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第1話 俺とドラゴンと鳥


何処どこだよここ……」

 気が付いたら知らない場所にいた。

 どうしてここに来たのかも、どうしてここにいるのかも、全く分からないし、思い出せない。


 俺は、周りを見渡す。足元に生えている雑草は地平線まで広がっている。


「マジで、何処なんだよ……」

 そんな俺の呟きも、風によってすぐに消えていった。


「ん?」

 首を回して辺りを眺めていると、先程から俺の視界に映るものがあった。

 俺が首を動かすと同時にそれも一緒に動いている。


 ゆっくりと、俺は視界の左端上にある”それ”に目を向けた。


「はっ?」

 そこには、ゲームでよくあるHPバーのようなものがあった。


「いやいや、そんなはずは無い」

 俺は首を激しく振ったり、瞬きをを何回もするも、HPバーが消えることはなかった。


「……」

 一呼吸おく。

 そして、俺は自分の腕を思いっきりつねった。


「痛たたたたっ!!!」

 どうやら、夢ではないらしい。


「マジか…」

 俺は、改めて視界の隅にあるHPバーを見てみる……うん。見れば見るほど、HPバーにしか見えない。流石に数値とかは書いてないが、緑のバーが一本確かにある。


「……」


 うん。これはあれだな。まだ結論付けるのは早いかもしれないが、どうやら俺は異世界またはゲームの世界に来てしまったらしい。


 自分で言ってて、だいぶ現代の小説やゲームに毒されているのかが分かる。


 まぁ、こうなったら仕方がない。

 自分なりにこれからの事を考えていけばいいだろう。日本人の適応力をなめんなよだ。大抵のことは、どうにかなるものだ。ほら確か、沖縄の方言で、「なんくるないさー」だ。



 差しあたって、小説とかの主人公がこういう時どうしていたかを、真似ていけばいいだろう。

 幸いというか、こういう異世界転移・転生などの、ネット小説を読むのは結構好きだった。


 という訳で、まずは、状況確認をしよう。大体の小説の主人公たちは、皆やっていた気がする。


「初めは、持ち物からかな?」




 …………。




「よし! 次に行こう」

 理由は、察してくれ。


 服装は……白い麻のTシャツに、茶色い麻の長ズボン、茶色い革靴だ。

 どこかのRPGの初期装備みたいだが、それよりも悪い気がする。

 というか、麻の布なのかどうかも分からん。布の種類なんて、気にしたことなかったし。


 結論。持ち物……詰んだ。



「いやいや、まだわからんぞ」

 持ち物がダメでも、他に望みが残っているかも知れないからな!

 俺は一縷の望みをかけて、他の状況を確認していく。


 場所・・・見渡す限り緑一色の草原。

 時間・・・おそらく朝方。これから暑くなる模様。

 体力・・・20代後半で、毎日のチャリ通勤30分のみ。



 結論。



 ほぼ詰んだ。


 かろうじて良かった点は、メタボ体系では無いことぐらいか。この状況で、ろくに動けないとかだと完全に詰んでいたからな。時間帯も考えようによっては、朝方だとまだマシなほうか…。うん。ポジティブに考えよう。



「さて」

 状況確認も済んだ事だし、次は…目標あたりを決めるか。


 とりあえず必須なのは、水と食料の確保だよな。あとは寝床か。近くに民家や村があればいいんだが、見渡す限り何もないもんなぁ。やっぱりまずは、草原を抜けないとな。


 目標 草原を抜ける。

    水と食料の確保。

    寝床の確保。


「よし!」

 そうと決まれば、さっそく歩き始めるか。









 歩き始めて30分程。一向に草原を抜けない。民家どころか高い木の一本も見つかりやしない。








 さらに30分。まだまだ地平線は緑一色だ。加えて、太陽もだんだんと日差しが強くなってきた。これは、早く何処か木陰でも見つけないと、熱中症の可能性が出てくるな…。



 コツン――。


「おっと!」

 一時間程歩いていると、だんだん足も上がらなくなってくるのか石に躓いた。

「ん?」

 ふと、俺がつまづいた石を見て思った。

 これは、武器になるのでは……と。


 仮に、今日中に民家が見つからずに、食料を調達することになったとして、武器があるのとないのとではだいぶ違うだろう。というか、必須アイテムに近い。そもそも人間が素手で野生動物にかなうはずが無いのだ。今まさに動物に襲われたりしたら、俺は間違いなくやられてしまうだろう。

