第27話 宇枝悠の引き起こした影響
~用語辞典~
『魔物』
・基本的には、身体に魔石を宿した生命体を指す
・魔物が誕生する方法は基本的に2種類
・魔物が卵を産むか、動植物等が魔力の影響で変質するかである
・前者は生まれつき身体に魔石を持ち、後者は変質した結果身体に魔石を宿す
・基本的には気性が荒い
「小僧・・・貴様、何やってたんだ?」
「・・・・・・何がだ?」
危うく上擦リそうになる声を押さえて、平静に返す。
すると、アルフォンスの怒気が急激に膨れ上がる。
「何ってテメェ・・・俺の娘とこんな時間までナニやってたのかって聞いてんだよォォォオオオオオオッ‼‼」
「ッ‼」
怒気どころか凄まじい殺気まで感じ、俺は咄嗟に身を捻る。
瞬間、
「ブベラァッ!?」
何かがアルフォンスの後頭部に当たり、勢いよく顔面から床に倒れた。
身体を捻って横に移動したのが幸いした。
あのまま立っていたら俺まで巻き沿いだったな。
何故急にアルフォンスが倒れたのかといえば、
「何なのよ急に・・・・・・」
サクラが空中回し蹴りを、その後頭部に叩き込んだからである。
呆れ気味に、倒れた父を見下ろしている。
そして倒れたアルフォンスは、ガバッ!と立ち直った。
「何するんだサクラ!?」
「いや、それこっちの台詞なんだけど・・・・・・」
俺も同じ気持ちだ。
急に背後から剣を首筋に付けられて生きた心地がしなかったんだが。
「こんな夜遅くに帰って来やがって! 父さんは凄く心配したんだぞ!?」
「夜遅くって・・・まだ日が沈んだばかりでしょ」
春くらいの季節で日が沈む時間帯って何時頃だ?
18時~19時くらいか?
サクラくらいの年の子が家に帰る門限としては、ちょっと早すぎる気もするが。
いや、この世界の子の妥当な門限とか知らんけども。
「お前、ついこの前レッドベアに殺されかかったばっかじゃねぇか‼ 外に出るのは危険だって言っただろ‼」
「大丈夫だって言ってるでしょ。そもそも、レッドベアが村の近くに居たことが今まで無かった異例なんだし」
「そうだ、最近の森は少し様子がおかしい。だからしばらくは家に居ろって言っただろ?」
「だから大丈夫だって。今日も狩りに行ったけど、特に問題無かっt――――――あ」
「待て! 何だ今の『あ』は!?」
「・・・・・・別に何でもないわよ?」
「いいや、絶対何かあっただろう!?」
サクラの両肩を掴んで迫る父親、鬱陶しがる娘。
そんな家族を、さてどうしようかと考えて悩みながら眺める俺に、ヒナギクさんは「どういう事?」と首を傾げて聞いて来た。
・・・・・・まぁ、言った方がいいよな。
「実は今日、狩りに行ってきたんですよ」
「みたいね。2人共武器持ってるし」
「で、その時まぁ、当然モンスターを狩ったんですよ」
「狩りだものねぇ」
「最初は問題無く狩ってたんですけどね。俺は初めての狩りってことでモニカに手伝ってもらってストロングディアーを、サクラはニードルラビットを狩りました」
「あら、初めての狩りなのに頑張ったわね」
「ありがとうございます。で、その次が問題でしてね」
「うんうん?」
「ストライクボアを狩ったんですよ」
「ストライクボアって・・・ストロングディアーと同じくらいの強さよね。初心者の悠君は兎も角、サクラなら問題なく討伐出来ると思うのだけれど?」
「ええ、ま、普通のストライクボアならそうなんでしょうね」
「?」
「ユニーク種だったんですよ」
「・・・・・・え?」
「体の大きさが3メートルくらいありましたし」
「・・・・・えーと・・・・・・・」
チラリと、旦那であるアルフォンスの顔を見るヒナギクさん。
アルフォンスは顔を強張らせて「・・・・・・マジで?」とサクラに迫り、サクラは「マジよ」と鬱陶し気に返した。
アルフォンスはバタンと、白目を剥いて倒れた。
「あらあら、ショックのあまり気絶しちゃったわね」
「え、そんな朗らかに笑うシーン?」
白目を剥いて気絶する旦那の前で、普段と変わらない笑顔を浮かべるヒナギクさんに、俺はちょっと引いた。
◆◆◆
「ふむ、そうか。ユニークモンスターがのぅ・・・・・・」
場所は村長宅。
折角俺達が肉を狩ってきたんだから皆で食事にしようとヒナギクさんが提案し、俺達は広さのある村長の家に集まって食事をすることにしたのだ。
