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リアル・プレイング・ゲーム  作者: 旭 晴人
第二章《Lost》
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強奪のオリジナルスキル

 呪いから解き放たれたエリオットは、むしろ自分から進んでザガンについて語り始めた。どうやら両者の仲はかなり険悪なようである。



「アイツら、数は三十とそこそこの規模のギルドだが、まともな戦闘員はたった四人しかいねえんだ。他は紙切れみたいなザコばっか! あんな脆弱なギルド、俺達ベテルギウスの影に隠れてなきゃソッコーで潰されてるぜ。リーダーはカルマっていう単細胞筋肉バカだし、トモヤって奴は暇さえあれば訓練場にこもってる陰気臭いスカシ野郎だ。奴ら、どんだけ挑発してもビビってまったく乗ってこねえ。飛んだ腰抜け共だ。けどもっとムカつくのはコーメイってクソ野郎だ、俺達に呪いかけやがった! ああ違うぞ、油断してたんだ、面白い強化魔法を覚えたから実験させてくれって言われてな、ホントに汚え奴だ。どんなアイテム使っても治らねえしよぉ……あのガリ勉野郎、今度会ったらぶっ殺してやる。あー、でもぶっちぎりでムカつくのはぁ……」



 肥大しきった自意識が全面的に前に出てきていて非常に解読が難儀な供述だったが、それより恐ろしいのはワタルの手腕である。



 エリオットの話に的確に相づちを打って笑顔で話を聞いているのだ。エリオットはどんどん気分を良くして更に喋る。話が脱線してもワタルはまったく機嫌を表に出さない。これ以上ない聞き上手だった。



 ワタルの神業的な聴取により、ザガンについて分かったことを整理しよう。



 構成人数三十。内、要注意人物四人。名前はカルマ、トモヤ、コーメイ、トーリ。最後の名前はエリオットが特に気に入らない奴らしい。相当性格が悪い、とエリオットに言わしめるこの男とはどんな人間なのだろう。



 残念ながら彼らの戦闘方法はほとんど謎に包まれていた。険悪な両ギルドは共闘する仲でもなく、漠然と「強い」というぐらいにしかエリオットも知らないとのことだった。



 ただ、コーメイが呪いをかけた魔法使い。そしてリーダーのカルマはソーマでさえも一目置く存在であるということは分かった。



 エリオットは彼らについて「俺よりは弱い」と連発していたが、それはかなり薄い希望として受け取っておくことにする。そうだったら苦労はない。



 ザガンは基本的に、二棟ある魔王城の小さい方、西棟で寝起きしている。そして俺の中で最も大きな情報。



 ハルカの居場所はその西棟。ハルカはザガンによって監禁されているとのことだった。



 俺にとってこの情報は救い以外の何ものでもなかった。ゲイルやカイジを筆頭に、汚物に服を着せたようなベテルギウスの面々の中にハルカが放り込まれていたらと考えるのも恐ろしい。



 ザガンと言えば、俺はトモヤくらいしか面識が無いが、この件に関しては断然ザガンの方がマシだ。俺が行くまでハルカに手を出していなければ握手さえ交わしたい。



 エリオットは「あいつらだけイイ思いしやがって」と零していたので不安の全てが拭えたわけではなかったが。俺には祈るより他に手段がない。



 ザガンの目的である復讐の内容については、エリオットはほとんど認識していなかった。ベテルギウスのような人種にペラペラ話す内容でもないだろうから、自然と言えば自然である。



「質問いいか?」



 エリオットが怪訝そうな顔で俺の方を見る。



「なんでソーマは俺を狙う? そして、お前ら側の誰かがハルカを狙った理由はなんだ」



「勘違いしてんじゃねえ、ソーマ様はお前なんて暇潰し程度にしか考えてねえよ」



「そのためにスパイ送りつけるほど暇こじらせてるってのかよ、お前のとこの大将は。目的が無いなんて有り得ないな。それとも聞かされていないだけか? 随分信頼された幹部じゃないか」



