第60話 魔族の食事事情
「山羊の頭部と下半身に、人間の上半身と悪魔の翼みたいなものを生やした姿。その後ろに星を逆さまにしたような模様ね・・・・・・怪しすぎだろ」
悪魔とか崇拝してそうな印象だ。
マジモンの悪魔が出てきたんだから崇拝どころか操ってる可能性すらあるが。
悪魔が宿ってる石なんて売りつけてきた訳だし。
まぁ、ラッセルが洗脳されたのと同じように、その行商人も悪魔に操られている可能性もあるのかもしれないが。
「その女商人が何処に行ったのかは、憶えて無いか」
「・・・・・・そう、だね。すまない」
「別に謝る必要ねーっての」
取り憑かれてたらどうしようもなかっただろうし、誰もコイツを責めまい。
・・・・・・責めないよな? 責めないと信じるぞチャックとかサクラソウ村のみんな。
全部あの悪魔だか魔族だかが悪いのだから。
「そういや、あの冒険者達は何で雇ったんだ?」
アルフォンスのおっさん達相手にでもぶつけるのかと思ったが、そもそもサクラを誘拐しに来た時にはいなかったようで、何のために雇ったのか今一理由が不明だ。
ラッセルは理由がハッキリとは思い出せないようで、ぼんやりとした記憶をどうにか引っ張り出そうと頭を捻る。
「たぶん・・・餌にしようとしていたと思う」
「餌?」
「魔族というのは、怒りや不安、恐怖心といった人の負の感情を好物としているだろう。あの冒険者たちを適当に町で暴れさせ町民に不快な思いをさせて、町の皆から負の感情を食らおうとしていたんだと思う。町民を全滅させたり、町から人がいなくなったりしたら感情を食べられる場が無くなるから、程良い感じに町を荒らして長期的に食事が出来る餌場にしようとしていたんだよ。冒険者たちにも金を渡さず怒りを与えて、歯向かってきた奴らの何人かは見せしめに殺し、生き残った奴らには恐怖心を与えたりして、町の外からまた新しい冒険者を金で誘えば幾らでも餌は手に入るわけだし」
「陰湿にも程があんだろ、あの寄生虫・・・・・・」
いっそ町の皆を支配して世界征服の足掛かりにとかホザいてくれたほうが、まだ大物悪魔っぽい感じがする。
長期的にダラダラと楽して飯にありつく為とか、どんだけ小物なんだよ。
ラッセルの感情や欲望に影響されていたからかもしれんが、流石はあんなレベルでおっさん達戦りあうことを視野にいれていただけはある。
◆◆◆
「悪いな、新しい服どころか飯代と宿代も出してもらって」
「構わないさ。2人には・・・特にサクラには迷惑をかけてしまったし、これくらいの事はさせてほしい」
「もう済んだことなんだから、そんな卑屈になることないでしょ」
「そういう訳にはいかないよ」
俺達はアセビタウンの宿酒場に場所を移していた。
ボロボロになった服を一新して新しい物をラッセルが用意してくれて、サクラもドレスから普段着に着替えていた。
・・・・・・いったい誰がサクラを普段着からあのドレスへ着替えさせたのか気にならなくはなかったが、せっかく問題が一応の解決を迎えた空気を壊すのもアレなので触れないでおく。
サクラソウ村に帰ろうとも思ったのだが、既に日が沈みかかっており月が出始めている時間帯で、夜の森を行くのは馬車でも危険とのことで此処で一泊する事となったのだ。
街灯なんて気の利いたものが森にあるはずもなく、俺も暗いとバイクで移動するのは難しく、今日村へ帰ることは諦めた。
サクラが誘拐されて村の皆は気が気でないと思うが、下手に夜道を行って怪我をしても仕方がない。
それ故、明朝に出発して早く戻ることにしたのだ。
「本当なら僕の家でゆっくりしていって貰いたかったけど、あんなことになってしまったし」
「それについてはマジすんませんでした」
テーブル越しに頭を下げる俺に、ラッセルは「いやいや」と気にしていない様子だが、それでも俺は少し気にしてしまう。
ラッセル(魔族)が雇った冒険者達を如何にかする為とはいえ、あいつらをぶっ飛ばした拍子に屋敷まで半壊させてしまったのだから。
ちなみに俺が吹っ飛ばした冒険者達は、全員姿を消していた。
てっきり屋敷の門前辺りにまだ転がっているか、或いは屋敷内の様子を窺っているのか思ったが、此処に来る途中で屋敷周辺の住宅域に住む町民から話を聞いたところ、度重なる轟音や屋敷地内にある礼拝堂(サクラが捕らえられていた場所)が半壊、更には空へ不気味な姿をした存在が舞い上がり、黒い霧の様なモノまで飛んで行ったという不測の事態により、蜘蛛の子を散らす様に逃げていったのだとか。
