第69話 宇枝悠の"1人目"の仲間
「それじゃあ・・・・・・何か色々とお世話になりました」
俺が旅立ちを決めた翌日の朝。
村長宅の前で、見送りに集まってくれた村の皆に頭を下げた。
「ほんの数日じゃったが、随分濃い数日を送った気がするのう。何年もこの村に居た気さえするわい」
「7日居て3日は気絶してたんで、実質4日間しか接してない筈なんですがね」
それでも言いたい事は分かる。
俺にとっては異世界での生活は全て新鮮でとても濃い一週間だったが、それはこの村の人達も同じだったのだろう。
サクラがモンスターに襲われるわ、異世界人の俺が運ばれてくるわ、ラッセルが豹変して村人を襲ってサクラを誘拐するわと、サクラソウ村の人達にとっても濃い一週間と言える。
そんな濃い数日を過ごした村を離れるとなると、やはり少しばかり寂しくなってくる。
「名残惜しくはあるけど・・・・・・」
「別に今生の別れでもないし、一段落したらまた此処に来ますよ」
菊之助さんの日記を読んだ感じだと、そう簡単に地球へ帰る方法が見つかるとも思えないし。
仮に見つかったとしても、直ぐにバイバイはあまりにも薄情というもの。
その場で決めなければならないという状況になってしまえば分からないが、極力は別れの挨拶くらいはするつもりである。
「ラッセルも悪いな、馬車で送って貰っちまって」
「別に構わないよ。僕は町に帰るだけだからね」
王都を目指すにあたり、先ずはラッセルが住む町であるアセビタウンまでは、本人が帰る事もあり馬車で送ってくれるそうだ。
そこから先は町に着いて、次の町へ馬車等を使って行く行商人や旅人がいれば同行させてもらう感じ。
いなければ徒歩になるな。
この世界に慣れていない身としてはゆっくりと歩いて見て周りたくもあるし、馬車でサクッと移動したくもある。
「中々に悩み所だな」
「まぁ、結局は町に着いてからの状況次第だけどね」
見送る皆に手を振りながら、ラッセルと共に村の出入り口に止めている馬車へと向かう。
そうなんだよな、結局アセビタウンに着いてからじゃないと状況も分からねーし、俺の旅が楽になるかどうかは状況次第だ。
(にしても、サクラは出てこなかったな)
まだ寝ているのか、見送りの中にはサクラの姿はない。
オッサンもまだ帰って来てないから帰ってくるまでは待とうかとも思ったが、朝の内に出れば徒歩でもアセビタウンの次の町くらいには夜までには着けるとの事で、早めに出た方が良いとはオルトンさんとヒナギクさんの案だ。
だから早朝に旅立とうとしたのだが、サクラは起きれずに寝ているらしい。
この世界に来て一番付き合いのある奴だったから挨拶くらいはしたかったのだが、この村にはその内また戻ってくるつもりだし、無理に起こすことはしなかった。
「いや、でも挨拶くらいはしたかったな」
「何がだい?」
「サクラだよサクラ。いくら今生の別れじゃないっつっても見送りくらいしてくれてもよくね?」
チャックとモニカもいなかったが、チャックはまだ診療所でモニカもおそらくそっちだ。
今のあの二人は惚気が非常に鬱陶しいので暫くは会わなくてもいいだろう。
寧ろ再会したときに仲が進展しているのか、あるいは破局しているのか、どっちに転んでいるのか若干楽しみですらある。
そんなピンク二人は別にいいとしても、一番付き合いのあるサクラがいないのは・・・・・・。
「何かこう・・・上手く言えねぇんだけど、ちょっとモヤるっつーか」
「モヤる?」
「モヤモヤするっつーか・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
この世界では微妙に意味が通じにくいらしい略語にラッセルは納得した様に頷いた。
「あまり気にしなくてもいいんじゃないかい。どうせ直ぐに出くわすだろうし」
「いや、その内また村に戻るつもりだけどよ、そんな直ぐに帰ってくるつもりもねーよ?」
「そういう事じゃないんだけど・・・・・・まぁ、いいか」
ラッセルは「どうせすぐ分かるし」と、何か面白げに此方を見てくる。
「何だよ?」
「いやいや、別に」
「別にじゃねーよ、何なんだよ?」
「いやいやいや」
意味深に笑うラッセル。
・・・・・・マジに何なんだ?