 我ながら陳腐な挑発だったが、エリオットのつまらないプライドを捨てさせるには足りたようだった。一言苦々しげに吐き捨てる。



「……ソーマ様のオリジナルスキルはな。他人のオリジナルスキルを"盗む"能力なんだよ」



 俺が思わず息を呑む中、くだらん、と呟いたのはヒロキだ。



「そんなバカみたいなスキル、ウチがデザインするわけないだろう。商売上大事な大事なユーザー様の反感を大量に買うこと受け合いだ」



 なるほど同感だ。この仮想世界が多人数同時プレイ型のオンラインゲームとして世に出る予定だった以上、大切な顧客であるユーザーに損失が及ぶ可能性のあるスキルを運営側が用意するはずがない。



 まして、希少なオリジナルスキルはユーザーにとって財産そのもの。それを盗むスキル──そんなもの、決してオンラインゲームに存在してはならない。



「デザインしたのはアルカディア、あんたらじゃねえ。……ガキ、お前オリジナルスキルホルダーなんだろ? ソーマ様はどこでか知らねえがお前のその能力を見て、それはそれは惚れ込んじまったらしくてな。あの方は基本的に温厚だが、底の知らねえ強欲でもある。お前のオリジナルスキルが欲しくて欲しくて、ついには能力を盗む能力をバットマンにデザインさせたんだ」



「バットマン……?」



 聞き覚えのないその名を俺は無意識に反芻した。何か、その名に凡庸な脇役では有り得ない魔力を感じたのだ。



「ああ、謎の多い奴でな。ザガンのローブを纏ってるがフードの奥の顔が見えねえの。カオナシって呼んでるやつもいるな。アルカディアのシステムについてやたら詳しくて、書き換え作業は全部そいつがやってくれたから俺達は襲撃担当だった」



「そいつだ!」



 ヒロキが突然、長年探し求めた難問の答えを見出したかのように血相変えて叫んだ。



「そいつさえ捕まえればこの世界は元に戻る! おい、そいつについて全部吐け!」



 アルカディアのメインプログラムを一時的とは言え乗っ取ったからには、敵側にそれなりに明晰な頭脳を持つ者がいると考えるのは当然だった。



 この世界を元に戻す、という悲願を為すためには、そいつをとっ捕まえて変更したパスコードを吐かせるのが絶対不可欠。その切れ者の名が、今し方白日の下に晒されたというわけである。



 バットマン──それが、俺達の最終目標か。



 以前ワタルと通話した際に聞いた話に寄れば、父が俺に会うのを渋っていた理由の一つに、敵側の鬼才、つまりこのバットマンの目が俺にも向くことを恐れていた、というのがあった。



 結果論だが、そもそもソーマにありがたくない興味を持たれてしまっていたらしい俺にとってその心配は見当違いだったと言える。



 それにしても、これまでの所業を振り返ってみるだけでもバットマンの頭脳の恐ろしさはよく分かるというのに、新たにオリジナルスキルをデザインすることもできるとなればますますただ者ではない。



 向こうがその気になれば、ザガンとベテルギウス全員をオリジナルスキルホルダーの無敵軍団に進化させることだって思いのままなのだ。



「ヒロキさん、こういうのは急かしちゃダメですよ。うーん……エリオット君、そのバットマンさんっていう人は男性? 女性?」



 興奮するヒロキを苦笑混じりにたしなめながらワタルが放ったジャブのような質問に、エリオットは虚を突かれたような顔になった。



「あぁ……機械みたいな声で、顔も見えないから性別なんて分かんねえ。けど、一人称が私だったり僕だったりして、男のようにも女のようにも思えるような……」



「死ぬほど使えない情報をどうも」



「まあまあヒロキさん。じゃあさ、そのバットマンって人はどれくらい強いの?」



「戦ってるところは見たことないな……けど、普通に考えてステータスはチートレベルだろ。なんせあいつだけだぜ、自由にシステムをいじれるの」



「それもそう、か。とっ捕まえるにしても相当骨が折れそうですね」



 ワタルがヒロキと目を見合わせて難しい顔をする。俺達一般組も、一様に苦虫を噛み潰した。



 バットマンとやらがこのシステムを真に支配している唯一の存在であるというなら、強い弱いの議論は最早次元違いかもしれない。いざ戦おうという瞬間、バットマンは俺達の命など操作一つで死亡扱いにすることさえ容易いかもしれないのだ。



