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リアル・プレイング・ゲーム  作者: 旭 晴人
第一章《Utopia》
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エピローグ──今はただ──

 ──加速しろ。



 まるで呪文のように心中で繰り返し呟きながら、俺は何度目とも分からぬ突進を敢行する。



 刀を握る手の感覚はとっくに無くなった。蓄積される疲労で腕は棒のようになり言うことを聞かない。それでも、何か途方もない力に突き動かされるままに、俺はひたすら刀を振るった。



 苦笑混じりにそれらを全て弾き返す、ブロンドの髪を揺らす美青年。まるで俺の心が筒抜けであるかのように、彼の握る黄金剣に刀が吸い寄せられていく。



 重い手応えと金属音が幾重にも重なる。一撃たりとも与えられない。ならば、防御が追いつかないほどに速く、速く──加速しろ!



「ォォォォォォォォォオッ!!!!」



 脳内に描く攻撃の軌跡を、段々現実の俺が先回りしていく感覚。少しずつ、だが確実に俺の動きが速まっている。まるで、俺の周りだけ時間の流れが変わったかのように。



 俺の攻撃を弾くだけという任についているワタルの笑顔に、僅かずつ余裕が失われていく。──もっとだ、もっと速くッ!!



 ワタルの顔が点滅する。次の瞬間代わって俺の目に映ったのは、俺に殺意を向ける親友の顔だった。



 ケント。待ってろ、今、俺が──!



「そこまでだ」



 鋭く投じられた一声と共に、両腕に凄まじい衝撃が走った。電流が駆け抜けたような痛みに身体が硬直する。



 時の流れが元に戻った。いざ我に返ってみると、ワタルの防御を追い越した刃が、ワタルの首筋すれすれで青色のウィンドウに阻まれていた。



 そして俺の首筋にも。ワタルの黄金剣の切っ先がピタリと据えられている。同じようにして青い障壁が俺を守るように展開されていた。それには白抜き文字で『プレイヤーへの攻撃は認められません』とある。



「あっぶなぁ。セツナ君どんどん速くなるんだもん、危うく手が出るところだった」



 悪びれもせず頭を掻いて笑うワタル。



「……いや、もう出てますけどね、手」



 荒い呼吸を繰り返しながら、俺は苦笑して首筋に迫ったワタルの剣先を指差した。



「よし、そろそろ次の段階に行っても良さそうだな」



 俺達の相打ちをギリギリで制止した父の声だ。ようやく、彼の言う合格ラインに達したということだろう。安堵と同時に一気に疲労を思い出し、膝を折ってその場にへたれこんだ。



 俺とワタルが打ち合っていたのは、若葉色の畳が敷き詰められた特設道場の、赤いラインが引かれている十メートル四方のコートだ。



 これは父、シンジが用意した修練場で、この空間内ではプレイヤーへの攻撃が認められない。言ってしまえば、システムが書き換えられる前のユートピアの仕様が反映されている。



 ここならばうっかり相手を殺してしまう可能性もなく稽古ができる。フリーバトル申請を繰り返す手間を省けるというものだ。



「とりあえず、二週間お疲れ様と言っておこう。だがこれは修行の初歩だぞ。今の加速感を忘れるな。……よし、じゃあひとまず昼飯にするか」



 仏頂面で俺を労った後、父は背を向けて歩き出した。まるで見えないキーボードでもあるかのように虚空を十本の指で忙しなく叩きながら。



 父も父で、何か大きな仕事をやり遂げようとしている。システムを取り返す上で必要な武器を創っているそうだ。



 父と会話らしい会話ができるのは食事時くらいなので(食事中にパソコンをいじるのは行儀が悪いと、俺が産まれる前からマキに口酸っぱく言われていたらしい)、俺は急いでその背中を追った。



 道場を出る際、振り返ってワタルと共に一礼。裸足に水色のスリッパを通し、両側が磨き抜かれたガラス窓の渡り廊下へ出る。



 窓の外を一瞥し、俺は思わず立ち止まった。もうここに来て二週間が経つのに、まだこの景色に慣れない。



 窓の向こうに広がるのは──敷き詰められたような雲海と、突き抜ける無限の蒼穹だった。



 眼下を荘厳な音を立てて流れる分厚い雲は汚れ無き純白。俺の炎を連想させる蒼い空は雄大で、この世界の茫漠さを改めて思い知らされる。



 ここは上空一万メートルに浮かぶ空中要塞レガリア。ユートピアの地図にも当然載っていない、アルカディアのギルド本部である。



 ここで、父は俺を強くしてくれるつもりらしい。しかし今のところ、それらしい修行はワタルとの稽古だけ。確かに戦闘勘や剣術、そして例の加速感については養われている実感があるが、レベル制MMOで肝心のレベル上げが全く着手されていないことに不安や焦りもある。



 だが、他ならぬ父のカリキュラムに疑いのあろうはずもない。彼には親子云々でなく、無条件に信頼してしまう不思議な引力がある。



 間近にある太陽の光で真っ白に輝く長い渡り廊下を、窓の外を見ながら歩いていると、前方から活発な声が響いてきた。



「セツナー!」



 笑顔を輝かせて駆けてきたのはアンナだった。彼女も今、別メニューでの修行に励んでいるらしい。



 まさかアンナが俺と同じように戦場に立ちたいと望むとは思ってもみなかった。しかし父も、息子の俺ならいざ知らず他人のアンナの覚悟に口を出せるはずもなく、せめて少しでも生き残れるようにとヒロキに鍛錬を監督させている。



「待ちに待ったお昼ご飯だね! もうあの鬼軍曹のしごききっついんだから! お腹ぺこぺこ、早く行こ!」



 ヒロキを鬼軍曹と呼ぶアンナはいったいどんな修行をしているのだろう。興味はあるが、父には余計なことは考えず自分のことに集中しろと言われている。だからというわけではないが、何となく聞きそびれているのだ。



 俺もアンナも、努めてハルカのことを話題に出すのを避けるのが不文律になっていた。父に転移玉を預けてしまっているので俺は彼が良しと言うまでここから出ることができない。



 三日も経った頃には発狂する寸前までハルカの安否を不安に思いあと一歩のところで父に斬りかかるところだったが、そうなる度にこのアンナが止めてくれた。



 今ハルカの安否を気にしても修行の妨げにしかならない。ただ、ハルカの死亡通知が未だ俺の元に届かないことと、ケントの言葉──『ハルカには傷一つつけてはならない』というニュアンスの言葉──を拠り所に無理矢理安心している現状だ。



「……セツナ?」



 立ち止まった俺に、俺の手を引いていたアンナは不思議そうに立ち止まって振り返った。青い猫目が俺を捉える。



「……いや、なんでもない」



 俺の微笑から何を読み取ったか、アンナも微笑んだ。



「そっか、なんでもないか」



「おう。さっ、食堂に行こうぜ」



 今度は俺がアンナの手を取って、前を走った。長い長い渡り廊下を、俺達は並んで進んでいく。



 これが確かな、前進であると信じて。

なんだこの打ち切り感wwwwwwwww


一章が終わっただけです、まだ続くので見捨てないでください。伏線も全部回収される予定なのでお願いしますこれからも読んでください(必死)


ともあれ、ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。本作は三章構成となっておりまして、現在三分の一が終了した感じです。


他サイトで連載していますが、そこでもまだ最終章の中盤といったところで……来年一月中の完結を目指しておりますが、間に合うのでしょうか(他人事)


これからもお楽しみいただけましたら幸いです。


2015年12月27日 あさひ 青春あおはる

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