 改めて自分の状況に愕然とする。本当はいつ動物に襲われてもおかしくないのだ。

 この一つの石が、俺に気づかせてくれたのかも知れない。


「考えすぎか…」

 いや、でも、そうじゃないだろう。これからは、草原だからといって気を抜かないで歩いていこう。

 あと、石も見つけたら拾っておこう。この先何があるかは分からないのだ。



 持ち物・・・ただの石 ×1

 ただの石 詳細:こぶし大の角張った石。



 この世界がゲームなら、こういう表示がされそうだ。

 それから道中、石を見つけたら拾って歩いた。



「おお! あれは!」

 そんなこんなで、歩くこと1時間程。

 ようやく、視界に木々が見えてきた。歩き始めて2時間程。この炎天下の中、普段ほとんど運動しない身としては中々にキツい。だが、ようやく見つけた木々だ。あそこまでは頑張らねば。


 程なくして、俺はようやく一本の木にたどり着き、その木陰でしばし休憩をするのだった。








 10分程休憩した頃だろうか。ボーっと景色を眺めていると、俺がもといた方角の空に黒い点が見えた。


 それを目で追っていると、その影はどんどん大きくなり、こちらの上空に迫ってきた。


 徐々に、そいつの正体があらわになってくる。


「はっ!?」

 俺はそいつの正体に目を疑った。


 端的に言うと、それはドラゴンだった。


 大型旅客機ほどあるその巨体は真っ赤に染まっており、頑丈そうな鱗がびっしりと尻尾の先まで並んでいる。口にはつららのように尖ったキバが所狭しと並び、巨大な四本の手足は、牛くらいなら簡単に鷲掴みに出来るであろう。

 そのドラゴンは、背中に生えた大きな翅で滑空するようにこちらに向かってくる。



「………。」


 今、一瞬。ドラゴンと目が合った気がした。

 俺は恐怖のあまり身動きひとつ出来ない。


 だが、ドラゴンはどんどん俺に近づいてくる。


 もう、すぐそこの距離だ。


 そして、ドラゴンの口がゆっくりと開いた。



 食べられる――――。


 俺は恐怖のあまり目をつぶった。


 直後、物凄い風が吹き荒れた。







「……助……かった……?」



 恐る恐る目を開けながら俺は呟く。

 どうやら俺は生きているようだ。ドラゴンの胃の中とかでもない。


 ふと、上を見てみると、俺が休んでいた木の上部が無かった。先程まで俺に木陰を作っていた葉っぱや枝が無くなっていたのだ。

 振り返ると、ドラゴンはもう遙か遠くにポツンと見えるだけだった。


 どうやら、ドラゴンは俺ではなく、この木を食べに来たらしい。


 そう思うと、全身の力が抜けた。

「よかったぁーー」








 ドラゴンの危機が去ったあと、俺は少し放心……休憩して、再び歩き出していた。ドラゴンの危機は去ったが、まだ根本的な解決はしてないからだ。今日中にやらねばならない事がありすぎる。食料も、水も、寝床もまだ見つけていないのだ。

 それと、さっきの出来事で分かったことが、一つあった。いい知らせではない。凶報である。それは、今ここ、俺がいる場所が地球ではないという事が確実になった事だ。

 まだ、心のどこかで、ここは地球のどこかと希望を持っている自分がいたが、それは、先程の出来事で完全に希望が潰えた。あんな生物がいたら、誰でもここが地球でないことぐらい分かる。歩きながら冷静に考えてみて落ち込んだ。




「ふぅー!」

 歩き始めて15分。漸く木々も多くなってきた。もう草原地帯は抜けたとみていいだろう。


「ヴァ―! ヴァ―!」


「!?」

 歩いていると、突然背後から、何かの鳴き声した。とっさに俺は振り返り身構える。


「ヴァ―! ヴァ―!」

 声の主は、カラフルな鳥だった。地球で見たことあるようで無い鳥だ。色合いはオウムみたいだが、体のフォルムは違う。

 そいつは、俺の上空を横切り、それから近くの木に止まった。


「まったく、脅かすなよな……」

 それにしても、変な鳴き声の鳥だ。見た目はカラフルで綺麗なのに。見かけによらないんだな……人も動物も同じってことか。


 その鳥は、枝の上をトコトコと器用に歩き、何やら枝を一本一本つついて確認し始めた。やがて鳥はお気に入りの枝が見つかったのか、一度立ち止まる。そして、くちばしを器用に使い一本の細い枝を折った。


 次の瞬間、鳥の折った細い枝が、みずみずしい果実に”変わった”。


「ん……?」

 俺は、今日何度目か分からない、目の前の光景を疑う。


「枝が果実に変わった……?」

 驚く俺を気にせず、鳥はそのまま果実を食べ始める。


 俺は改めて、今、鳥がいる木を注意深く見てみるが、やはり果実などはついていない。先程から見かけている木だ。確かドラゴンが食べていった木もこれと同じだったはずだ。というか、まだこの世界で、この木しか見かけていない。枝ぶりが少し高めにあり、幹はごつごつではなく、さらさらしているので、木登りには向かない木だ。

