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リアル・プレイング・ゲーム  作者: 旭 晴人
第一章《Utopia》
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砂漠の都

 真上から降り注ぐ強烈な陽光がコート越しに肌を焼く。コートの効果で天気や気温による影響は受けにくくなっているはずなのに、俺は茹だるような暑さに参ってしまう寸前だった。



 セントタウンを出発した俺は進路を北西に決め、マップの空白部分を少しずつ解放しては旅人風のNPCなどから情報を仕入れ、さして迷子になることもなく一週間かけて次の街に辿り着いた。



 砂の都"デザーティア"。セントタウンからおよそ百二十キロメートル離れた乾燥地帯にある都市だ。五大都市の一つに数えられ、セントタウンと同じくプレイヤー達の始まりの街候補の一つである。



 道中、遠くから街を見下ろした感じで言うと、この街は花崗岩を思わせる白い石造りの家が大半で、意外なことに緑も多い美しい都だった。街路の両脇には水路が通り、セントタウンと同じく円形状の街の中心に街中の水路が帰結する形を取っている。



 またしてもセントタウンと同じように、オアシスを思わせる巨大な噴水が街の中央に構えられ、多くのプレイヤーで賑わいを見せていた。



 街の入り口からここ、噴水広場までとりあえず歩いてきたところだが、デザーティア周辺に足を踏み入れてから途端に気温が増して体力を随分持って行かれた。余裕を持って用意していた飲み水もあわや尽きかけていたところだ。



 この噴水の存在はまさにオアシスで、俺はどかっとその場に腰を下ろしてマイナスイオンを全身に浴びる。



 俺の当面の目標は、ザガンの誰かと接触することだ。俺の個人的な見解だが、ああいったはみ出し者達の集団が常に固まって動くというのは考えにくい。各自が好き勝手動き回って各地で悪さを始めるのも時間の問題だと思っている。いやむしろ、もうそれが起きているのかもしれないのだ。



 だからひとまず、五大都市を順に回ってみながら目撃情報を集めるという地道な手で行く。幸いにしてザガンは全人類の嫌悪と憎悪の対象であり、人々は皆妙に協力的だ。



 最も、ザガンの見た目に関する特徴が黒ローブ姿、というものしかないために捜査は難航の一途を辿っているのだが。



 現に、ここに辿り着くまでに五人のプレイヤーに声をかけたが、どれもこれといった成果は得られなかった。仕切り直そうと腰を上げ、俺は近くを通りがかった女性を呼び止める。



「あの、すみません」



 不思議そうに振り返った女性の年齢は二十代前半といったところで、茶髪のロングヘアーを頭の上で球体状に結った、いわゆるお団子ヘアーの清楚な女性だった。



 手間のかかりそうな髪型も、この世界のシステムなら髪型データを購入しさえすればボタン一つで設定可能だ。髪型、髪色は変更自由の仕様である。



 服装は真っ赤なチャイナドレス。そして、美人だ。



 すらりとした伸びやかな肢体も落ち着いた物腰も、清廉に整った容貌も。清らかな空気感の中にも白磁のようなきめ細かい肌や露出する太股は大人の色気を備え、それはそれは美しい。



 凝視しすぎたせいか名前を《アリシア》というらしいことが早々に分かってしまった。アリシアは俺の呼びかけに小首を傾げて立ち止まった。



「どうかしましたか?」



「あの、突然すみません。ザガンについて、何か知っていることはありませんか」



「……なぜ、そんなことを聞くの?」



 アリシアの表情が露骨に歪んだ。今までのどの人間よりも痛切に、ザガンへの憎しみが表れた表情だった。



 その余りの豹変ぶりに半ば驚きながらも、俺は何とか伝えた。



「あ、その……俺、ザガンを追ってるんです。何か知っていることがあったら、教えてください。お願いします」



 頭を下げる。痛い数秒の沈黙の後、静かな声が頭上から降り注いだ。



「君がザガンを追う理由が、私怨によるものなのかそれともただのゲーム感覚なのかは分からないけど、一つだけ私から言えることがあるわ。……ザガンにちょっかいを出すのは止めなさい」



 なぜ赤の他人にそんなことを言われなければならないのか、俺は少し憤慨したが、そもそもこっちから話しかけた身なので俺の怒りは見当違いだ。何とか腹に収めて言い返す。



「危険は、承知です。それでも俺は、あいつらを許してはおけない」



「復讐心にしろ正義感にしろ、そんなものは捨ててしまった方がいいわ。よく考えて。ザガンはシステムを書き換えたのよ。彼らのレベルやステータス、スキルはもうあなたの常識の範疇に収まる段階を超えているかもしれないの。指を鳴らすだけであなたを殺すことさえ容易いかもしれない」



 彼女の諭すような鳶色の瞳に見つめられて、俺は数秒黙り込んだ。



 そして、"鼻で笑い飛ばした"。



「だからなんですか?」



 俺の言葉は自分でも驚くほどに鋭利だった。笑顔を取り繕ったつもりだったが、アリシアの表情が痛ましいほどに強ばる。



 ザガンが自身のステータスを跳ね上げているかもしれない。そんなことを俺が考えないとでも思ったのだろうか。



 その程度のことは、どれ一つとして俺を立ち止まらせる理由にはならない。無謀も無勝算も承知なのだ。



 何もせずに指をくわえていることが我慢ならない。だから旅に出た。そして、大人しく死んでやるつもりもさらさらない。



 俺はもう一度頭を下げて踵を返した。頭の中に既にアリシアの存在はなく、次に話を聞く相手を探して視線を彷徨わせる。



「待って!」



 しかしアリシアは俺を呼び止めた。



「……うちにいらっしゃい。君に会わせたい人がいるの」



 俺は目を丸くして、彼女の整った、複雑そうな表情を見つめた。思わず口元が緩む。



「是非お願いします」

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