表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リアル・プレイング・ゲーム  作者: 旭 晴人
第一章《Utopia》
20/167

北へ

 何はともあれ、俺はワタルに話せることは全て話した。彼は俺の境遇も能力も性格も、話の中で正確に把握してくれたに違いない。少し自分本位な言い方をするなら、俺は旅先で意図せず良き理解者を得たということになるだろう。



「実はね、アルカディアに日々寄せられているザガンの目撃情報が非常に集中している都市があるんだ」



 ワタルがこの話を俺にしてくれたのは、俺の力を認めてくれたからなのか。それとも、妄執的に復讐心を燃やす俺に隠し立てすることは本意で無かったのか。



 俺はその話に飛びついた。やはりアルカディアには、その手の情報が集まっていると思っていた。俺が一般プレイヤーなら、それらしき人を目撃したなら保安官NPCよりよっぽど運営に連絡するからだ。



「アルカディア研究員なんて言われても、もうシステム権限的には一般のプレイヤーとほぼ同じなんだ。僕にしてあげられることは、これくらいだけど……」



 そう前置きして、ワタルは俺にマップ画面を開くよう促した。言われるままに可視化したメニューからマップを開くと、ワタルが手を伸ばして俺のパネルに触れる。



 赤紫色の光が、ワタルの開いたパネルから俺のパネルに、ワタルの手を伝って流れるように表れた。ワタルが手を離したとき、俺のマップ画面に大きな変化が起きていた。



「これは……」



 俺のマップの大部分を覆っていた白霧が、強風で吹き飛ばしたかのように綺麗さっぱり消失していた。俺のマップは全域がクリアに表示され、各地名もきちんと記されている。



「マップの共有ってやつだよ。フレンド間でのみ可能な小技なんだけど、知らない人が意外と多い」



 出会ってすぐに俺はワタルとフレンド契約を交わしていたのが、その恩恵はかなり大きかった。ワタルは自分のパネルのマップにマーカー機能を使って何やら記し始める。



 終わったと見えて再びワタルがマップを共有すると、俺のマップの一点に赤いマーカーで丸印が付けられた。「そこが例の目撃情報多発ポイントだ」とワタルは言う。



 白銀都市、《メルティオール》。それがその都市の名前だった。



 ユートピアの大陸はかなり大まかに言えば少しばかり横に長い楕円の形をしているのだが、そのメルティオールという都市があるのは、大陸のほぼ上端、極北だ。



「北ってことは……寒いんですか」



「寒いね、かなり」



 ワタルが真顔で頷く。寒いのが大の苦手である俺は辟易して音も無く嘆息した。



「白銀都市って言うくらいだからねえ。フィールドや都市のデザインは僕の担当じゃ無いから苦情は受け付けられないかな」



 苦笑気味に笑うワタルはふと真剣な表情に改めて、俺が寒さに先んじて憂慮していることについて言及する。



「問題は、距離だね」



 激しく同意だった。セントタウンから既に俺は100キロメートル以上もの道のりを踏破してきた。しかしマップを見る限り、ここからメルティオールまではその3倍は距離があるのだ。



「しかも、道のりの約半分が砂漠だ。力になってあげたいんだけど……僕もこう見えて色々ヤマを抱えていてね」



 すまなそうに頭をかくワタルだが、ただでさえ絶望的に人数の少ないアルカディアの手を借りるわけにはいかない。ここまで情報を与えてくれたことに感謝するのみだ。



「いえ、ありがとうございます。俺なら大丈夫ですから」


 暑いのも決して好きではないが、距離も砂漠という障害も、何一つ俺の足を止める理由にはならない。



「馬とか、乗り物とかってこの辺りで売ってないんですか」



「ペットモンスターなら売り場はないでもないけど……高いよ?」



 ワタルの言葉に、俺は喚び起こされた記憶を複雑に思いながら笑った。



「いやぁ……実は結構あるんです、お金」



 現在の俺の所持金──10086572ルビー。ざっと、一軒家の買える額が手元にある。



 これは母のくれた金だ。



 出発の日に母が贈ってくれた、金色の豆。母はフィールドにも出たことがないようなレベル1のプレイヤーだったので、そんなに期待せず旅先の道具屋で売却してみたのだが。



 提示された桁数に疑似視覚野のバグかと本気で思った。



 10000000──1000万ルビーだ。当時の俺の所持金が6000ルビー程度だったからこれはふざけた額である。



 よくよく確認するとAランク、俺の刀やシュンの腕輪と同価値の代物だった。こんなもの母はどこで手に入れたのだろうか、と勘繰ったが……これ、どう考えても父から贈られたものだとしか思えない。



 普通プレゼントなら指輪とかだろう。せめてシュンと母のが逆だ。父にそれほどセンスが欠如しているとは思わなかった。 だがともかく、そんなわけで俺はポーションなどの必須アイテムを十分以上に揃えて旅に望むことができたのだった。



 このことは、ワタルにはなんとなく黙っておくことにした。話してしまえば、母を置いてこんなところまで既に来てしまったことを、今更とんでもなく罪深いことだと思ってしまいそうだったから。



「そうなのかい? じゃあ、今日はこのあと買い物に行ってくるといい。アリシア、案内を頼むよ。オススメのアイテムをリストにまとめておくからね」



「ええ、わかったわ」



「ありがとうございます」



 今日は泊まっていきなさい、というアリシアの厚意に有り難く甘えさせてもらい、夜までの時間をメルティオールへの旅の準備に費やした俺は、一週間ぶりに家の中で眠ることができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