第58話 宇枝悠の目覚め
更新が遅くなって大変申し訳ない。
というより、覚えてる人とかいますかね?
空へと伸びて敵を捕らえたその腕が突然、渇いた泥の様に、土塊の如く崩れていく。
赤黒く彩られていた鎧の様な全身が徐々に色を失い、同時に禍々しい気配も薄れていき、宇枝悠に纏わり付いていた外装は塗装の様に剥がれていき、宙に融けるかのように消えていく。
外装が全て剥がれ散り、顕になった宇枝悠の身体に目に見える異変はない。
俯き気味の立ち姿からは表情は伺えず意識があるのかどうかも定かではないが、ユラリと身体が傾き彷徨う亡霊の様にフラフラと歩き、悪魔に斬り飛ばされたはずの左腕を伸ばし、地に転がっていた剣を拾った。
剣を持ち上げる力がないのか、ズルズルと引き摺りながら今も尚両腕を枷の付いた鎖で繋がれているサクラの元へ歩み寄る。
サクラの呼びかけに悠は何も答えず台座に乗り、残る力を振り絞るかのように腕を振るわせながら剣を両手で持ち上げ、振り下ろす。
鎖はバキンと容易く破壊され、サクラが自由を取り戻した姿を見たのを最後に、悠は気力で繋ぎ止めていた意識を手放した。
◆◆◆
「・・・・・・あ?」
目を開けると、知らない天上が目に入った。
あちこち罅割れ、一部が完全に崩壊し空模様まで見える。
空は赤みがかっており、夕焼け空が今の時間を告げている。
・・・・・・て、夕方?
「あ、起きた?」
不意に、サクラの顔が此方を覗き込むように現れた。
そして、今の自分の状態を認識する。
寝転がっている状態で、後頭部には柔らかくも暖かい感触。
これは・・・・・・膝枕?
「どういう状況だ?」
「憶えて無いの? アンタ・・・・・・」
「あー、いや、待て。だんだん思い出してきた」
そうだ、俺は確か誘拐されたサクラを連れ戻しに来たのだ。
村からバイクに乗ってこの町へとやって来て、この屋敷に屯ってた不審者どもを一掃し、屋敷に侵入し、そして誘拐犯であるラッセル・ドワイトと対峙した。
だが、ラッセルは魔族という悪魔的な奴に取り憑かれてて、首からブラ下げているペンダントが原因だったから俺がラッセルのペンダントの石を切り裂いて、そこで終わったかと思ったがラッセルの身体が突然変異を起こして、そんで俺は左腕を・・・・・・――――――――――――
「――――――・・・・・・付いてるよな」
左腕を持ち上げて、左手を握っては開いてみる。
特に痛みや違和感は無い。
まるで何事もなかったかのように俺の身体に繋がっている。
だが、俺の腕は確かにあの時、異形へと変質したラッセルの爪に切り落とされた。
その後は・・・・・・
「・・・・・・あー、ぼんやりとしか覚えてねぇけど、レッドベアの時みたいにやっちまったのか?」
「あの時とは少し様子が違ってたけどね」
言われてみればそんな気もする。
何かあの時よりも凄かったような・・・・・・。
「そういや、ラッセルは? まさか殺っちまったってことは・・・・・・」
俺の問いに、サクラは無言で顔を向ける。
半壊しているこの建物の中で、うつ伏せに倒れているラッセルの姿が在った。
悪魔化したラッセルもまた腕が千切れていたような気がするのだが、ぱっと見では五体満足の様に思える。
未だに身体が重くまだ寝ていたいが、気合を入れて起き上がる。
「ちょっと、まだ寝てた方が良いんじゃ・・・・・・」
「大丈夫だって。ぶった斬られた腕含めて、怪我だっていつの間にか治ってんだし」
全身が怠くはあるが、痛みは無く、身体は問題なく動きそうだ。
レッドベアの時も誰かが治してくれた訳ではなく勝手に治っていたようで、この謎についてもいつか調べないとな。
「・・・・・・死んだ訳じゃねぇみてぇだな」
ラッセルに近づき様子を窺うが呼吸はしており、今はただ眠っているだけの様だ。
【我が瞳は世界を見破る】で視ても、もう何処にも異常は無さそうである。
ステータス値も元に戻り、【憑依状態】も解除されている。
あの魔族とやらは完全にラッセルから出ていったようだ。
逃げていったのが気掛かりではあるが、今更追いかける事など出来ず、あのまま消えてしまう事を願うばかりだ。
「にしても、人間があんな化け物に姿が変わっちまうとはな。この世界ではよくあんのか?」
「なわけないでしょ。私だって初めて見たし」
やはり早々起こるはずのない出来事らしい。
あのペンダントに使われていた『魔刻石』とやらが原因の様だが。
「やっぱあのペンダントか? どこであんなヤベェもん手に入れたんだか」
「・・・・・・行商人から手に入れたって聞いたけど」
「絶対普通の行商人じゃねぇだろ、そいつ」
その辺も含めて、ラッセルから話を聞かないとな。
とはいえいったいいつ目覚めるのかと気を揉んでいると、俺達のそんな心内を感じたわけも無かろうが、ラッセルが呻き声を洩らしながら上体を起こす。
「此処は・・・・・・僕は何を・・・・・・?」
「ラッセル! 目が覚めたのね」
「・・・・・・サクラ?」
寝ぼけ眼の様な顔に、身体がややふらついている。
五体満足ではあるが、体調は万全とは言えず、顔色も悪そうだ。
ラッセルは困惑気味にサクラを見て、そして隣りにいる俺を見た。
「君は・・・・・・?」
「憶えて無いのか?」
まぁ、途中からとはいえ操られてたし、そもそも正気じゃなかったし、無理もないが。
「いや、確か・・・・・・ユウ、だったかな。サクラがそう呼んでたような」
「憶えてるのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
ラッセルはまるで頭痛を堪えるかのように手で頭を押さえる仕草をして、ただでさえ悪い顔色が更に悪化していく。
どうやら、ぼんやりとではあるが、ある程度は覚えている様だ。




