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第7話 俺と引っ越し準備とウサギ達



 木々や草花が生えているところを抜け、俺は水がある方へと向かう。


 近づていくうちに、水の流れる音が聞こえ、新鮮な空気感を感じる。

 大小様々な石が、そこら中に転がっている。それはどこからどう見ても河原だった。まるで、観光雑誌にでも載っているかのような美しい河原だ。もしここが日本なら、週末にはバーベキューする家族連れで賑わっていることだろう。



「冷たい……」

 俺は腰を落とし、流れている水を掬う。透明感もあって綺麗な水だ。

 これなら、飲み水にも最適そうだ。俺はそのまま、手にある水を口元へと持っていく。


「うまい!」

 久しぶりに、ちゃんとした水を飲むせいもあってか、かなり美味しく感じた。今までは、隠れ実の果汁でごまかしていたからな……。


 それから、二杯ほど水を飲んだ俺は、立ち上がり、周りを見渡す。



 うん。見れば見るほどに、本当に良い環境だ。木々の生い茂る場所から、少し離れて河原があるので、野生動物が来てもすぐに察知することが出来るだろう。その代わり、俺も野生動物から見つかりやすいという事でもある訳だが。


 ただ、水がある環境。これは、かなり魅力的だ。この世界、飲食をあまりしなくても、生きていける世界ではあるが、やはり水があるという事は、人間として生き物として安心である。それに、水の使い道はいくらでもある。こう考えると、やはり、この場所は魅力的だ。


「よし! 拠点を変えよう」

 俺は、考えた末に、ここの近くに引っ越す事を決断する。


 という訳で、俺はさっそく行動に移る。

 思い立ったが吉日である。


 まずは、拠点の場所選びだ。河原にそのまま拠点を作ってしまうと、野生動物にすぐに見つかってしまうので、木々で隠れられる森の中を探していく方針にする。


 俺は、来た道を忘れないように、しっかりと記憶し、河原周辺への探索を開始する。川の上流と下流どっちへ行こうかと迷ったが、川の下流の少し先の方を見ると、川の流れは、森の中、茂みへと続いていたので、上流に向かうことにした。



「意外と長いな……」

 川の流れに沿って歩いていると、大きく川がカーブしているところで、遠くの方まで、河原が続いていることが見て分かった。

 あそこまで行く、と代わり映えしない森の景色で、来た道が分からなくなると悟った俺は早々に引き返すことにした。


そうなってくると、新たな拠点は、今の拠点と河原の中間地点に作るか、それとも河原の向こう側にするかだが、そのためには川を超えないといけないが、見た感じ川の流れは速くはないが、少し奥の方の水深が深い。泳げない事はないと思うが、これから拠点も作らないといけないので、体力は温存しときたい。


「やっぱり、拠点との中間で見つけるしかないか」

 そう考えをまとめて、俺は来た道を戻るのだった。




 新しい拠点の場所は、割とすぐに決まった。なかなか良い場所が無かったので、妥協したともいえる。

 結局、森の端っこ河原との境界線のような場所の木と木の間になった。ここからなら、河原もすぐそこだし、すぐに隠れられると思ってだ。

 それに、もういっそのこと、家を建てても良いかなと思っている。時間はかかるかもしれないが、安心は作れる。それに、間隔の狭い木と木の間を上手く利用したら作れるんじゃないかと思ったのだ。


 ただ、それは、今後の話なので、俺は今、黙々と家の床になるであろう雑草を抜いている。

 寝転がれるほどの一定のスペースを作ったところで、一旦休憩する。


「そう言えば、前の拠点から隠れ実も持ってこないとなー」

 休憩の間にも、そんなことを考えながら呟く。

 他にも、寝ているときに隠れるために使っていた葉っぱや、木の枝なども、持ってくるか置いていくか、頭の中で決めていく。

 ふと、そこで思う。この世界に来るまでは、休憩中に仕事のこととか余り考えなかったのにな。と。

 生死が掛かっているとはいえ、前の生活よりも今の生活のほうが充実していると感じているのは確かだ。


「一度失って、離れてみて、気付く事か……」

 もし、元の世界に戻れるとするなら、俺は今のように毎日頑張って過ごせるのだろうか。


「………」

 まぁ、今、そんな事を考えも仕方がない。今は今で、一人で頑張るしかないのだから。


 ふぅー!


