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宇枝悠の異世界漫遊記  作者: U-1
第1章 異世界漂流編
36/70

第36話 ラッセルの不穏な空気

ようやく14話で出した名前が出て来た。

危うく名前を忘れる処だった。

昼食が終わった後、授業を再開・・・する事は無く、そこで今日の勉強は終わった。

オルトンさんに教わったのは昼までで、授業は昼食まで。

食べ終わった者から帰っていいらしい。

それでも昼食後も自主練に励む者はそれなりにいて、俺もその1人だ。

また暴発したりしない様に気を使いながら、魔法の練習をする。

ちなみにサクラは帰宅した。

どうやらヒナギクさんもオッサンに付いて行ったらしく、家にはいないらしい。

タマリスク荒野の探索は時間が掛かると思われ、帰って来るのは夜になるようなので夕飯の用意をしなければならないのだとか。

たぶん今は買い物でもしているのだろう。

チャックは残って、俺と同じように1人練習していた。

なんかチョイチョイ俺の方を見てくるのだが、アレは何だ、張り合ってるのか?

サクラに良いところを見せたいのか?

だが今この場にいない奴に見せるもなにもないだろうし、純粋に気になるだけか?

競い合いたいのだろうか?

確かに競い合うライバル的な存在がいると練習に張りがあって遣り甲斐はあるが、俺と張り合わなくてもよくないか?

俺の魔法ってスキルで身に付けて使ってるから、あまり公平ではないと思うのだが。

まぁ、別に絡んでくるわけでもないから無視でもいいが。

チャックの保護者(?)のモニカはいないし、下手に接して怒鳴られても嫌だしな。

1人黙々と練習に励むとしよう。


「悠殿」

「はい?」


しばらくイメトレをしつつ練習していると、オルトンさんに声を掛けられる。

授業が終わって自宅に帰ったのかと思ったのだが、戻って来たのか。


「ちょっと来てくれんか。実は君に見せたい物があってな」

「見せたい物?」


見ればオルトンさんは杖を持ち、ローブを身に付けていた。

さっきまで普通の村人服だったのだが、着替える必要がある場所に行くのか?


「それって何なんです?」

「まぁ、来れば分かるわい」


言ってオルトンさんは踵を返して歩き出す。

付いて来いって事なんだろう。

・・・特に拒否する理由も無いから付いて行くか。

如何やら向かう先は北側のようだが、やはり着替える必要があったらしい。

目的地は村の外のようで、森へと進んで行く。

さて、いったい何があるのやら。


◆◆◆


「あー・・・クッソッ‼」


またもや魔法が不発で終わり、悪態吐きながら座り込むチャック。

休みを挟みながら練習しているのだが、魔力容量が大きくない為10回も使えば倒れそうになる。

1日で11回連続で初級魔法を使えば気絶してしまう為、休んで魔力が回復するのを待ってからでないと練習を再開できない。

とことん自分には魔法の才能が無いようで、休憩が終わったら木剣を持って素振りを始める。

此方の方が性にも合っているようで、練習に身が入る。

自分には剣しかないと、チャックは改めて感じた。

その剣も決して才能があるとは言えないが、それでも魔法に比べれば遥かに適性がある。

やはり、己が鍛える武器はこれだろう。

サクラの父親・・・アルフォンス・エンフィールド。

彼が昔身に付けたフィオーレ王国騎士団流剣術・・・その基礎を教えて貰っているのだが、そろそろ技を教えて貰ってもいいのではないだろうか。

もう何年も基礎の型を素振りしているだけで、一向に技を教えて貰っていない。

自分の子という訳でもないから教えたくないのだろうか。

いや、それでも実の娘であるサクラにも騎士団の技を教えた様子は無い。

基礎の型は自分と同じように教えている。

なら、単に技を教えたくないだけか。

理由は?

メンドクサイだけ?

