我が家の人間しかいないはずなのですが……」
「えっ……」
「改めまして、フォリナ・ヴィンセントです」
「フェリナ・ヴィンセントです」
「……う、嘘だ」
「いえ、本当ですよ。因みにこちらにいる二人はキャメロット家のご子息とテペルギュウス家のご子息です」
「テペルギュウスだって……!?」
カイン王子はアイザックのファミリーネームを聞くなり大袈裟に肩を揺らしてその場から逃げようとする。
けれど、それを見たアイザックが笑いながら彼にこう言った。
「俺は父のように貴方を捕まえようとは思っていないので安心してください」
すると、カイン王子は心底不思議そうな顔をしたかと思うとこんなことを尋ねてきた。
「それはどうしてだ……?」
「どうしてと言われても……。貴方には貴方なりの逃げている理由があるんでしょう?俺はそれを邪魔するつもりはないだけですよ」
「……そうか、すまない」
「いや、別になんてこと無いですよ。俺的には仲のいい友人達とこうして仲良く過ごせている訳ですし」
私達はちらりとこちらに笑い掛けてきたアイザックに笑みを返すと、そんな私達を見てまたしても不思議そうな顔をしながら「君達は仲がいいのか?」と問うたカイン王子の質問へアイザックが答えた。
「はい。……そう、だよな?」
ちらりとアイザックが少し不安げにこちらに視線を寄越せば、私とフェリナはクスクスと笑いながら頷いて見せる。
「ふふっ、当たり前でしょう?」
「ノアナもアイザックも友達だよ!」
けれど、ここで何を思ったのか子犬のような目でアイザックを見ながら軽い冗談を口にしたのはレイン。
「アイザック、友達と思ってたのは僕らだけなの……?」
この際、思わず屋敷にいるとき同様に吹き出しそうになる私とフェリナ。
アイザックといえば呆れた様にレインの額を小突きながら「そんな訳ないだろう」と笑いながらレインの頭を撫でながら、カイン王子に向き直る。
「と、まあそういうことです」
「ははっ、本当に仲がいいんだな」
すると、カイン王子はアイザックが質問に答え終えるなり少し笑ったかと思うと顔を俯かせ小さな声でこんなことを呟いた。
「……いいなぁ」
途端に「え?」と思わず声を漏らしたレインとフェリナ。
私はジッと慌てて顔を上げるなり「すまない、忘れてくれ」と告げてその場から去ろうとする王子の背中を微妙な気持ちになりながら見送ろうとする。
しかし、その時ふとアイザックがカイン王子に対して意外なことを口にした。
「……あの、差し出がましいのは分かっていますが俺達と友人になりませんか?」
この際思わず内心で色んな意味で『何を言ってるの!?』となってアイザックを二度見したものの、アイザックは唖然とする私にウィンクをしながら驚いた様子でこちらを振り返った王子に対して「どうです?」と問う。
百歩譲って王子と出会うことはまあいいとする。
でも、仲良くする気はなかったのに何故そういう風な流れを作るのだ。
私は幼馴染と妹までもが「それはいい考えだ!」みたいな顔をしているのを見ながら、不安そうに「本当に、いいのか……?」なんて言いながら私達の顔をそれぞれ見ながら聞いてくる王子に小さく頷く。
そう気安く友人の作れない立場である以上幼い頃から同年代の知人やら友人やらがいないのは寂しい事だと思う。
だけどまさかこうなるなんて全く思っていなかった。
当初の予定としては『王子らと出会わず私がフェリナを幸せにする』というものだったがここでその計画は脆く儚く崩れ落ちる訳だ。
でもまあ、仲良くしておいて損は無い相手ではあるからよしとすればいいのかよしとしてはいけないのか。
最終的に仲良くして置いてフェリナを嫁に貰って頂いて幸せにしてあげてくれるなら是非是非うちの可愛い妹を貰って欲しいのだが、ゲームのヒロインである当の本人である妹は誰のルートを進むのだろうか。
私は目の前で「友人になってくれるなら堅苦しいのは無しにしてくれ」と告げる王子に頷きながら、自分を囲むヒロインである妹と攻略キャラであり親しい仲の人物達を横目に『これからどうなるのか』と考えながら人知れず小さく溜息を吐いた。