サクラとラッセル曰く、冒険者・・・ましてや傭兵の様な仕事は、金で動くが命あっての物種で、割に合わないと判断すれば躊躇なく退くので逃げても不思議はないとのこと。
下手に残られていたら大いに揉める可能性があった為に、逃げてくれたのは此方にとって幸いである。
「ご注文の品をお持ちしましたー!」
俺達が謝ったりなんだりしていると、酒場のウェイトレスが料理を運んできてくれた。
ニードルラビットのシチューに、ストライクボアのステーキ、コイエンペラーの唐揚げ、ブルーサーモンのスモーク、マッシュポテトや色とりどりのサラダ等々、多種多様な料理がテーブルに並べられる。
そしてビールの様な飲み物が目の前に置かれた。
・・・・・・そういや、この世界の飲酒事情はどうなっているのやら。
確か15歳で成人という話を聞いたような気もするし、15歳からなら飲んでもいいのだろうか。
もしくは特にそんな法整備はされてなかったりとか。
オルトンさんの所での食事にはオッサン達以外には酒は出されなかったが、ラッセルとサクラは特に気にした様子はない。
つまり飲んでも問題は無いのだろう。たぶん。
「ちなみに、この一杯は約束通り奢りにしておくからね!」
「ん?」
ウェイトレスに声を掛けられて目を向けると、そこにいたのは茶髪をリボンで纏めてポニーテールにした少女。
昼過ぎにこの酒場前でチンピラ三人衆に絡まれていたウェイトレスだった。
「用事はもう終わったの?」
「おー、夜にも働いてんだな」
「稼ぎ時だからね!」
確かに夕飯時である現在、この酒場の客数は多い。
俺達以外にも客は当然ながら存在し、皆楽しそうに酒を飲み、飯を食っている。
さぞ金を落としてくれる事だろうよ。
「ベッキーじゃない。え、いつ悠と知り合ったの?」
「サクラとも知り合いだったんだ。まぁ、サクラソウ村から来たって言ってたから不思議じゃないけど」
どうやらサクラとも知り合いの様だ。
モニカとも知り合いみたいな事言いかけてたし、不思議じゃないは俺の言葉でもある。
「名前ベッキーっていうんだな」
「うん。あれ、言ってなかったっけ?」
「言ってなかったな」
俺が急いでたってのもあるが、自己紹介の類はした覚えがない。
改めて自己紹介と、サクラとラッセルにこのウェイトレス――――――ベッキーとの出会いを説明する。
「ふーん、私が連れていかれてからそんなことしてたのね」
「すまない・・・・・・意図したことではないとはいえ、僕が雇った人達が迷惑をかけたようだ」
「あー、いいですよラッセル様。私達も酔っ払いとか迷惑なバカの対応も慣れてますから」
「昼にも思ったが割と口悪いなアンタ・・・・・・」
何故異世界に来たばかりの俺が隣町の娘と知り合いなのかを納得するサクラ。
そして操られていたとはいえ自身が雇った冒険者達が店に迷惑をかけたことに罪悪感を抱くラッセルに、ベッキーは気にした様子もなくバッサリと言い放つ。
にこやかな笑顔で言ったが、こうでもないとウェイトレスはやってられないのだろうか。
この逞しさなら、あの場で態々俺が出張らなくても自力で何とかしたかもしれん。
「まぁ、詳しい事は何も分かんないけど、無事に用は済んだのよね?」
「ああ」
「そっかそっか」
言って、ベッキーは隣の椅子に座ってテーブルに並べられた料理を皿に取って「どーぞどーぞ」と俺の前に置いた。
「いや、お前、仕事中では?」
「サービスよ。昼間のお礼にね」
「俺だけサービスしてたら他の客に文句言われんじゃねーか?」
「大丈夫大丈夫、大体の人は昼間のアレ見てただろうし」
その言葉に周囲を見回してみると、飲んでいるオヤジ達は頷いたり親指を立てたりしていた。
「分かってる分かってる」とか「気にせんでもええねんで」とか「おとなしくサービスされとけ死ね」とか言葉を掛けられる。
てか、最後の奴ただの罵声じゃねぇか。
そしてラッセルが「すまない、僕の責任だホントすまない」と落ち込み、サクラが「まぁ、飲んで忘れたら?」と酒を勧めて、ラッセルは飲みだす。
そして泣きながらサクラに、この場にはいないチャックやサクラソウ村の皆に謝り始めた。
泣き上戸かコイツ・・・・・・。




