表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リアル・プレイング・ゲーム  作者: 旭 晴人
第二章《Lost》
115/167

摩天楼の迷宮攻略組の死闘

 カレルを狙って隕石群の如く墜落してくる鎌を、ひたすら必死の思いでパリィしていく。一発一発が重すぎて腕力が追いつかない。



 蒼炎を節約しながら使いつつ腕力を底上げし、どうにかこうにか全ての攻撃を相殺する。ほんの数分だったはずだが、俺には永遠に近く感じられた。



 ジンとカレルは、俺に防御の全てを委ねて攻撃に全力を傾けつつ、隙あらば俺のフォローに回ってくれた。後衛の五人の攻撃も、前衛に張り付いて狙いやすい死神に着実にヒットし、ダメージを重ねていく。



 妖精達の遠距離魔法攻撃やアンナのステータスアシストの力も大きく、文字通り死力を尽くした総力戦はこれまでに無い一体感を見せ、最凶のヌシをじわりじわりと追い詰めていった。



 ──やがて、死神についに異変が起きた。浮遊していた骸骨の体がガシャリと音を立てて落下し、片手片膝をついたのだ。



 跪いたことでほぼ同じ高さになった死神の血まみれの目が、孫の代まで呪い殺す勢いの憎悪を纏って俺に向けられる。



 俺も棒になった腕をだらんと下げて片膝をついた。思い出したように呼吸が荒れる。一体どれだけの時間、俺は無呼吸でいたのだろう。



 ヌシのHPは気づけば四割近くも削れていた。小規模なダウン状態の死神に容赦なく叩き込まれたカレルの四連撃スキル【カリビアンラッシュ】が、激昂した死神の悲鳴と共にHPを更にぐぐっと減少させる。



「はぁっ、はぁっ……行けるぞ……!!」



 カレルが素早く距離を取り直して快哉を上げた。あのカレルがヒットアンドアウェイを実践できていることに俺は感動する。



「セツナ、いったん俺と代わるか!? いくら何でもきちぃだろ!」



 ジンの申し出を振り切って俺は立ち上がった。まだSPには余裕がある。こんなところで根を上げるわけにはいかない。



 その時だ。低く渇いた雄叫びと共に再び宙に浮いた死神ヌシが、くるりと空中で俺達に背を向けたではないか。そのまま真っ直ぐ俺達から遠ざかる方向に進んでいく。瞬く間に闇と霧の中に消えてしまった。



 これは、ヌシならば必ずとる逃亡行動。洞穴やエサ場に逃げ込み、食事や睡眠をとって一、二割ほどだが体力を回復させるのだ。



 あの死神に関して言えば二割も回復されたらたまったものではない。このまま逃がして続きはまた明日、そうしたいのは山々だったが……ここは涙を飲んで作戦通り行く。



「やるぞ、エンジ!」



 火妖精に呼びかけて俺は逃げていく死神から見て右手側、その一番近い木に駆け寄った。左側にはサラマンダーのエンジが、元気よく返事をして手はず通りそこにいた。



「せーの──」



 伸ばした右手に蒼い炎が灯る。向かいのエンジの左手には紅蓮の火花が迸った。



「逃がすかぁッ!!」



 燃え盛る手を二人同時に木の幹に叩き付けた──直後。その木は普通ならあり得ない速度で火炎を受け取り、そして全ての枝の先まで広がったかと思うと、瞬く間に隣の木に燃え移った。



 ごうごうごうごうと次々に木から木へ燃え移る朱と蒼の炎は円を描くように燃え広がり、二カ所で同時にぶつかって一瞬の内に特大の燃えるおりを完成させた。目の前に立ちはだかった炎の壁に、死神が泡を食って急停止する。



 まるでドミノ倒しのような光景。これほど痛快に策が決まったことに、ゾクゾクッと鳥肌が立った。



 ソラ達の作ってくれた砦は、丁度森を拓いたような場所の中心にあった。だから周囲に生い茂る森の一番手前の木々に、俺達は手分けして"油"をぶっかけておいたのである。



 油によって炎は伝導し、一瞬にして死神を閉じ込める。更にこれで辺りは昼間のように明るくなった。



 畳みかける。炎が焼き切った糸により作動したソーヤの罠が、死神めがけて無数のクナイを発射する。刃物の雨をその身に受けさすがの奴も苦痛に満ちた絶叫を響かせた。



 やはり知能があるらしく、来るときは上手く罠を看破したようだが残念だったな。当然俺達にも刃物は飛んでくるが、フレンドに対しては当たらない仕様なので問題なくすり抜ける。



 直径三十メートルほどの、二色の炎が彩る円形フィールド。怒りの頂点に達したらしき死神が、その瞳から怪しい深紅の光を放ってゆっくりこちらを振り返る。その骸骨の口から吹き出る白い噴煙。



