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リアル・プレイング・ゲーム  作者: 旭 晴人
第一章《Utopia》
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能力戦

 何より驚異なのは、葉桜の攻撃力を持ってしてもたったの1さえダメージを与えることができなかったことだ。あのスキルは、問答無用でダメージを100%カットするらしい。



 オリジナルスキルの反則的な強さはよく知っているつもりだったが……参ったな。



「【アーススタンプ】!」



「うおっ!?」



 思考していると、耐えかねたようにエンケがスキルを詠唱した。エンケの大剣が唸りを上げて振り下ろされ、着弾の直後、黄土色の衝撃波が轟音を上げながら打ち出された。



 雪がうっすら積もった大地を砕きながら迫る、威圧感のあるライトエフェクトを横に飛んで回避する。直線だがかなり速い、ぼけっとしていたら当たってしまう。



「遠距離攻撃もあるのかよ……」



 毒づきながら、俺はとあるジョブスキルを発動した。大奮発と言える量のSPを一度に消費し、エンケのすぐ側にある木の上に細工をする。



 狙うなら、もう一度あの技をエンケが撃った後だ。



「来いよ。次はその技跳ね返してやるから!」



 エンケが苛立ちそうな、いかにもガキっぽい台詞を吐いて挑発する。エンケは誘いに乗ってきた。



「やってみろ。【アーススタンプ】!」



 絶好の好機だった。俺は仕掛けを発動した後横っ跳びにエンケのスキルを回避する。



 エンケのすぐ後ろに生えた針葉樹の枝の隙間から、バサリと葉を撒き散らしながら一つの影が飛び出した。



 それは、まさに鏡に映したように俺の姿をしている。



「いけ!」



 雪の上に腹から滑り込みつつ俺は快哉を上げた。もう一人の俺は狙い通り、葉桜を振り上げた状態で落下し、見事にエンケの背中を切りつけた。



 エンケが目を見開いて呻き声を上げ、すぐさま背後を振り向きざまに一閃。重たい威力の大剣は刀できちんと防いだ俺の分身を弾き飛ばし、分身は吹き飛ばされる途中の空中でボフンと音を立てて消滅した。



 もう一人の自分、即ち分身の創造──ジョブスキル【分身の術】の能力である。いかにもシノビらしい力だ。



 俺と全く同じステータスを持つ分身を、俺を中心とした半径十メートル以内の好きな場所に出現させることができる。



 一つだけ違うのは、分身はHPが1であること。少しでもダメージが抜ければ消滅してしまう。



「この……っ!」



 エンケの表情には、苛立ちと怒りと焦りの色が混じり合っていた。



 弾き返す、という口約束を破ってエンケの技を回避した俺への苛立ちと、結果まんまと罠に引っかかった自分自身への怒り。そして。



 エンケの頭上で点滅するHPゲージは、残り一割を残して綺麗に消滅していた。赤くなったゲージはエンケ自身にも見えていることだろう。



 敗北が目と鼻の先に近づいていることへの焦り。



 背後から葉桜での一撃だ、クリティカルヒットでダメージ量は凄まじいものになっただろう。むしろ耐えきったのが不思議なぐらいだ。



 一気に終わらせる。強い意志と共に鋭い呼気を吐き出し、俺は正面からエンケに向かって突進した。



 小細工無しの全力疾走。一瞬で肉薄した俺の目の前いっぱいに、ドンピシャのタイミングで振るわれた深紅の大剣が迫っていた。突進の勢いを乗せた葉桜で迎撃する。八方に飛び散る、火花を模した武器衝突エフェクト。



 小細工無し、エンケも同じ腹積もりのようだった。先刻の早計は撤回せねばならないだろう。



 エンケは、戦闘に関して素人。とんでもない誤解だった。



 むしろ、葉桜のステータス補正で本当のレベル以上のパフォーマンスを発揮している俺と互角に打ち合う彼は、俺より明らかに戦闘慣れしていることが分かる。レベルも、もしかすると俺とそうは変わらないのかもしれない。



 俺のダンジョンでのレベルアップは、体感的には数時間。億劫なレベリングという作業を格段に楽にこなせる反面、一ヶ月という実質時間を消費した。



 その間、このエンケは、実際にひたすら生死の狭間を走り抜けるようにして闘い続けたのだ。レベリング効率は結局互角でも、脳に、魂に刻み込まれた戦闘センスは圧倒的にエンケに分がある。



 俺の振るう剣戟は、全て辛うじてエンケによって叩き落とされた。今のところエンケは防戦一方だが、重い大剣でこれほどまでに俺のラッシュを凌ぐとは尋常ではない。



 右、左、右斜めからの切り下ろし。怒濤の勢いで迫る俺の一撃一撃、その全てが一度でも掠れば即敗北の威力を含んでいる。



 だというのに、エンケは整った顔を壮絶に歪め歯を食いしばり、限界を超えた速度で大剣を操る。数え切れないほどの火花が空中で弾け、俺とエンケの顔を照らす。



「ぉぉぉぉォォォォオッ!!」



 エンケが吼えた。それまで、なるべく素早く俺の攻撃を弾くために、大剣を逆手に構え根元や柄の部分で俺の攻撃を受け続けていた彼が、俺が僅かにこれまでより大きく振りかぶったその隙をついて得物を順手に握り直した。



