第12話 鈴木菊之助の日記帳
「これがその日記よ」
食事を終えた後、ヒナギクさんが本を何冊も持ってきてくれた。
やはり結構な年数があるせいか、日記の数が多い。
「それじゃ、コレも置いとくわね」
居間のテーブルに日記を置くと、その横にサクラが本を数冊置いた。
「コレは?」
「さっき言ったでしょ、持ってきてあげるって」
ああ、御伽話がどうとかってやつか。
もしかしたら何かの参考になるかもしれんしな。
読んどいて損はしないだろう。
「おう、ありがとよ。後で読ませてもらうわ」
まずは日記からかね。
◆◆◆
早速とばかりに日記帳を開く悠。
悠が開くキクノスケ・スズキの・・・曾祖父の日記帳の中身が、サクラは少し気になっていた。
日記帳と母のヒナギクは言っていたが、曾祖父が日記をつけている事を知っているだけで、今テーブルに積み上げられている書物が本当に日記帳なのかどうか、それはそれを書いた曾祖父にしか分からない。
サクラもヒナギクも、いやこの村に住む皆、曾祖父の書いた文字が読めなかったのだ。
サクラが小さい頃、一度興味本位で本を開いたことがあるが、その時の文字は今でも読めない。
決してサクラは読書家という訳では無いが、それでもそれなりには本を読む。
だから、あの読めない本に何が書いてあるのか、少しだけ興味がある。
悠が読み終わったら、内容を教えてもらおうと思った。
「じゃあお母さん買い物に行くけど、サクラはどうする?」
「んー・・・・・・」
一緒に買い物に行ってもいいのだが、サクラに買いたい物が今の所特に思いつかなかった。
かといって、今は他にすることが無い――――――
「――――――そういえば悠が目覚めた事、村の皆に言っといたほうがいいんじゃない?」
「・・・そうね、此処まで運んできてもらったりしたし、みんなも少し気になるんじゃないかしら」
もしかしたら・・・いや、もしかしなくてもしばらくこの村に滞在することになるかもしれないし、最低でも村長には伝えておいた方が良い。
「あ、悠って何処に住ませる気なの? 本当に別の世界から来たんじゃ、行く当てなんてないんじゃ・・・・・・」
「サクラと一緒の部屋に――――――」
「却下に決まってんでしょ‼」
「―――――ふふ、やっぱり?」
からかったヒナギクに、サクラは嘆息する。
気絶していた今日までは仕方ないから、一応命の恩人でもあった為サクラが自分の部屋のベッドを貸したが、目が覚めたのなら話が変わって来る。
悠が気絶している間は母と同じベッドで寝ていたのだが、そろそろ出稼ぎに出てる父が帰宅する頃だ。
そうなると、本来母と同じ部屋で寝ている父の為にも部屋は元に戻しておきたい。
父と母が一緒に寝る為にサイズは大きいベッドなのだが、流石に3人一緒には寝れない。
仮に寝れたとしても、サクラが父と一緒のベッドで寝ることに抵抗がある。
悠が気絶したままなら、父を居間で寝かせるという選択肢もあったのだが。
父が帰ってきたら本来の3人家族に戻る。
大きい家でもない此処エンフィールド家で、悠が生活できるスペースが無いのだ。
「その辺も含めて、村長に相談した方がいいわね」
「じゃあ、私が行ってくるわ。丁度村長に聞きたい事もあったし」
「聞きたい事・・・?」
「曾お祖父ちゃんの事よ。古い付き合いなんでしょ? その別の世界の事、曾お祖父じゃんから何か聞いてるかもしれないし」
流石に元の世界に戻る方法は知らないと思うが、当時この世界にやって来た曾祖父がこの村に住むようになった経緯等を知っているなら、今この世界にやって来て何も分からないでいる悠に、何かしらの助言が貰えるかもしれない。
「じゃあ、私達ちょっと出るから」
「おー」
悠は本から視線を外さずに返事した。
ホントに聞いているのか疑問だったが、サクラは嘆息し、ヒナギクは苦笑し、それぞれ目的の場所へと向かい家を出た。
◆◆◆
どうやらこの本は本当に日記のようだ。
まず最初に、鈴木菊之助がこの世界にやってきた経緯が書いてある。
訓練をサボって昼寝をして、目が覚めたらこの世界のこの国・・・・フィオーレ王国に居たらしい。
経緯って言うほどのもんじゃないな、俺以上に何が起きたのか分かっていなかったようだ。
俺は俺で強風が吹いて気が付いたら公園から荒野にいたとか訳判んねーことになってるから、あんまり人の事は言えんけども。
訓練という文字に引っ掛かったが、その疑問は直ぐに解消された。
どうやら鈴木菊之助は、陸上自衛隊の隊員だったそうだ。
階級は二等陸尉。
・・・・・・おい、コレってそこそこ偉いんじゃないのか?
軍階級とかゲームとかぐらいしか知らんから詳しい事は分からないが、ようは中尉だろう。
いいのかサボってて。
そこから先は長いし割とどうでもいい話バッカなので(日記だから当然かもだが)流し読みするが、ようは夢に見たファンタジーな異世界にやって来て有頂天、当時この村―――名はサクラソウ村―――の村長の娘に一目惚れし更に有頂天、そして何やかんやで結婚までして子供が出来、この世界に骨を埋めることを決めたのだとか。
元の世界に戻るつもりは最初からあまりなかったようだが、一応探しはしたみたいだ。
冒険者ギルドという所に所属し、いろいろ調べ回ったらしい。
だが、やはり元の世界に戻る方法は見つからなかったようだ。
後は魔法を修得した事とか、スキルがどうとか、気になる単語が幾つか書かれているが、肝心な事は載っていない。
大半がその一目惚れして結婚までした女に対する惚気とかで、読むのが少しウンザリしてくる。
全く知らない女がどう可愛いとか、ここが可愛いとか、ここが愛らしいとかどうでもいいんだよ。
初夜の事まで生々しく綿密に書いていた。
もうくたばれよこのリア充が。
あ、もうくたばってるかこのリア充は。
「・・・・・・この本に有益な情報は無し、と」
ま、日記帳だからか仕方がないか。
とはいえ、本はまだ残ってる。
他の本も確認しとくか。
『フィオーレ王国』
アースランド大陸南東部に位置する王国。
国内の街や村などは、花の名前が使われている。
北部はウィンター地方、西部はオータム地方、南部はサマー地方、東部はスプリング地方と呼ばれており、東・西・南・北其々が、春・秋・夏・冬の季節になっている。
つまり東部は一年中春で、西部は一年中秋、南部は一年中夏、北部は一年中冬ということだ。
この国の季節が地方毎に区切られているのは、大地に流れる龍脈や霊脈が国にいる大精霊を活性化させている影響が大きいからだと思われる。
他国に比べると比較的平和で、人間族だけでない他種族の多くがこの国を行き来している。
現国王はダンデライオン・K・フィオーレ。
姫である娘のローズ・R・フィオーレに振り回されているのは王都では有名だ。
~フィオーレ王国 観光ガイドブック~より抜粋。




