第24話 宇枝悠の戦い~VSストライクボア~
狙いを定めたチャック目掛けて、ストライクボアは地を強く蹴り爆走する。
凄まじいスピードで駆ける足が、地面を蹴って抉りながら目まぐるしく回り、獲物を仕留めんとその鋭く長い白い牙がチャックに迫る。
足を少し開き、その両手に握る大剣・・・グレートソードを構え、チャックは迫るストライクボアの攻撃のタイミングを計る。
俺はサクラと共に、チャックの援護に向かう。
「どうすんだ、後ろに回り込めばいいのか?」
「後ろは止めといた方がいいわ。ストライクボアは基本真っ直ぐに突っ込むだけだけど、偶に後ろ足で蹴って来るから。攻撃するのなら、側面か真上!」
「あいよ!」
サクラと共に、ストライクボアの側面に回り込むように駆ける。
俺達が駆けだしたのとほぼ同時に、上から何かがストライクボア目掛けて飛んでいき、空を切る音が聞こえた。
ストライクボア目掛けて飛んだのは、矢。
モニカが放ったものだ。
飛んで行く矢はストライクボアの前頭部辺りに当たるが、それらは全て皮膚に弾かれてしまい、ダメージを与えた様子はない。
そういやサクラの剣も効いてなかったな。
かなり硬そうだ。
「俺等の攻撃って通じるのか?」
「・・・・・・やってみなくちゃ分からないわね」
さっきサクラは、真上からすれ違い様に斬りかかった。
それでダメージが無かったのなら、
「今度は真上から突き刺す!」
全体重を使って、ストライクボアの背に剣を突き立てる気のようだ。
サクラが真上なら、俺は側面に回り込む。
チャックが突進してくるストライクボアを迎え撃つ。
突っ走って来るストライクボアに向かってチャックも駆け出すが、川の流れに足を取られているせいか動きが悪い。
履いているレザーブーツも、川の水を吸って重くなっているのかもしれない。
ストライクボアも、チャックを仕留めるべく川に入っていくが、その突進スピードが減速している様子はない。
川の水を弾き飛ばし、瀑布の様な勢いで水飛沫を巻き上げながら、直進を続けている。
チャックは迫るストライクボアの、やや斜めに前進して大剣を振りかぶる。
「うぉおらぁぁああっ‼」
雄叫びと共に、一閃。
袈裟斬りで大きく振り下ろした大剣が、目前まで迫ったストライクボアの牙に直撃する。
だが、振り下ろした一撃は、その巨大な牙に容易く弾かれてしまった。
「うぉおああぁぁぁっ!?」
チャックは悲鳴を上げて大きくふっ飛ばされ、川に着水する。
ストライクボアの突進によって巻き上げられた川の奔流に押され、下流へ流されていく。
「って、おい! ヤバくねぇか!?」
川の流れが酷く激しい。
このまま溺れちまうのでは。
助けに行くべきかどうか少し逡巡していると、モニカが木の上から跳び下り、川沿いを走って流れていくチャックを追って行った。
「チャックは任せて! あんた達はそいつを‼」
「・・・分かった!」
チャックはモニカに任せよう。
視線をストライクボアに合わせると、丁度サクラが高く跳躍し、ストライクボアの真上を取った所だった。
ショートソードを逆手で握り、大きく振りかぶる。
「ハアァッ‼‼」
気合の入った声と共に、両手で剣を標的の背に振り下ろす。
肉を裂き、血が噴き出る音が聞こえた。
どうやら今回は攻撃が通ったようだ。
背を刺されたストライクボアは悲鳴を上げながら、背に刺さる剣を抜こうと必死で身を捻る。
ダメージは与えたが、あの刀身が短いショートソードでは致命傷には至らないようだ。
暴れまわるストライクボアに、サクラは堪らず舌打ちしつつ剣を引き抜き、背の上から下りようと高く跳躍し身を翻し宙を舞う。
俺は側面から斬りつけようと回り込もうとするが、ストライクボアは俺を次の標的に定めたようで、その鋭い双眸が此方に向けられる。
未だに川の中で立っているストライクボアに近づくと、俺も必然に川の中に入ることになるが、それをやるとチャックの二の舞いになりそうで、回り込むのは諦める。