 圧巻の手際。俺の全力の袈裟斬りを、エンケは両手で握った大剣の切り上げで弾き上げた。これまで聞いたこともないような、脳を揺らすような金属音。



 直後、俺の全身を鋭い電流が射貫いた。一瞬、全身の自由が奪われる。この感覚は……



 システム的ノックバック──!



 強攻撃同士が衝突した場合、両者にシステム的な仰け反り効果が与えられる。だがその仰け反りの効果時間は、主にその攻撃の威力によって決定される。



 俺は狼狽した。エンケは既に短い硬直時間から立ち直り、獣のように瞳を発光させて大剣を薙ぎ払う構えだった。彼はほとんどノックバックの影響を受けていない。



 対人戦では後手に回ると評していた大剣。だが武器衝突の際に相手に与えるノックバック時間は重武器ならではの威を誇るらしかった。



 かつて経験したことのないほど、俺のノックバックによる硬直時間は長く感じた。全身に恐怖で力が籠もる。



 直後、無防備な胸部を真横に一閃の衝撃が走った。再び吹き飛ばされた俺は瞬間、硬直から解き放たれた体に力を込めて空中で葉桜を握り直す。



「くぅ……っ!」



 凄まじい速度で減少するHPゲージを目の端に捉えながら、俺は体を反転させて葉桜を地面に突き刺した。必死の思いで減速し、両足が地面に着くや否や──



「ォォォォオッ!!」



 絶叫と共に地を蹴り砕いた。積雪がバフンと弾け、頬を冷気が突き刺す。見開いた目は、同じく俺目がけて突進するエンケの、同じく見開かれた光る瞳を映した。



 咆哮する両者の距離は瞬く間に詰められていく。エンケは大剣を槍のように構えていた。眩い深紅の光を放つ刃は、真っ直ぐ切っ先を俺に向けている。



「【イグナイトドライブ】ッ!!!」



 大剣を右手一本に握り直し突き出す構えとなったエンケは、彼自身が一本の赤い矢となったかのようにぐんと速度を増した。



 そのスキルの名を、俺は知っていた。



 あれは《槍》や《レイピア》のような刺突属性の武器タイプで使用できるウェポンズスキル、その中でも高ランクの優秀な突進系スキルだ。



 ハルカの使っていた武器が刺突系の細剣であると踏んでいた俺は、ダンジョンを脱出してからの道中、彼女と共闘するときのことを考えて刺突系武器のスキルについて研究していたのだった。



 しかし理由はそれだけではない。とある条件を満たせば、切断武器でも刺突武器のスキルを使用することができるのである。



 刺突武器には、短剣で言うところの【電光石火】などのような突進スキルがやたら多い。俺の持ち味である抜きん出たアジリティを活かすには、突進スキルのバリエーションを増やすのが良いだろうとかねてから思っていた。



 それをエンケが会得していることにまずは驚きだったが、彼もきっかけはハルカだろう。彼女のレベルなら【イグナイトドライブ】は会得していてもおかしくないし、彼女から《伝授》された切り札、と考えれば辻褄も合う。



 ウェポンズスキルは、友好度の高いプレイヤーにならアイテムや通貨と交換で伝授することができる。友好度はフレンドになることで、またフリーバトルや共闘、トレード、もっといえば会話を交わすだけでも上昇する。



 俺自身、友好度マックスになっていたケントとシュンから大剣スキルを伝授してもらっていた。それはなんと、俺のナイフや刀でも発動できるのである。



 このように異なる武器タイプのスキルを会得するための条件の一つが《伝授》というシステムである。俺が今回、突進スキルを会得するために選んだ条件はそれとは違い、《スキルコンバート》だった。



 既に会得している、異なる武器系統のスキルを、《継承の宝石》というレアアイテムを消費することで、別の武器で使用できるようにする技術のことだ。



 俺は道中、武器を《レオンレイピア》という細剣に変えていくつか刺突系突進スキルを獲得しておいた。そして、ダンジョン攻略報酬で豊富に入手できた例の継承の宝石を使用し、全てを《刀》で使えるようにコンバートした。



 俺は刀を生涯の武器として貫くと決めていたから、継承先の武器を選ぶ際に躊躇はなかった。



 現在、俺は5種類の突進スキルを使用できる。エンケとの勝負を決めるのに、俺は刺突系最速のスキルを選ぶ予定だった。



 だが、エンケの【イグナイトドライブ】を見て、方針を180度変えたのだった。

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