第66話 宇枝悠の認識
昼食を摂った話し合いの後、サクラはまだ眠いのか帰宅して昼寝しに帰り、オッサンとヒナギクさんは近隣の冒険者ギルドへ報告に、オルトンさんはチャックの容体の確認をしに診療所へ、ラッセルは魔族に取り憑かれていたとはいえ破壊してしまった村の修復に向かった。
俺は特に何か出来る事がある訳でもなさそうなので、ぶらっと村を回っている。
カンカンカンと、木材に釘を打つ音が聞こえてきて目を向ける。
ラッセルが放った魔法で焼かれた民家を直す為に、村人たちが木材を切ったり運んだり釘を打ったりしていた。
破壊された場所は村の中でも極一部で、被害は村民の方が酷かったが、そちらはオルトンさんが治癒魔法で問題なく完治させ、重傷を負ったチャックが1人寝ているだけだ。
チャックは何か重傷を負った結果幸せを手にしたようで、アレに関してはもうラッセルは罪悪感を抱かなくてもいいだろう。
治癒魔法で人の身体を治せても、建築物の類は魔法一つでパッと簡単には直せない。
故に規模は僅かでも、村人が何人も家屋の修繕に当たっていた。
ラッセルもその一人であり、木材を運んでいた。
魔族が取り憑いていた時の膂力は何処へやら、肩に担いだ木材を持ってフラフラと歩いている。
「手伝った方が良いか・・・・・・」
被害規模が小さく人手も足りているとの事で手伝わなくても大丈夫と言われたのだが、何か見ていて危なっかしい。
俺自身建築の類の知識も腕も無く、せいぜい日曜大工というか学校で習う図工レベルだが、それでも肉体労働ならラッセルよりは動けるだろう。
他に現状することなく、暇を持て余していたともいえるが。
◆◆◆
「おーい、生きてるかー?」
「あ・・・ああ・・・・・・なんとかね」
地面に汗だくで横たわるラッセルに声をかけるが、息絶え絶えだ。
上着を脱いで白いシャツの袖を捲っているが、そんな程度で身体の熱が抜ける訳もなく、汗がグッショリとシャツを濡らして肌に張り付いていた。
「服、汚れるぞ」
「分かってはいるんだけどね・・・・・・もう、動けない・・・・・・」
服にも肌にも土とか砂が引っ付いてしまっているが、構わずラッセルは寝転がる。
俺が家屋の復旧を手伝い始めて少しはラッセルの負担も減ったと思うのだが、体力的に限界の様である。
もやしっ子という言葉が似合いすぎる奴だな、ピクリとも動かない。
そんな失礼すぎる事を考えていたら、復旧作業に働く人達におばちゃんが水を配りまわっているのが見えた。
仕方なしに貰ってきて持ってきてやる。
持ってきた瞬間、ラッセルは上体を起こし俺の手から水の入ったコップをふんだくりゴクゴクと一瞬で飲み干した。
良い飲みっぷりだな。
「っはー・・・・・・生き返ったよ」
「死んでたもんな、お前」
水分を摂取して少しは回復したようで、顔色が良くなった。
コイツ、この村に来てからずっと顔色が悪かったが、それも少しはマシに見える。
ケジメを付けて少しは心が軽くなったのだろう。
まぁ、体力を使い果たして結局違う意味で顔色悪くなってるが。
「それにしても、悠は平気そうだね。途中参加なのに僕よりも動いてたし・・・・・・」
「ラッセルが貧弱すぎるだけだと思うけどな」
「う・・・・・・」
図星を突かれて呻くラッセル。
自覚はあるんだな。
「結局、無理だったってことかな・・・・・・」
「あん? 何が?」
「僕の夢の話さ」
「夢?」
「・・・・・・僕はね、冒険者になりたかったんだ」
空を仰ぎ見るラッセルの目は遠く、その瞳は青空ではない違う何かを映しているようだった。
「小さい頃から冒険譚の類が大好きでね、よく読み漁ったりしたものだよ。サクラ達も冒険譚が好きでね、それで昔はサクラやチャック、モニカと一緒によく探検して遊んでたんだ。まぁ、探検と言ってもサクラソウ村やアセビタウン、後は周辺のハコベ森を周る程度のモノなんだけど・・・うん、楽しかったな」
その目に映るは幼き頃の記憶か。
懐かしみながら語る様は、本当に楽しそうである。
「けど、僕は男爵家・・・・・・末席とはいえ、それでも貴族の家であることは変わらない。しかも長男だ。家を継ぐことは決まってるから、冒険者なんてなりようもない」
他に跡継ぎの兄弟がいるわけでもないなら、尚更冒険者なんてやってられないだろう。
