第11話 宇枝悠の世界からやって来ていた先住民
「今、日本って言った?」
ヒナギクさんの口から、聞くはずのない言葉が発せられた。
ニッポン・・・つまり『日本』だ。
俺はこの世界とは違う世界から来たとは言ったが、俺の住んでる星が『地球』と呼ばれることや、住んでる国が『日本』だとは口にしていない。
にも拘らず、ヒナギクさんは『地球』や『日本』という言葉を口にした。
コレはどういう事だ?
「何でヒナギクさんが・・・・・・?」
「母さん・・・・・・?」
サクラも少し困惑している。
サクラは何も知らないようだが・・・・・・。
「私のお祖父ちゃんがね、そのニッポンって所から来たみたいなのよ」
「ヒナギクさんのお祖父さんって・・・・・・」
「曾お祖父ちゃんが?」
サクラの問いに、ヒナギクさんは「そうよ」と頷く。
この2人の血縁が日本人って事か。
「ちなみにその曾お祖父さん、名前はなんていうんです?」
「キクノスケって言うのよ。えっと確か・・・キクノスケ・スズキだったかしら」
キクノスケ・スズキ・・・・『鈴木 菊之助』か。
確かに日本人の名前だ。
「もしかしてなんだが、サクラとヒナギクさんの名前ってその曾祖父さんが付けたとか?」
「あら、よく分かったわね」
「名前が何となく日本人っぽかったんで」
2人の黒髪も、言われてみれば日本人の血を引く名残なのかもしれない。
しかし思わぬところから手掛かりが出て来たな。
コレは思ったよりも早く日本に帰れるかもしれな―――――いや、
「曾祖父さんは・・・・・・」
「・・・・・・もう亡くなってるの」
「私が5歳の頃だったから、もう10年も前になるわね」
やっぱりか。
サクラの話を推測するに、現在15歳で俺と同じ。
で、曾祖父さんだ。
何歳でこっちに来たのかは知らないが、それなりに年月が過ぎているハズ。
それでこうやって曾孫までいるって事は、
「曾祖父さん・・・日本に帰らなかった、いや、帰れなかったとか?」
「そう、だったと思う。私もお祖父ちゃんから聞いただけで、本当かどうか分からなかったけど」
ヒナギクさんの話によると、結局元の世界へ帰る方法が分からず、この世界に骨を埋めることを決めたのだとか何とか。
サクラの曾祖母さんと出会い、子供が出来て、この世界に留まるのか帰るのか迷ったが、この世界で生きていくことを決めたという話を、小さい頃からよく聞かされていたらしい。
元の世界へ帰る方法が見つからず、探すのを諦めたとも取れるが・・・・それはその曾祖父さんの人生で、曾祖父さん自身が決断した事だから俺にとっては割とどうでもいいんだが。
「手掛かりは無し、か・・・・・・」
結局は振り出しだな。
するとヒナギクさんは「あっ」と、何か思い出したように手を叩く。
「確かお祖父ちゃん、日記を書いてたみたいだから何か分かるかもしれないわ」
「マジっすか?」
「ええ。昔ちょっと覗いたことがあるんだけど見た事のない文字だったから、もしかしたらあっちの世界の文字なのかもしれないわ」
日記は日本語で書かれてるって事か?
そういや、さっき俺が目覚めた部屋にあった本棚。
そこにあった本の背表紙のタイトルは見た事のない文字だったな。
異世界だからって気にしてなかったけど。
何故か相手が喋る言葉は理解出来るようになったが、文字までは読めないようだ。
この違いって何だろうな・・・・・・。
「考える前に、まずご飯食べたら? 冷めるわよ」
「ん? おう」
サクラの言う通り、折角作ってもらったのに冷めてしまっては勿体ない。
3日ぶりの食事なんだ、まずは食べてからだな。
俺は作ってもらったシチューの様なモノをスプーンで掬い口に入れ、その味を堪能した。




