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リアル・プレイング・ゲーム  作者: 旭 晴人
第二章《Lost》
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俺達二人なら

 ほんの短い間に、三人もの命が失われた。一人は何も遺す暇が無いほど残酷に、一人は死にたくないと泣きながら、そして一人は、自分の死に方に満足しながら、その身体を無数の粒子に変えた。



 その全員と、友達以上の絆で繋がっていたカレルの精神状態は、俺などでは計り知れるべくもない。脳天気ないつもとはかけ離れた、鬼の如き慟哭を続けている。



 その悲痛な叫び声を嘲笑うかのように、一斉に、崩れた鎧が再びガチャガチャ音を鳴らして振動を開始した。間もなく、亡霊騎士の大群が復活してしまう。



「カレル……!」



 もう、なんと声をかけて良いかも分からなかったが──俺達がここで無為に死ぬ、それだけは決して許されないことを俺は深く承知していた。



 三人の死に、確かな意味を作ってやるのだ。そうしなければ報われない。三人も、そして俺達も。



 カレルは俺の呼びかけに、ぴたりと喚くのをやめた。正気の色とは思えないうつろな瞳で、死神型のヌシを見上げる。



「……セツナ。お前、先逃げろ」



「は……? なに、言って」



「行けよ早く。俺はこいつをぶっ殺すんだ」



 ゆらりと立ち上がったかと思うと、浮遊し愉快げに笑っている死神ヌシに青竜刀の切っ先を突きつけた。



 このヌシは、とてもデータの集合体として腹に収めることができない。達観的に嗤い、俺達を見下し、さぞ楽しげに仲間達を切り裂いたこいつは、まさに" 生き物"そのものだ。



 特に高度な人工知能の内蔵されたボスモンスター。最たる例はラスボスの魔王アノンだが、この死神も同じ口だろう。



 ダンがそうであったように、今、カレルもこのヌシをモンスターではなく、確かに仲間の仇と認識して憎悪を燃やしている。



 それは俺も同じだった。コントロールしようとせずに無意識に炎が漏れ出そうになるのは久しぶりの感覚だ。SPが底をついていなければ溢れ出していたに違いない。



 そうだ。俺はいつから、この世界をゲームと同一視していたのだろう。今となっては、俺達にとって現実なのはこっちの方で。



 ゲームなら必ずあるはずの攻略法も、現実にはあるとは限らない。俺がどれだけゲームの攻略に躍起になろうとも、安全な立ち回り方を徹底しようとも、それが一切通用しないこともある。



 それは現実の仕様の一つで──人はそれを"理不尽"と呼ぶ。



 カレルは青竜刀の柄を、へし折るような握力で握りこんだ。俺はカレルの真意を悟った。



 彼はここで、死ぬ気なのだ。



 三人の仲間の死の上で生き続けるよりも、ここで、仲間と同じ場所で、最期まで戦って死ぬことを選んだのだ。辞書に逃げの文字がないカレル班に相応しい幕引きを──



「やめろ、カレルッ!」



 最初から聞き分けの良い男ではなかった。ヌシが高速で振り下ろした鎌を真っ向から迎撃するカレル。糸目を盛大に見開き、手首を返して追撃する。



 それを先読みした死神が鎌の柄の部分で受け止める。やはり──この死神は生きている。そうでなければ、モンスターがプレイヤーの攻撃をピンポイントで防御なんて有り得ない。



「う、お、らぁっ!!」



 パールホワイトに輝く鋭い三連撃スキルも容易く凌ぎきった死神は、硬直時間に入ったカレル目がけて鎌を振り上げた。身も凍る恐怖を覚えながら俺は咄嗟に満身創痍の身体でカレルと死神の間に飛び出す。



「ぐぅ……ッ!!」



 脳天から落ちてきた鎌を間一髪刀で受け止めた。──重……すぎだろ……ッ!!