 俺は、息を思い切り出す。そして、思い切り吸い込む。よし! また頑張るとしますか。

 そう気合いを入れて俺は、立ち上がった。






 一度拠点へと戻った俺は、次はいつ戻るか分からないなと思い、火の補充のため火ネズミを狩ることにした。むやみに、火ネズミを倒してしまう事になるが、俺が生きるためだと割り切った。




――――技・魔法《火の玉》


 視界にメッセージが出るのをウザったく思いながら、俺は火ネズミの攻撃を避ける。


 そのまま魔法の反動なのか動けない火ネズミに近づいて、俺は石斧を振り下ろす。



「これで三本目か……」

 謝罪と感謝をした後、俺はドロップ品のマッチ棒を拾う。

 戦闘を繰り返しているうちに、だんだんと火ネズミへの対処法も分かってきた。

 魔法を撃つまでは距離を取り、魔法を撃った直後は、動きが止まる、もしくは動きが遅くなるのでそこを狙うという作戦だ。ある程度、距離を取っていたら《火の玉》の動きも対処可能なレベルなのだ。ほんと、初戦で油断して当たりそうになった俺はバカである。



 一応、三本、マッチ棒を手に入れた事だし、俺はこの変で引き揚げようと帰路につく。


 が、世の中、そんな甘いモノではないらしい。特にこの世界では。


 森の入り口へと入ろうとした時。


 出会ってしまったのだ。


 ウサギに。




「マジかよ!」

 入り口に居座っているウサギに気付いた瞬間、俺はすぐに距離を取る。


 ただ、ウサギも驚いた様子で、後ろに飛びのき距離を取った。


 俺は、右手の石斧を両手でしっかりと持ち直し、ウサギを観察する。

 茶色と白の毛が混ざったウサギなので、アイツではない。そして、ウサギも俺を品定めするかのように、こちらを見ている。

 出来ればこのまま戦闘がない事を祈るが………そうはいかないのが、この戦闘ウサギたちだ。



「結局、バトルになるんだよな!」

 俺への品定めが終わったのか、ウサギは真っ直ぐに俺へと向かってきた。


 技を使わずに、この速さかよ――――俺は、それを左へと跳躍し避ける。



――――技 《ダッシュタックル》


 このタイミングでかよ!

 ウサギは、避けた俺を見て、俺がいた場所で足を踏み込み、咄嗟に方向を変えながら、技を使ってきた。


 だが、俺もキチンと反応は出来ている。俺はウサギが、タックルしてくる瞬間を狙って、石斧を上から振り下ろす。



――――――――!!!


 俺の振り下ろした石斧は、ウサギに直撃した。ウサギは、地面に叩きつけられながらも、俺から距離を取った。

 手ごたえはあった。それを証拠に、ウサギからは大量の光の粒が流れ出ている。


 おそらく、この勝負はもう俺の勝ちだ。だが、俺は最後の最後まで気を緩めない。アイツほどではないが、このウサギも相当な手練れなのだ。最後まで、何をしてくるか分からない。


 俺はゆっくりとウサギに近づいて行く。


 足を痛めたのか、ウサギは動かない。


 だが、やはり、ウサギはまだ諦めてはいなかった。



――――技 《獣の咆哮》


 そのメッセージが出たと同時に、ウサギは咆えた。



「……?」

 こんな小さなウサギから出るような声ではないと思うほどの大音量だった。

 が、それだけだった。技となっているからには、他に作用が働くのかと思ったが、本当にただ咆哮を上げただけだ。


 そして、俺はそのままウサギを倒す。


 最後の咆哮は何だったんだと、思いながらも、謝罪と感謝を述べ、俺はドロップ品を拾う。


「こんなものまでドロップするのか……」

 それは、園芸用のスコップだった。大きい芋堀りなどに使うものではない。小さいスコップだ。てっきりお肉とでも思っていたが、これはこれで、色々と便利そうなので文句はないが……。



 マッチ棒は、まだ火ネズミと関連付けられていて、百歩譲って分かる気がするが、ウサギからスコップがドロップするのは意味が分からんな。

 あれか? ウサギは穴を掘るからとでも言いたいのか? おそらくだが、この世界のバトルジャンキーなウサギはそんな事似合わないと、俺は思うけどな。


 ただ、要らないのかと言われると、絶対にあったほうが断然いいのだが、一応な、一応、この世界を作った神だか何だか知らないが、そいつに文句を言いたいだけだ。


 スコップを拾って、再び森の入り口へと向かう。



 だが――――。



「何でだよ!」

 その光景を見て、俺は、思わず声に出してツッコむ。


 森の入り口に、又してもウサギがいたからだ。


「2連戦かよ!」

 悪態をつきながらも、俺はすぐにウサギから距離を取る。



――――技 《ダッシュタックル》


 だが、ウサギは先手必勝とばかりに、技を使ってきた。

 走り出したウサギは、スピードを上げながら、こちらへと突撃して来る。


 ただ、もうその技は、何回も経験済みだ。

 俺は、ギリギリまでウサギを引き付け、最後のウサギの踏み込み……タックルされる寸前で避ける。


 うん。我ながら完璧な避け方だ。ウサギは、勢い余って地面に転がり込むが、流石は、野生動物。すぐに、体勢を持ち直す。


 だけど、俺はその一瞬の隙を逃さない。


――――!!!