止めてある馬車に着き、ラッセルは馬を動かす手綱を握る為に運転席のある箱型四輪馬車の前方へ。
・・・・・・・・・・・・説明なしかよ。
何か良いように転がされてる感じに不満を抱きながらも、馬車に乗りこもうと戸を開けた。
昨日の夜の時点で、村の皆の協力も有り荷物は纏まっている。
布や革で作り込まれた、肩掛けのボンサック・・・・・・と呼ぶには手作り感溢れる旅人の鞄だ。
元々持っていたテニスバッグと中に入っていた荷物の大半はオルトンさんに預かって貰い、旅に必要な物は村の皆が分けてくれた。
着替えやらポーションやらホント何から何までお世話になった。
俺が元々持っていたやつでバッグに入れたのは、精々スポーツサングラスとジャージ、筆記具やノートにメモ帳、ハンカチとポケットティッシュ、暇つぶしに文庫本が2冊とトランプ、必要かどうかわからないが手元にないと何か落ち着かない現代人のせいか念の為スマホと充電器、後は携帯食として持ち運びやすくてスペース取らなくてそこそこ腹も膨れるカロリーメイトと板チョコと喉飴くらいか。
ポテチとクッキーとガムは村の子供たちにあげた。
嵩張るし、賞味期限的もあるし。
尚、フーセンガムが子供達に意外と好評だった。
割と大きいとはいえバッグにあまり嵩張らない、或いは携帯食等の消耗品くらいしか入れておらず、ラケットやらの部活用品は流石に置いて行かざるを得ない。
この先この世界で使うかどうかも分からないし、もし何らかの理由で必要になったら取りに戻るなり、村から送ってもらえばいい。
・・・・・・距離にもよるから、元の世界みたいに数日でとはいかないかもだが。
同じ様な理由でバイク等のキクノスケさんの遺産も置いている。
燃料の問題もあるし、この世界の技術力等も俺が把握していないのもあるから、ああいったモノがこの世界にどんな影響を与えるか分からないし。
必要最低限のもの以外は基本は現地調達だが、最初くらいはある程度持っていた方が良いとの事で、バッグはそこそこ膨れている。
馬車内はそこまで広くはないが、ラッセルが馬を操作する為に車体の前に座っている為、車内に座るのは俺一人。
だから適当に荷物を転がしてても問題ないと、バッグを奥へ押し込んだ。
「ちょっと、前に置きなさいよ」
「ああ、すまんすまん」
言われて荷物を座席の前部分に置く。
そして俺は馬車内に乗り込み、苦情を言ってきた奴の隣に座った。
・・・・・・・・・・・・いや、待て。
「何故いる?」
隣りに座っている奴を思わず見た。
そこにはサクラがいた。
見送りに来て待ち構えてたのかとも思ったが、サクラの前には彼女の荷物らしきリュックが置いてある。
此処にそれがあるという事は・・・・・・。
「お前も旅に出るのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
そんなことを言ったら何か睨まれた。
何故だ。
「あー・・・・・・じゃあ何だ、俺の旅に付いてくるのか?」
「・・・・・・そうよ」
まさかなと思い言葉を口にしたら、そのまさかだったよ。
「まぁ、私自身いつか旅に出たいとは思ってたし、今まで何か出ていくタイミングが掴めなかったっていうか、いざ旅に出ると父さんが煩そうっていうか、居ない今が丁度良かったっていうか、アンタが旅に出るところで一緒に行った方が自然に出ていける感じだったっていうか・・・・・・」
「お、おう」
いったい誰に対しての言い訳なのか、妙に捲し立ててきた。
発してくる言葉にあまり詮索してくるなと圧を感じる。
「それに、約束したでしょ」
「約束?・・・・・・ああ」
約束という言葉に最初は何のことを言っているのか分からなかったが、思い当たることはあった。
三日ほど前の夜、夜風に当たるために外へ出て、村内の石造りの橋の上でサクラと話していた時に。
『冒険者をやるつもりなら、私が色々教えてあげるわよ。少しだけ先輩だしね』
『お? それじゃ、その時はお願いしようか。色々レクチャーしてくれ』
そう言っていたし、俺も言った。
約束と呼べる程のものではないのかもしれないが、確かに色々説明・・・・・・教えてくれと頼んだ。
それでわざわざこの世界初心者ともいうべき俺の旅に同行してくれるということか。
「お前も律儀だな」
「うん、まぁ・・・・・・」
そう言ったらなんか微妙そうな顔をされて目を逸らされた。
何故だ。
「まぁ、でも、正直助かるわ。色々オルトンさん達から昨日教わったとはいえ、やっぱ俺にとっちゃ異世界だから不安はあるからな」
「・・・・・・そ。じゃあ、しょうがないから旅をしながら色々教えてあげるわ」
「おー、よろしく」
今度は柔らかな微笑を浮かべてきた。
・・・・・・何か今日は表情の変化が激しいな。
せっかく今は良い状態なら下手にツッコむと藪蛇になるかもだし、あまりその辺のことは口にしないでおこう。
そんなことを考えていたら何となく運転席にいるであろうラッセルが嘆息しつつ肩を竦めたような気がした。
だから何故だ。
そんな疑問が解消されることはなく、ラッセルは手綱を振るい馬を走らせた。
後1話で終わりかな