「おい、邪魔すんな!! 俺は逃げろって……」



 背後からの怒声には怒声で返す。



「いいから、集中しろ! 俺達二人ならこいつのガードを崩せる!」



 今の数回の攻防で確信した。カレルは俺と同等レベルに強い。SPも尽き、全身が疲労で重たい今となっては俺の方が足手纏いだが、二人で上手くやれば──



「もう亡霊共が復活してきてる! チャンスは一度きりだ、行くぞ!」



 有無を言わさぬ俺の口調に、カレルは苛立ち混じりの雄叫びで応えた。



 俺が拮抗していた鎌を弾き上げたのを皮切りに、カレルと俺は素早く位置を入れ替えた。後退した俺に代わって死神の懐に潜り込んだカレルが、一閃鋭い剣戟を浴びせる。



 宙に浮いている死神にとって最も防ぎにくいのは下段だ。カレルの低い位置からの攻撃を、かち上げられた鎌を無理矢理戻して弾いた死神。



 その時俺は、跳躍して死神の頭上にいた。



「死ね……!」



 恨みを有りっ丈込めた一撃は、ハッと顔を上げた骸骨の顔を深く切りつけた。深紅のラインで深々と描かれた刀傷を骨の指で押さえて死神が大きく仰け反る。



 初めて奴の悲鳴らしいものを聞いた。地獄の底から響いてくるようなおぞましい声だった。



「よし!」



 カレルがでかしたと快哉を叫び、大技のスキルモーションに入る。青竜刀に纏わり付いたライトエフェクトはどす黒い赤だった。



 俺は着地すると、長いタメ時間を終えて駆け出したカレルの進行方向に足を出した。激しい衝撃。カレルは俺の足に足を引っかけて、悲鳴もそこそこに地面を転がる。



「な、なにす……」



 恨みがましく顔を上げたカレルの獣じみた顔を無言でにらみつけ、俺はカレルの手を引いた。そしてぶん投げるような勢いで抱えて全速力で駆け出す。



「一度きりだって言わなかったか? 今そんな大技使ったら、ヌシにはある程度目に見えてダメージを与えられたかもしれない。けどその後お前死んでたぞ」



 背後を見れば、もう全ての亡霊騎士が復活し、俺達を追いかけてくるところだった。だが奴らの歩みは遅い。全員一斉に無力化した時に輪の外から出ていたのが功を奏し、俺達はついにあの地獄から離脱したのだ。



 死神が仰け反りから復活し、俺にその血塗れの眼球を向けて唸っていたが、追ってくる気配はない。ヌシのアクティブ圏外まで距離を離すことができたようだ。



「くっそ、俺はまだ一撃も入れてねえんだぞ!」



「次はトドメを譲ってやるよ。とにかくどこか安全な場所を探そう」



 呼吸が大分安定してきた。俺はカレルを下ろしてマップを開く。交点の数が三つ減っていることに気づき苦いものが込み上げるが、それについて自分を責めるより早く、俺は光点の一つがかなり近くに迫っていることに気づいた。



「セツナ! カレル!」



 アンナだった。すぐ後ろを力強く羽ばたく黄金の竜が追随している。この数日間で急激に体が成長しているフォルテだ。



 可愛らしさをまだ辛うじて残しているが、神竜の名に恥じない神々しい成竜となるのもそう時間はかからないだろう。



 汗だくで、目をひどく腫らしながら俺達の元に駆け寄ってきたアンナは、俺に縋り付くと落ち着かない様子でまくし立てた。



「無事なの!? こんなに泥だらけで……HPも減ってるし……。それに、さっき、その、通知で……」



 既に三人の死は通知で知っているらしい。目が腫れている原因も分かった。今にも大声で泣き出しそうなアンナの頭を軽く叩く。



「とにかく無事で何よりだ。ここまで何かと交戦したか?」



「ううん……変な鎧の奴をたくさん見たけど、戦わないように逃げながら皆を探してた。フォルテが上手く牽制してくれて……だから無傷だよ」



 援護に性能の偏ったアンナが単独であの亡霊共に囲まれたことを想像しただけでもぞっとする。無事な姿にほっと一息ついたときだった。



『──皆さん、聞こえますか』



 前触れなく鼓膜を直接震わせた、幼い少女の声。多少エコーのようなエフェクトがかかっているが、間違いなくソラのものだった。



『私の声を直接任意のプレイヤーの耳に響かせる、ミューの音魔法を使っています。戦闘中はコールができない仕様ですからね』



「ソラ! そっちは無事なのか?」



 俺の声も向こうに届くのかは多分に怪しかったが、結果としてソラは返事をしてくれた。どうやら会話が可能らしい。



『こっちはジンさんとその取り巻きの方達が5名。全員無事ですよ。あ、あとソーヤ君もいました』



 ソラのソーヤへの扱いはいつも通りだ。抑揚のない声は感情を読み取りづらいが、少なくとも今はその平坦な雰囲気に安心する。



「そうか、よかった。とにかく一度合流しよう」



 そう言って、俺はソラの最初の言葉を思い出した。戦闘中はコールができないから、という彼女の言葉だ。俺は確認するように問うた。



「……ソラ、お前本当に今大丈夫なのか? もしかして交戦中じゃないのか?」



 ソラは恐らく音魔法の向こう側で首をかしげた。そして何てことないような声で。



『ああ、はい。もう大丈夫です』

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