第6話 俺とドロップ品と焚き火
ウサギの体の一部が粒子になり空気中に溶け出していく。
やがて、限界が来たのか、ウサギの体中に粒子のヒビが入っていく。
――――バリン!
と音を立てて、ウサギは粒子となって砕け散った。
「……」
すまない……ありがとう……。
俺は、心の中でウサギに謝り、そして感謝する。
他の生物を犠牲にしないと生きていけないのは、頭では分かっているが、胸に来るものはある。 普段の生活で、人々が忘れてしまっている事……本当にこの世界に来て感じるものは多い。俺はこの戦いが無駄にならないように、このウサギの分まで頑張らなければいけないのだ。
と、人が、大事なことを考えているのに。
「なんだよこれ……?」
俺は、ウサギが消えたところにある”もの”を凝視する。
それは、葉っぱに包まれたお肉だった。
おい。今、結構シリアスな場面だったぞ! 急にこの展開は何なんだ。
まさかと思うが……。
「ドロップ品かよ!」
誰もいないが、俺は一人でツッコむ。しいて言うなら、この世界を作った奴へのツッコミだろうか。
「あーー!」
これは思いつかなかったわ……。そうだよな。スキルとかある世界だもんな……。
そりゃ、ドロップ品もあるっちゃ、あるのか……。
とりあえず、俺はその肉を拾う。
「ってか、何肉だよ……?」
あ、ウサギ肉か。
うん。でもまぁ、食料ゲットってことで良いかな。有り難く食べさせて貰います。敬礼。
隠れ実と貴重なお肉を持って、俺は拠点へと帰還するのだった。
拠点へと戻って、昼食を取ろうとした俺は、重大な事に気付いた。
「肉って火が無いと食べられないな……」
寄生虫とか怖いので、生では絶対ダメである。肉をゲットしたことで、少々浮かれていたが、一気に現実に戻された。
「火かぁー」
やっぱり、火おこしやらないといけないのか。あれって、摩擦で火を点けるんだよな? うーん。そこら辺の知識はさっぱりだな。
他に、火と言えば……。
「あっ!」
一つ案が思い浮かび、俺はさっそく行動することに……隠れ実ぐらいは食べていくか。
隠れ実を食べ終えた俺は、貴重なお肉を拠点に隠し、草原に来ていた。隠れ実の木がある場所とは反対のところである。
そこで、俺は草原を見渡し”あいつ”を探す。
「お、いた!」
そいつは、すぐに見つかった。まぁそいつは、燃えているので、見晴らしのいい場所ではすぐに見つかるのだが。
そう、そいつとは、火ネズミの事である。火ネズミを捕まえて、火を調達しようと思ったのだ。
俺は、草原を走っている火ネズミを追いかける。
――――技 《ダッシュ》
途中で、俺の存在に気付いた火ネズミは、《技》を使ってスピードを上げた。
「っにゃろ!」
それを見て、俺もスピードを上げる。俺は普通のダッシュだが。
相手は少し大きいぐらいのネズミ。こっちは人間。歩幅が違う。俺はすぐに火ネズミに追いついた。
「捕まえ……あちっ!」
火ネズミに手を伸ばそうとしたが、それは纏っている火によって防がれてしまった。
「引火はしないのに熱いのかよ!」
それは考えてなかった。
ネズミはというと、俺が触ったことで戦闘モードになったのか、逃亡せずにこっちを睨んでいる。
「ん?」
だが、何か違和感を感じた。
あれは、何かをしようとする目だ――――。
――――技・魔法《火の玉》
俺がそう思ったと同時にアナウンスが流れ、視界にメッセージが出る。
間髪入れず、それは飛んできた。
野球ボールほどの火の玉が、かなりのスピードでこちらに向かって来るのを、俺は紙一重で避ける。
「危ねえ……」
顔面スレスレだった。 咄嗟に首を反らさなかったら当たっていた。だが、今の攻撃で目が覚めた。やはり、戦いは相手を侮っていたらダメだ。
俺はいつものように観察するため、火ネズミを見る。――――何故かフラフラだ。
魔法を撃った反動とかか? どっちにしろ今がチャンスだ。
俺は、石斧を握りしめ、距離を詰める――――。
火ネズミが粒子となり砕け散って消えていくのを見つめる。
心の中で、謝罪と感謝をする。これは俺なりに”生”について考えた結果である。俺のために犠牲になってくれて、ごめんとありがとうを忘れないためである。
それから火ネズミも、やはりというかドロップ品がでた。
しかも、マッチ棒だ。
「本当にゲーム仕様が多いな……」
ただ思わぬ形で、念願の火をゲットである。
拠点に戻った俺は、さっそく焚き火の準備を始める。
寝床の近くは、隠れるために葉っぱが生い茂っていて、引火したら危ないので、俺は少し離れたところ……スキルや技の練習に使っている、少し木々が少ない場所に行く。
「よし、ここでいいかな?」
さて、ここからが本番だ。俺は記憶にある焚き火の知識を思い出す。
まず、必要なもの……火種。これは大前提だ。マッチ棒をゲットしたので、これは問題ない。
次に、燃えるモノ……つまり、木の枝だな。これは拠点に使えそうかなと、見つけるたびに拾っていたので結構ある。それに、ここは森だ。いくらでも調達出来るだろう。うん、これも問題ない。
材料はこれくらいか。
次は、手順。
火を点ける → 枝に引火させる? → 終了?
