第38話 宇枝悠の召還地の手がかり
第1章も後半かなぁ・・・・・・
菊之助さんの遺産(?)が眠る結界を後に、俺とオルトンさんは村へ帰る為、来た道とは逆を歩いていた。
そして歩いて10分程経過した頃。
「む?」
「どうしました?」
「アレは・・・・・・」
オルトンさんの目付きが鋭い。
何だ?と、俺もその視線の先を視る。
視線の先・・・森の木々を抜けて見える空に、黒い煙が上がっていた。
「オルトンさん、アレって・・・・・・」
「うむ。何があったのか分からんが、急いだ方が良さそうじゃな!」
言って駆け出すオルトンさんに、俺も走り追従する。
煙は村の方角から上がっていた。
火事かどうかは分からないが、村に何かがあったようだ。
「悠殿、失礼する!」
「え?」
オルトンさんは俺の腕を掴み、
「【空中浮遊】‼」
空を飛んだ。
・・・・・・て、飛んだ!?
「へい! オルトンさん、飛んでるぜ!? 飛んでるんじゃない、落ちてるだけだ! カッコつけてな‼」
「何を言うとるんじゃ・・・・・・」
「いや、なんとなく」
オルトンさんに腕を掴まれて、俺も一緒に空を飛んでいる。
浮かれたいが、そんな場合じゃ無い。
早く村に戻って、事態を確かめなければ・・・・・・!
◆◆◆
タマリスク荒野。
サクラソウ村を南に進み、ハコベ森を抜けた先にある荒野。
そこは力のあるモンスターが蔓延る荒れ地で、弱い人間は寄り付く事さえしない。
悠がスキルで観れば、平均レベル50前後のモンスターがウヨウヨしているこの地を好き好んで歩こうとは思わないだろう。
だが、悠はこの地からやってきた。
その悠がこの地で召喚されて、この地でモンスターの襲撃に遭わず無事にハコベ森に入ることが出来たのは、単純に運が良かっただけである。
広いこの荒野で、比較的森に近い位置にいたことが大きい。
もし召喚された直後に荒野に生息するモンスターに襲われていたら、一瞬で喰い殺されてしまっただろう。
そんな危険なこの荒野を歩く、冒険者風の男と女がいる。
男の名は、アルフォンス・エンフィールド。
女の名は、ヒナギク・エンフィールド。
アルフォンスはこのフィオーレ王国で10人しか存在しないS級冒険者の1人で、その力はフィオーレ王国の冒険者の中でも5指に入る程。
妻であるヒナギクも、一時冒険者として活動していた時期があり、それなりの実力を保持している。
少なくとも、この荒野を単独で歩き回れるくらいには。
そんな2人は近隣の町で換金出来る素材をモンスターから狩りながら、目的地を探し回っていた。
悠が召喚されたと思われる場所。
そこで彼が元の世界に帰る手がかり、あるいは召喚された原因等を調べるために荒野へやって来たのだ。
悠自身正確な位置が分からないので、かなり漠然とした範囲を探していたのだが、ようやく2人はそれらしき地点へやって来た。
何故この地がそうなのか分かったのは、
「コイツぁ・・・・・・」
大きな爆発でもあったかのような焦げ跡が地面に広がっていた。
その周辺には、夥しい量の血の跡も残っている。
だが、悠から聞いた人間の死体らしきモノは1つも無い。
悠がこの世界に召喚されて5日が経過している。
おそらく、モンスターに食われてしまったのだろう。
身体は残っていないが、その人間達が身に付けていたと思われる装備品や道具などが転がっていた。
「此処で間違いなさそうだな」
「そうね・・・もうかなり霧散してるど、大きな魔力が留まっていたみたいだし・・・・・・」
大気や大地に宿る魔力量は場所によって異なる。
今この地で感じる魔力量は、荒野の他の場所に比べて大きかった。
その大きい魔力も、少しずつ時間が経つにつれて薄れていく。
そう感じるという事は、この地の本来の魔力量はもっと少ないという事だ。
この地が、悠が召喚された地なのは確定だろう。
2人は付近に何か手掛かりがないか探す。
といっても、遺体がない為調べるモノは限られるのだが。
「む?」
アルフォンスは、それを見つけた。
ローブか何かの、布の切れ端。
その布に描かれている紋章。
その紋章には見覚えがあった。
「おいおい、まさか・・・・・・!」
この場にいた集団。
悠を召喚した者の可能性に思い当たる節があり、アルフォンスの背に冷たい汗が流れる。
星を逆さまにしたような逆五芒星と、山羊の頭をした悪魔のような紋様が、黒い布の切れ端に描かれていた。
◆◆◆
「コレは・・・・・・」
「なんと・・・・・・!?」
行きは歩いて40分程かかったが、帰りは徒歩と空を飛んで、合わせて20分程。
半分程の時間で帰ってこれたが、空から村の様子を見て俺達は絶句する。
村が滅茶苦茶だ。
家屋が小規模だが炎上しており、村人が魔法や、川や井戸から水を汲んだりして火を消したりしている。
地面も幾つか抉れた箇所がある。
それに、村人の何人かが横たわって看病されていた。
遠目に見ても重傷を負っている者が何人も見えた。
動ける人は怪我人の手当てや火事の鎮火に動いているようだ。
オルトンさんは慌てて下降する。
いったい何が起きたんだ?
