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リアル・プレイング・ゲーム  作者: 旭 晴人
第一章《Utopia》
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セントタウン

 それからの日々は、まさしく光陰矢の如く、瞬く間に過ぎ去っていった。



 ケントはシュンともすぐに仲良くなり、俺達は若い衆三人でパーティーを結成し、フィールドを西へ東へ奔走した。徒歩で日帰りでとなると行ける場所は限られてくるのだが、日々新たな発見があって退屈した日は一日としてなかった。



 俺達は無責任なほどに無邪気に遊び回った。情けない話だが、母なる地球がついに滅びた、と知ったのは、その瞬間よりも随分と後だったのだ。



 セントタウンは《五大都市》と呼ばれている。その名の通り、ユートピアで五指に入る大きな街だ。



 ユートピア大陸の全容は未だ未知数だが、マップの隠された部分を含めて概算すると九州地方を上回る広大さを誇ると言われている。そんなユートピアの最南端、温暖湿潤気候で四季の変化に富んだ美しい土地に悠然と構えられた市街区がセントタウンである。



 円形に近い形状であり、直径はおよそ十キロにも及ぶ。プレイヤーは五大都市にそれぞれ均等に、家族単位で無作為に転送される仕様のため、約二万人のプレイヤーが暮らしていることになる。



 緑豊かなフィールドに囲まれたセントタウンの街並みは一言で言って、いかにもファンタジーゲームの舞台となりそうな中世ヨーロッパ然としたもの。



 木造、または煉瓦造りの家屋が建ち並び、石畳の上を実に多くのプレイヤーやNPCが行き交い大変な賑わいを見せる。露天商も珍しくなく、客引きの声ももはやBGMみたいなものだ。



 街の中央には巨大な噴水が鎮座し、その周囲だけ家屋が存在しない開けたところになっている。《噴水広場》と呼ばれ、現実世界でひたすら汚染された空気を吸い続けてきた人々は、マイナスイオン溢れるこの広場を憩いの場として気に入っている。



 人々には運営から住居が支給され(太っ腹だと思うが、所詮データだから彼らからすればタダ同然なのだ)、そこで生活をしている。毎月、家族全員が不自由することなく、なおかつ通貨のインフレが起きない程度の額が家族単位で支給され、それによって家財道具を揃えたり、食事にありついたりするのだ。



 擬似的な欲求と思ってみてもこの世界の空腹は現実同様耐え難い。一定量食べることでそれは回復するし、現にこの世界での食事は生活が裕福になった分以前までより俺の中で楽しみなものとなっている。



 病気や怪我の類いはモンスターの攻撃や特殊能力に犯されない限り心配はいらないので、俺の目には人々の暮らしはより健康的で高水準のものになったと映っている。



 さて、このようにして人々は、この酔狂なファンタジー世界でこれまで通り、もしくはそれ以上に快適な生活を送っているわけだ。



 そんな中、俺達血気盛んな若い衆は、大人達の冷ややかな視線にも負けず今日も元気に冒険に出かけるのである。



 といっても、徒歩で日帰りでとなればかなり行き先も滞在時間も限定されてしまう。退屈したことはないと言ったが、現在進行形で、そうなりつつある。



 それをいち早く感じた俺とケントは、最近では専ら、なまじフィールドに出るよりフリーバトルで対人戦を磨くことに新鮮な楽しさを感じ始めていた。始めたのは数日前だが、既に二十二戦全敗。早くもナイフを投げ出したい気分だ。



 シュンはと言えば随分と逞しくなり、ゲームのシステムにも慣れ最近ではソロでの狩りに出かけることも多くなった。俺達と同じように、ゲームを純粋に楽しんでいるような連中と現地で即席のパーティーを組んだりと楽しくやっているようだ。



 セントタウンにも当然、俺達の他にも多くのプレイヤーが熱心にゲーム攻略にいそしんでいる。しかしケントはもちろんのこと、序盤のスタートダッシュと持ち前のゲーム知識を生かした俺は、セントタウンでもかなり上位のプレイヤーと言えると自負している。



 ケントといると忘れそうになるが、俺はちゃんと強い。レベルも27と順調に上がっている。ケントのレベルは29、シュンに至っては31で恐らくセントタウンで最高の数値だ。



 パーティプレイによる効率重視のレベリングと、そもそもがフライング気味のスタート。更にはシュンの飲み込みの良さと初期値の高さも相まって、彼は今破竹の勢いで力を付けている。



 悔しいが、俺ではもうシュンとは勝負にならないだろう。レベル差を考えれば、もしかするとケントにさえ彼は一矢報いるかもしれない。



 シュンのストイックさは見習いたいが、張り合いの無い狩りを長時間続けて一日を消費するのは不毛でしかなく、前の熊型モンスター──父が用意したスタートダッシュイベントの限定モンスター《グランドベア》──のような割の良いMobが配信されるまではしばらく、ケントとのフリーバトルにうつつを抜かすのも良いかなと考えていた。



 本当は、一刻も早く俺はレベルを30に乗せたかった。何しろ次のジョブチェンジで、もしかしたらついに"あの武器"が使えるようになるかもしれないのだ。

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