第9話 宇枝悠の目覚めはブラとショーツと共に
「・・・・・・知らない天井だ」
目を開けた俺の視界に映るは、木造の天井だった。
広さは大体八畳程だろうか。
俺が今横たわっているベッドに、本棚、タンス、化粧台、テーブルに椅子が置いてある。
特に不審な所は無い、いたって普通の部屋だ。
問題は何で俺がこんな所に居るのかという事なのだが。
「何があったんだっけか・・・・・・?」
頭が少しボーっとするが、このまま寝続けていると更にボーっとしそうで、俺はベッドで上体を起こす。
そして徐々に思い出してきた。
なんか黒い光が出て力が湧いて来て、そして襲ってきた熊をボコボコにしてやったのだ。
「ボコボコにしたっつーか、なんか光が飲み込んだみたいな感じだったけどな」
思わず右手を見てしまう。
手で貫いて、どうやったのかまでは覚えていないが、確かに俺はあの熊を消し去った。
アレはいったいなんだったのだろうか?
「・・・・・・」
何となく目を閉じ、集中し、あの黒い光が出た時の感覚を思い出そうとする。
だが、特に何も起こらなかった。
「・・・・・・考えても判んねぇんなら今はいいか」
どうすることも出来ないし。
問題は今だ。
此処が何処なのかという事だが、パッと思いついた可能性としては、気を失う直前に視界に入った女。
熊に襲われていたあの娘か、あの娘が住んでいる村や町の住人にでも保護されて運ばれたって所か。
素性が知れない不審者にも見えない事は無いが、少なくとも拘束されてはいないみたいだし、悪い事にはなっていないだろう。
ベッドから降りて、自分の姿を確認する。
気を失うまで着ていた学校のブレザーではなく、如何にも素朴な村人というような服を着ていた。
そーいや、熊と戦りあった時に転がったり燃えたりしてたからな。
色々ボロボロだったから着替えさせられたんだろう。
誰が俺を着替えさせたのか若干気にならなくもないが、それも今はいいだろう。
「・・・・・・荷物は無し、か」
この部屋じゃない所に置いてるのか、そもそも持ってきてないのか。
あ、ブレザーも此処に無いな。
何処かにしまってるのか?
此処がマジモンなファンタジー世界である以上、別に着る必要は無いのだが、それでも元の世界に戻った時に制服が無いのは少し困る。
取りあえず部屋を探すか。
「つっても、タンスくらいしか調べるとこねーけど」
服をしまうなら普通にタンスだしな。
学校の制服は、黒いブレザーに白いワイシャツ、赤ネクタイにグレーのスラックスだ。
靴の指定は特に無いから、部活で使うテニスシューズを履いている。
靴は無事だから変えられてないのだが、この村人風な服装でテニスシューズは微妙な組み合わせだな。
「えーと、制服制服・・・・・・」
タンスの引き出しを開けると、黒い布が目に入った。
コレか?
手に持ち、取り出してみる。
「ありゃ?」
どうやら違うらしい。
つか、服じゃないようだ。
なんか隣り合わせで黒い布が4つ並んでおり、それを纏めて掴んでしまったようだ。
しなやかな手触りが手から少しこぼれ、指に引っ掛かる形で、2つの黒い布がばらけてその正体が露わになる。
黒いブラジャー。
黒いショーツ。
ブラとパンツには可愛らしくリボンやレースが付いており、コレが女物であることが窺える。
・・・・・・ブラとパンツな時点で高確率で女物だろうが。
いや、確か男モノのブラとかあったような話を聴いたことがあるが。
俺がそんなどうでもいい知識を記憶から掘り起こしていると、
――――――部屋の扉がガチャっと開かれた。
扉を開けて部屋に入り込んだのは、熊と戦っていたあの黒髪の娘だった。
俺を見て少し驚いた顔をし、そして少し安堵したような表情になる。
この娘の前でぶっ倒れたからな、もしかしたら少し心配をかけたのかもしれん。
大丈夫と思わせる様に、俺は軽く手を振ってみた。
何故か怪我も治ってるし、もしかしたらファンタジー世界によくある魔法でも使って治したのかもしれないな。
そんな事を考えていると、女がなにやら固まっていた。
はて、いったいどうしたのか?
女の目線は俺の手に向いている気がするが。
チラリと視線を動かし、自分の手を視てみる。
おかしな所なんて何もない。
ただ黒い布が指に引っ掛かっているだけだ。
黒いブラジャーと黒いショーツが。
「・・・・・・・・・・・・」
あ、もしかしてコレじゃね?
この娘のモノなのかもしれない。
だとしたら俺は今、この娘の下着を持っていることになる。
漁っていたとか思われてるのか?
だとしたらそれは大きな誤解だ。
だって俺は元々着ていた制服を探していただけなんだし、悪気は無い。
「ま、落ち着け」
誤解はちゃんと解かなければ。
まず宥めて、1から順に説明するとしよう。
俺は説明に入ろうとするが、女はニッコリと微笑みを浮かべて近づいた。
「良かった、目が覚めたのね」
そして穏やかな声色でそう言った。
どうやら説明するまでもなく状況を察してくれたようだ。
空気が読める娘だな。
「ああ、おかげ様でな。アンタが俺を此処に?」
「私がっていうか・・・父さんとか母さんとか、村の人達がね」
そうか、やっぱ村が近くにあったんだな。
「あんた3日も寝てたのよ」
「マジで?」
女は「ホントよ」と頷く。
マジか、そんなに寝てたのか俺は。
3日も寝ていたという認識が働いたせいか、急に腹がデカい音を立てて鳴り響く。
時間の経過を実感したら腹減って来たな。
俺の盛大な腹の虫を聞いて、女はクスリと笑う。
「3日も寝たきりじゃ、お腹も空いて当然よね。直ぐに何か作ってあげるわ。状況を話すのは食事をしながらにしましょう」
「そいつは助かる」
どうやら食事にありつけるようだ。
今の状況が気にはなるが、空腹を満たすのが先だ。
女に続いて部屋を出ようとするが、何故か女は部屋から出ようとしない。
ただ微笑みを浮かべて立っているだけだ。
何だ?
「まぁ、それはそれとしてね」
「うん?」
優し気な目をして微笑んでいた女の目付きが一転、とても鋭いモノに変化した。
「いつまで私の下着握り締めてんのよッ‼‼」
怒声が轟き、顎に強烈な衝撃が走ったと感じた時には、俺は宙を舞っていた。
そして遅れて顎に痛みが走り、状況を理解した。
それはそれは見事なアッパーだった。