第67話 宇枝悠の旅の準備
「ふむ。確かにサクラソウ村からトロンコまでは三ヶ月ほどかかるな」
ラッセルから聞いた移動距離と時間について相談する為に、俺は村の復旧作業に戻るラッセルと別れて、診療所へとやって来た。
オルトンさんがチャックの容体を診る為に此処に来ているからな。
まさか一日で二度来るとは思わなかった。
「てことは、やっぱ馬とかいるのか」
「村の馬を貸しても良いのだが、そもそも悠殿は馬に乗れないのではなかったかの?」
「あ、そうだったわ」
バイクの存在が頭を過ぎったが、流石に燃料が持たないだろうし、なくなった後の補給の当てがない。
アレは置いといた方が良いだろう。
「となると、やっぱ歩きかー・・・・・・」と考えていたら、オルトンさんの診察を受けているチャックが言った。
「町にいる商人に乗せてもらうとか、王都まで馬車出してるとこもあるんじゃねーか?」
「成程」
「まぁ、金かかるけどな」
「・・・・・・ちなみに、どのくらいの金額で?」
「馬車出してる町との移動距離とか、護衛を雇ってるかどうかとかにもよってピンキリだけどな。近場の町から王都までだと・・・・・・まぁ、安くて20万くらいじゃねーか?」
「全然手持ち足りねーな・・・・・・一昨日の素材の売り上げくらいか」
アレも4人で山分けしたから俺の所持金だと、王都まで直通で行くには最低でも後15万は無いと馬車にも乗れないって事か。
「・・・・・・いっその事、オッサンにでも頼んでみるか?」
「アルフォンス君に冒険者として頼むのなら、普通に料金は請求されるぞ? 彼は案外その辺はキッチリと線を引いとるからな」
「昨日は荒野にまで調べに行ってくれたのに?」
「アレはその日の内に終わる近場での仕事じゃったしな。ついでに荒野のモンスターを狩ってもおったようじゃし、そこまで手間でもなかったからじゃろう。じゃが、王都までは馬を使っても一ヶ月以上掛かる。移動時間だけでなく、その間の食事なども如何にかしなければならないなら、それはもう仕事として引き受ける内容じゃからのう」
確かに、期間でいうなら最短で一ヶ月。
そしてその後、俺が元の世界に帰る為の情報を集めたりなんやりでどれだけ時間が掛かるか分からないし、仮に直ぐ見つかってその場で俺と別れたとしてもオッサンが村に帰るまでも一ヶ月かかる。
合計最低で二ヶ月。
流石にちょっとした頼み事の範疇を超えており、それだけの期間を拘束するなら完全に仕事のソレだろう。
「ワシも付いて行ってやりたいが、流石に二ヶ月以上も村を空ける訳にものぅ」
「俺の用事がどれだけ時間が掛かんのか分からないしなぁ・・・・・・」
「・・・・・・そういや、何の用で王都に行くんだよ?」
「あー・・・・・・何て言うかな」
そういや普通にこの場で話してたけど、チャックは俺の事情とか知らねーじゃん。
別に秘密にしている訳でもねぇけど、どう説明したもんか。
何て頭を悩ませていたら、
「悠殿の故郷の手掛かりを探す為じゃよ。悠殿はキクノスケと同郷なんじゃ」
「サクラの爺さんの? あぁ、どうりで」
オルトンさんが説明してくれて、チャックが納得したって、
「今ので納得すんのかよ?」
「言われてなんか腑に落ちたっつーか、初めて見た時から変な感じしたからな。お前、何処から来たのか分かんねーし、村のジジババ共が何か色々噂してたけど、そういう事か」
「もしかしてキクノスケさんの事って・・・・・・」
「うむ。村の皆、事情は知っとるよ」
普通、そういうのって秘密にしておくべきなのでは?
何処でどんなトラブルになるか分からねーんだからさぁ・・・・・・。
いや、そもそも別の世界から来たってのが、この世界でも荒唐無稽な話らしいし信じられる事がまず無理っぽいんだが。
「まぁ、悠殿の言いたいことは分かる。じゃが、キクノスケは、その・・・・・・ちょっと、そういう奴というか・・・のう」
「あー、うん、何となく察しました」
何とか言葉を上手く表現して絞り出そうとしているオルトンさんだが、その言葉は既に絞り尽くした雑巾の様に出てこなかった。
日記を読んで、更には村の一角を吹き飛ばした事を思えば、どういう人物だったのかは何となくは察せられる。
・・・・・・色々とぶっ飛んだ人だった様だ。
たぶん、俺がさっき考えた疑問なんかも特に気にもしなかったんだろう。
自由人っぽいしな。
「で、結局どうすんだよ?」
「・・・・・・え、何が?」
「何がじゃねーよ、お前がどうやって王都に行くかとかの話じゃねーのかよ?」
「あ、そうだった」
話が脱線したが、元々そういう話だった。
馬車の業者に頼んで乗せて貰って行くには金がかかる。
馬を貸して貰っても、俺は乗れない。
となると後は・・・・・・。
「・・・・・・歩いて行くしかねぇか」
「そうなってしまうかのぅ。まぁ、乗馬の練習をしてからというのもアリかもしれぬが」
「もしくは、旅の途中で出会った商人に、ついでに乗っけて貰うかとかだな」
「というか、金持ちでもないならそれが普通じゃがな」
「あ、そなの」
現代っ子には色々とキツイと考えていたが、こっちの世界じゃそれが普通なのか。
体力が無い訳じゃないし、割と何とかなるかもしれん。
たぶん前転移者もそうしたんだろうし、気にし過ぎたか。
「なら、後はもういつ行くかか? あ、でも旅の準備って何がいるんすか? 準備するのにどれだけかかるのかとか」
「水や食料等あるが、準備には一日もいらんぞ。最悪、着の身着のまま旅する冒険者もおるからな」
「え、徒歩だと三ヶ月もかかるのにですか?」
「流石に三ヶ月分も食料は持たねぇよ、途中の町で補充すんだよ」
「そういうもんか」
オルトンさんはともかく、チャックから呆れの声が漏れた。
仕方ないだろ、旅行ならともかくサバイバル溢れる冒険とかしたことねーんだから。