それとも・・・剣の才能が無いと教えても無駄だと思われているのだろうか。

てことは、自分は剣の才能も無いという事に―――――――


「――――――あー、もう止めだ止め!」


素振りを止め、木剣を置いてまた座り込む。

まだまだ素人の域を出ないが、こんな雑念交じりの素振りが練習になる訳がないという事くらいはチャックも理解していた。

一旦落ち着こうと、そのまま地面に寝そべる。

デッカイ空でも見れば、大体の悩みは落ち着いて考えれるように―――――――


「なんか煮詰まってるみたいね」


―――――――なると思うのだが、寝転がって見上げた先には青い空なんて無く、毎日よく見かける見慣れた幼馴染みの顔がそこにあった。


「モニカか・・・何か用かよ?」

「サクラじゃなくて悪かったわね」

「誰もんな事言ってねぇだろうがッ!」


覗き込むような顔を手で押しのけて、ムクリと上体を起こすチャック。

そんなチャックの顔に、ズイッと何かを押し付けられた。


「あ? 何だよコレ・・・・・・?」

「何って・・・差し入れよ、差し入れ」

「差し入れ?」


押し付けられたのはバスケット。

開けてみると、中に入っている物が眼に映る。

サンドイッチだった。


「どーせ、あんたアレだけじゃお昼足りないでしょ。だから作って来てやったのよ」


言われてみればと、チャックは自分の空腹に気が付いた。

昼食後から練習を再開しそれなりに時間が経過してはいたが、まるで昼食なんて食べてないんじゃないかと疑うほどに腹が減って来た。

確かに、成長期故か最近どれだけ満腹になるまで食べても直ぐに空腹を感じてしまう。


「・・・・・・まぁ、要らないって言うんなら食べなくてもいいけどさ」

「いや、食う」


食べ物を視たら余計に腹が減って来た。

早速とばかりに、チャックはバスケットの中に手を伸ばし、サンドイッチを手にして口にした。

空腹なせいか、食べるスピードは速い。

ガツガツと食べるチャックをモニカはじっと見つめて、


「・・・どう? 美味しい?」

「・・・・・・微妙」

「じゃあ食べなくてもいいけど」

「・・・・・・食わねぇなんて言ってねぇだろ」


ジトッとした目を向けてしまうが、食事を再開したチャックに何も言わず、食べ終わるまでそのまま目を向けていた。


「あー、食った食った!」

「お粗末様」

「・・・ゲェ~ップ」

「汚いっての!」


空になったバスケットで頭を叩き、チャックは呻く。

そんな2人のやり取りを、遠巻きに村人達は見守っていた。

チャックがサクラに好意を寄せているのは周知の事実だが、モニカがチャックに好意を寄せているのもまた同じだった。

チャックがサクラにアタックしている事も、モニカがチャックの片思いに手を貸しつつ微妙にアプローチを仕掛けている事も、村人の大人達はほぼ皆知っている。

2人の片思いを「若いってええわぁ~」と村の年寄りたちが暖かい目で見守っている事を、当然本人達は察知してはいない。


「・・・・・・なぁ、モニカ」

「何よ?」

「お前、何で俺に飯作って来てくれたんだ? ここん所毎日じゃん」

「え、何でって・・・そんなの・・・・・・」

「そんなの?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


見守っている村人ーズは「言うんか? 言うてまうんか!?」と少しハラハラしながら様子を見守って、


「ぁ・・・あんたに料理の味見をして貰っただけよ! いつもサクラに、下手な料理の味見してもらうのも悪いし‼」

「あー、やっぱ毒味か」

「毒味言うな‼」


ガクッと、その場に倒れそうになる。

なんとなくモニカがどう答えるのかは分かっていたのだが、それでも「もしかして?」と思ってしまう。

2人の片思いは、まだまだ決着が尽きそうにもない。

それが楽しいような残念なような微妙な心境を抱きつつ、村人達は見守るのを止めて生活に戻ろうとして、


「あれ?」


村人の1人が、異変に気付いた。

何か徐々に大きくなってくる音が聞こえて来て目を向けると、ソレはやって来た。

ソレは凄まじいスピードで森から村へ入って来て、爆走しながら村の中を突き進んでいく。