主にストライクボアの肉でテーブルの上に並べられた料理の数々。
ヒナギクさんとサクラが作ったものだ。
料理の味に舌鼓を打ちながら、俺とサクラは今日の狩りの事を皆に語った。
「にしても、そのユニークモンスターといい、先日のレッドベアといい、どうにも最近森の様子がおかしいな」
「アルフォンス君も、そう思うかね?」
「ああ。シャガタウンまでクエストに行ってたんだがよ。森だけじゃなく、そっからこっちに帰ってくるまでの道でも今までいなかったモンスターがどっかから住み着いてんのを見たぜ」
「生息地が変わったという事かのぅ・・・・・・」
料理を作っている間に復活したアルフォンスが、肉を刺して口に入れたフォークを銜えたまま首を捻る。
動物ってのは、種類にもよるが基本的に同じ所にしか居座らない。
縄張りというやつだ。
それはモンスターも変わらないらしい。
縄張りを変える可能性が0という訳では無いが、これだけ多数の動物が今まで生活していた場所を変えるというのは、あまり見られる事じゃない。
「いつ頃からそういう変化があったんだ、オッサン?」
「・・・・・・坊主。お前、俺に対する口の利き方がおかしくね?」
「いや、何か出会い頭がアレだったせいか自然とこういう感じに」
「貴方の自業自得よ」
「ぐぬっ・・・・・・」
俺の言葉にヒナギクさんが頷き、アルフォンス・・・オッサンが唸る。
一応やり過ぎたとは思っているのか、それ以上オッサン呼びに対して何も言わず、オッサンは俺の問いに記憶を思い出す様に視線を上げた。
「確か・・・4日くらい前じゃなかったか?」
「ふむ・・・言われてみればそうかもしれんのぅ。サクラがレッドベアに襲われたのが、最初に聞いた被害じゃし」
「普段、レッドベアがあんな村の近くに出て来る事なんて無かったし、私も驚いたわよ」
「基本的に、レッドベアってどの辺に生息してるんです?」
「森と山の境目当たりの水辺に居るんじゃが・・・・」
オルトンさんは食事を中断して椅子から立ち上がり、本棚から何か取ってきた。
それをテーブルに広げる。
コレは・・・・この村の周辺の地図か。
「まず此処がワシらの暮らす『サクラソウ村』じゃ」
地図の中央部に描かれた村の地形。
村を覆う様に森が広がっている。
いや、森の中に村を作ったのだろうが、こうして地図で見ると結構広い森だ。
・・・・途中でサクラと出会わなければ遭難してたかもしれん。
異世界に飛ばされた時点で遭難しているのと同義なのだが。
「このサクラソウ村周辺の森が『ハコベ森』。ワシらが君やサクラを見つけたのは、この辺りじゃ」
オルトンさんが指差す地点。
この村から南に進んだ所にある場所だ。
てことは、俺が最初に立っていたあの荒野が『タマリスク荒野』か。
「この近辺のレッドベアはアケビ山近く・・・大体この辺りに生息しておるんじゃ」
その場所は、確かに俺が倒れていた場所より大きく離れている。
本来なら俺が倒れていた場所より北東に位置する場所に生息しているらしい。
そこはハコベ森と『アケビ山』という山の境目にある、川辺の辺り。
この村から東にある海の近くだ。
「確かに、随分南に出て来てるな・・・・・・」
「何でこんなことが起きているのかしら?」
「動物の生息地が変わるとすれば、環境の変化が大概じゃの」
「環境?」
「その場所で餌が取れなくなったり、あるいは縄張りを横取りされたりじゃな」
「縄張りか・・・・・」
縄張りを横取りする強い存在っていうと、今日戦ったストライクボアを思い出すが・・・・。
「もしかして、あのストライクボアが・・・・・・?」
「それは無いと思うけど」
俺の思い付きを否定したのはサクラだった。
「何故だ?」
「ユニーク種は突然変異の存在だけど、いきなり何もない所からポッと現れる訳じゃ無いのよ」
「最初は普通のモンスターと同じように生まれるが、先天的に異常個体として生まれるモノと、後天的に何らかの要因で徐々に変質していくモノの2種類がおるんじゃ」
「そう。あのストライクボアがそのどっちであれ、あれだけデカかったんだから、あそこまで成長するのに相応の時間がかかる。それならもっと前から生態系が変化してるはずよ」
