第57話 ???の戦い~決着~
先週はヤバかった。
色々と。
手刀が貫くまで全く微動だにしない男を訝しがるが、それでも自らの手が男の身体を貫いた瞬間、魔族は勝利を確信した。
手が男の右鎖骨辺りを刺し貫き、ズブズブと手刀が沈んでいく。
推測通り、高密度に左手を覆った魔力は完全に呑まれることなく形状を保っている。
後はこのまま心臓を突き破ってしまえばいい。
どんなに見てくれが変わっても、元が人間である以上、心臓は存在するはず。
勝利を確信し、思わず笑みを浮かべる魔族だが、異変に気が付いた。
突き刺さった手刀が身体に沈み、今はもう前腕筋が見えなくなるほどめり込んでいるのだが、腕はまだズブズブと男の身体の内に沈んでいく。
・・・・・・今はもう、全く力を入れていないにもかかわらず。
嫌な予感がして思わず腕を引き抜こうとするが、力を入れても沈んだ腕が抜ける事は無く、寧ろ更に沈んでいく。
更に力を入れて筋肉を膨らませるが、腕が抜ける気配はない。
足を男の身体に付けて、下半身や背筋を使っても沈んだ腕はビクともしない。
腕が沈むのは止まる事が無く、遂には肘まで呑み込んだ。
嫌な予感は、明確な危機感へと変化する。
「ヌ、グウウゥゥゥゥゥ・・・・・・‼」
体内へと呑み込まれた腕に魔力を集中。
男の内側から破壊しようと、溜めに溜めた魔力を一気に放出しようとするが、ソレは叶わない。
放出しようとして自身の体外へと撃ち出された魔力は、自分の身体から離れた瞬間に霧散する。
散った魔力は、男へと吸収されたのだ。
「コ、コノ力、ヤハリッ・・・・・・‼」
先程頭に過った、この男の能力に思い当たるモノの存在。
その推測は、確信へと変わった。
今でも信じたくはなかったが、体感してみて認めざるを得なかった。
肉を喰らい、魔力を喰らい、万物全てを喰らわんとする王の能力。
「何故、貴様ノ様ナ人間ガ・・・アノ御方ノ能力ヲ・・・・・・!?」
確信してから、魔族の焦りの感情が大きくなる。
放出した魔力が霧散しただけでなく、体内の魔力を持っていかれた。
更に腕が呑み込まれていき、魔族は必死にもがきだす。
(コ、コノママデハ、食イ殺サレルッ!?)
魔力が吸い出され、徐々に力が抜けていく。
腕も更に沈み、力を入れられる体勢ではなくなっていき、力を入れようにも入れ難くなっていく。
マズイ!?と、腕を引き、身体を捩じる、魔族の必死な姿に男は嘲笑を浮かべるが、魔族はそんな男の様子に気付く事もないほど、必死にもがき続けている。
(ク、ソ、クソ、クソ、クソクソクソクソクソクソクソ・・・・・・‼)
ギリギリと、腕が千切れんばかりに力を入れて腕を引き抜こうとするが、依然抜ける気配はない。
「クソガアアァァァァァァァァァァァァッ‼‼」
一瞬、魔族の身体が黒く発光する。
光りは羽化する虫のように、魔族の背中から宙へ飛び出る。
黒い靄の様な光りが飛び出て身体の発光が収まると、魔族は人間の姿に戻っていた。
即ち、ラッセル・ドワイトの姿に。
(クソ、折角育テタ依代ヲ棄テルコニナルトハ・・・・・・‼)
バフォメット・・・姿をロクに保てなくなった黒い靄は憎々し気に男を見下ろし、陽炎の様に揺らめきながら空へと逃げていく。
そんな黒い靄を、男はジッと見上げる。
左腕を肩辺りまで飲まれていたラッセル・ドワイトは、グッタリとしたまま気絶しており意識はない。
バフォメットの姿をしていた時に右腕は斬り落とされていたが、人間の姿に戻った今、ラッセル・ドワイトの右腕は何事も無かったかのように存在していた。
不意にボトりと、埋もれていた左腕が男の体外へと吐き出され、ラッセル・ドワイトは床に転げ落ちる。
地に横たわるラッセル・ドワイトに一瞥もせず、男は空へ逃げる靄を見据えたまま。
そして、右腕を靄に向けて掲げる。
右腕の鎧の様な赤黒い外皮。
それが不意に、ゴムの様に伸びた。
「!?」
黒い靄がそれに気づき回避行動を取ろうとするが、伸びる腕がウネウネと蛇の様に空中を蛇行し動きを掴ませず、予測での回避が出来ない。
自身が逃げるスピードよりも伸びる腕の方が速く、縦横無尽に空を飛び回り逃げるが、徐々に距離を詰められる。
遂に伸びる腕の手が、黒い靄を掴み捕らえた。
瞬間、掴んだ赤黒い手がボロっと、乾いた泥の様に崩れ落ちる。
それは伸びた腕から男の身体へと伝い、その闇に血が混じった様な赤黒い外皮が崩壊を始めた。
黒い靄は幸いと一目散に空を飛ぶ。
「コノ屈辱・・・忘レンゾ、人間ッ‼‼」
黒い靄は、遥か彼方へと飛んで行き、アセビタウンから姿を消した。
◆◆◆
『時間切レ・・・コンナモンカ』
黒以外存在しない空間で、威圧感のある男は、やや残念そうな声を吐く。
後1秒もあれば獲物を仕留められたものを。
調子に乗った敵を逃がしてしまった事が残念でならない。
遊びが過ぎたか。
『マァ、今ノコイツノ馴染ミ具合ヲ実戦デ試セタノハ良カッタカ』
自分の手があれば、手を握っては開いたりして力の具合を確かめたかもしれない。
『徐々ニ馴染ンデ来タガ、ヤハリマダマダカ』
男は楽しげに笑う。
『セイゼイ頑張ッテ生キロヨ? 俺ノ為ニ・・・・・・オ前ノ為ニモナ』