だが、攻撃する事を諦めた訳じゃ無い。
横がダメなら、サクラと同じように上から攻撃するまで。
ストライクボアの背から跳び下りて宙を舞っていたサクラが陸に着地して、入れ替わる様に俺は跳躍し、剣を振り上げる。
サクラのショートソードは刀身が短く深くは刺さらなかったが、俺の剣ならもっと深くまで突き刺せるはず。
振り上げた剣を、ストライクボアの背に刺せるように狙いを定める。
だが、
「BUOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ‼‼」
ストライクボアが突然身を沈めたと思えば、咆哮を上げながら地を強く蹴り上げて――――――
「―――――な、に・・・・・・!?」
蛙の跳躍のように、コッチに向かって一足飛び。
3メートルはある巨体が一瞬で目前まで迫り、その長く白い角の様な牙が俺を穿とうと突き立ててくる。
「悠ッ!?」
サクラの悲鳴染みた声が聞こえる。
この状況をどうするか、考えている時間なんて無い。
「う、らあぁぁっ‼」
俺は破れかぶれに、剣を振り下ろした。
そして、
「・・・・・・・・・・え?」
剣を握る手に、少しばかり押される様な手応えが感じられる。
コレはストロングディアーを斬った時の感触に似ている。
何かを切り裂いた感触だ。
剣を振り下ろした俺は、川の中に着地する。
水飛沫を上げながら降りて、直ぐに振り返る。
するとボチャンッ‼と音を立てて、何かが目の前に落ちた。
白い角の様なフォルムのソレは、ストライクボアの牙だった。
川から跳び上がり陸に着地したストライクボアを見ると、左右から伸びる牙の片方が、根の部分から綺麗に切れた様な切断面を残して無くなっていた。
俺の足下で川に沈んでいるのがソレなのだろう。
何でこんな所に落ちたのかといえば・・・・・・俺が斬ったとしか思えない。
しかし、さっきチャックの一撃を簡単に弾いていたのに、俺の一撃が簡単に通ったのは何故なんだ?
「悠! 来るわよッ‼」
「!」
ゆっくりと考えている時間は無いらしい。
ストライクボアは牙を斬られたことに怒ったのか、再び爆走し、川を突っ切って此方に突進してくる。
先程と同じで、水の抵抗を感じさせない突進。
残ったもう片方の牙で、俺を穿たんと突き立ててくる。
俺は迷いなく斜めに前進し、再び剣を迫る牙目掛けて振るった。
今度はしっかりとこの眼で視た。
俺が振った剣が、大きな牙を簡単に切り裂いた瞬間を。
斜めに進んだ俺に反応出来ずに、ストライクボアは横を通り過ぎようとするが、俺は直ぐ様振り下ろした剣を振り上げる。
振り上げたその剣の刀身は、俺の横を駆けるストライクボアの首の肉に食い込み、
――――――――斬ッ‼‼
牙を切り裂いた時と同じ様に、少しばかりの抵抗力を手に感じただけで、簡単に切り裂いた。
ストライクボアは突進が止まり勢いよく倒れ込んで川に沈み、ストライクボアから切り離されたソレはクルクルと回り、赤い雨を降らしながら天へ上る。
赤い雨は川も同じ色に変え、倒れたストライクボアも川を赤く染めていく。
天に上ったソレは重力に従い川に落下、ドボンと大きな音を立てて着水する。
川が更に赤くなる。
下流にいくほど赤く染まっていく。
川に落ちたソレを確認する。
ソレは・・・・ストライクボアの頭部だった。
剣で切り裂いたのは感触で分かったが、どうやら身体と頭部が斬られて二つに分かれてしまったようである。
さっきの赤い雨は、斬り飛ばされたストライクボアの頭部から撒き散らされた血で、ストライクボアの無くなった首部分の切断面から川に流れてるのも同じ血だ。
夥しい量の血が噴き出て、辺りは所構わず赤く染まっている。
俺は自分が着ている、血に染まり真っ赤に色が変わった服を見て、天を仰いだ。
・・・・・・コレ、借り物の服なんだけど、どうしよ?