「皆の者!」
「ああ、オルトンさん‼」
「良かった、帰って来てくれた!」
オルトンさんの姿を視て、村人たちは安堵の息を吐く。
そして少し騒めき出す。
火を消してもらうか、怪我人を診てもらうかで話が分かれたが、火は他の人でも消せるから先に重傷者を診て貰えと誰かが口にし、オルトンさんは一番重傷を負っている者から優先に診ることにしたようだ。
そしてその一番重傷を負っていた者は、
「チャック!?」
チャック・ローダーだった。
怪我人は軽傷者から重傷者まで多数いるが、コイツが一番酷い。
応急手当はしてあるようだが、布や包帯を巻いていただけで、血は止まっていない。
衣服は破れ、見えている肌は黒く焦げていたり、肉が切り裂かれている。
骨折もしているのか、手足に巻いた包帯の形が少し歪んで見える。
顔も深く切られたのか、左半分が包帯で覆われ血が滲んでいた。
「悠・・・・・・」
そんなチャックを、モニカが泣きながら手当てしていた。
彼女にも怪我がみられるが、どれも擦り傷程度でそこまで酷い怪我はしていない。
モニカが泣いているのは、自身の傷が痛んでいるから・・・ではない。
「オルトンさん、早くチャックを助けて‼ 血が止まらないの‼」
モニカが布で抑えているチャックの腹からは夥しい量の血が溢れているようで、布はもう血の色に塗れて元の色が分からない。
この出血量が危険なのは、素人でも分かる。
「コレはいかんな。退いておれ!」
オルトンさんがモニカを退かし、チャックの腹に手を当て魔力を流す。
コレは・・・チャックの容態を調べてるのか?
身体の損傷具合を調べるオルトンさんの表情が、見る見るうちに強張っていく。
・・・・・・助かるんだよな?
その顔を見てると凄まじく不安になる。
基本的に突っかかって来るだけだったからあまり親しい訳じゃ無いが、それでも死なれるのは気分が悪い。
「治癒魔法は苦手なんじゃがな・・・・・・【回復】‼」
オルトンさんの手から流れる魔力の量が増加した。
【我が瞳は世界を見破る】で見ると、魔力で細胞分裂を促し肉体を活性化させて、人体を修復しているようだ。
深い傷から優先的に治していき、徐々に出血も収まっていく。
それでも苦手と言う通り、治すスピードは遅いように感じる。
助かるのなら何も問題は無いが。
周りを改めて見まわすと、重傷者は他にもいるが、チャックの様に今直ぐ命の危機が差し迫るほどの怪我人はいないように思う。
スキルがあるとはいえ、素人目だから断言は出来ないが。
「・・・・・・おい、サクラはどうした?」
さっきから何処を見ても姿が見えない。
アイツなら火事を消すか、みんなの治療に奔走するイメージがある。
だが今、忙しなく動き回っている村人たちの中にサクラの姿は無い。
なら怪我人の方かと思ったが、倒れている村人たちの中にもサクラの姿は見えなかった。
「サ、サクラは・・・・・・」
モニカは嗚咽を漏らしながら、弱々しく答えた。
「・・・・・・連れていかれちゃった」
「連れて? 誘拐って事か!?」
涙を流しながら頷くモニカは、俺達が留守にした間に村で起きた事件を語る。