 怒り状態。HPはとうとう五割を下回り、バーの色を黄色に変えた。



「……正念場だな」



 ジンの震えた笑いに、俺は短く首肯した。



 大上段に振り上げた鎌の切っ先が死神の背後から覗く。その刃全体が、突如禍々しい瘴気を蒸気機関車のような勢いで噴き出した。



 概算では挑発指数はまだカレルが一番高くなっているはずだったが、死神は一番消耗しているのが俺であると見切ったのか、迷うことなく突進の照準を俺へと定めた。



 邪気をまき散らす目玉に射貫かれ、悪態もそこそこに受け身の体勢を整えた。奴の突進速度が相手では回避はとても間に合わない。



 さあ、来い──完全に整った体は、次の瞬間宙を舞っていた。



「あっ……?」



 思考が追いつかないまま景色だけが高速で前に流れる。中衛、後衛のメンバーをすり抜けた俺はやがて二転三転バウンドし、炎の壁すれすれで停止した。



 全身打撲の激痛はどれだけ気にしまいと意識してもきついものがあった。どうにかこうにか起き上がった時、黒い風を纏った巨体は既に俺に追いついて──



「ぐ……ッ!!?」



 飛び上がった心臓の勢いに任せて半ば反射的に刀を振り上げる。同時に落ちてきた鎌は俺のガードをあっさり叩き落とした。



 声さえ出なかった。幼子でも追い詰めるように二発、三発と振り下ろされる鎌は、どれだけ力を込めてガードしても実に軽々と跳ね飛ばされてしまう。



 右へ、左へと翻弄された刀は四発目の攻撃で俺の手から放れ地を滑った。



「ふ、ぐッ!!!?」



 刃の部分で刀をはじき飛ばした鎌の柄頭が半瞬遅れてやってきて、俺のみぞおちに食い込んだ。内蔵にまで到達した衝撃に堪らず両膝をつく。



 俺は、本来ならすぐさま全力で横に飛ばなければならなかった。だが腸を裂かれるような痛みの前に、どう頑張ってもうずくまった体勢から動くことができない。



 動け、避けろ、さもなくば死ぬぞ──自分を怒鳴りつけて動かせたのは頭だけだった。



 辛うじて開けた半目で見上げた死神は、鎌に纏わせる瘴気を更に濃密にさせて嘲笑していた。ああ、俺は殺されるのだ。脳天に向かって吸い寄せられてくる鎌の切っ先を見つめる。



「セツナ!」



 振り上げられた鎌の背後から飛び込んできたカレルが必死の表情で死神の背中を斬り付けた。絶望的に僅かな量死神のHPが減少し、鎌は俺の鼻先スレスレでぴたりと止まる。



 カレルの挑発指数が俺を超えたのだ。赤い目玉がギョロリと勢いよく動いてカレルにシフトし、次の瞬間、唸りを上げて振り回された鎌がカレルの体を捉えた。



「がぁッ!!?」



 きりもみ回転しながら十メートル近く吹き飛び、湿った大地に投げ出されるカレル。慌てて駆け寄ったアンナとソラに支えられ立ち上がった彼は、泥まみれで咳き込んでいたが無事そうだった。



 空中で受けたことでダメージを分散することができたらしい。煙を上げる青竜刀を見ればあの体勢でもどうにかガードに成功したのだと分かった。



「くっそ……なんだよこいつ、急に強くなりやがって……!」



 カレルの吐いた悪態は全員の気持ちを代弁したものだった。



 後衛の五人もソラも、この化け物に自分がターゲットされることを無意識に恐れてか遠距離攻撃を放てないでいる。



 陣形も崩れた。戦意もがた落ち。総崩れ間際の攻略組に囲まれたヌシは、鎌を大きく振り回して甲高く嗤った。絶望に包まれる俺の体を、舐め回すように赤い目玉が見つめる。



 カレルを吹き飛ばしたことで、再び目標が俺に変更されたのだ。全身の震えを抑えながら武器を構えようとして、丸腰だったことを初めて思い出す。戦慄してももう遅い。



 にたぁ、と粘着質な笑みを浮かべた死神──そのこめかみに、飛来した一本の短刀が突き立った。



『ア、アァ……?』



 死神の首がカクンと折れ、不思議そうに片方の口角を上げる。グルンと勢い良く向けられた血塗れの双眸の先には、短刀を投擲したモーションのジンがいた。



「揃いも揃って何ビビってんだよ。俺とキャラかぶっちまうだろうが」



 両膝をガクガク震わせながらそんなことを言う。どんなに怯えていても、口だけは内心に反してよく回る。ジンは自分の口について恨めしそうにそう言っていた。



「来いよホネ野郎。格の違いを教えてやるぜ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