「せめて弟か妹、出来れば兄か姉が居ればなぁって、何度も思ったよ。それなら僕は冒険者を目指せるのにって。まぁ、こんな体力の無さだと、どっちみち無理だったのかもだけどね」
ラッセルが「小さい頃からホント体力が無くてねー、よくチャックに馬鹿にされてたなぁ」と語るその背には寂寥感が漂っている。
夢は捨て切れないが、現実が見えていない訳ではない。
そんな複雑な心境が見て取れる。
「悠は王都に・・・トロンコに向かうんだよね」
「ああ」
俺が元の世界に帰る手掛かりが現状存在しない以上、情報が一番集まる所に向かうくらいしか出来る事がない。
そしてこの国で一番情報が集まる場所とされているのが、王都『トロンコ』である。
当面の目的地だ。
「君にとっては不謹慎な話だと思うけど、僕は少し君が羨ましいよ」
「俺が?」
「ああ。自分の事を誰も知らない、捕らわれる立場やしがらみもなく、未知なる世界へ旅立てる。冒険者としてやっていくなら理想的だろう」
「成程ね」
元の世界に帰るという俺の個人的事情を度外視すれば、確かに冒険するには理想的な境遇なのか。
ラッセルには貴族という立場があるし、囚われる立場がないというのはコイツにとってはかなり羨ましく見えるのだろう。
「冒険か・・・・・・」
「悠は、そういうのは嫌いかい?」
「別に嫌いではねーよ」
地球にも冒険者がいないこともない。
密林や深海等の未知の地域を踏査する探検家の活動とかが、たまにテレビなどで放送されてたりする。
危険な場所や野生動物との遭遇とか、命辛々な冒険は観てる分には面白く楽しいが、自分がやるとなると考えさせられる。
小さい頃は漫画の様に問題だらけのパワフルな世界で冒険とかに憧れが無い訳では無かったが、それも年を重ねるにつれて薄れていった。
中二病を拗らせている訳でもあるまいに、そんなファンタジー現実では在りえないからだ。
(今は『ファンタジー』現実な訳だが・・・・・・!)
自分がまさかの異世界ファンタジーに突入とか誰が想像するよ?
少なくとも俺には無理だった。
中学二年生じゃあるまいし、自分が異世界に飛ばされて何か不思議な黒い力を得て摩訶不思議な大冒険とか。
「・・・・・・って、悠。何で両手で顔を覆っているんだい?」
「いや、何か急に恥ずくなってきた」
「何故!?」
「気にしないでくれ」
黒い力とか、その力が悪魔由来とか、それこそ中二病っぽくて何か急に羞恥心が浮き出てきた。
もしかして俺って・・・・・・中二病なのだろうか?
いや、力が中二病っぽいだけで、俺自身は別に年取って振り返って見たら忘却したくなるような黒歴史的過去になる様な性格や生き方はしていない・・・・・・はずだ。
「うん、そう思う事にしよう」
「? ? ?・・・・・・えーと、何がだい?」
「気にしないでくれ」
気にしだしたらドツボにハマりそうな気がするし、これ以上考えるのは止めよう。
ラッセルも混乱しているし、俺の心の健康にもよろしくない。
一息吐いて調子を整えた所で、ラッセルが話を変えた。
「そういえば、悠はトロンコに向かうけど、出発はいつになるんだい?」
「・・・・・・そういや決めてねーな」
情報を集めるために王都へ向かう事は決めたが、日付までは決めて無かった。
準備が出来たら行こうかと漠然と考えていたが、そういやこういう時って何を準備すればいいのだろうか?
「何も決めてねーんだけど、そもそも王都までどれくらいかかるんだ?」
「移動手段にもよるけど、馬でも1ヶ月以上はかかるよ。歩きなら3ヶ月くらいかな」
「そんなかかんの!?」
マジか、完全に異世界舐めてたわ。
てっきり馬使えば一週間位で往復出来るもんだと思ってたが、そんな長期間の旅に出ることになるのか。
食料だけでもどれだけ調達すればいいのかも分からんぞ。
「旅に出る前に、アルフォンスさんやヒナギクさんに相談した方がよさそうだね。彼等なら冒険者だから心得も経験もあるだろうし、オルトンさんも王都にいたことがあるから色々と聞けると思うよ」
「・・・・・・おう」
俺の不安気な感情が表情にでも出てたのか、ラッセルが苦笑気味に助言してくれた。
危なかった、何も知らずに旅に出るところだったぜ。




