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リアル・プレイング・ゲーム  作者: 旭 晴人
第二章《Lost》
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ワタルのお仕事

 規則的な足音が廊下に反響するぐらいには、無言が続いていた。



 俺の背中に乗っかるあまりにも軽い重み。こんな華奢な身体で、本当によく頑張った。俺は寝ているのかと思うほど何も喋らず背中に頬を埋めているアンナに呼びかけた。



「まだ痛むか」



「……うぅん、平気。ちょっと気が抜けちゃったかな。えへへ」



 アイテム一つで消える痛みだとしても、植え付けられた恐怖は簡単に消せない。言葉とは裏腹に、アンナの身体はずっと震えている。



「おーい!」



 背後から何者かが駆けてきた。振り返れば何やら血相変えて汗まみれのリンドウだった。



「聞いたぜ、ベテルギウスとやり合ったって! 大丈夫なのかよ?」



 アンナの顔をのぞき込むリンドウ。アンナは余計に顔を深く俺のコートに埋めた。



「平気。ありがと」



「いやいや、全然見えねーし! 簡単に見破られる強がりならやめて、最初から素直になる方が吉だぜ」



「……あは、なるほど。そのとーりだ。リンドウ良いこと言うー。でもさ、おんぶしてもらってる今って、私からしたら相当甘えてるつもりなんですけど」



「甘えろよ、こういう時くらい。いつも俺ばっかり支えられて悔しかったところなんだ」



 俺の言葉に、アンナは小さく「うん」と呟いた。



 アンナの部屋に到着した。ベッドにアンナを寝かせると、アンナは手をひらひら振って言った。



「ごくろー。ちょっと疲れちゃったから寝るねー。……ほら、さっさと出た出た。アンナちゃんの寝顔はタダじゃないんですー」



 俺とリンドウはお休みとだけ告げて部屋を後にした。向かう先はエリオットが幽閉された地下牢である。



「かなり参っちゃってたな……大丈夫かな」



「アンナは強いからな、ほんとにとてつもなく。きっと大丈夫だ」



 エレベーターが停止した。コンクリートの壁と床に囲まれた無機質な廊下。そしてその先に複数の人が集まっている独房が見えた。目立つ白衣の影は三人。



 後ろ姿からでも、タオルを巻いた頭がヒロキ、プラチナ色の長髪がワタルだと判断できる。ワタルの隣にいる山のように巨大な人物は、例のヤマトという研究員だろう。



 リンドウは白衣姿を認めるや否やガチーンと分かり易く緊張したが、深呼吸を五回繰り返してようやく収まったようだ。尋問に立ち会いたいと言って聞かなかったのだからまた気絶されても甲斐が無い。



「すいません遅くなりま……」



 俺の投げかけた言葉は途中で飲み込まれた。エリオットのものと思しき凄惨な悲鳴が牢屋中を駆け抜けたからだ。



「わー元気な悲鳴だね-、もうちょっと出力上げてもいけそうだね」



 ワタルの血も涙もない言葉に合わせて悲鳴の音量が拡大される。リンドウは神と崇めた研究員の悪魔的な裏の顔にショックを隠しきれないようで、緊張なんて吹き飛んでしまったようだ。



 その場にいた全員が引き笑いを浮かべて行方を見守っている。マッドサディストワタルの拷問はさしもの鉄面皮ソラでさえもドン引きさせたらしい。



「あ、やぁ遅かったね。こいつ幹部を名乗るだけあってなかなか強情でさぁ。久しぶりにやりがいのあるお仕事だよ」



「嬉々とした笑顔でバーナー握るのやめてもらえませんか師匠」



 炙ったのか、まさか。いったいどこを……エリオットの悲鳴の質を思い出してその先は想像するのを自粛した。



 エリオットは両手両足をピンと張った黒い鎖で縛られて壁に張り付けられていた。一目でひどく消耗しているのが分かる。既に聖人の皮を被った悪魔に相当絞られたようだ。



 その後もお仕事と書いて拷問と読む作業が繰り返され、エリオットは一定数の情報を吐いた。



 中でも、これまで完全に未知だったベテルギウスのアジトの位置座標が特定できたのは収穫だった。やはり場所は鬼ヶ島、アジトはその最北に近い魔王城だという。



 ラスボスである魔王アノンをソーマが単騎撃破したという話はとても鵜呑みにはできないほど現実離れしていたが。エリオットの狂信的なソーマへの忠誠心を鑑みれば、それが誇張された情報である可能性の方が高い。



 だが、もしそれが事実なら──恐ろしいことだ。オンラインゲームのラスボスは、廃プレイヤーがどう頑張ったって絶対に一人では倒せないようになっているのが普通なのだから。