なるほど。
確か、あのストライクボアのレベルは32。
サクラ曰く、レッドベアよりも強いらしい。
俺が狩ったストロングディアーのレベルが4で、本来ストライクボアのレベルはストロングディアーと大差ないようだし、もしあのユニーク種がここら一帯を荒らしていたのなら、もっと前から被害が出てるか。
「それにストライクボアは、レッドベアとは反対側の南の方で生息しておるからのう。いくらユニーク種が誕生したとはいえ、北に住むレッドベアが南の方に出てくる理由はないのぅ」
指差し示す場所はハコベ森の南側で、タマリスク荒野の近くだ。
確かに、関係なさそうだな。
「4日前というと、悠君が来たのも4日前よね?」
「ああ、別の世界ってやつか」
オッサンにはもうヒナギクさんが説明してくれてるらしい。
少し胡散臭げにしていたが、ヒナギクさんとサクラの身内に異世界人がいる事は知っていたようで、信じてくれてはいるようだ。
「俺がこの世界に来たことと関係あるって事か。無関係とは言い切れねぇが・・・・」
とはいえ、俺がこの世界に来たから生態系が崩れたってのも意味分からんがな。
「他に何か無かったのか? 4日前に」
「・・・・・・そういえば」
ヒナギクさんが何かを思い出す。
「大きな魔力を感じたわね」
「ふむ・・・そういえば、ワシも魔力がざわつき、空気が振るえたのを感じたのぅ」
「あ、私も。殆ど一瞬だったから、気のせいとも思ったけど」
大きな魔力・・・・・・?
「そういや、俺も妙な音を聞いたな」
「音?」
「ああ。何か爆発みてぇな音が、結構遠くから。誰かがモンスターとやり合ってんのかと思ったが・・・・」
「爆発・・・・・・」
思い出すのは、初めてこの世界に来た時の事。
あの時、俺の周りに倒れていた無数の人間。
身体がありえない方向に捻じ曲がっていたり、身体の一部が無くなっていたりして倒れていた人達だ。
「・・・悠、何か思い当たる事でもあるの?」
「・・・・・・もしかして、なんだが――――――」
――――――俺がこの世界に来たことと関係あるとするのなら、思いついたことがある。
この世界に来たのが事故なら、神隠しのような人知の及ばない超常的、あるいは自然的な現象なのだろうが、もし事故じゃなかったとしたら?
故意に世界を渡るといえば、思いつくのはファンタジー系で見かける召喚魔法というやつだ。
離れた所にある場所から、生物なり無機物なりを出現させる魔法。
あそこに倒れていた奴等は、俺を召喚しようとしていた魔法使いではないか?
召喚しようとして成功はしたが、召喚するために使っていた魔力が暴発したとかで、召喚者達が吹き飛んだ。
それなら一応の説明は出来る。
何で暴発したとか、そもそも何で俺を召喚しようとしたのかは謎だが。
別に俺という個人を狙っての事ではなく、異世界人を召喚しようとして、召喚されたのが偶々俺だったって可能性が高いだろうが。
取りあえず、思いついたことを皆に話した。
「まぁ、それなら確かに君の周囲に人が倒れていたことも、爆発音も、魔力のざわつきも当て嵌まるが・・・・・・」
「実際の所どうなんだ、村長。そもそも、別の世界から人を召喚するなんて事が可能なのか?」
「・・・・・・確かに召喚魔法というものは存在するが、アレはあくまで遠く離れた場所からモノを呼び出す魔法。遠く離れたといっても、それは同じ世界の中の話じゃ。それに、同じ世界でも自分と何の繋がりも無い存在を呼び出すのはそう簡単な事ではない」
「・・・・・・どういうことですか?」
「基本的に、召喚魔法は自分の魔力を込められた道具や、自分と契約した使い魔などを呼び出す魔法じゃ。自分と何かしらの繋がりが無ければ、正確に召喚出来ん」
「つまり、何の繋がりも無いこの坊主を召喚することは出来ねぇと・・・・・・?」
「繋がりの無い者を召喚する事は不可能ではないが、何かしら関わりのある触媒が必要じゃな。例えば・・・ドラゴンを召喚しようとするなら、ドラゴンの鱗や爪などを用意するとか。あるいは・・・コレは禁術なのじゃが、生前の由来がある品を触媒にし、死んだ者の魂を召喚するとか」
そんなのもあるのか。