 俺はウサギに、先程拾ったスコップを投げつけた。


 ウサギは、それに反応して避けるが、一部体に当たったのか、少量の粒子が空中に舞い上がる。


――――技《早投げ》


 追い打ちをかけるように、俺は、スコップを投げて空いた右手で技を発動させる。

 スコップを避ける為に、跳びあがったウサギの着地に合わせるように、ポケットから素早く、石を取り出し投げられる。


「!!!」

 その石は狙い違わず、ウサギへとヒットした。ウサギからは大量の粒子が空気中に放出される。


 そんな大ダメージを受けても、まだ戦意を喪失しないのが、このバトルウサギたちだ。

 よろめきながらも、起き上がり、最後まで俺に立ち向かってくる。



――――技 《ダッシュタックル》


 だが、そんな事は予想済みだ。このウサギ達がしぶといのは俺が一番分かっているのだ。

 だから、俺は準備をしていた。



――――技《一球入魂》



 3秒以上は”想い”を溜めることは出来なかったが、あのウサギの状態なら大丈夫だろう。


 俺は、右手に持ち直した”石斧”を思い切り投げる。


 こちらに突撃してくるウサギに、回転しながらウサギに向かって行く石斧。



――――!!!



 両者、凄まじい衝突の結果――――。


 俺の石斧はバラバラになり、そして、ウサギは粒子となって砕け散った。





「また、作り直しか……」

 俺は、バラバラになった石斧の残骸を拾い集める。この石斧11号は、結構な活躍してくれたので、少し寂しい。


 さて、次はドロップ品の確認だ。

 と、俺はウサギが消えていった辺りを探す。


「おお!」

 そこには、小さいナイフ? 包丁? とりあえず、刃物が落ちていた。


 サバイバルで欲しい物ランキングなら上位に入るであろうナイフさんだ。武器としては勿論のこと、何かを作成する時にも活躍間違いなしの万能アイテムである。


 相変わらず、ウサギがこれをドロップする理由は不明だが、これがある事で、このいつまで続くか分からないサバイバル生活が豊かになるのは、明白だろう。



 俺は、ナイフを大事拾い、他の投げたアイテムも回収した後、上機嫌で拠点へと戻った。

 流石に、ウサギとはもう遭遇しなかった。


 マッチ棒の補給に来ただけだったが、結果的にかなりの収穫になった。



 森の拠点へと戻り、少し遅い昼食を食べる。


 隠れ実を頬張りながらも、頭の中で、先程の火ネズミからウサギまでの戦闘の反省をする。


 火ネズミに関しては、もう勝ちのパターンがほぼ出来上がった。火ネズミが魔法を使った後は、動けなくなったり、動きが鈍っているので、そこを狙って倒せばいいだけだ。なので、魔法を撃たれるまでは、回避に重点をおき、魔法の使用後は、ガンガンいこうぜ! で問題ないだろう。

 問題があるとすれば、俺自身が油断をしない事だ。今まで戦っている火ネズミが、たまたま弱いだけかも知れないし、突然変異で強い個体もいるかもしれないしな。魔法使用後に、動けなくなる個体と少し動ける個体がいるので、個体差がある事は確認済みだからな。



 ウサギに関しては、最初のあのウサギ以降、勝利してはいるが、勝ちパターンがあるかと言うと微妙なところだ。理由としては、火ネズミとは違い、ウサギは個体ごとの強さの差があり過ぎる。

 おそらくだが、最初に戦ったあの泥棒ウサギは、ウサギの中でも相当な強者の部類のはずだ。それをトップにして考えると、次点で、今回のスコップとナイフをドロップしたウサギ達が、両者同じぐらい強く、お肉をドロップしたウサギが、その次ぐらいの強さだろう。

 さらに、この強さの差も、泥棒ウサギとスコップとナイフのウサギを比べたら、結構な強さの差があるし、スコップとナイフのウサギとお肉のウサギとの間にも結構な差があるように、俺は感じる。


 結論としては、上と下でかなりの強さの差があるので、ウサギとの戦闘は慢心したらダメという事だ。



「さて、隠れ実も食べ終わったし、本格的に引っ越しの準備をするか!」


 隠れ実を食べ終えた俺は反省もそこそこで切り上げ、また動き出すのだった。






次の更新は、明日の朝7時です。

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