第5話 別れと旅立ち
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目を覚ますとそこはいつもの寝室であった
この森にきてから約10年間、ルークはここに住み続けているだ
木造建築の一軒家の家は、各自の部屋が一室とリビンド兼台所のみの質素な内装であった
それでもルークは昔の生活と比べれば雲泥の差だと思い、むしろ幸せに生活していた
「納得いかないなーー」
先程の戦闘を思い出し思わず呟く。
10年前、サタンから出された課題はただひとつ
"俺に一撃食らわせろ"
であった。しかし、一度も攻撃を当てることは結局できなかった
サタンが武道や魔術、剣術などの実践的なものを教えてくれたのに対し
アザエルは座学担当であり、世界の地理や動物、魔獣の名前、神話や歴史、言語などを教えてくれた
ルークは眠る前のサタンの言葉を思い出す
大事な話?なんだろう。今は大体19時くらいだからそろそろいったほうがいいかな
ちなみにこの家には時計はない。
人間よりはるかに長い時間生き続ける魔族にとって、一日はとても短く、ましては1秒ずつカウントしていくなどもっての他らしい。
ちなみにサタンは時間に追われるのがとても嫌らしく、何度アザエルが時計を設置しても破壊してしまうと聞いたのはつい最近のことだった
そのためルークは体感で大体何時かわかるようになっていた
部屋から出てリビングに出ると、既に2人は席についていた
「遅いぞルーク、目が覚めたならとっととこんか」
サタンは少し不機嫌そうである
「ごめんごめん」
そう言いすぐにルークは席に着く
すると、アザエルが脇から書類を机に乗せる
「王立第1学園…?」
「そうだ、これは入学申込書だ」
サタンがそう答え、続けてアザエルが
「ルークくん、君にはこれからこの学園で寮生活をしてもらうんだよ」
ルークは状況に頭が追いつかず、混乱する
「えっと、なんでまた急に?」
「急ではない、元々お前が合格でき次第そうするつもりだったのだ。」
「俺は、ここから出ていかないといけないんですか?」
5歳の時に家門の前でされた時のことを思い出しルークは不安に襲われる
「心配しなくていいよ、何も僕も父上も君が憎くて追い出すわけではないんだ。むしろ君の目標の為と言っていい」
心を察したのかアザエルがそう言う
「その通りだ、お前が10年前ワシにいった願いを忘れてはなかろうな。」
ルークはやっと理解する
「つまり、復讐ができると言うことですか?」
ルークはごくりと唾を飲み込む
「そうだな、そうも言える。だが、今までにも機会はたくさんあった、だがお前の実力が伴っていなかったのだ。」
「しかも君にいい報告があるんだ。今年は君の元家門の家主が入学試験の場に参加することになっているんだよ。今年から高等1年になる者の中で首席卒業者はその家門直属に入ることができるそうだよ」
やっと、やっとこの時が来たんだ
ルークは願っても無いチャンスチャンスがやって来たことに心を踊らせる
「ただ、お前には課題を課す。殺すのではなく、家門をのっとるのだ」
サタンの言葉にルークは戸惑う
「いえ、前にも言ったけど俺の願いは復讐です!家門じゃない
あの両親を殺すだけでいいじゃないか!」
思わず声を荒げてしまう
「ふむ、確かにその言い分もわかる。 しかしな、家主が死んだらその子供がどういった扱いになるかはお前が痛いほどわかっているだろう」
ルークは昔の牢獄生活のことを思い出す
当家であった実の父が僕が生まれて間もなく戦争で死に、実権を次男である義父に取られた母様と僕は静かに生活をしていた
しかし、母様も死んだあとのルークの扱いはひどく牢獄生活になったのであった
あんな中でも自分を想ってくれたセルビアを自分のような目に合わせたくない
サタンの言うことは最もであった
「だからお前はもう一度信頼を築き家主になるのだ。今年入学し首席で卒業すれば必然的に奴に近づける。そして家主になったら妹も救える。そしたら殺せばいいであろう。名家の家主と繋がりを持ったらワシら魔族もとても有利になるからな」