「それなら、尚の事俺を召喚する事なんて出来ない、か。異世界人を召喚する触媒なんて無いだろうs――――いや、菊之助さんみたいな人が過去に存在して、その人の持ってた物品を使ったとか?」
「それでも、それで呼び出せるのはその品と関わりのある者じゃろう。君の身内、あるいは知り合いに、突然行方不明になった者はおるか?」
「・・・・・・・・いませんね」
先祖にも行方不明者がいたなんて話は聞かないし。
いや、もっと大昔とかなら流石に分からんが。
「そもそも、異世界から人を召喚するなど、御伽話でしか聞いたことが無い。まぁ、君や菊之助の様な例があるんじゃ。無いとは言わんが、狙って呼び出したとは思えん」
だよなぁ・・・だったらやっぱ、俺がこの世界に来たのは事故か。
「それに、君が故意に召喚されたのであれ、事故によって来たのであれ、それで魔物の生態系が崩れた理由は分からん。召喚魔法を使うにあたり膨大な魔力を使って暴発したのが理由なら、少し驚いて遠くに逃げはするが、精々1日くらいじゃろう。野生生物はその辺の気配に敏感じゃからな、異常が無いと判断すれば直ぐに戻って来るじゃろうて」
「うーん・・・・・・」
結局、どれも推測でハッキリと分かった事は無いんだよな。
「ならよ、その坊主が召喚された場所を調べてみるか?」
「そうね。調べて分かる事があるかもしれないし・・・悠君がいた場所って、どの辺りかしら?」
ヒナギクさんの問いに、俺は地図を見る。
この辺の地理なんて知らないし、正確に測った訳じゃ無いから具体的な地点は分からない。
タマリスク荒野からハコベ森に入ったから、方角は・・・・南南西くらいか?
あの時・・・この世界に来る前に地球に居た時間と、ハコベ森前に着いた時の大体の時間と、俺の走力を考えて・・・・・・
「この辺りか?」
漠然と、地図に指で円を描く。
スマホで確認した時の時間と、俺の体力と走るスピードを考えて大雑把に予想しただけだから、この場所で合ってるとは断言出来ないが。
「もしかしたら景色とか覚えてるかもしれないから、俺が案内しますよ」
「いや、坊主。お前は来るな」
オッサンが、やや強めの口調で止める。
「何でだ?」
「レッドベアやユニークモンスターを倒したその力は認めるが、このタマリスク荒野に生息する魔物の力はそいつらの比じゃねぇんだ」
「・・・・・・そうなのか?」
「ああ。数自体はそう多くいねぇ筈だが、質が違う。最低でも中堅クラスの冒険者くらいの腕がねぇと、アッサリ殺されるぜ」
「・・・・・・ちなみに、レッドベアの何倍くらい強いんだ?」
「一概には言えねぇが、そうだな・・・・・・2倍~3倍ってとこか」
レッドベアのレベルは分かんねぇが、推測するとレベル11のサクラが勝てなくて、ストライクボアのレベル32よりは低いと考えて・・・・・・15~25くらいか。
あくまで俺が感じた印象だが。
間を取って20レベルと仮定しよう。
その2倍~3倍って事は、40レベル~60レベルって事か。
・・・・・・うん、無理だな。
剣のおかげでストライクボアを倒したようなもんだし、ユニーク種とはいえ、ストライクボアの攻撃手段は突進と後ろ蹴りの2種類だけだ。
ユニークモンスターと化し跳躍の攻撃手段が出来たが、攻撃のバリエーションはそう多くない。
単調故に攻撃を避けることが出来たし、身体が頑丈でも剣のおかげで倒すことが出来た。
コールブランドの切れ味以上の頑丈さを持つモンスターには攻撃は通らないし、複雑な攻撃をしてこられたら避けることは出来ないかも知れない。
そんな危険なモンスターがいるのなら、確かに遠慮しておいた方がいいか。
俺にしか分からない事ももしかしたらあるかもしれないが、無理に付いて行く理由も無いしな。
一度調べて来てもらって、それで何かオッサンが分からない物があったら俺が調べればいい。
【我が瞳は全てを見破る】を使えばいいだけだしな。
「分かった。じゃあ、オッサンに任せる」
「おうよ。明日、調べて来てやるよ」
~用語辞典~
『突然変異種』
・モンスターが異常進化した個体
・元の種族には無い能力を備えている
・魔石の質や大きさが増すことが多い
・他魔物の魔石を喰らい進化するという研究結果が出ているが、必ずしもユニーク化する訳では無いらしい