迫るソレに、村人たちは慌てて立ち退いた。


「え?」


ソレは馬鹿なやり取りをしていたモニカに突っ込んできて、


「危ねぇっ‼」


チャックは慌ててモニカを庇い、抱えて横に跳んだ。

危うく2人は突っ込んで来たソレ・・・馬車に轢かれそうになった。

未だに爆走する馬車は、止まる事は無く走り続けている。


「んだぁ、今の!?」


チャックは一瞬行商人かと思ったが、それにしては様子がおかしかった。


「・・・ねぇ、今のラッセル君の家の馬車じゃなかった?」

「ラッセルの?」

「うん。馬の手綱を握ってるの、チラッと見えたけど・・・・・・」


ラッセル・ドワイト。

隣り町に住む貴族の息子で、この村とも交流を持つ青年。

そして彼もまたチャックと同じく、サクラに好意を持つ男性であった。


「ッ‼」


不意に何か嫌な予感が頭を過り、チャックは堪らず駆け出した。


「ちょ・・・ちょっとチャック!?」


いきなり駆け出したチャックに困惑するが、チャックが走る方向、そしてさっきの馬車が向かった方向を思い出して、モニカも気が付いた。


「あっちって・・・・・・サクラの家?」


ラッセルという男は、優男の好青年だ。

貴族だが特に威張り散らす様な事は無く、田舎村である此処の住民とも分け隔てなく接して、誰にでも優しい。

あまり位の高くない爵位だが、何も知らなければ王子様と言われれば信じてしまいそうな風貌と人徳を持つ男。

そんな彼は惚れたサクラに会うべく、幼少の頃からこの村にはよく遊びに来ていて、いつもあの馬車に乗って来た。

いつもは村の入り口で馬車を止めて、馬車を村の馬小屋に預けているのだが、今回はそうじゃない。

あんな村の中を爆走させた事なんて無い。

子供の頃はお付きの人に馬を走らせていたが、成人してからは自分で操作し、1人でこの村に遊びに来ていた。

自分の馬をとても可愛がっており、いつも村に来たら馬小屋に預けて、走らせた労いにこの村で取れる果実を与えていた。

このサクラソウ村で取れる果実がお気に入りなのだ。

だが、先程の馬の様子だと、そんな労いを掛けてくれたような気の使われ方はされていなかった。

馬車でも、隣町からこの村までは3~4時間は掛かる。

それは、あまりスピードを出さずに、何回か馬を休ませた時間だ。

飛ばせば、もっと短縮出来るだろう。

さっきの馬は、その飛ばしたスピードで走って来たように思う。

馬の面倒を見る事もあるモニカには、先程の馬車を引いていた馬を見てそう感じた。

どう考えても只事ではない。

普段馬にも優しいラッセルのやることとは思えなかった。


「・・・・・ッ・・・・・・・‼」


強烈に、何か嫌な予感がしてモニカも駆け出した。


◆◆◆


「・・・・・・ん?」


授業が終わった後、サクラは野菜等を店で買って家に戻り、夕飯の支度の前に家周りに生えてる雑草でも抜こうかと、今まで掃除していた。

だが、そんなサクラの元に一台の馬車が走って来た。

猛スピードで駆ける馬を、手綱を思いっきり引っ張る事で急停車させ、馬車の動きを止めた。

そんないきなり現れた馬車を訝し気に視るサクラだったが、馬車から降りて来た人物を見て警戒心を解いた。


「ラッセルじゃない」

「やぁ、サクラ」


隣り町に住み、昔からよくこの村に遊びに来る、幼馴染みの1人だ。

少し高価そうな身なりだが、それでもそれほど高い爵位ではないからか、そこまで豪華そうな衣服ではない。

その細長に切れた目も、見るからに貴族っぽい金髪、優しげな表情。

全てがいつも通りだった。

急に馬車が爆走してきた事には驚いたが、特におかしな所は無いように見える。


「どうしたの。何か慌ててた様に見えたけど・・・・・・?」

「・・・・・・」


ラッセルは相も変わらず優しげな表情のままサクラに近づき、その手をそっと取る。


「僕はね、サクラ・・・君を、迎えに来たんだ」

「・・・・・・え?」


一瞬、ラッセルの眼に・・・何か黒い影の様なモノが差した気がした。

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