「さて……それじゃそろそろザガンについて聞いていこうか」



 その一言に、憔悴しきっていたエリオットの顔色が余計に悪くなった。



「そ……それは」



「知ってるよ、喋ったら爆発しちゃうんでしょ? 酷いことするよねザガンもさー」



 自分が酷いことをしている自覚はまるでないことがよく分かる発言だ。



「安心しなよ、ここにユートピアオンラインの魔法概念を創り出した人を呼んでる。ヤマトさんでーす」



 のっそりと一歩前に出た大男。やはりヤマトという人物だったようだ。二メートルを優に超える巨漢で、浅黒い肌に銀髪のオールバックだからかなり凄みがある。



 おまけに修羅のような鋭い眼光。赤い眼は何人も殺してきたと言われても納得できる。職業はゲーム会社の研究員より、ヤから始まる自由業と言われた方がずっとしっくりくる。



「ヤマトだ。確かに、高度な魔法の中には特定の条件を指定して呪いをかける系統のものがある。俺が創ったんだから間違いない」



「ザガンの中にそんな最上位魔法使いがいるなんて厄介極まりないですねー」



 やれやれと肩をすくめるワタル。顔立ちがこんなだからやけに様になる仕草だ。ヒロキが難しい顔をする。



「十分有り得る話だ。システムをジャックした張本人なんだから、自分のジョブを好きに変えることだってできただろう」



「……だが、ベテルギウスやザガンの中でもステータスがまったくピンキリなのが解せないところだ。俺の予想では、奴らはステータスに関してはいじっていない……いや、いじれなかった」



 ヤマトの仮説は率直に言って興味深かった。確かに、シャビやゲイルにトモヤ。ケント、ソーマ、ハルカが殺したベテルギウスなど、これまで会ったベテルギウスやザガンは実力、ステータスに大きな差がある。



「そもそも、あんな短いジャック時間で構成員全員分のステータスをそれぞれの要望に合わせて変えるなんて不可能だし、できたとしても面倒だろう。考えやすいのは、レベル上げに最適なダンジョン、もしくはウマいモンスターのリポップスポットがアジトの近くに作られてて、そこで鍛えたいやつは鍛える、ってところじゃないか」



 ヤマトの仮説は、エリオットが素直に感心したように肯定したことで事実だと判明した。



 ワタルのお仕事の甲斐あり、エリオットは抵抗する気も失せどんどん喋るようになっていた。彼の話では、アジトである魔王城の裏に、設定した数だけ好きなモンスターを呼び出せる闘技場が設けられているらしい。



「なんだよそれ汚え、おもっくそ不公平じゃんか! 俺達がどんな思いでレベル上げしてると思ってるんだ!」



 リンドウが憤慨するが、俺はそれを宥めた。



「スクロール一つで強くなるよりはいくらかマシだな。武器振り回すだけが生き甲斐みたいな奴らだ、その方が納得いく」



 無茶して死んだ奴も一人や二人じゃないはずだ。ますます、シャビやゲイルがいかに強敵だったのか身にしみた。奴らは本当に戦闘のプロだった。恐らくこの世界に来る前から、培ってきたものなのだろう。



「……じゃあ、その魔法使いさんは自力でそのジョブを解放したってことになりますよね。それってかなり手強くないですか」



 ソラの発言だ。彼女自身俺でさえ聞いたこともないような上位職についている。上位職解放の大変さはよく心得ているようだ。



「……ザガンは、どうやら私怨、復讐心を原動力に動いている。システムを書き換えた動機もそこにある。力を得るためなら、どんなことだってやるだろうさ」



 トモヤの言葉、表情を思い出しながらそう言った。ヤマトがエリオットにもう一歩近づく。



「解呪を試みる。呪術系の魔法は強力だが、当然解除方法も存在する。ようは俺と向こうさんの力比べだがな」



 ヤマトが白衣の裾を捲ると、筋骨隆々の腕が露わになった。左手首にゴツい深紅のブレスレットが嵌められている。



 魔法武器──杖や装飾品の類いの形をしているとは聞いていたが、なるほど美しいものだな。



「【スペルリリース】」



 ヤマトの詠唱に合わせて腕輪が光り輝き、直後、エリオットの全身から濃い紫色の煙が吹き出した。毒素が抜けていくような光景だった。



「……ふう、解呪成功だな」



「つまり、ヤマトさんの方が向こうの魔法使いより強いってことですか?」



「いや、呪いってのは圧倒的に解く側が有利な設定だ。むしろこれで俺が解呪できなきゃ世界は終わりだった」



 ソラの質問にヤマトは仏頂面でそう答えた。何はともあれ、全員が胸をなで下ろした。

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