うん……他に思いつかないな……。
「まぁでも、やってみて分かる事もあるしな」
とりあえず、思い出すのはこれくらいにして、やってみよう。
そして、俺は枝を一か所に集める。
「うーん。森に引火したら怖いな……」
いざ、火を点けようとして、俺は考え込む。
とりあえず、地面の枯れ葉は取るか。
…………。
うーん。これでも不安だな。
「あ、そうだ!」
石を周りに並べてみるか。ただそうなると、俺の武器以外の石を使わないといけないから、今ある石だけでは足りないな。拾ってくるか。
…………。
という訳で、枯れ葉を取った周りに、円を描くように拾ってきた石を並べた。それから、その円の中に、木の枝などを配置していく。そして、最後に火を点けた。
パチッ、パチッ、と音を立てながら、木の枝が燃え、煙が上へ上へと昇っていく。
「我ながら、いい出来だな」
俺は、自分で作った焚き火を見て、自分で自分を褒める。
まぁ、それはさて置き、お肉だ! お肉である! やっと肉が食べられるのだ! 久々の隠れ実以外の食べ物だ!
茂みの中から、隠してあったお肉を取り出す。巻かれている葉っぱを丁寧に開けていく。
何の肉かは分からないが、大きいブロック肉から一枚切り出したような見た目の肉である。お店で食べたら結構な値段がするだろう……。ってか、この世界に来る前の生活では、こんなお肉にはそうそう巡り合えない。
俺は、あらかじめ綺麗にしておいた尖った石で、お肉を食べやすい大きさに切り分ける。
切り分けたところで、俺は焚き火の周りにある石の一つに、葉っぱごとお肉を乗せる。焚き火の火が当たらないぐらいのところだ。石焼きである。直接火に当てたら、焦がしてしまいかねないと思ったので、考えた結果、こうすることにした。
ジュージューとお肉が焼ける音を聞きながら、じっとお肉を見つめる。
頃合いを見て、俺はお肉をひっくり返す。素手ではない。お箸でだ。いつか使う日が来るだろうと見越して、空き時間に木の枝を削って作りだしたのだ。決して、まともなご飯が食べたいと思いながら、せめてお箸だけでもと作ったのではない。
「そろそろ良いかな」
俺は、葉っぱごとお肉を石のテーブルに移し替える。
「熱ッ!」
誤って石に触れてしまい、少々火傷してしまったが、お肉のためだ。気にしない。それに火傷といっても粒子が少し出るだけだ。
「いただきまっ!」
と言い終えないうちから、俺は、待ち切れずに口に肉を入れた。
「熱っ! けど……旨い!」
調味料はないので、味付けはしてないが、それでも肉の本来の味だけで十分な旨さだ。
ウサギ肉は、鶏肉に近いと聞いた事があるが、これは牛肉に近い気がする。おそらくこれも、ゲーム的仕様なのだろうが、ウサギを倒して牛肉が食べれるならそれはそれでいい。
「………」
あっという間に、お肉は完食し、俺は隠れ実を齧りながらお肉の余韻に浸る。いつの間にか、空もオレンジ色に染まっている。
あー旨かった。これならウサギと戦っても良い気がしてきたな。まだ、生き物を倒す事に多少の抵抗はあるが、でもこの味は忘れられない。次からは、勝てそうなら積極的に戦っても良いかもしれないな。まぁ、あいつら、俺を見つけたらすぐに襲い掛かってくるんだけど。戦うなら戦うでも、もっと俺自身のパワーアップは必要だ。
それと、今日はドロップ品があるという事が分かったな。最初ウサギが落した時はビックリしたけど、これが分かったことは意外と大きな収穫だ。食料問題は、これで一応解決でいいかな。それにこの世界は、あまり腹も減らないみたいだしな。とりあえず、今の状況をまとめてみよう。
・食料問題 解決!