 俺としても食料を探している身。木に果実がついていないかと逐一確認している。


 そんなことを考えていると、鳥がまた枝を一本一本確認し始めた。


 俺はそんな鳥を、見逃すまいと鳥がする動作の一つ一つを注視する。


 ちょっと太い枝の部分を歩く。細い枝をつつく。また歩く。細い枝をつつく。歩く。つつく。歩く。つつく。歩く。つつく。


「ん!?」

 気のせいかもしれないが、今一瞬、鳥がつついた枝にノイズが走った。昔のテレビで電波が悪いときに起こるあれだ。

 鳥も他の枝に行かず、再度その枝をつつく。


「……!」

 つついた後、やはり、小さくだがその枝にノイズが走った。

 鳥もそれがアタリだと気づいたのか、先程と同じように、嘴で細い枝を負った。


 すると、次の瞬間、細い枝がやはり果実に変わった。


「よし!」

 これで、食料問題がとりあえず解決すると思うと、ガッツポーズが出た。


 鳥は俺の声に驚いたのか、果実を咥えて飛んで行ってしまったが、俺はその後ろ姿を見ながら、心の中で感謝をする。


 ありがとう。お前のおかげで、俺は生きられるかもしれない。





 と、思ったのもつかの間、俺に新たなる問題が浮上していた。


「どうやって果実を取ろうか……?」

 そう、先程も説明したと思うが、この木、表面の樹皮の部分はつるつるしていて、簡単には登れないのだ。プラス、それを狙ったかのように、枝は高いところからしか分岐していないのだ。

 植物も植物なりに、進化しているという事だろう。


「うーん。登れないとなると、長い棒とかあればいいんだけどな……」

 見渡しても、そんな物は無いし……。


「あ、そうだ!」

 俺はあることを閃き、ズボンのポケットから、先程見つけるたびに拾っていた石を取り出した。最も、こぶし大の石でも、それなりに重量はあるので、拾ったのは四つだけだが。


 そう、俺はこれを投げて果実を取れないかと思ったのだ。あのカラフル鳥様の嘴で折れるぐらいの枝だ。石を投げて、一回とは言わないが何回か当てれば、実が落ちるだろうと思ったのだ。



「よし、まずはノイズが走る枝を探す事だな」

 そう思って、俺は手をお椀型にして、四つの石を持った。石は石でも俺にとっては兵士たち。頑張ってくれよ。


「せーの!」

 自分で掛け声をかけ、俺は手のひらにある四つの石を、下から上に向かって投げた。


 兵士たちは、そのまま重力を無視して上昇する。そして、思い思いの方向へと散らばり、木の枝に突撃していく。俺は、その石たちの様子を注意深く凝視する。


「あった!」

 一つの枝にノイズが走った。


 どうやら、あいつが果実が隠れている枝らしい。


 俺は、落ちてきた四つの兵士たちを再び拾う。

 今度は狙いをつけて、一つ一つの兵士たちを投げて突撃させるのだ。


 一つ目、外れた。

 二つ目、当たった。再びノイズが走るも、枝は果実に変わらない。

 三つ目、当たった。が、結果は同じ。

 四つ目、外れた。


 俺は再び兵士たちを拾う。そして投げる。


 この動作を何回も繰り返す。地道な作業だが、今日の食事、果ては俺の生死が掛かっている。俺は必死で石を投げていた。

 すると、枝に変化が出てきた。ぼんやりだが、果実の姿が見えるようになってきたのだ。どんな原理で、隠れているのかは分からないが、おそらくノイズが剥がれてきたと解釈していいのだろう。

 先程まで完全に枝にしか見えなかったものが、今じゃ半分くらい果実が見えている。


 果実が見えていることで、投げる時も狙いやすくなっている。


「もうちょっとだ……」

 俺は、これで終わりにしてやると、思いを込める。一球入魂だ。

 そして俺は、果実に向かって石を投げる。


――――――!!!


 石は、鈍い音を立てながら果実に直撃する。果実は反動で揺れる。まるで、スロー映像を見ているかのように、右に左に。

 ダメか……と、思ったその時、果実の房の部分が切れる。そして、果実は重力に従い落ちてくる。


 咄嗟に体が動いていた。まるで、落ちてくるお姫様を抱きとめるように、俺は果実を大切にキャッチした。それは、石を投げることちょうど40回目だった。



――――skill【投擲】を獲得しました。スキル初回獲得により、自身のステータスが閲覧できるようになりました。ご使用の際は、「ステータスの閲覧」と発声してください。


 そのアナウンスは、食料を取って安心した俺の頭の中に響くのだった。



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