「あぁ、そうだガキ。ハルカとかいう例の可愛い娘、連れ去るように命令したのはそのバットマンだぜ」



 思い出したように発せられた、耳を疑うその台詞に俺は声も無かった。



「バットマンは俺達ベテルギウスに、ハルカという少女を無傷で連れてくるように言った。奴はその娘の居場所ぐらい余裕で調べられるからな、ケントっていういけ好かねえ新人が丁度別命で近くにいたから命令を伝える意味で精鋭五人の増援が送られた。後枠が一つありゃ、俺も選ばれてたに違いないのに」



 ケント。あの時あいつは確か、勝手を働いたベテルギウス達を処分しにキノ村に来たと言っていた。



 偶然居合わせた俺はケントにとってすればソーマへの絶好の手土産になる。あの時俺は辛くも生き延びたが、あれは今思えば単に生かされていたのだ。ケントが本気でかかってくれば、俺の命は今無かったことだろう。



 ハルカは俺を背に戦おうとしてくれた。その時ケントの背後に駆けつけた五人のベテルギウスがエリオットの言った精鋭だろう。そいつらにバットマンからの命令を伝えられたケントは、しかしソーマの命令を優先してハルカを見逃した。



 はずだった。なのに今、ハルカは奴らの城に監禁されている。あの時俺とハルカになにが起きたのだろう。



 そして何より。



「……この世界の神に等しいそんな大層なやつが、どうしてハルカを狙う……!?」



「知らねーよ、可愛いからとかじゃねえの? 普通に考えて、自分の思い通りになる世界ができたら、まずは可愛い女世界中眺め回して探すっしょ」



 低俗に過ぎる思考回路だが、その可能性は捨てきれない。ひいき目抜きに見てもハルカの容姿は常識離れした美しさだ。傲慢な神の眼鏡に留まったとしても確かに不思議では無い。



「セツナ君達、明日の朝出発でしょ? 後は僕らに任せてもう寝なさい」



 虫の居所が悪く、正体不明の苛立ちを押さえきれなくなりかけていたところに、ワタルから声がかけられた。



 正直まだまだ聞きたいことはたくさんあった。ハルカは無事なのか、飯はちゃんと食わせているのか、向こうでどんな生活を送っているのか。



 だが、寝不足、準備不足でダンジョンに潜るのは本末転倒もいいところである。それに今ソーマやバットマンについて頭を悩ませたところで、俺達はこれから行われる作戦の大部分に参加できない可能性が高いのだ。



 ここは気持ちを迷宮に切り替えて、ソーマとバットマンを含むベテルギウスのことはワタル達に任せるのがチームプレイというものだろう。そう簡単に割り切れるほど大人では無かったが、ぐっと気持ちを飲み下す。



「……分かりました。よろしくお願いします。もし、俺達が帰ってくるより早く決定的な好機が来たなら、構わず行動してください」



「もちろんだ。君達が帰ってきたときには全てが終わっている、これが僕の理想だからね」



 俺達のやり取りを聞いたエリオットが侮蔑的に口角を上げて囃し立てる。



「女が大変なときにお友達と遠足なんて感動的だなぁおい。ガキ四人で攻略に何十年かかるだろうなぁ。うっかり女の顔忘れないように気をつけろよ!」



「……ハルカを、よろしくお願いします」



 挑発を黙殺し俺はワタルに軽く頭を下げた。ワタルの表情が哀しげなものに変わる。そう言えば、ワタルはハルカと面識があるのだった。彼もハルカの身を案じていることだろう。



「ああ。君達ももう部屋に戻りなさい」



 リンドウやソラもワタルに促され、俺に続いて踵を返した。背後で、ワタルが何やらガサゴソと拷問器具の山を漁っている。まだ何か俺やソラに向かって喚いていたエリオットの声が引きつる。



「お、おい、まさかまだ続けるとか言わないよな……」



「え? まだ喋ってないこといっぱいあるでしょ? ザガンについてはしっかり喋ってくれたけど、ベテルギウスについてはまだまだだよね?」



 恐ろしいほど軽快な口調。どうやら第二フェーズが始まるらしい。俺達子どもには刺激が強いから人払いをしたのだろうか。



「全部ゲロるまで続けるよ」



 ハートマークが付きそうな声とエリオットの悲鳴を背に、俺達は顔を真っ青にして一目散に退散した。

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