・寝床問題 解決?
・水問題 未解決
大きな目標は大体こんな感じだな。やっぱり、水の問題の解決が急務だよな。火ネズミとかウサギとかがいるから、近くに水場はあると思うんだけどな。生き物は水がないと生きていけないんだし。あのファンタジー生物たちが、水を必要とするのかは分からないが。いやでも、普通にあるよねお水……。
「やっぱり、森を探索しないといけないな」
探索が必要なのは、頭で分かってはいるんだけど、なんだかんだで、探索してないからな。
うん。明日こそは森を探検しよう。
そう考えているうちに、気が付いたら舟をこぎ始めていた。
なので、俺はまだ意識が在るうちに、寝床である茂みのほうに向かうのだった。
異世界に来て四日目。
今日も太陽が昇る前に目が覚めた。夜早くに寝ているからこれはしょうがない。
周囲を確認し、安全を確認して俺は寝床から出る。
「あ、焚き火は消えたか……」
昨日焚き火をそのままにして寝てしまったが、燃える枝が無くなったのだろう、火は黒い炭だけを残して消えていた。
ってか、考えたら、焚き火をそのままにして寝るのって、かなり危険な行為なんじゃ……。
もし、寝ているときに森に引火していたらと思うとゾッとする。今度からは絶対に消してから寝よう……そう心に決めた朝だった。
いつも通り、朝食に隠れ実を食べ、俺はさっそく探索に向かう。準備も万端だ。
基本、草木が少ない場所を通りながら、近くの木に尖った石で印を付けながら進む。
「うわ。やっぱりいるよなヘビ……」
道中、赤と黄色のしま模様を見つけて近寄ってみたが、ヘビだと分かり全力で来た道を戻った。幸い向こうはこちらに気付いていなかったので、戦闘は免れた。ってか、投擲でヘビに勝てるビジョンが思いつかない。まだ、この石斧でなら戦えるかもしれないが、今の俺の実力じゃあ、ヘビを倒せたとしてもHPバーが半分は持っていかれるだろう。
あ、そうだ。HPで思い出したが、今日の朝、気づいたら少し回復していた。それでも、まだ全快ではないし、お腹と背中の傷も治ってないが、これはこれで吉報である。もう少し謎が解ければいいんだけどな。回復の基準とか、ダメージの基準とかさ。誰か教えてくれないかな……。
と、そんなことを考えながらも、森の中を進んでいく。
「ヴァ―ヴァ―!」
そんな中、不意にあの鳥様の声が聞こえた。俺は声がしたほうに、すぐさま顔を向ける。
赤をベースに、黄色や青、ピンク、緑などの様々な色が混ざった羽を折りたたみ、木の枝で休んでいるカラフル鳥様がそこにはいた。
そんなカラフル鳥様は、俺が見ていることを知ってか、俺を一瞥する。
「ヴァ―!」
そして、ひと鳴き、木から飛び立った。まるで、ついて来いと言わんばかりだ。
いや、気のせいかもしれない……。
が、俺にはそう思えた。
ただ、こういう感は割と当たるものだ。俺は、カラフル鳥様を追いかけることにした。
「おいおい。この中を通るのか」
俺は、目の前の藪を見て呟く。
カラフル鳥様は飛んでいるからいいが俺は歩きだ。でもまぁ、着いて行くと決めたしな。俺は意を決して藪の中に足を踏み込んだ。
「ヴァ―ヴァ―!」
カラフル鳥様は、藪を抜けた先にある木に止まっていた。まるで、俺を待っていたかのように。
そして、俺が来たのを確認したのか、またその木から飛び立つ。
これは、偶然か。いや、本当に俺をどこかへ導いているのかもしれない。
カラフル鳥様に着いて行くこと30分。そんなに距離は歩いていないのだが、茂みなど障害物が多いところをカラフル鳥様が選ぶので、結構時間が掛かった。
だが、3度目の茂みを掻き分けて抜けた先、それは現れた。
水だ――――。
そう。俺が求めていた念願の水辺である。
「………」
「ヴァ―!」
カラフル鳥様のひと鳴きで、俺は我に返る。驚き過ぎて固まっていたようだ。
そんなカラフル鳥様は、俺を一瞥した後、森の中へと消えていった。
まるで、自分の仕事はここまでだ、と言わんばかりに。
「ありがとうございます」
俺は去っていくカラフル鳥様を拝みながら、お礼を言う。
やはり、着いてきて正解だった。間違いなくあの鳥は、この世界に来てからの俺の恩人である。あ、鳥だから恩鳥か。今度会ったら絶対に、隠れ実をお供えしようと、俺は心に決めるのだった。
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