第68話 宇枝悠の旅の決意
「・・・・・・は? 明日旅立つ!?」
時は日が落ちようとしている夕方時。
夕飯をみんなで食べようと、オルトンさん家に帰ってきた俺に、昼寝から目覚めてヒナギクさんと一緒に夕飯の買い出しから戻ってきたサクラがそんな声を上げた。
「随分急に決めたのね」
サクラ程の声は出さなかったが、ヒナギクさんも少し驚いた様子だ。
オッサンと一緒に近くの冒険者ギルドへ赴き魔族の件を報告したヒナギクさんだが、オッサンは逃げた魔族がまだ周辺にいないかどうかを確認・発見したら討伐する任務を受けたようで、途中で分かれてヒナギクさんだけ先に帰ってきたらしい。
近場を調べるだけだから明日には帰って来るらしいが、手間をかけさせて悪い事をしたかもしれん。
「オルトンさんに聞いてみたら、そこまで用意に手間はかからないらしいからな」
「だからといって、かなり急だと思うけど・・・・・・」
俺に「オルトンさんとかに相談してみたら」と助言をくれたラッセルが、少しばかり呆れた声を洩らす。
日も暮れてきて、今から町に戻るのも遅いだろうとオルトンさん達に説得されたラッセルは、今日は此処に泊まるらしい。
「いや、な・・・・・・あんまりのんびりしすぎたら旅立つタイミングを逃しそうというか、何時まで経っても村でダラダラしてそうというか」
「何じゃ、世話になることに負い目でも感じ取るのかの?」
「それも無くは無いんすけどね」
オルトンさんは「気にしなくてもいい」と言ってくれてはいるが、やはりいつまでも世話になりっぱなしは問題だろう。
村に滞在していればいつまでも此処に居そうな気がするし、旅の準備にそこまで手間がかからないのなら、時間を掛けていても明日旅立っても違いなんてない。
なら、早い方が良い。
この世界に有るのかどうかは知らんが、日本には『思い立ったが吉日』なんて言葉もあるし。
・・・・・・いや、旅立つの明日だけど。
「それに、まぁ・・・・・・せっかく異世界なんて所に来たんだから、アッチコッチ見て回りたいってのもありますね」
「観光目的もあるという事か・・・・・・そういえば、キクノスケもそんな感じだったのぅ。異世界人にとっては、やはりこの世界は珍しいのかの?」
「お父さんもよく冒険とか言いながら、色んな所に旅に出てましたしね」
魔法なんてものがある時点で珍しいです。
地球だと空想上のモノでしかないし。
・・・・・・いや、俺が知らないだけでもしかしたら存在してる可能性もあるな。
日本でも大昔に陰陽師とかいて悪霊とか妖怪とかを払ったりしてたとかなんて話があるし、現代でもホラースポットもある。
まぁ、どこまで本当なのか分からないが、地球に戻ったら調べてみても面白いかもしれないな。
◆◆◆
夕飯を食しながら、対面に座る悠が横にいるオルトン村長に旅の心得的な事を彼是聞いているのを、サクラはボンヤリと眺めていた。
(明日か・・・・・・)
何となく、ホントただ何となくだが、まだ暫くはこの村に滞在するものと思っていた。
隣町の冒険者ギルド支部で冒険者登録し、サクラソウ村を拠点に徐々に活動範囲を広げていき、そしていつかこの村から自分の世界へ帰る為の旅に出るんだろうと、漠然と考えていた。
そして――――――
「サクラはどうするんだい?」
「――――――・・・・・・え?」
ボケっと考え込んでいたら、隣に座っているラッセルからそんな言葉を投げかけられて意識を戻す。
「・・・・・・えーと、何が?」
「いや、悠が旅立とうとしてるけど、サクラはどうするのかと思ったんだが。サクラも冒険者だし、いつかアルフォンスさんの様な冒険者になって、『光の勇者』の様な冒険をするのがサクラの夢だったろう?」
「・・・・・・よく覚えてるわね」
「君と同じ、冒険譚好きの幼馴染みだからね」
小さい頃に語った話だが、それでも未だに覚えている幼馴染みの存在に若干の気恥ずかしさがある。
冒険譚に出てくる勇者の様な旅をする。
そんな夢を子供の頃から持ち、ラッセルもまた同じ夢を抱いていたが故なのだろうが。
「でも、"どうする"ってどういう意味よ?」
「サクラは冒険者ギルドに登録して依頼をこなしたりしてるけど、活動範囲はこの近辺だろう。アルフォンスさんの様な冒険者になるのなら、もっと外に行かなきゃダメだろ? いつかはと思っているのだろうけど・・・・・・悠が旅に出ることは、サクラが外に旅立っていく切っ掛けには成るんじゃないかと思ってね」
「・・・・・・旅、か」
父の様な冒険者になりたくて隣町の支部で登録手続きをして、故郷であるこの村を拠点に地道な依頼をこなしてきたが、隣町から先に行くことはあまり無い。
いつかは旅に出たいと思っていたが、中々踏ん切りがつかずサクラソウ村に居続けているのも確かである。
確かにそう考えると、悠が旅に出るのはサクラ自身が旅立つ切っ掛けにも――――――
「――――――って、それって悠の旅に付いて行けってこと?」
「さあ? 別にそうは言わないけど、それもアリなんじゃないかい。一行を組んで旅に出るなんて、冒険譚の定番だろう?」
「・・・・・・・・・・・・」
どこか揶揄う様なラッセルの表情に、サクラは面白く無さそうな顔をした。
何か「僕は君の気持には気づいているよ」的な、分かってる風な言い様が若干鬱陶しい。
しかし、悠の旅に付いていく事に対して、特に抵抗感も無い事にサクラは気付かなかった。
そしてそんなやり取りを、ヒナギクが見守っていた事にも。