サタンの言い分を理解し、ルークは了解する
「期日は明後日。王都であるフーステンという地の闘技場で試験は行われます。
試験内容は書かれていませんが、恐らく闘技場でやるという以上、戦いかもしくはそれに近いものであると考えられます」
アザエルが試験や学園について大まかに説明を始める
まとめるとこうだ
・学園は王国内最難関であり、中高一貫校
・中等(12才)から進学するものは貴族がほとんどである(高い学費が理由)
・逆に高等(15才)からの進学者は平民や出来損ないの貴族などが多い
・寮は4つあり、入学したあと振り分けられる
というようなものであった
「……簡単な説明は以上かな。君には今から転移して王都に行ってもらう。そしたら僕がよくしてやった部下がグラウ商会本部にいるはず。そこでヒアテンという人を呼びな。
あったら彼に必要なものを揃える協力してもらうといい」
「わかりました」
そういうとアザエルは紋様の書かれた赤い魔石をルークに渡す
これが目印になるらしい
ふと、ルークは不安になる
また悪魔の子と言われるのではないかと
「あの、アザエルさん。俺、悪魔に見えませんか?」
唐突の質問にアザエルは首をかしげる
しかし、すぐに意味を理解する
「あー、髪の色ね。君は家から出たことなくて街を知らないから不安だろうけど、黒髪の人なんてたっくさんいるよ。むしろ貴族の方が稀なんだよ。目の変化の調整を出来るようになった今、君が悪魔だと思う人はまずいないだろうね」
ルークは安心し、胸を撫で下ろす
「じゃあお前に新しい名をつけるか」
「え、変えなきゃダメなの?」
「当たり前だ、ルークだと元の家門のものたちにバレてしまうかもしれないだろう」
確かにその通りだが、母のつけてくれたルークというこの名前が気に入っていた
「お前にはワシの若かり頃の名前、シリウスを授ける。決して粗末に使うんじゃないぞ」
ルークはドキッとする。サタンが自分を認めてくれている気がしたからだ
「お前の復讐を果たしたとき、ルークに戻るといい。それまでその名はワシが預かっておこう」
そういうとサタンは自分の爪で左腕に魔族の言葉でルークと彫った
ルークはもう名前を変えることに不満は亡くなっていた
今日から俺はシリウス。師匠の名前……
とても誇らしい気持ちになった
「よし、じゃあそろそろ行こうか」
アザエルがそう切り出す
ルークが部屋に戻り、剣と絵本をもって
庭に出ると既に魔法陣は完成していた。その魔法陣はかつてルークをこの地に飛ばしたものと同じであった
「はいこれ、これ羽織っていきな」
それもかつてアザエルが魔法使いに扮していた時の格好であった
15才のルークは既に身長は170センチを超えていた
フードをかぶって円の中心に入る
すると、アザエルが詠唱を始め魔法陣が輝き出す
「2人とも!今まで本当にありがとう!また帰ってくるね!」
ルークは元気にそういい2人に大きく手を振る
「頑張ってね」
アザエルは小さく片手で手を振った
「死ぬなよ」
サタンは腕を組んだままそう言った
この10年間、大変だったけど幸せだったなぁ
そんなことを考えていると視界が急に暗転した
「ついに行ってしまいましたね」
ルークが消えたのを確認してアザエルはそういう
「これも運命だ」
「本当は行かせたくなかったのでは?」
「馬鹿を言え」
「これからルーク…シリウスが得る真実はどれも辛いことばかりです。あなた様もわかっているでしょう」
「……だとしてもだ」
サタンはもう消えた庭を見つめながらそう答える
「そうですか…僕は父上に従い続けます。では、そろそろ我々の本当の家に帰りましょうか。父上、いや魔王様」
「"前"魔王だ」
そういうと2人の姿は一瞬にして消え、辺りは静寂だけが残るのであった
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