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リアル・プレイング・ゲーム  作者: 旭 晴人
第二章《Lost》
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仲間捜し

「……と、いうわけなんだ」



 ここはアンナに与えられた彼女の自室。ことの次第を説明し終えた俺に、アンナはこくりと一つ頷いた。



「うん。私行く」



「え、マジ……?」



 当たり前のように同行を申し出てくれたアンナに足下が浮ついた。とてつもなく危険な挑戦になるということは多少大袈裟なくらいには伝えたというのに、彼女は少しも迷う素振りを見せなかった。



「随分即答だったな……。まあ、その……ありがとうな」



「今更面と向かって礼とか言わないでよねー! ハズいでしょ! 私は君を支えるって言ったの、もう忘れたの?」



 呆れたような口調。俺はその恐れ多い事実を未だに咀嚼しきれてはいなかった。



 アンナと俺は、考えてみれば出会ってまだそれほど日が長いわけでもない。遊んだ記憶と言えば、二、三回、ハルカを交えて買い物をしたことと、一緒に海水浴に出かけたことぐらいしか目立った思い出がない。



 なのに彼女は、俺がハルカを奪われて錯乱したときも、こうして助けを求めた今も、当然のように味方でいてくれている。



 出会ったあの日から彼女は俺のことを英雄と呼んでくれているが、それはよくよく考えればとてつもなく浮き世離れしている。俺にばかりアンナはこんなに優しくて、まるで俺が見ている都合のいい夢のようだ。



「勘違いしないでよ、セツナのためだけじゃないんだから。私だって強くなりたいの。世界を救ってくれる英雄を応援するだけじゃなくて、私自身が英雄になってやるんだ!」



「お、その意気だ」



 とんとん拍子に一人目のパーティーメンバーが決定してしまった。しかも心強いサポート職である。これは幸先が良い。



「で、他には誰を誘うの?」



「うーん。生憎、レガリアで親しくしてるプレイヤーなんてアンナとリンドウぐらいしかいないんだよな」



 むしろ他の者達からはかなり嫌われている様子だ。こちらとしては少しでも多くの人数が欲しいところなのだが、俺とのパーティー契約を厭わず付いてきてくれる者は果たして何人いるだろうか。



「もう、だからもっと友好的にしてなさいって言ったじゃん。まあ、あの戦闘狂は頼まなくたって付いてくると思うけど」



 リンドウのことだ。それに関しては俺も全く同意する。



「あ。じゃあさ、《掲示板》使ってみれば?」



 アンナが妙案といった感じで拳を手の平の上に落とした。



 アンナの言う《掲示板》とは、例の大食堂の中心付近に設置されている3D電光掲示板のことであろう。それは確かにグッドアイデアと言えた。



 形状は一言で言って球体。液体に近い材質で空中に浮遊しているその異形は、どの方向からどの角度で見ても正面から映像を見ることができる不思議な掲示板である。板ではないからその名称も適当ではないのかもしれないが。



 大抵はアルカディア側がおすすめジョブの特集やボロいクエストの紹介などに用い、志願兵達の戦力向上に役立っているのだが、実は誰にでも書き込みが可能なのである。



「もし自分の名前で書き込むのが怖かったら、私が書こうか?」



 アンナはそう言ってくれたが、俺はその申し出を辞退した。



「折角だけど、やっぱ自分で書くよ。アンナ目当ての腰抜けが集結しちまったら本末転倒だ」



「そんな言い方しかできないから皆に誤解されるのよー」



 アンナは笑いながら、座っていたベッドから立ち上がる。



「そうと決まれば食堂に戻りましょ。夕食時にはたくさんの人が集まるし、今日中に噂は全員に広まるんじゃないかな」



「そうだな」



 そんな経緯で、俺はアンナを連れて食堂に戻った。そして二メートルほど上空で浮遊している掲示板の真下に設置された立方体型の装置を操作してこんな書き込みをした。



『最難関ダンジョン攻略パーティー結成。クリア報酬破格。メンバー大募集中。参加希望者は今夜十時、食堂に集合のこと』



 真上を見上げれば浮遊する薄水色の球体に映し出された情報がまさに更新されるところであった。一番最新だった、シュウの書き込んだ《三大ソロプレイヤー》に関する与太話のスレッドを押し退けるようにして俺の告知文が堂々と反映される。



 左端に書き込み主たる『Setuna』の名。薄肌色の背景に黒抜き文字で簡素に書き留められたそれを見上げて、アンナは頬をかいた。



「……ちょっとセツナ、こんな文章で良いわけ? 協力をお願いするわけだからもっと下手に出た方が」



 アンナの言う通り、確かに見た感じあまりにも愛想が足りないかもしれない。だが俺は静かにそれを否定した。



「そりゃあそれが筋なのは分かってるけどさ。ここでは一人でも多く釣ったもん勝ちなんだ。ここの連中は俺の刀とかスキルに嫉妬する程度には、このゲーム世界の中での強さに情熱を持ってる。だからこそ俺の呼びかけに興味を持つはずだ」



 パーティーシステムの上限人数は六人。もちろん複数のパーティーで一度にダンジョンに潜ることも可能ではあるが、ぶっちゃけた話それでは俺の取り分が減る。



 パーティーメンバーが稼いだ経験値やアイテムは全て平等に分配される仕組みだ。俺達の目的はダンジョンを攻略すること自体ではなく、短期間で強くなって帰ってくることであるから、当然1パーティーのみでの攻略が最も望ましい。



 アンナと俺の他にあと四人の猛者が欲しい。強さだけでなく、帰ってきた後必ず得たその強さをアルカディアのために使ってくれると確信できる人間でなければならない。



 志願兵の大多数はそれに該当するが、中には、単にこのレガリアが世界で最も安全であると判断し、言わばアルカディアの威を借る算段でこの空中要塞に身を隠しに来たなんて輩も少なくない。



 だからまずは少しでも多くのプレイヤーに集まってもらって、そこからめぼしい人材を篩にかけたい。俺が下手に出るとすればその時だ。



 俺はなんでもするぞ。ハルカとケント、そしてこの世界のためにやれることならどんな汚い所業だって構わない。金でも腕でもこの刀でも、力を貸す条件として望まれたならいくらでもくれてやる。



「……集まるといいね」



「集まるさ。集まってくれなきゃ困る」



 アンナはわざとらしくおどけた。



「私は君と二人のパーティーでも構わないけど?」



 俺は数秒考え込んで。



「ああ、それも悪くないな」



 納得して頷いた。アンナが何故かギョッと目を丸くする。



 盲点だったが、何も六人という最大人数に拘る必要はない。人数は少ない方が連携もとりやすいし揉め事も起こりにくい。更に分け前も増えるときた。その分絶対的な戦力不足は否めないが、個の力がもし強大であったなら。



「アンナさえいれば、三年なんて時間も退屈しないですむだろうしな」



「……セツナって、たまに天然ですごいこと言う」



 アンナの言っていることが最近理解できないのだが、俺は知らない間に実はかなり精神的に追い込まれているのだろうか。



 アンナはそれっきり口数が減ってしまったので、俺は首を傾げながら自室に戻って仮眠をとった。



 ──そして、午後十時。大食堂には凄まじい人数が集合していた。

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